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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧
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その4・先行き不安と巻き込まれ体質

 城塞都市ワルプルギス。

 そこの繁華街にある酒場で情報屋の情報(なんか不思議)を得ることができたので、マチュアは店を出て情報屋に向かった。


「街道一本抜けると、いきなり迷宮みたいだなぁ」

 そんな事を呟きながら、やや複雑な道筋を辿って裏街道を歩いていく。

 すると、マチュアの前にしっかりと装備をしている冒険者の一団が姿をあらわす。

 戦士が二人、魔術師、僧侶、レンジャーの5名パーティー。

 それがマチュアの行く手を阻んでいるように感じる。

「ん?」

 すぐに後ろを振り向くと、そっちにも別のパーティーが待機している。

 そして前の方の戦士らしい風体の男が、マチュアにゆっくりと話しかける。


「さて、そこの半魔族のお嬢さん、昨日パスカル商会に卸したドラゴンの牙、あれは何処で手に入れたのか教えてくれないか?」

 パーティーリーダーらしい戦士がマチュアに問いかける。

 どうやら昨日の取引を見ていたらしい。

「牙一つであの値段なら、鱗や皮も高く売れる。儲けを独り占めしないで教えてくれないか?」

 ニコニコと笑う戦士。

 だが、教える気は無い。

 そもそもあれは、元々拡張エクステバックに入っていたドラゴン種の素材、この世界には存在しない……と思う。

 なので。


「私は、儲けを独り占めしたい‼︎だから誰にも教えない‼︎」

 潔くきっぱりと言い切る。

 これには前後どちらのパーティーも呆気にとられる。

「い、いや、そんなずるいこと言わないで……なぁ」

 横の女魔術師に問いかけるリーダー。

「そ、そうよ。そんなに自信満々に独り占め宣言されても……どう、あなたが情報屋を探しているのは知っているわ。もし、教えてくれるなら、あなたの必要な情報をあげるわ」

 脅しではなく懐柔策にでた。

 このパーティー、レベルは高そうだが、このような極限的対応には慣れていないようだ。


──チラッ

 後ろを軽くみると、後方のパーティーはやる気満々で武器を構えている。

「後ろの人たちはやる気だけど、やるの?私、強いよ?」

 スッとギルドカードを取り出して見せる。

 レベルは一晩で1+から2+になっている。

「な、レベル2かよ。あの自信からかなりの高レベルとビビったんだが」

 リーダーがホッとして話していると、後ろのパーティーの戦士が二人、マチュアに斬りかかった。

「アレクトは甘いんだなぁ」

「たかだか半魔族、少し痛い目に合わせれば言うこと聞かせられるって」

 高速で駆けつけて左右から同時に斬りかかる。

 だが、遅い。


──ヒュガキィィィン

 素早くハルバードを換装すると、両手で構えて二人の武器を薙ぎ斬る。

 横一閃の一撃で、二人の武器は完全に破壊された。


「な、なんだと?」

 すかさず後ろに下がった戦士たち。

 それと入れ替わりに、後ろのパーティーの老魔術師が詠唱を完了していた。

「雷帝ブォルトよ、かのものを打ち滅ぼす雷となれ‼︎」


──ビシィィィィッ

 マチュアに向かって差し出された右手から、一直線に飛んで行く雷。

「お、おおう……」

 すぐさまハルバードに魔力を注ぐと、刃の部分に魔術文様が浮かび上がる。

「スペルキャンセラァぁぁぁぁぁっ」

 飛来する雷を横に真っ二つに切断し消滅させる。

 その光景に、後ろの冒険者たちは怯え、走り去って行く。


「まさか第三聖典ザ・サードの魔術を無力化するなんて……」

 女魔術師は震えながら後ろに下がる。

 さらにレンジャーが、マチュアのハルバードを見て呟いた。

「第七階級アーティファクト……そんなものが存在するだと?」

