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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧
6/44

その5・出来ることはするけれど

 パスカル商会からの帰り道。

 マチュアは寄り道をせずに真っ直ぐにギルドの宿に戻る。

 入口はギルドと共有なので、そのままギルドに入って宿屋へと入っていく。


「あ、マチュア様おかえりなさい。晩御飯はどうしますか」

 酒場のウェイトレスがマチュアを見て問いかけたので。

「ん〜。なんていうか、シュワシュワして、ん〜」

「発泡ワインですか?」

 マチュアの言いたいことを理解したウェイトレス。

「それと魚が食べたいのです。フライ……ないよなぁ」

「飛ぶのですか?」

 キョトンとするウェイトレスにがっくりと肩を落とすマチュア。

「うん。魚料理ある?」

「メルマスの塩焼きとかならご用意できますか」

「ならそれで。パンも下さい」

 かしこまりましたと頭を下げて、パタパタと厨房に走る。

 それを見届けると、マチュアは暫し店内を見渡した。


 昨日とは違う冒険者たち。

 仕事の帰りらしく、あちこちで祝賀会だったり残念会だったり、四人で水だけチビチビと飲んでたり。

 こういう光景はどの世界も一緒なんだなぁと微笑ましく見ている。

 ふと酒場の端を見ると、昨日のオーク三兄弟が細々と食事をしていた。

「……」

 ぼーっとその三人を見て、ふと思いつく悪巧み。

 席から立ち上がると、マチュアはそのオークたちの席に向かい、ドンと相席した。

「ヒッ‼︎」

 マチュアを見ていきなり引き攣る三匹の子ブタならぬオーク。


「ま、マチュア様、私たちに何か……」

「お前らの名前教えろや」

 ニィィィッと笑うマチュアに、オークは次々と自己紹介する。

「お、俺はデュロックです。盾戦士してます」

「俺はアグゥ。ナックラーですはい」

「マンガ・リッツァ。リッツァ家長男で魔道士です」

 ふむ。

 何処かで聞いたような品種……いや、名前だが、気のせいだろう。

「あんたら雇う。私の仕事しないか?」

 その問いかけに、マンガが考える。

「マチュア様、有難いのだが、ギルドを通さない仕事はご法度。ギルドを通してきてくれないかです」

 おずおずと話をする三人。

 この世界では個人の仕事の斡旋もダメなのか?

 そう考えると、マチュアは腕を組む。

「まあ、いいか。ちょっと待ってろ」

 そのままギルドのカウンターに走ると、マチュアはオーク嬢に話しかける。


「仕事の依頼をしたいのだけど。冒険者指定できる?」

「できますよ。ではこちらに依頼内容と報酬をお書き下さい」

 申請書が渡されたので、マチュアはそこに詳細を書き込んでいく。


 ………………

 依頼内容

 大陸内に存在するエルフの調査、可能ならワルプルギスまで来てもらえるよう交渉すること


 報酬

 調査内容の結果により、金貨一枚〜白金貨五枚

 ワルプルギスまで同行さてもらえたら白金貨一枚


 期限

 180日以内


 ………………


「これで良い?」

 そう話しながらマチュアはカウンターに提出する。

 それを受け取ると、オーク嬢は奥の事務室に走っていく。

 そして、奥からビシッとした綺麗な衣服を着たオーガがカウンターにやって来る。

「この依頼を出したのは君かな?」

「そ。受諾できる?」

 その言葉にはオーガも頷く。

「ギルドカードを持つものなら、誰でも依頼は出せる。だが、この内容では依頼手数料が最大報酬の1/5、金貨で120枚も掛かるのだよ。それを前金で」


──ジャラッ

 白金貨一枚と金貨二十枚をカウンターに置く。

「これで良い?」

「良し。では受諾した」


──ダン

 依頼書にギルドの受諾印が押される。

「あとは指定冒険者にこれ見せれば良い?」

「そういう事だ。それで断られたらうちの掲示板に貼り付けてあげよう」

 その言葉に頷くマチュア。

「どもありがと。それじゃあまたね」

 依頼書を手に、マチュアはリッツァ三兄弟の席に向かう。


「お待たせ。これ依頼書、受ける気ある?」

 スッとテーブルに依頼書を置く。

「な、内容によりますが……」

 そ〜っと依頼書を見るアグゥ。

 そして目が飛び出しそうになるぐらい驚いている。

「こ、こんな無茶な……伝説を探してこいというのですか?」

「その通り。無理だと思うなら受けなくていいし、自信があるなら受けて欲しい」

 ニッコリと笑うマチュア。

「……マチュアさん、俺たちには無理だ……これは、悪い賭けです」

 意外と冷静に判断するアグゥ。

「そっか。なら仕方ないや。ありがとね」

 そう話をして、マチュアはカウンターに戻る。

 そして依頼書を掲示板に貼ってもらうようにお願いすると、マチュアは部屋に戻っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 自室に戻ってきたマチュア。

