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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧
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その6・作るぞシティ、燃え尽きるほどヒート

 子供達を隷属の首輪から解放して。


──クルッ

 マチュアは、残った二人を見る。

 どちらも年齢にして15歳から18歳ぐらいだろう。

 よく娼館に売られなかったと頭を捻ってしまう。


「悪いがあんた達にはやってほしい事がある。この言葉の意味はわかるよね?」

 ニィッと笑うマチュア。

 すると二人は覚悟を決めたらしい。

「わかりました……命令には従います」

「子供達だけでも助けてくれて……ありがとうございます」

 うん。

 聞き分けのいい子は好きです。

「ならついて来なさい。先に汚れた身体を洗わないとね」

 近くの使われていない家に入ると、水と火の魔法で部屋の中にお湯の入った球体を作り出す。

「パンパカパーン。牛◯石鹸〜」

 あ、自粛した。

 次々と拡張エクステバックから風呂道具を引っ張り出す。


「ご主人様。その白いものはまさか石鹸ですか?」

 ついでとマチュアもボディスーツを脱いでいると、細身の女性が問いかける。

「ん〜、ご主人様禁止。私はマチュアって名前があるからそれで呼んで」

「ですが、ご主人様を名前でだなんて……」

「ならマチュア様にして。これならいいでしょ?」

 そう話すと、赤毛癖っ毛のぽっちゃりした女性も頷いている。

「ちなみにこれは石鹸ね。こっちがシャンプー、これがリンス、こらはコンディショナー。使い方は順番に教えるけど、二人には毎日ちゃんとお風呂に入って貰うからね」

 そう説明すると、二人とも顔が真っ赤になる。

「は、はいっ」

「ボ……私もわかりました」

 おや?ぽっちゃりさんはボクっ娘でしたか。


「でも、こんないい香りのする石鹸なんて初めて見ました。人里でも、魔族の街でも……」

「ま、気にする必要はない。これは今日から君達が使うんだ。勿体無いからって使うのはやめない事、私のために使ってね」

 そう説明するたびに、二人は真っ赤になる。


 そやがて全身くまなく洗ったのち、湯船?でしっかりと体を温めてからバスタオルで身体を拭う。

 買ったばかりの衣服を付けて仕上げは完璧である。

 これからどうなるか不安な二人の意思など全て無視。

 あっという間に二人は綺麗になった。


「あの、ご主人さま……これってそういう事ですよね?」

「私たちは、あの、ご主人に奉仕するのですよね……身体で……」

 真っ赤になってそう呟く。

 うん、実に初々しい。

「う〜ん。それも良いのだが、この姿でそれは……いやまて、悪魔だからそれもありかぁ?」


 腕を組んでウロウロするマチュア。

 少しだけ行けない妄想をする。

 それもいいかぁ。

 こっちに来てからは相手がいないし。

 そんな不埒な事を考えるマチュア。

 エッチなことはいけないと思います。


「よし、二人には私の夜伽を命じます‼︎じゃない……うちの酒場の店員になって働いてもらう」

 そう話してからよくよく二人を見る。

 赤毛癖っ毛ぽっちゃりさんと黒髪ロングのさらっとさん。

「まずは名前を教えてくださいな」

 そう問いかけると、まずはぽっちゃりさんが。

「ボクはロータスです」

「私はフロリダと申します」

 すぐにさらっとさんもそう告げた。

「ん?なら、二人とも今日から働いてもらう。衣食住は保証するけど、商売をして貰うから……商売わかるよね?」

 突然の不安。

 まさかそんな知識まで失っているとかないよな?