 ズズッとレンジャーも後ろに下がる。

 僧侶は防御魔術の準備を開始し、戦士二人はパーティーを逃がすためにマチュアの前に立つ。


──シュンッ

 だが、マチュアはハルバードをしまうと、戦士たちから離れて壁際をスタスタと歩いて行く。


「き、貴様、何処に行く?」

 冒険者たちを無視して先に進むマチュアに、戦士が問いかけると。

 マチュアはまるで何もなかったかのように道の先を指差して一言。

「へ?この先の情報屋さん。それじゃあね」

 そのまま真っ直ぐに地図の場所に歩いて行くが、先ほどの冒険者たちがマチュアの後ろについてくる。

「……堂々とした尾行?もしくは興味津々?まさかロリコン?」


──ザワッ

 自分で余計な想像をして寒気がする。

 そのまま無視をして地図の建物にやってくると、開けっ放しの扉の中に入って行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 程々に広い店内。

 まるで商人ギルドのように仕切りのあるカウンター席が並んでいる。

 隣の人に話が聞こえないように、魔法で結界が施されている。

 その中の空いているカウンターに向かうと、受付のコボルト嬢と話を始める。

「どうぞおかけください。身分を証明するものはございますか?」

 これで良いかなとギルドカードを取り出して提示すると。

「……はい、確認しました。本日はどのような情報をお持ちですか?」

「エルフとドワーフについて。この都市にはエルフとドワーフはいますか?」

「少々お待ちを」

 そう話して手元の石板に手を当てているコボルト嬢。

「情報料は金貨一枚です。どうしますか?」

 その程度ならとマチュアは金貨を取り出してトレーに置く。


──コトッ

「ではご説明します。現在、この大陸に存在するエルフ種はありません。ドワーフ種は西方山岳部にいますが、上位精霊結界の向こうです。我々が関与できるものではありません」

「その山岳まではどれぐらいの距離で?」

「馬車で三ヶ月です。道中は中継都市がありますので問題はありませんが、最後の一ヶ月は迷いの森ですので安全は保障されませんね」

「ふうん。エルフ種は別な大陸なのかな?」

「大厄災の日に、エルフ種とドワーフ種は我々の世界に見切りをつけて精霊界へと帰りました。西方山岳部のドワーフは、この地に好き好んで残っている変わり者ですね」

「そうか。精霊界にはどうやって行ける?」

「それは無理ですよ。わたし達魔族は精霊の守りを超えることはできません。ヒト族も然りです」

「そうですか。ありがとうございます」


 丁寧に頭を下げると、マチュアは後ろの待合ソファーに座る。

「これは参った。いきなりゲームオーバーみたいだわ」

 箒に乗って飛んで行くとしても、迷いの森とやらを突破できるかわからない。


 何よりも上位精霊結界と聞いて、マチュアも尻込みする。

 スキルによると、精霊魔術師としてのレベルが低く、精霊結界に干渉するのは苦手である。

 忍者クラスの結界中和能力で突破可能だが、精霊界でどこまで話ができるか分かったものではない。

 何よりも、ヘルプメニューで見た精霊界の説明。

 時間の流れが違い、向こうの世界の1日はこっちの数十年に相当する。


「はぁ。また出直しますか」

 トボトボと情報屋から出ると、マチュアは帰り道を歩き始めた。


………

……


「エルフは無理。ドワーフも西方。もうあっちから来てもらうかなぁ」

 なかなか物騒な考え方をしているマチュア。

 そんな事を考えながら歩いていると、さきほどからついて来ているパーティーがマチュアの後ろをついて来ている。


──ピタッ

 足を止めて振り向く。

「あの、私に何か用事かな?」

 そう問いかけると、さっきのパーティーの戦士が話しかけてくる。

「さ、先ほどは失礼。俺……私はチーム・ドラゴンランスのリーダーを務めているレオニード。なあ、取引をしないか?」

 はぁ?