 まずは風呂に入り1日の汗を流すと、部屋の鍵を掛ける。

 そして拡張エクステバックに食料を移すと、静かに目を閉じる。

「座標軸セット……転移」


──スッ

 転移先は神聖アスタ王国のマチュアの酒場。

 真っ暗な店内にフッと舞い降りると、マチュアは光球ライトを発動して店内を明るくする。

 窓の外には明かりが溢れ、酒場が営業しているのがわかるようになった。

「さてと、そんじゃ始めますか」

 厨房に向かうと先日のようにキッチンを設置し、いくつもの寸胴を温める。


 今日は二階の宿の部分も掃除しようと階段が壊れていないか確認してみると、思ったよりも頑丈に出来ていた。


──トントン

 ゆっくりと二階に上がると、布団や毛布がカビているのか匂いがきつい。

「これは明るい時間でないとダメだぁ。それに掃除をして壁も床も天井も磨いて……やることがいっぱいあって……おや?」

 一階に戻って来ると、フロアのテーブル席に子供達が集まっている。

 そして入口には、母親たちが申し訳なさそうに立っている。

「あの、申し訳ありません。子供達に食料を分けて貰えませんか?」

「私たちは構わないので、その分子供達に……」

 母親たちが次々とマチュアに懇願して来る。

 なら、これを利用しない手はない。


「分かりました。お母さんたちもお腹いっぱい食べてください。そのかわり、お願いがあるのです」

 にいっと笑うマチュア。

 すると、母親たちはビクッと怯える。

「わ、私達の命で良ければ」

「ちゃうわ、労働力を提供してください。明日、この酒場の一階から三階までを綺麗に掃除して欲しいのです。朝一番でここに来ますので、皆さんでこの建物を綺麗にしてください」

 淡々と話をするマチュア。

「そんな事で良いのですか?」

「良いのです。では皆さん席に着いてください。今、食事を持って来ますので」

 そう話すと、マチュアは次々と料理をテーブルに運ぶ。

 途中からは子供達も手伝ってくれたので、スムーズにすべての席に運ぶことが出来た。


「これはおやつね。運ぶのを手伝ってくれた子には二つあげるよ」

「うわぁぁぁい」

「悪魔さんありがと〜」

「ずるーい。私も二つ欲しい‼︎」

 そんな声が聞こえて来るが、これはルール。

「仕事を手伝ってくれたら報酬をあげる。でも、座っていて手伝わない子には明日からはおやつはあげない。これが最初のルール。それじゃあ冷めないうちに食べなさい」


──いただきま〜す

 全員が手を合わせて食事を始める。

 その光景をウンウンと見ていると、ふとマチュアは酒場の外に大勢の人が集まっているのに気がついた。


「こんな夜に誰だよ?」

 入口から外に出ると、先日の元老院議員が何名か集まって井戸端会議をしている。

 雰囲気から察するに、誰がマチュアに話しかけるか相談しているらしい。

「聞こえてるよ。こんな夜に何の用だい?」


──ビクッ

 まさか声が掛けられるとは思っていなかったらしい。

 マチュアの声に震え上がり、声も出せないものまでいる。

 だが、その中に腕を再生した騎士グリジットがいたので、マチュアはグリジットに声をかける。


「グリジット卿、こんな夜中に何の用だい?喧嘩するなら明日にしてくれ、今は子供達がご飯食べてんだ」

 そのマチュアの呼び掛けに、グリジットもゆっくりとマチュアの元にやって来る。

 そして正面からマチュアの顔を見て一言。

「片親の子供達に食料を分けてくれて感謝する。元老院として、何か悪魔マチュアを手伝えることがないか聞きに来た」

 ほう?