「わかります。私の実家は元々は西の砦で雑貨屋をしていましたので」

 それで石鹸やシャンプーに興味を示していたのか。

「ボクの両親は、その砦で警備隊をしていたんだ」

 なら都合がいい。

「二人とも頑張って働いてくれよ……隷属解放‼︎」


──バチィン

 首輪が砕ける。

 その瞬間、二人の瞳からは涙が溢れる。

「どうして……ですか」

「主人は私たちを買ったんだです。私達の命はご主人様のもの……それを、どうしてそんな簡単に解放するのですか」

 流石は雑貨屋の娘。

 商品の価値という観点で考えたのだろう。

「ん、悪いがこんなアイテムで二人に強制する気はなくてね。私は悪魔だけど人間の味方だから……ガイアに命じられて人間を救いに来た悪魔なんだよ」

 そう告げると、マチュアは真っ直ぐに酒場に向かう。


………

……


 すでに日も暮れて来たので、作業はおしまい。

 酒場の前では、大勢の人が体を休めていた。

「ロータス、この人たちを風呂に入れてきて。これが風呂道具、使い方はわかるよね?」

「はい、マチュア様」

 うん、聞き分けのいい子は好きだ。

「では、まずは女性と子供からお風呂に入ってきてください。ロータスについていけばわかりますから」

 そう話すと、皆ロータスについていく。


「男衆は女性の後でね。それまでは、まあ、一杯やっててください」


──スッ

 拡張エクステバックから焼酎を日本取り出す。

 これと雑貨屋で購入したカップを取り出して、適当なところに並べる。

「これも、この前見せてくれた酒なのか?」


──ゴクッ

 喉を鳴らす元老院議員。

「まあ、好きに飲んだください。今、食事の準備をしますから」

 そう話してから、マチュアはキッチンの横にもう一台魔法で簡易キッチンを作り出す。

 そこに大量の寸胴、オーブンではしっかりと味付けした巨大な丸鳥の肉を焼き始める。

しかし。


この拡張エクステバックの中身といい、空間収納チェストの中身といい、何故、こんなものが入っているのか不思議でならない。

それを、当然のように取り出して、使ったりしている自身の記憶にも、真央は疑問を持つ。


(悪魔ルナティクスの体の中に残っている記憶なのか?それにしても、分からないことが多過ぎるが……)


ほんの一瞬だけ、そんな事を考える。

だが、すぐに頭を振るようにすると、近くで作業を見ていたフロリダを呼んだ。


「フロリダ、この鍋をゆっくりと混ぜていてね。手を止めると底が焦げる。フツフツとしてきたら、ここで火を止めて、次の鍋を温めてね」

「は。はいっ‼︎」

 すぐに鍋についてかき混ぜ始めるフロリダ。

 その近くで、マチュアは魔法陣を起動する。

「これでいいか……」

 適当な杖を取り出すと、それを魔法陣に放り込む。


「アニメイト……付与する魔法は火の魔法とウォーターボール、浄化の三つ……火の魔法でウォーターボールを加熱……温度は四十五度、江戸っ子には物足りないレベル……ボタンのセット……範囲は三段階」


──ブゥゥゥン

 杖が輝く。

 記憶の中にある、マジックアイテムを作る魔法陣。それを起動すると、マチュアはすぐにメモリーオーブと呼ばれる、魔法記憶媒体を魔法陣の中に放り込む。


「メモリー開始……」


 これで、今後この杖を作るときは、魔法陣の中にメモリーオーブを設置して、内部データを解放するだけ。

 やがて魔法陣が消滅すると、マチュアは完成した魔法の杖をクルクルと回す。


「命名、ロット・オブ・銭湯……なんだよその目は?」

 にこやかに魔法陣から離れてくるマチュアを、元老院たちが好奇心で見ている。

「……第五聖典ザ・フィフスの魔法……」

「本当にガイアの御使い……」

 ざわつく元老院。

 なら、面倒だからガイアを信じさせよう。

「そうよ。ガイアを信じなさい。私もこの力はガイアに授けられたもの。ガイアは人間を見捨てはしないわ」


──ウワァァァァィ

 いきなり盛り上がる一行。

 すると、ロータスがマチュアの元に走ってくる。


「マチュア様、お湯を交換しないと汚れてしまいました」

 そう来ることも想定済み。

 そのためのロット・オブ・銭湯。

「この杖を使いましょう。お湯の中に先っぽを入れて、白いボタンを押したらお湯が浄化します。赤いボタンはお湯の追加、青いボタンはお湯を減らします」

「はい‼︎」

 すぐに走っていくロータス。

 すると、マチュアは元老院たちの元に向かった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 楽しく酒盛りしている一行。