 力一杯嫌そうな顔をするマチュア。

 すると、レオニードの後ろから女魔術師も頭を下げた。

「私はアレクトーと申します。どうか話を聞いてください」

 なんだろ。

 このイケメンゴブリンのカップルは。

 その後ろにはオークの戦士とコボルトの僧侶、あとは……。

「そこのレンジャーは私と同じ半魔族?」

「そうだお。私は半魔族のラオラオだお」


──パチン

 あいたただ。

 ラオラオとはまた……こういう名前をつけた親を呼んでこい‼︎


──ハァ〜ッ

 深くため息をつくマチュア。

「まあいいわ。ここはなんだから、商業区の公園まで行きましょう。ここだと喧嘩になりそうだから」

 そう話してから、マチュアはドラゴンランスのメンバーと公園へと向かう。


 二十分ほど歩くと、商業区と冒険者特区の間の大きな公園にやってくる。

 そこでは、大勢の魔族がのんびりと過ごしている。

 傍には海外からやってきた魔族が露店を出しており、冒険者や商人たちが目利きしながら買い物を楽しんでいる。


 その一角、芝生の上にマチュアは触ると、拡張エクステバックからバナナマフィンを取り出して食べ始める。


──モグモグ……

「ゴクッ。で、話を聞きましょう。私に何か御用ですか?」

 目の前に立つレオニードたちに問いかける。

 すると、レオニードがマチュアに一言。

「魔法竜の触媒が欲しい。魔法薬エリクサーの原料にあれは有効なんだ。是非とも魔法竜の巣を教えてほしい」

 やっぱりそう来るか。

 しかしエリクサーとは、なかなか凄いものが出た。

「あなた達はエリクサーを作って何を企んでいるのかしら?」

「……それは」

 そこでレオニードは言葉を閉じる。

「理由があるのは理解します。けれど、それも告げられず、レアリティの高い触媒を譲ってほしいとは……」

「違う、巣を教えてくれれば、俺たちで討伐に向かう。頼む!」

「お願いします。私たちには、それをしなくてはならないのです……」

 アレクトーも頭を下げる。

 すると後ろの三人もマチュアに頭を下げていく。

  そこまで言われたなら仕方ないわ。

 いいわ、理由は聞かない。

 教えてあげる……。

 なんて事はない。


「うん、帰れ」

 あんた鬼か?