 これは予想外。ならば外で寒い思いをする必要はない。

 ニイッと笑うマチュア。

「そっかそっか。なら中に入ってよ。あったかいシチューをご馳走するよ」

 そう告げてから、マチュアは店の中に戻っていく。


「サンソンさん、悪魔マチュアが招いてくれました。これを断るのはどうかと思いますよ」

 そう話して、グリジットは店内に入っていく。

 すると他の議員も、急いでグリジットに続いて入っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌朝。

 酒場の前には大勢の人が集まっていた。

 グリジットを始めとする元老院議員、毎日食事をとりに来る親子たち。

 そして王城から騎士団と女王もやって来ている。


「さて、それでは作業をお願いします。お母さんと子供達はとにかく掃除大掃除。元老院の方は壊れている壁や天井の修繕をお願いします」

 そう説明してから、マチュアは酒場の前の使われていない街道に、掃除用具や大工道具を広げる。

 全て拡張エクステバックの中に入っていたものであり、始めて見る不思議な道具に人々は狂喜乱舞している。

「これは鉄の釘。それに道具まで……」

「こんなモップ見たことないよ。それに、こんなに綺麗な布が雑巾だなんて……」

 そんな話をしながらも、全員が酒場を掃除する。

 それを見ながら、マチュアは店の外にキッチンを作り出すと、昼ごはん用の豚汁とカレーを温め始める。


「悪魔マチュアさん、おはようございます。元老院から、今日はマチュアさんの酒場を直すと聞いて見に参りました」

 マチュアに会釈するセシリアに、マチュアも軽く頭を下げる。

「味見します?皆さんの昼ごはんですけど」

 そう話をして、セシリアに豚汁とおむすびを手渡す。

「これは何ですか?」

「ん〜、神々のレシピって所かな?ガイアの奇跡と思ってください」

 そう説明して、待機している騎士たちにも差し出す。

 だが、騎士たちは受け取るものの、どうしていいか分からない顔をしている。


──パクッ

「モグモグ……これは、初めて食べる味です」

「ああ、おむすびと言って、大地母神ガイアの齎らす実りの一つです。その実を集めて炊いたものを丸めるのですよ。まさにガイアのもたらした奇跡です」

 そのマチュアの言葉に、騎士団もようやくだが口をつける。

 恐る恐る齧ると、その味わいに次々と食べていく。

 そして冷えた体を温める豚汁。

 これだけで全身がカーッと熱くなる。

「さて、これは誰かに任せるか……」

 ちょうど外に来たお母さんを二人捕まえると、キッチンで料理を管理してもらうように頼み込む。

「教会の昼の鐘で食事を取ってください。ここに食器と、この布の下におむすびがあります。均等に分けて下さい」

「分かりました。悪魔様はどちらに?」

「私は別の仕事があるので、ここはお任せします。夜には戻りますので」

 そう話してから、マチュアは王都の宿へ転移した。


………

……


「うん、泥棒だ」

 宿の部屋に戻って来たマチュア。

 だか、室内は荒らされており、明らかに物取りか何かがやって来たのがよくわかる。

 すぐさま室内を調べて見るが、窓から入ったような形跡はない。

 入り口の鍵はかけたはずなので、シーフか何かの類なのだろう。

「全く困ったものだわ。どうしてこうなっているのやら」


──トントン

 ツノ隠しのベレーを被り、ローブを羽織って階段を降りる。

 そしてカウンターに向かうと、中のオーク嬢に一言。


「……泥棒が入ったから部屋の掃除をお願いします。オーナーにもそう説明しておいて下さい」

「は、はい、今すぐに‼︎」

 オーク嬢が慌ててメイドを掃除に向かわせる。

 すると入れ違いにオーナーがカウンターに走って来る。

「マチュア様、この度は申し訳ありません。すぐに掃除しますのでお許しを」

 震えながら頭を下がるのだが、マチュアとしてもオーナーに責任はないのは知っている。

「あ、悪いのは泥棒だから気にしないよ。掃除よろしくね〜」

 そう告げてから、となりの冒険者ギルドに向かう。


──ザワザワザワッ

 朝から依頼掲示板が騒がしい。

 どうやらマチュアの依頼が貼り付けられて物議を醸しているらしい。

 この依頼の本当の目的は何か?

 この依頼人は何者なのか?

 何故エルフを探すのか?

 そんな話で盛り上がっている。

 なので、こっそりとギルドも抜け出して、とりあえず散歩でもと商業区へと向かうことにした。


………

……


「酒場の布団か。あと厨房器具、あとは何かなぁ……」

 ブツブツと呟きながら、マチュアは酒場を再生する為の必要なものを考えている。

 商業区に入ると、街道の両側にズラッと店が並んでいる。

 商品が店からはみ出して外にも並んでいる。

 その光景に、マチュアも思わず目を丸くする。

「うわぁ、これは凄い……まずは雑貨屋から回るか」

 すぐさま雑貨屋を探すと、大量の皿やコップ、ボール、ナイフやフォークなどの食器を大量購入。

 全てを拡張エクステバックに放り込むと、次は食料品店に向かう。


「おや、可愛い半魔族さんだね。お使いかな?」

 優しく話しかけて来るので、マチュアはニイッと笑って一言。

「ここの食料全てくださいな?」

 そう話してから、金貨を十枚取り出した。


(これで足りるか?どうだ?)