 それは別に構わないのだが、どうしても疑問が残ってしまう。

「あ、この中で一番賢い人誰?」

 突然マチュアが焚き火にやってきたのでビビる元老院たち。

 すると、最年長の老人が手を挙げる。

「悪魔マチュア、私がこの中で最年長だ。名はアマルテア、性はガーランド。元伯爵家であります」

 禿げ上がった頭、落ち窪んだ目。

 でも病気マークが付いてないから健康。

「ならアマルテア、どうしてこの結界内の文明はチグハグなの?」

 そう問いかけるマチュア。


 この公都は王城を中心とした一定範囲にはまだ人間らしい文明は残っている。

 それでも、ものを新しく作り出す技術は失われ、人によっては調理するすべも忘れている。

 だが、結界の外では、フロリダの実家のように雑貨屋を営んでいたり、ロータスの両親のように砦を守る戦士のようなものもある。

 結界の中と外では、明らかに文明がずれ始めている。


「この結界はガイアの奇跡。全ての魔を退ける。ですが、それでも防げなかったものがあります。それが、『世界の天秤』です」

「ん?端的に話して」

「世界の天秤により、人間族は文明を失いました。結界の中では、その効果が緩やかになっています。ですが、いずれ結界内の文明は、全て失われるでしょう」

 その言葉に、マチュアは空を見上げる。


──ジーッ

 虹色の結界の外に、薄暗い呪いの結界が張り巡らされており、僅かずつ神の結界に浸食している。

「あ〜あれかぁ……」


──パチィィィィン

却下リジェルト……まあ無理なのは知ってる」


 マチュアの魔法の中でも特徴的なのが、この却下リジェルトである。

 すでに発動しているものでも、これから発動するものでも、マチュアの魔力以下のものなら、指を鳴らすだけで無力化できるのだが。

 この呪いの結界は無力化できなかった。


「だけど、外に残っている人々は、まだ文明を維持しているものもいるよ?それってどうなの?」

 そう問いかけると、元老院は言葉を失う。

「外の人間は我々よりも顕著に全てを失いました。ですが、彼らはドワーフやエルフから記憶を授けてもらい、文明を取り戻しました」


──ザッ

 すると、別の議員が立ち上がる。

「あいつらは、結界内の俺たちにそれを教えようとはしなかったのです。この中に逃げた俺たちを弱者と吐き捨てて。あいつらは、文明を失うぐらいなら人の誇りを掛けてでも戦うと」

 そう叫ぶ議員。

 マチュアも腕を組んで考えてしまう。

「まあ、わたしにはどっちが正しいかなんて分からない。この結界の中なら、食べていけるのなら種は保存される。けどそれは文明の喪失。外の世界なら新しく文明は生み出される。けど命の、種の全滅も覚悟かぁ」


──カシュッ

 拡張エクステバックから缶コーラを取り出して開ける。

「ゴクッゴクッゴクッ……ぷは〜」

 一気に喉に流し込むと、マチュアは空き缶をクシャッと握りつぶす。

「私にはどっちが正しいかなんて分からないなぁ。アマルテア、外の世界から技術を学んだ場合、それは失われるの?」

 その問いかけには、アマルテアも考える。

「それは……どうでしょう。ひょっとしたら大丈夫かも知れませんか、もう数百年も、この結界の外から技術がもたらされたことはありません。年に二度だけ、物好きな半魔族の商隊がやってきて交易するぐらいです」

