第1部 絶望の始まり ⑫石になった親子
石になると決意した住民達は、料理室から列になり並んだ。結局、兵士となり最後まで戦うという者が数名いたが、
「勇敢な戦士よ。同じ命をかけるなら今ではなく、来るべき時にかけて欲しい。必ず、態勢を整え反撃する機会を作る。その時にティルと一緒に戦ってくれないか?」
と王に説得された。そして兵士にも
「石化し待機するか、城から逃げて隠れるか、どちらかにするように!!」
と王から命令があった。石になると決めた住民の数の多さを見て、王は城を守る気は、さらさらなくなっていた。一人でも多くの命を救いたかった。もしかしたら間違った判断かもしれない。しかし未来にかけた。
抜け道を通り、隠れて暮らすことを決めた住民、兵士も数十名いた。保存ができる食べ物を持てるだけ持たせて夜になるまで抜け道にいるように指示を与えた。ほぼ全ての住民・兵士が料理室周辺に集まった。そして、抜け道に案内された。
3人の親子がいた。母親、7才の男の子、5才の女の子。父親は朝から仕事に行き、それから会っていなかった。たまたま城の近くに住んでいた為、避難することができた。 その3人は今、抜け道に案内され移動していた。3人は母親を真ん中にして手を繋いでいた。
「ママ、怖いよ~。」
泣きそうな顔で女の子が言った。
「僕は、へっちゃらだよ!!」
男の子は、笑顔で母親の顔を見た。 暗い穴に入った時は、男の子も両手で母親の手を握った。兵士が松明を灯してくれたが暗かった。子供達は不安だった。母親は明るく振る舞った。
「大丈夫よ。周りに沢山の人がいるでしょ。」
少しでも子供達に怖い想いをさせたくなかった。
先に入った住民から、兵士の誘導により抜け道を前進していった。全ての住民達が抜け道に入った時、前進が止まり、料理室から抜け道に繋がる穴は閉じられた。そして数十羽のコカトリスの羽が、前から順番に回された。受け取った住民から石になっていった。
女の子が母親に聞いた。
「ママ~。パパ、大丈夫かな?パパに会いたい。お家に帰りたい。」
母親は娘の言葉に心が痛んだ。
「大丈夫よ。また会えるからね。」
母親は顔色を変えず答えた。男の子が何気なく言った。
「そうだよ!!大丈夫だよ!!お家に帰って3人でご飯を食べてたら、パパは帰ってくるよ。」
その言葉に、母親の感情は張り裂けた。目から涙が止まらなくなった。本当に、そうであって欲しかった。ずっと、ずっと我慢していた。城内に逃げてからも、一人も頼る者もない。でも大切なわが子を守りたい。誰が石になりたい!?誰が、わが子を石にさせたい!?本当にこれが正しい判断なのかも分からなかった。
「どうしたの?ママ。」
二人は心配そうに聞いた。まずい、母親はとっさに笑顔を作った。
「ごめんね。ママちょっと疲れちゃったみたい。大丈夫よ。そうね。帰ったらパパの大好きなチキンを焼こうかしら。そしたら、お腹を減らして、すぐに帰ってくるかも!!」
陽気に言った。子供達にも笑顔がみられた。
とうとう、3人にもコカトリスの羽が回ってきた。女の子は怖がり泣いた。男の子も足が震えていた。でも男の子は泣かなかった。母親の気持ちを理解していたのだ。今、自分が泣けば母親に辛い想いをさせる。男の子も母親の気持ちを守る為、必死だった。男の子は真っすぐ母親を見た。
「石になって戻ったら、お家に帰ろうね。」
そして妹を見て
「二ーニから石になるね。怖くないよ。また、すぐに会えるからね。」
妹の頭を撫でた。母親に少しでも強い自分を見せたかった。
男の子は石になった。女の子も
「早く、二~二の所に行きたい。」
と言い石になった。
石になった二人のわが子を見て、母親は泣き崩れた。泣きながら石になった二人を近づけ、両膝をつき二人を強く抱きしめた。
「一緒に、お家に帰りましょうね。」
石になった二人に優しく語りかけた。そして、抱き締めたまま母親も石になった。
後ろで、3人の様子を見ていたホスマは、静かに涙を流していた。
夢の中で3人が、父親もいる食卓を囲みながら楽しそうに笑っていることをホスマは祈ることしかできなかった。
そして、ホスマはある決心をした。