第1部 絶望の始まり ①膨張する闇
勇者バルトとその仲間達との闇の壮絶な戦いが終わり、魔王サレスは滅んだ。光と闇は調和しているかに見えた。
魔王サレスが滅び、30年は経った。その数年前から、世界トップレベルの賢者・魔法使いらが光と闇の均衡が年々、崩れている事に気づき始めていた。
人が生活している場所から何万キロも離れた孤島で圧倒的な闇が噴出していた。魔王サレスの側近であった闇の神官ハルデスは異世界の大魔王セロキオの右側顔半分だけを召喚することが偶然!?できた。セロキオは人型の邪神であった。顔半分からは、見栄えの良い青年のように見えた。ただ、セロキオの眼は光をも吸い込むほどの漆黒であった。その眼はハルデスに召喚したことを後悔させるだけの絶望を秘めていた。ハルデスは一目で分かった。
『この世界に対して、取り返しがつかないことをしてしまったことを・・・・。』
後悔の中でハルデスは、本当の自分の気持ちにも気づいた。
『自分は、ただ、この憎んでいた世界に認めて貰いたかっただけだとういことに。』
雲よりも高い位置にある天空に沢山の島があった。その中の一つに天空の城下町があった。その名を
『スカイドラゴンシティー。』
この町は天空にある島の中で唯一、お城があった。大きく古い城があり、その周りに城下町があった。沢山の家やお店が密集し、石畳の道が続いた。城下町を離れると草原が広がり、スカイマウンテンと呼ばれる標高4000メートルの山があった。町にも、草原にも雲のような霧が至るところにあった。雨や雪などは降らず一年中、真っ青な空だった。不思議なことに草原や山には水が豊富で川が流れ、特有の動植物が多く生息していた。その代表がスカイドラゴンだった。
また、気温が低い為に町の住人は皆、スカイドラゴンの表皮で作られた青い服を着ていた。また、この王族がスカイドラゴンと人間のハーフだったとの言い伝えがあり、この名がついた。王族の血脈は揃って、スカイドラゴンと同じ青色の髪の毛と緑色の瞳を持っていた。
このドラゴンシティーは、活気に溢れていた。そして、お転婆で有名なティル姫がいた。年は13才。髪の毛は、やはり青色であり、瞳はキレイな緑色であった。可愛らしい顔をしているのだが勝気な性格が顔に出てしまい、髪の毛が長くなければ一見、美少年に見えた。
このティル姫、幼少の頃から、ある魔法にかけられ涙を流すことができなかった。また、剣術が大好きで、側用人である戦士カルタに剣術のイロハを叩きこまれていた。
カルタはすでに60才近い年齢であったが、筋肉質であり顔や肉体から獰猛さを醸し出していた。
「姫様、勉強も。」
というのが口癖だった。
「あははははっは。」
ティルは笑い、外に逃げ出すのが日課だった。
そのドラゴンシティーの真上に巨大な闇の魔法陣が描かれた。そこから非常に強力な闇の軍団が現れた。それを率いるのは黒い竜に股がった騎士。30年という月日を経た勇者バルトであった。バルトを覆っている勇者の鎧も、以前は光明の剣と言われた程、光輝いた剣も、バルトの黒真珠のようにキラキラ輝いていた瞳も漆黒に塗り潰されていた。