 ふむ。

 中々に根が深く厄介である。

「彼らに技術を学んだ事は?」

「あります。が、教えてはくれません。それは商売上の秘密だそうです」

「この国を食い物にしてるのか……まあ、みすみす儲けを失いたくはないと」

 納得する。

 ここまで分かるとあと一息。

「経済はどうなっている?貨幣の流通とか」

「生産系の職業が成り立たず、諸外国に商売として向かうのも危険です。故に女王が全ての物資を均等に配給しています。商隊からは国庫を開いて商品を仕入れています」

 ここで決定。

 マチュアの方針は決まった。


「おいアマルテア、まずは通貨を復活させるぞ。公都を中心に建築物の整備復興から始めろ、公共事業だ。報酬は国から支払わせろ、私がここで酒場と雑貨屋を経営する。うちと国で取引だ」


──ザワザワッ

「し、しかし、女子供ができる仕事など」

「修繕した家屋の掃除や洗濯、食品の炊き出し。仕事はなんぼでもある、全てうちから購入しろ。私はこの外見だ、魔族の街で買い物などなんぼでもできる。どうだ?」

 この話をすると、皆の目つきがそれまでとは変わる。

 瞳に生気が戻ってきたのである。

「そうですか。では、この事は女王と元老院で相談しましょう」

「そうしてくれ。あと、うちの酒場の両隣、裏の三軒合わせて六軒は私のものだ、それは構わないな‼︎」

 突然の話に、その場の全員が驚くが。

「それは構いません。悪魔マチュア、その六軒は全て貴方のものです。そもそも百年以上も所有者のない建物です」


──パン‼︎

「なら決定だ。明日からはその六軒の修繕を元老院に依頼する。私が金を出すから、それで人を雇いなさい。支払いは日払いで、私はそれで皆に食品を、酒を、雑貨を売りましょう」

 にこやかに笑うマチュア。

 すると、女性たちが身綺麗になって帰ってきた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 元老院議員はすぐに王城に走っていく。

 それとは入れ違いにやってきた女性や子供たち。

「お、いいねぇ。明日からは仕事が終わったら毎日風呂に入って清潔にね。ロータス、フロリダの所に行って皆に食事を支給して。えーっと、そこのかーさんたちは分かるよね?」

 昼にお願いした二人を指差す。

「悪魔マチュア、私はカメリアと申します」

「私はリコリスです。どうぞなんでも命じてください」

 自己紹介しながら頭を下げるので。

「ではカメリアは子供達にマフィンを配給して。約束通り仕事した子には二つずつ。リコリスはおむすびと飲み物をお願い」


──ドカドカッ

 次々と荷物を出して並べる。

 すると、子供達や母親たちも楽しそうに食事を始めた。


「あと、うちの酒場の周りの五件、全て私のものになった。なので、明日以降も仕事はあります。なのでご飯は出します」

 その言葉に、皆ホッとするのだが。

 すぐにマチュアはニィッと笑う。

「けど、そのあとは国が、元老院が皆さんに仕事をくれます。その時に賃金は支払われるので、以後はうちで飲み食いしたり買い物するときは金払え」

 それでも笑顔は変わらない。

「毎日を無気力に、食べるものを探していただけの日々に比べればマシです。けど、働くのは子供達もですか?」

「当然。子供にしかできないことや、子供でもできる仕事をして貰うかな。お金じゃなくておやつが報酬で」

 その言葉に嬉しそうな子供達。

 すると、ロータスとフロリダも我慢できなくなったらしい。


──グ〜キュルルルルル

「マチュア様、私たちも、食事を取っていいですか?」

「ボクもお腹が限界で……」

 おおう。

 それは済まなかった。

「プッ……皆に配り終わったら食べていいよ。おかわりはセルフサービスで」

「サルファ?」

「おっと失礼神々の言葉だ。自分で食べられるだけ盛り付けて持って行ってよし」

 これには子供達が走っていく。

 危ないので大人の女性が付いているから、まあ問題はない。

 そのまま食事を終えると、マチュアはロータスとフロリダを連れて酒場へと戻って行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 すっかり綺麗になった建物。

