第1部 絶望の始まり ⑪王の謝罪
住民達が待機している3階の大広間は騒然とし、子供達の泣き声が聞こえていた。住民達も気づいていた。新たなモンスターが何百体も現れ、しかも多くの人が避難しているであろうスカイマウンテンの方に飛び去ったことを・・・。住民達の動揺が、さらに大きくなろうとしていた時に王、妃、ティルが現れた。
王は住民達の前に立ち、両膝をついて頭を下げ謝罪した。
「申し訳ない。」
その姿に住民やティルは驚いた。30年平和が続き、天空の島という隔離した場所であった為、外敵への備えが不十分だった。王は、それを自分の怠惰だったと認めた。
だが、住民達は知っていた。王は、今まで税を上げず、自分達により良い暮らしになるような政策ばかりを出していたこと。その為、王は贅沢など一才しなかったが、ドラゴンシティー城の蓄えなどなかったこと。貧乏王族と陰で罵っていた者もいた。その王が自分達の前で、膝まずいているのである。住民は誰かれとなく涙を流した。
妃は震えていた。しかし涙は見せなかった。王の潔い姿を見て、この人と一緒に生きてきたことを誇りに思った。
王は住民達に現状を話した。王の謝罪を見た住民は、大半の人が覚悟を決めていた。とにかく、逃げ場はない。このままではドラゴンシティーではなく死霊の町になるであろうことを説明した。それを踏まえ、王は3つの選択を提案した。
(1) ドラゴンシティー城に残り兵士となる。(武器を渡すが生き残れる可能性は低い。)
(2) 抜け道を通り、とにかく隠れて暮らす。(ドラゴンシティー城の食べ物を、いくらでも持って行ってよい。ただ、この選択も生き残れる可能性は低い。)
(3) 抜け道にてコカトリスの羽の力で石化し助けを待つ。(ティルがサークルカイトにて地上に行くも失敗する可能性がある。失敗した場合、永久に石になったままの可能性もある。また、石が破壊された場合、命は無くなる。)
提案し終わった後、泣き声やすすり泣く声が、そこら上に響いた。それは先程の涙ではなく、恐怖と絶望が多分に混じった涙であった。
住民達が絶望に沈んでいくのが分かった。ティルは居たたまれなくなり叫んだ。
「心配しないでください!!必ず、私は帰ってきます!!!必ず援軍を引き連れて帰ってきます!!!私を信じてください。」
ティルの声も、さすがに悲壮を帯びていた。 その時、
「あっははははは。」
大きな笑い声がした。料理長のマリーだった。手を叩き、大きな身体を揺らして言った。
「私は、お姫さんを信じるよ!!これは、容易い賭けごとだよ!!!死なない道が残っていたなんて、何てラッキーなんだい!!!お姫さん、まかしたよ!!私達が元に戻った時、反撃ができる態勢になっているようにお願いするね!!!死ぬ前に、あいつらのケツを蹴らないと気がすまないからね!!!」
料理人達が手を叩き歓声を上げた。住民達は顔を見合わせた。その時、ホスマの部下の一人が叫んだ。
「その通りだ!!生き残ろう!!!石になっても、どんなことをしてでも、まず生き残ろうじゃないか!!!」
住民達は心の中の不安を振り払うように歓声を上げた。ティルは、ただただ住民達の強さに手を合わせることしかできなかった。
すぐさま、住民達は兵士の誘導により行動に移された。兵士となる者は、その場で待機。逃げる者は食べ物の貯蔵庫へ。石になり待機する者は料理場へ。
マリーが大広間から出ようとする際、ティルは呼び止めた。
「ありがとう。マリーが、ああ言ってくれなかったら、どうなっていたか分からないわ。そして、辛い選択をさせてしまい、ごめんなさい。」
ティルは神妙な面持ちで言った。
「元気を出してください!!お姫様!!!私達は勝手に貴方にかけたのです!!こちらこそ、希望を有難う。」
マリーは優しい顔で言った。ティルとマリーは再び抱き合った。