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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧


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41/44

その39・灼熱の回廊にて


 先日の意識喪失。

 それから、またしても七十日が経過している。

 不思議なことに新陳代謝が低下していたのか、空腹も体力低下もない。


 何はともあれ、慌てて神聖アスタ公国のアスタードに戻ると、酒場カナンではぐったりしているボンキチとトイプーの姿があった。


「うん。生きてる?」

「死んだほうがましだ……遅いぞ」

 テーブルにうつふしているボンキチが呟くと、その正面で魔力切れを起こして呆然としているトイプーも頷いている。

「おかげさまで、蘇生の手前まではたどり着きましたわ……いかんぜん魔力が足りないのが悔やまれますが、こればかりは時間をかけないとならないらしいですわ」

 そう話していると、同じテーブルにシャロンとフリージア、ステアの三人がやって来る。


「これはマチュアさま。ご無沙汰していますわ」

「何かお変わりありませんか?」

 会釈をする二人と、マチュアに手を上げてからテーブルについてエールを飲み出すステア。


──グビグビグビッ

「ぷはぁぁぁ。生きている実感が湧いて来るなぁ」

 一口で飲み干すと、すぐさまお代わりを頼むステア。

 その光景を見て、マチュアもエールを頼む。

「まあ、三人とも元気そうで良かったわ。しばらくは今回みたいな育成関係の仕事を頼むので、宜しくね」


──グビグビグビッ

 そう話してから、やってきたエールを受け取って飲み干す。

「私たちは構いませんよ。街の人から、魔法の学校を作って欲しいと頼まれてますがどうしますか?」

「それと読み書き計算も学びたいとかですわ」

 ふうん。

 いい感じに向学心が芽生えてますなぁ。

「いいんでない?アマルテアさんと相談して、無理しない範囲で」

「なら、俺は武術訓練を担当しようかなぁ」

「ステアは加減しなさいね。本気でやったら殺すでしょ?」

「はっはっ。違いない……それで、マチュアさまはこれからどこに?」

 ステアが問いかけるので、マチュアは堂々と一言。

「灼熱の回廊の探索。ドラゴンランスのメンバーと行ってくるけど」

「おお、あの小僧の住む回廊か。楽しいぞ、赤竜の眷属が住む回廊だ。それに、古き人間の遺跡でもある。中には、過去に使われた『勇者召喚の儀』の魔法回廊もあるから、十分に気をつけるのだぞ」

 へぇ。

 ステアは物知りだなぁ。


「よく知ってるねぇ」

「そりゃあもう……ちなみにだが、上から火龍、炎龍、黒焔龍、爆龍、灼龍、恒龍の住む回廊が続くぞ。耐熱処理さえあればある程度は安全だし、なによりも主人ならば本気を出さずとも恒龍を仕留めることは出来ましょう」