 一階は厨房まですっかり綺麗になっている。

 二階は修繕が先だったらしく、三階も半分だけは掃除が終わっている。

 その中でも綺麗な部屋に入ると、マチュアはロータスとフロリダに話をする。

「ここがロータス、隣がフロリダの部屋ね。明日からは皆んなと同じように建物の修繕をお願いします」

 そう話してから、二人の着替えや石鹸、シャンプーなどの洗面用具、タオルなどの日用雑貨を全て渡す。

 そしてフカフカの布団をベッドに乗せると。

「そんじゃおやすみ……」

 と話をして部屋から出ていく。

「あ、あの、マチュア様。マチュア様はどちらでお休みですか?」

「明日はまた仕入れに行かないとならないから、真っ直ぐに街に戻るけど?」

「では、あの……夜伽は……」

 モジモジとしながら、フロリダが真っ赤な顔で問いかけるので。

「また今度。必要な時には呼ぶけどまあ、あんまりその事は気にしないで、それじゃあまあ明日」


──スッ

 そのまま転移するマチュア。

 そして宿に戻ってきた時、今、まさに泥棒が室内を物色中。

「……」

 覆面をした三人組が、マチュアの気配を感じるとすぐにナイフで切り掛かって来る。


──シュシュンッ

 腕前は確か。

 シーフと言うよりは暗殺者に近い。

 ならばとマチュアは、目を細めて三人を見る。


『アンドレ、ゴブリン族男、アサシンlv45』

『ライト、コボルト族男、アサシンlv42』

『クリシュナ、ゴブリン族女、アサシンlv38』


 ほほう。

 あっさりと。


──シュンッ

 すかさずツインダガーに換装すると、目の前のアンドレの攻撃を受け止める。


「コマンドセット……」

 ボソッと呟くと、マチュアは悪魔固有のスキルをアクティブにする。

命令オーダー。マチュアが真名にて命ずる……アンドレ、ライト、クリシュナ、武器を捨てて跪け‼︎」

 そう呟く。

「なんで俺たちの名前を‼︎」


──ガクン

 その瞬間、三人の動きが止まり、その場に跪いた。


『コマンド・命令:対象の真名を唱える事で、自身のレベル以下の存在の動きを操る。ただし、命に関わることは命令できない』


「さて、君たちの雇い主は誰かな?」

 ゆっくりと問いかける。

「そんなこと話せるはずがないだろう」

 アンドレがそう叫ぶが、体は動かせない。

「そうだよなぁ。ライトにマチュアが問います。何を命令された?」

「お、俺たちは……あんたの持つ荷物全てを盗めと……」

「よろしい。クリシュナにマチュアが問います。雇い主は誰?」

「そんなこと……や、雇い主はマスケット商会のフェザー・マスケットです」

 驚く三人。

 なんで自分が依頼や雇い主を喋ってしまったのか理解できていない。

「へぇ。そんな奴知らないなぁ……心当たりは……」

 ある。

 公園でマチュアと交渉していた奴である。

 なら、直接話ししてもいいのだが、それでは面白くない。

 なによりも、こっちの街では静かにしたい。

 最近のマチュアのこの街での評価は『どっかの貴族の小間使いの半魔族』である。

 ならばこのままでいい。


「さて、そんじゃあ私のことも任務のことも忘れて貰うか。忘却オブリビオン


──パチン

 指パッチンで忘却オブリビオンの魔法陣を展開する。

 その中の三人は最初は抵抗しようとしていたのだが、やがてボーっとしてしまう。


「ここは?」

 呆然としているアンドレがマチュアに問いかける。

「さあ?お連れさんと一緒のようですが、部屋を間違えたのでは?」

 頭を捻りながら、マチュアは三人に問いかける。

「ん〜、アンドレ、なんでここにいるのかわからないけど、私達は部屋を間違った、これは事実らしい……ごめんなさいね、ライトも、出るよ」