 ドキドキしながら考えていると、店主は金貨を受け取って一言。

「どこの屋敷に運べば良いのかな?」

 と問いかけた。

「お金足りますか?」

「今計算するけど、多分半分で間に合うんじゃないかな」

 それは良かった。

「なら、拡張エクステバックを持ってますので入れていきますね?」

 そう話で、次々と拡張エクステバックにしまっていく。

 そして店先のものが全て無くなるころ、店主はマチュアに金貨を六枚戻した。

「いくらなんでも多すぎるよ。これで十分、どこの貴族か知らないけど旦那様によろしくね」

「ふぁ、はい」

 とんでもない誤解だが、これはこのまま通そうと考えた。


 この調子で肉屋とパン屋、穀物屋なども買い占め制覇していく。

 街道の食料品取扱店は、次々と買い占めていく嵐のようなマチュアの姿を、今か今かと待っていた。


「お、チーズ屋さんか。あの、全部ください」

「毎度ありがとうございます。お代はこれでお願いします」

 すでに計算していたらしい。

 その金額が妥当かどうかなど、目を細めれば直ぐにわかる。

 幸いなことに、どの商店もそれほど金額をふっかけてはいない。

 マチュアの考えられる許容範囲である。

 そんな感じで一店ずつ周り、やがて夕方になった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 商店街の最も外にやって来る。

 そこは家畜が生きたまま売られていた。

 その隅に、質素な衣服を付け、首輪をつけて鎖で繋がれた人間が並べられている。

「ん?こんなところに来ちゃダメだよ。ここは家畜市場だよ」

 優しくマチュアに話しかけるオークの男。

 マチュアはコクコクと頷いて、人間のもとに歩いていく。

 売られているのは子供が五人、16歳程の女性が二人。

 男性や大人の男女が売られていない。


「大人は売ってないの?」

「大人は鉱山奴隷だからね。オスは労働力、メスは娼婦だよ。子供は使い物にならないから愛玩用だよ」

 おおう。

 拳を握りたいところをグッと堪える。

「これ全部買い取ったら幾らですか?」

 そのマチュアの言葉には、商人も目を丸くする。

「一人金貨20枚。七匹だから、金貨百四十枚だね。旦那様にそう話しておきなさい」

 商店街での爆買いの結果、銅貨一枚が大体10円〜30円ぐらいと判断できた。


(人間一人が200万から600万が。まあ、蛮族滅したら返して貰おう)