 マチュアは笑いながらそう話した。

「そんな……」

「だから訳を話せ。ちなみにだが、魔法竜の巣はもうない。私が全滅した。素材全ては私が隠している。さあ、どうする?」

 ニィッと笑うマチュア。

 そのマチュアの言葉に、オークの戦士がマチュアに殴りかかる。

「いいから出せ‼︎痛い目に遭いたくなかったら」


──パシッ

 その拳をあっさりと受け止める。

 そのまま後ろ手に固めると、レオニードに再度問いかける。


「話しないなら構わないよ。と言うか、なんか私が悪人になっているのが納得できない。まず私に謝れ」


──ゴキゴキッ

 ギリギリと関節を固めていくマチュア。

「わ。わかった、仲間の非礼を詫びる。ボンキチ、お前も謝れ」

「くっ……殺せぇぇぇぇ」

「男オークがそれを言うかぁぁぁぁぁ」


──スパァァァァン

 素早くツッコミハリセンを空間収納チェストから引き抜くと、力一杯ボンキチの頭部を殴りつける。

「あふん……」

 この一撃でボンキチは10m程後方の街道まで吹き飛んでいく。

 するとコボルトの僧侶とラオラオがボンキチを助けに走る。


「貴様、今何をした」

「ん?見えなかったの?この武器でぶん殴っただけ。これ以上まだ話がある?悪いけど実力行使で触媒奪うのなら殺すわよ?」

 ドスの効いた声で レオニードに告げると。

「蘇生薬です‼︎レオニードはエリクサーから蘇生薬を作ろうとしているのよ」

 アレクトーがマチュアに向かって叫ぶ。

 街道から両肩を担がれたボンキチも戻って来ると、アレクトーがマチュアに話を始めた。


………

……


 レオニード達ドラゴンランスのメンバーは、このワルプルギスを治める領主の私設冒険者だそうだ。

 この地方には、街道を繋ぐ交易都市がいくつも点在する。

 それらの都市を収めている領主達は横の繋がりが強く、有事の際には協力体制を取っている。


「けど、あの日。ヒト族がワルプルギス近くの町を襲撃した時、領主ライトニング卿と私たちがヒト族の殲滅作戦に赴いたときのことです」

 静かに話をしているアレクトー。

 その話には、マチュアは耳を貸している。

「いつになく知恵を巡らせたヒト族の襲撃に、ライトニング卿は罠にかけられ、囚われてしまいました」

「まさかヒト族にあそこまで勇気と知恵があるとは思っていなかった……我々は囚われたライトニング卿を、助けに向かったが、ヒト族の砦にたどり着いた時、すでにライトニング卿の首は切断されていた……」

 拳を握り、レオニードは吐き捨てるように話した。

「そこから何がどうなったか覚えていない。ただ、気がついた時、俺たちのパーティーはヒト族の砦を殲滅した後だった……」


 しばしの沈黙。

 するもアレクトーがゆっくりと話を続ける。

「私達はライトニング卿の遺体を屋敷まで届けました。そして奥方・カリーナ様に卿の死を報告し、亡骸を引き渡しました。その日から、この都市の領主は奥方になったのですが、同時に奥方の心と体は衰弱してしまい……」

 それ以上の言葉は聞こえてこなかった。

 この都市はライトニング卿の副官達がしっかりと守っている。

 人望の厚いカリーナも副官達に支えられ、どうにか今まで頑張ってこれた。

 だが、ここ数日でカリーナの容態が急変し、意識が戻らなくなってしまったらしい。


………

……


──ハァァァァ

「そこのワンコ僧侶、奥方の病気ぐらい魔法で直せないのかい?」

 ため息をつきながらマチュアがコボルトの僧侶に問いかけるが。

「ワンコとはなんですか?私にはちゃんとトイプーって言う名前があります」

 やっぱりワンコじゃねーか。

 そう心の中で呟くが、トイプーは一言。

「無理ですよ。怪我や病気を癒したりする魔法はヒト族の邪神の加護がなくては。わたし達、魔族の主神であるラフシール様はそんな魔術を授けてはくれていません」

「へぇ、ラフシールねぇ……なら、君たち僧侶の仕事って?」

 ふと疑問が湧いてくる。

 魔族の僧侶の仕事はなんだ?

