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後編・春一番が吹く頃に

「杏」


 その朝、私は恭平の家の前で恭平を待っていた。


「遅い! 恭平。また遅刻するわよ」


 怒ったようにけれど笑んでいる私に、恭平は驚いたような顔をしている。


「お前……。久し振りだな」

「うん……。三カ月ぶり?」


 私は視線を落としたまま、そう呟いた。


「これ。あげる」

「なんだ、これ?」


 不意に恭平の胸元に押し付けた白い紙袋を、恭平は訝しげに眺めている。


「十日早いホワイトデーのお返し」

「杏……」


 はにかんでいる私に、恭平は感極まったように私の名を呟いた。


「開けていいの?」

「うん」

「……これ。俺の好きなフィナンシェじゃん」

「昨日、焼いたの。食べてみて」


 その私の言葉に恭平は早速ひとつ口の中に放り込んだ。


「うん。やっぱり杏の作るもんは美味いな」


 恭平は歩きながら、私のお手製で恭平の好きなショコラフィナンシェにご機嫌で舌鼓を打っている。


「俺とつきあってくれんの?」


 その時。

 ぽつんと恭平は呟いた。


 その言葉に応えようとした、その時。

 一陣の強い風が、ざあっと辺りを舞った。

 それは、東南東の風……今年初めての「春一番」。


 私は、春風に靡く長い前髪を押さえながら、はっきりと呟いた。


「恭平。大好きだよ」

「杏。俺も」


 互いに見つめ合い、笑いあう。


 二度目の本物の恋は、髪を優しく撫でる春風が運んできてくれた。



   了





本作は、遥彼方さま主宰「ほころび、解ける春」企画参加作品です。

遥さまには章構成等、アドバイスを頂きました。


又、本作の素敵なタイトルバナーは、相内充希さまより頂きました。


遥さま、充希さん、そしてお読み頂いた方、どうもありがとうございました!

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