 ならばと、マチュアは拡張エクステバックから白金貨一枚と金貨四十枚を取り出す。

「全部買う。すぐに手続きして」

 そう話して、代金と冒険者カードを提示すると。

「こ、これは……少々お待ちを」

 そう話してすぐさま手続きをする。


 代金を支払う能力があり、身分を明かせるものがあれば、この世界は子供でも対等に商売をして貰える。

 これがマチュアの体感した感想である。


 すぐさま奴隷たちには、新しい隷属の首輪をはめられる。

 マチュアのギルドカードが登録された水晶のついた首輪。

 これがある限り、奴隷たちはマチュアに対して手を出すこともできず、逃げることもできない。

 主人に逆らうと、『戒めの雷』が全身に流れるらしい。

 死ぬことはないがかなりの苦痛らしく、奴隷は皆、売り物になる前にそれを体感しているらしい。


「これで手続きは終わりです。またご贔屓に」

「あ〜、またね」

 そう拳を握りながらにこやかに笑うと、マチュアは皆を連れて商店街に戻る。

「あの、ご主人様。私たちはこれからどうなるのですか」

 一番年長者らしい子が、恐る恐るマチュアに問いかける。

「ん?どうしようかな。何も考えてなかったから」

 そう呟いて、まずは服飾店の前まで向かう。


 さっきまで爆買いしてたのは食料品や雑貨関係、故に服飾はスルーしていた。

 なので、今マチュアが店主を呼んだ時、店主は揉み手をしてやって来る。


「これはこれは。何をお求めですか?」

「この子達の服を。下着から全て、靴もな。一人につき5セット、いいか、ヒト族奴隷だからって手抜きするなよ?私達と同じくらい上質な服だ‼︎」

 淡々と、まるで原稿を読み上げるように話す。

 こうすると、マチュアが主人の命令で買い物に来ているように感じるらしく、店の人も一切手抜きはしない。


「はいっ、ただ今」

 すぐさま全ての店員が皆の寸法を測り、大きめの袋に服を詰めてくれる。

「一人分銀貨百四十枚ですので、全部で銀貨九百八十枚です」

「ん」

 拡張エクステバックから金貨を十枚取り出して支払う。

「あんた良い人だ。奴隷にもちゃんと話ししてくれたね?お釣りはいいよ」

 そう話すと、マチュアは購入した衣服を拡張エクステバックにしまう。

「さて、宿に戻ってお風呂にするか。綺麗な服に着替えて、それから出かけましょう」

 そう説明して、宿に向かい始めた時。

「ご主人さま。私たちは、ご主人さまの命令に従います……お願いがあります」

「いつか私の、みんなの両親を探す権利をください。奴隷は働いて自身を買い取ることができると教わりました」

 この言葉を皮切りに、幼い子供達はシクシクと泣き出した。

「お母さんに会いたい……」

「生きてるよね……」

 そう話しながら震える子供達。

「ん?分からないけど、多分生きてるでしょ?さっきの奴隷商人の話なら」

 大人の価値を彼らは知っていた。

 だから、そのうち助ける。

 そんな話をしながら、マチュアは宿に戻って来た。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「私の部屋に連れていきたいんだけど、別に良いよね?」

 宿屋店内に奴隷を伴ってやって来るマチュア。

 すぐさま宿泊していた冒険者達からは侮蔑の表情が見え隠れしていたが、マチュアはそんな事を気にせずにカウンターに向かう。

 そして受付にいた店主にそう問いかけたが。


「奴隷を宿に入れることは出来ません」

「どうしても?」

「はい。これは規則です。奴隷は奴隷専用の部屋がある宿でしか、部屋に入れてはいけない決まりです」

 冷や汗を流しながら告げる。

 なら、こっちにもやりようがある。

「そっか。規則かぁ……そんじゃ行くよみんな」

 ゾロゾロと子供達を連れて宿から出て行く。

 規則なら仕方ない。

 そのまま町の外に向かうことにしたマチュアは、正門で守衛に挨拶すると、城塞外の森に入って行く。

 そのあたりからビクビクと震えだす子供達に、マチュアは一言。


「そんじゃ、人の国に帰るよ」


──ブゥゥゥン

 空間を繋げる転移門ゲートを開き、神聖アスタ公国のマチュアの酒場前に繋げる。

 突然の魔法に驚いているが、その向こうに大勢の人間がいるのを見た子供達は、一斉にゲートに向かって泣きながら走り出した。

「戻ってこれるなんて……感謝しますご主人様」

「ああ、貴方は神の御使いのようなお方です」

 深々と頭を下げる年長者二人に、マチュアはボソッと一言。

「神じゃなく悪魔なんだけどなぁ」

 と話しながら、二人を伴ってゲートを越えていった。


──シュン

 すぐさまゲートを閉じると、マチュアはローブを外して帽子を脱ぐ。

「さて、店の修繕状況はどんな感じ?」

 現場の指揮をしていたグリジットに話しかけると、グリジットも頷いている。

「明日の夕方までは修繕は終わる。それで、悪魔マチュアは我々人間の奴隷を買ってきてどうするつもりだ?」

 隷属の首輪がはまっている子供達を見て、グリジットは腹を立てたいるらしい。

「ん、開放するからここで匿ってあげて。こらガキンチョ、こっち来いや」


──ビクン

 マチュアに命じられて、おずおずとマチュアの近くにやって来る。

 だが、さっきまでの変装していたマチュアではなく、悪魔100%のマチュアである。

 嬉しさよりも恐怖しかない。

「僕たち殺されるの……」


──ヒックヒック

 すすり泣き始める子供達だが、マチュアは首輪の水晶に手を当てる。

「隷属解放……これで君達は自由だ。グリジットさん、この子達をお願いします。風呂に入れて着替えさせてください」

 拡張エクステバックから子供達の服を取り出すと、子供達に一つずつ手渡す。

「あの騎士様の所に行ってきな。困った事があったら、そこの酒場においで

 そう話して子供達の最中をトン、と押した。

 すると子供達は泣きながらグリジットのもとに走っていく。

それを見届けると、マチュアは残った年長者の方に振り向く。

まだ、本題はこれからである。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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