「魔族の僧侶の仕事ってなんだ?」

「強化付与バッファーです。私はこう見えても38レベルの僧侶です」

 ドヤ顔で話すトイプーだが、そのレベルが強いか弱いか全くわからん。


「パーティーの怪我は誰が直すの?」

「え?ポーションがありますし。あらかじめ魔法で強化してもらいますから」

 アレクトーが何を当たり前のことを?みたいな顔でマチュアを見る。

「さあ、これで理由は全て説明した。頼むからドラゴンの牙を譲ってほしい」

 レオニードがすがる思いで頭を下げると、マチュアはウンウンと頷いた。

「いいよ」

 ひょいと右手をレオニードに差し出すと一言。

「事情が事情なので、白金貨十枚にまけてあげるよ」


「「「「「なんだって‼︎」」」」」


 一斉に叫ぶドラゴンランスのメンバー。

「し、しかし、それを支払うとエリクサーを買うための予算が……」

 腕を組んで考えるレオニード。

「まけてもらうことはできませんか?えっと……」

「マチュア。私の名前はマチュアです。まあ、まけてほしいな言うのなら、そうですねぇ……」

 バックに手を突っ込んで、エリクサーを取り出す。

「このエリクサーなら白金貨十枚でいいよ。これだと加工賃も掛からないでしょ?」

 あっさりと一言。

 この言葉には、ドラゴンランスのメンバーだけでなく近くの露店にいた冒険者や商人も驚いている。


「そ、それは本当にエリクサーなのか?」

「そりゃもう。あっちの雑貨店で鑑定してもらっても構わないわよ」

 マチュアがそう話すと、またしてもレオニードは腕を組む。

 そしてドラゴンランスのメンバーで少し離れた所で相談を始めている。

 すると。

「あの、ちょっと小耳に挟んだのですが、ドラゴンの牙をお持ちとか。ちょっと見せてもらえますか?」

「ん、断る」

 あっさりと切り捨てる。

 すると商人も慌て始めた。

「私は仕事柄、何度もドラゴンの牙を見たことがありまして、ひょっとしたら貴方はドラゴンの牙と何かを勘違いしているのかも……」


──ヒョイ

 拡張エクステバックの中から銀色に輝くシルバードラゴンの鱗を取り出して見せる。

 死んでもなお魔力を放出する逸品。

 その輝きは宝石よりも希少価値がある。


「ぬぉぉぉぉぉぉぉ。まさしく魔法竜の鱗。金貨五枚払います、是非売ってください」

「ふぅん……」

 そう呟いて、マチュアは鱗を凝視する。


『白銀の鱗:さまざまなアーティファクトの材料となる。希少、価値にして白金貨五十枚相当、入手不可』


「ん?最後のなんだ?」

 頭を捻るマチュアだが。

 目の前の商人は鼻息荒くマチュアに詰め寄るが。

「まあ、四十枚なら」

「なっ、そんな高額なはずがない。貴方は相場を知らない」

「魔法竜・シルバードラゴンの鱗の価値は白金貨で最低でも五十枚。これは何処の鑑定士に聞いても同じ答えですよ?」

 真顔でといかけるあと、商人の目が泳ぐ。

「そ、それは何処の鑑定士で……」

「王都ですが。それでおいくらでお買い上げで?」

 その言葉には、商人も怒りの声で離れていく。

「たかが半魔族が魔族に商売を語るなど……実に不愉快だ」

 あら、ここでも半魔族は不遇なのか。

 それはまあしゃ〜ない。


「話は決まりました。マチュアさんのエリクサーを鑑定させてください。その上で本物ならば白金貨十枚出します」

 商人と入れ違いにレオニードがやって来る。

「ふぅ。その答えが出るまで随分と掛かったなぁ」

 よっこいしょと腰をあげると、マチュアは拡張エクステバックから箒を取り出す。


──フワッ

 それに横坐りすると、レオニード達に一言。

「それじゃあ冒険者街の雑貨屋さんに行きましょう……どしたの?」

 目をパチクリしている一向に問いかける。

「マチュアさんってマジックアイテム持ちなのですか」

 アレクトーがそう問いかけるが、マチュアは頭を捻る。

「へ?珍しいの?」

「マジックアイテムは古代ヒト族のもたらした遺産です。ロクなことしない種族ですが、マジックアイテムとアーティファクトを作り出す技術は一流ですよ」

 ラオラオが力一杯熱弁する。

 それには全員が頷いている。

「僕の右目は魔眼なんです。効果は鑑定、ある適度の物品の鑑定ができるんです」

「それでこれが凄いって話していたのか」


──シュン

 ハルバードを取り出して手渡すと、ラオラオは興奮している。

「ああ……伝承級第七階級のアーティファクト。これはなんと言う名前なのですか?」

 そう問われると。

「ハルバード・ブレイザー。伝承龍の素材で作られた神々の武具の一つですよ」

「いいなぁ、これ本当に良いなぁ」

 そう呟きながらマチュアに戻す。

「それじゃあパスカル商会に向かいますか」

 フワフワと飛んでいくマチュア。

 その前を、ドラゴンランスのメンバーは先導するように歩いて行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──カタン

