第1部 絶望の始まり ⑩悲しい作戦
「私に考えがあります。」
ティルは言った。王は椅子に座りなおした。
「どんな考えだ。」
ティルは一呼吸おいた。ティルは作戦と言わなかった。作戦と言えるような代物ではないことを自分が一番、理解していたからだ。
「まずサークルカイトで地上に降ります。」
(※サークルカイト:天空の島でのポプュラーな乗り物。ボールに羽が付いた形状をしている。ボール状の中に人、1人が入り操縦をする。天空の島と島の移動に使用されている。第5部参照)
「サークルカイトは島と島を行ききする乗り物ですよ。地上に降りる構造になっていないはず。」
妃が言った。
「はい。サークルカイトの羽の角度を変え下降しやすいようにします。そして、この城の西側の屋上から飛び立ちます。西側の下の大地には森林地帯が広がっていると聞きます。狙いは、木と木の間に着地です。これで、成功です!!!」
ティルは平然と言った。 王、妃、カルタは驚いた。特にホスマは身を乗り出し
「そんな無茶な!!ここから、下の大地までの高度はどれだけあると思っているのですか?妃の言われたことを聞かれましたか?いいですか?サークルカイトは元来、下まで行けるように作られていません。サークルカイトの機体自体がもたず、空中粉砕するかもしれませんよ。」
ティルは微笑んだ。
「そこは、操縦士の根性とテクニックでなんとかするしかないわ。」
ティルの『根性』という発言に正直苛立ちを覚えたが、ホスマは眼鏡をかけ直し、自分自身を落ち着かせようとした。
「ふ~。命を粗末にするだけです。では、一体、誰がするのですか?自殺願望のある方がされるのですか?」
ホスマは皮肉で言った。ティルは笑った。
「ふふふふふ。もちろん私がサークルカイトに乗るわ!!ちなみに自殺願望はないわ。」
「えっ!?」
さすがの王や妃、カルタも声を上げてしまった。
「ど、どこの世界に一国の姫が自ら、危険の矢面に立つようなことがあるのですか!?貴方が行くのなら、私が変わりに乗ります。」
ホスマは叫んだ。
「ありがとう。でも私が出した案よ。私が責任を持ちます。それに私には下の大地に行ってやらなければならない使命があるの。」
ティルは王の方を向いた。王は察した。
『12個の玉を集めに行く気だ。』
ティルは続けた。
「ホスマ、もう1度、お礼を言うわ。有難う。貴方は私の子供も考えないような意見を真剣に受け取ってくれた。だから怒ったのでしょ。子供の戯言だと思って聞いていたら怒らないはずよ。」
ティルはホスマを直視した。ホスマは何も言えなかった。万が一、到着できたとしても、並外れた恐怖を味わわなければいけない。
『この姫はクレイジーだ。でも素晴らしい。』
ホスマの目から涙が出た。
「奇跡を起こすしかないですな。」
カルタは静かに言った。
「奇跡を起こすようなことをしない限り、この状況は打破できないわ。それに、ここに残る方が不幸かもしれない。」
ティルは悲しそうに行った。ティルは言いにくそうだったが意を決した。
「もう一つの考えは、住民を抜け道に移動させます。そして、そこでコカトリスの羽を使い、石化し救助が来るまで待機します。」
『※コカトリスの羽:羽を持ちながら「私は石になります。」と唱えることで石化することができる。元来、呪いの道具として使われる。コカトリスの血を垂らすことで元に戻ることができるが、コカトリスの血は半年程しか保存ができず常備されていない場合が多い。』
だれもが沈黙した。残酷な案だ。小さい子供もいる。しかし命を守るとしたら、それしか今、案はでそうにない。王は言った。
「ティル、いい作戦だ。石になり反撃まで待機するということだな。礼を言う。私では思いもつかなかった。住民だけではない兵士にも現状を話そう。そして、選択して貰おう。一緒に戦うか、抜け道を出て逃げ切るか、石になって待つか・・・・。」