「ふぅ、こんなにチャーミングなお嬢さんの部屋に来てしまって、運がいいのか悪いのか。また今度、どこかでお会いしましょう」

 気障っぽく呟くライト。

 そして急ぎ部屋から出ていくと、三人組は何処かに消えていった。


………

……


「しっかし二日連続とは、大したものだわ」

 ポリポリと頭を掻くと、マチュアはまた一階のカウンターに向かう。

 そして再び掃除を依頼すると、それが終わるまで酒場でのんびりとしていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日。

 朝一でマチュアは酒場に向かう。

 すでに人が集まっており、マチュアは作業内容を説明すると、昨日のように簡易キッチンを二台用意すると、大量の食事を用意する。


「ロータス、フロリダ、私は今日は戻らないかもしれないから、ここの管理はお任せします。ちょっと付いてきて」

 そう話しかけてから、マチュアは酒場の貯蔵庫に向かう。

 そして貯蔵庫に向かうと、部屋全体に魔法陣を起動する。


──キィィィン

「アニメイト……エリア指定、生物以外の時間の停止……」

 すると、室内のすべての壁に魔法紋様が浮かび上がる。

「マチュアさま、これは何ですか?」

 ロータスが問いかけると、マチュアは拡張エクステバックから次々と寸胴を取り出す。

「ここに炊き出し用の食料をすべて置いておく。この部屋は魔法によって時間が止まっているから、決して腐ることはない。まあ、棚にこれを並べてくれないか?」

 そう説明すると、二人はすぐに作業を始めた。


 酒場自体が大きかったのと、エールやワインの樽も貯蔵できる大きさなので、マチュアが持ってきた50近い寸胴がすべて収まった。

 さらにマフィンやパン、そしてワルプルギスの商店街で購入した食材全てを納めると、広かった貯蔵庫は荷物で一杯になった。


「まあ、これで二ヶ月は戦える」

「こんなに大量の食材……初めて見ました」

「ボクもだよ。マチュアさま、これはどうするのですか?」

 その問いかけに答えは一つ。

「これから残りの建物の修繕が始まるでしょ?朝昼晩、ロータスとフロリダは皆んなに食事を提供して。あとは現場の道具を回収して、外の倉庫にしまうこと」

 そう説明して、マチュアは二人を連れて外の倉庫に向かう。

 中の貯蔵庫と同じように時間停止の魔法陣を起動すると、二つの部屋を結界で包む。

「貯蔵庫と倉庫、どちらも私の許したものしか入ることはできない。外のキッチンの使い方は教えたよね?」


──コクコク

 するとフロリダが頷く。

「風呂の準備と片付けもね?」


──コクコク

 今度はロータスが頷く。

「なら問題はない。あとはちゃんと管理してくれればいいから。私も色々と忙しいから、戻らないときは二人が私の代わりにしっかりとやってくれればいいよ」

 そう説明すると、二人は少しだけ不安そうな顔をする。

「まあ、どうしても困ったら元老院の人に相談して。何かに襲われたら、倉庫か貯蔵庫に逃げればいい。中は絶対に安全だから」

「はい。わかりました」

「しっかりと仕事させて貰います」

 力強く返事をすると、二人はすぐに仕事に戻った。


「さてと、少し休憩するか……」

 空っぽの寸胴を拡張エクステバックに放り込んだとき、マチュアは突然睡魔に襲われた。

 それも、すぐにでも体を休めないと意識を保てなくなるほどの。

「む……もう無理……」


──ヨロヨロ

 どうにか酒場二階の部屋まで向かうと、マチュアはそこで意識を失うように眠った。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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