 パスカル商会のカウンターで、店主パスカル・マルカスがエリクサーを調べている。

 この商会は冒険者御用達らしく、レア素材や発掘されたマジックアイテムなども多数取引されている。

「まあ、結果から言うと、これはエリクサーじゃないね?」

「え?」

 マチュアが驚きのあまり頭を捻ると、同行してきたドラゴンランスのメンバーが渋い顔をしている。

「じゃあ、それは偽物ですか?」

「まさか。エリクサーと並ぶもう一つの伝説の霊薬ソーマだ。白金貨百枚払っても手に入らない代物だよ」

──ゴクッ

 ラオラオの喉がなる。

 マジックアイテムマニアのラオラオには、目の前の伝説の薬が信じられないらしい。


「等級なら第七階級のアーティファクト、世界にあと何本あるのか見当もつかない……何処でこれを?」

 パスカルが問いかけるので、マチュアは一言。

「あ、知り合いが作った……」

「はあ、この製作者のアハツェンって言う人はマチュアさんの知り合いか。もう少し安かったらうちでも仕入れるんだけどねぇ」

 笑いながらマチュアにエリクサー、もとい霊薬ソーマを戻す。


(エリクサーなんだけどなぁ。こっちの世界では霊薬ソーマ扱いなのか……アハツェンて誰だ?)


 ならばとマチュアは普通のポーションを取り出して見せる。

「これ、普通のヒーリングポーションなんですが。これの価値を教えてください」

「サービスで見てあげる。昨日のドラゴンの牙で儲けさせてもらったから」

 そう話しながら天秤に乗せる。


──カタン

 そして出た鑑定結果に、思わず笑いそうになる。

「ハイポーション、それも三級品か。金貨二枚だね」

「普通のポーションの値段は?」

「大体は六級品で銀貨十枚。それでも数は不足しているんだよ?」

 おおう。

 これまたどうしたものか考えてしまう。

「ん?、これもアハツェンさんか。この人は魔術師?」

「いえ、錬金術師です……なんかごめんなさい」

 店内が沈黙する。

「え?どしたの?」

「錬金術師って、古代人族の魔法技術を収めた存在ですよ。マジックアイテムやアーティファクトを作り出すことのできる人な憧れの存在、現代には存在していないんです」

「そんな人が知り合いだなんて。マチュアさん、ぜひ紹介したください」

「その方のマジックアイテムならうちで全部引き受けます。どうですか?」

 興奮気味に叫ぶアレクトーとラオラオ、パスカルの三名。

 だが、レオニードは冷静にマチュアに問いかける。

「俺たちの予算は白金貨十枚。これでソーマを売ってくれるのか?」


──ポン

「はい、では白金貨十枚頂戴」

 あっさりとソーマを手渡すマチュア。

 するとレオニードが逆に慌ててしまう。

「ま、待ってくれ、この価値は今聞いたばかり。なのに先の約束を果たすのか?」

「そうだけど?さっきこれは白金貨十枚って話しした。だから中身がソーマであっても約束は約束。はよ‼︎」

 その言葉にレオニードも白金貨を手渡すと、マチュアはそれを確認して拡張エクステバックに放り込んだ。

「それじゃあまいどあり。また何処かでお会いしましょう」にこやかに笑うマチュア。

 するとアレクトーがマチュアに声をかける。


「ドワーフの商隊・グランドリ一家が次にこの街に来るのは半年後です。運良く会えると良いですね」

 ニッコリと笑いながら、アレクトーが教えてくれる。

「え?なんで私がドワーフ探してるの知ってるの?」

 キョトンとした顔で聞き返すと。

「酒場の方に教えてもらいましたわ。今自分にドワーフを探している珍しい半魔族がいるって。会えると良いですね」

 その言葉に、マチュアは笑いながら手を振って店から出て行った。

 希望が繋がった。

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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