 自信満々に告げるステア。

 ならば。

「チーム・ドラゴンランスなら?」

「え?レオニードたち?」

 そう聞き返してから、フリージアとシャロン、ステアが酒場の片隅で論議を始める。

 なにその寸劇。

 ちょっと参加したいんですけど。


 10分の白熱した会議の結果。

「黒焔龍までは問題なしと三人で答えが出ましたが」

「爆龍あたりでかなり厳しさは増しますわ。できるなら、三階層あたりが遊び場としては最適かと」

 へえ。

「過去の勇者なら?」

「炎龍までは同行しましたわ」

「ええ。あの子は二層で限界、炎龍の杖を回収して終わりました。三層は入ってすぐに逃げましたから」

 お、おおう。

 つまりは、過去の勇者よりも優秀なのね。

 これにはボンキチやトイプーも満足げであるが。

「だからと言って過信しないこと」

「はっはっはっ。特にボンキチだな。自分の役割をしっかりと果たしたまえ」

 シャロンとステアが笑いながら説明する。

 すると、ボンキチがバツの悪そうな顔をしている。

「まだステア師匠の足元にも及ばないからなぁ」

「十年やって半人前だな。まだ2/9人前というところか」

 ボンキチに向かってニヤニヤと笑うステア。

 また微妙な数だなぁ。


「さて、そんじゃあ一度ワルプルギスに戻って準備しますか。そんじゃあ、あとは任せたからね」


「「「はい(おう)」」」


 その返事を聞いて、すぐにゲートをライトニング邸に繋がる。

 そしてマチュア達は、急ぎゲートを越えて行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日。

 一晩じっくりと疲れを癒したボンキチとトイプー、気合い十分のレオニード達を連れて、マチュアはすぐさま中央山脈麓のシュピーゲル王城へと向かった。


 正門で連絡を受けて、城門の前で待っていたマルコと合流すると、ルフト王とは謁見せずに、地下の封印区画という場所へと案内された。

 あくまでも討伐任務はドラゴンランスの面々が行うため、話などは全てレオニード達に任せる。


 やがて、封印術式の施された巨大な両開き扉の前に案内された。

 封印されてもなお、扉の向こうからは熱気が溢れかえっている。


「ここから、第一階層にあたります。この封印は私の持つ鍵でしか開けることは出来ませんので、帰還の際はこの指輪から言葉を送ってください」

 そう説明しながら、マルコはレオニードに『念話の指輪』を手渡す。


──チラッ

 その仕草を、マチュアはじっと眺めていたが。


──ピッピッ

『念話の指輪:二つで一組、魔力を込めて言葉を発することで、相手に言葉を送ることができる。『マルコ』所有の指輪が対となる。第三級マジックアイテム』


「ふう。本物本物。安心して問題はないので……」


──スゥッ

 マチュアは指先に魔力を込めて、空中に文字を書き込む。

対炎熱処理レジストヒート精神抵抗レジストマインド魔法抵抗レジストマジック……あとはまあ、神威祝福ゴッドブレス全体増幅アンプリフアイア状態異常耐性強化ステータス・レジストアップ自動発動型完全蘇生オートリザレクション

 ……」


 次々と魔術式を発動して、自身に付与していく。

 その光景を、ドラゴンランスの面々とマルコはぽかーんとしている。

第五聖典ザ・フィフス第六聖典レジェンドの魔法ばかり……貴方は一体何者ですか?」

 レオニード達は、驚くものの自分たちも付与魔法を施していく。

 だが、事情を知らないマルコはぽかーんとしていた。


「マチュアちゃん、そのローブは燃えないの?」

「ん?これは市販品だからあっという間に燃える……そか、全部外して……」

 そう話してから、マチュアはチラッとマルコを見る。

「ん〜、マルコさん、この場所って他から見ることはできるの?」

「いえいえ、この区間だけは、扉の封印式の影響で直接視認しなければ見ることはできません。何かありましたか?」

 ならば。


──シュンッ

 素早く悪魔っ娘モードに切り替えると、翼はコンパクトに、尻尾も短めにする。


──カコン……

 その姿を見て、マルコの顎……というか、嘴の関節が外れる音がする。


──ガゴッ

 すぐさま自力で接合すると、マルコは大慌てでマチュアの前に跪く。

「ま。まさか……ワルプルギスに悪魔ルナティクス様が降臨したという噂は聞いていましたが、それは信ぴょう性のない話と、信じていませんでした……」

 あ。

 どうりでワルプルギス以外でのマチュアの扱いが半魔族のままだと思った。


 旅商人は噂として話していたが、ライトニング卿の計らいで、マチュアの正体は隠されたままであった。

 だから、このマルコの反応は正しい反応である。


「頭上げていいよ。私はルナティクスではないよ、この身体はルナティクスだけど、私は悪魔のマチュア。そんじゃあ行きますか……って、なんでレオニード達も離れるの?」

 残念性スイッチがオフになり、残虐性スイッチがオンになったマチュア。

 それに何度も殺されたので、その反応はある意味正しい。


──シュンッ

 すぐさま魔法の箒を取り出して座ると、マチュアもスタンバイオッケー。

「マチュアさん、また暴れたりしないですよね?」

 レオニードが問いかけると、マチュアはにいっと笑う。

「今はパーティーメンバーというか同行者。みんなの実力が見たいだけだから……なんかボンキチがやる気満々なのだけど」

 チラッとボンキチを見る。

 すると、特訓の成果を体感したいボンキチがグレイブを構えている。


「一手だけ、お願いする」


──ズン‼︎

 すかさず踏み込んで、横水平に斬りかかるボンキチ。

 今までよりも鋭く、速い。

 虚空を切る音がシュンッと響くが、マチュアは一歩だけ引いて、右手を黒い鱗で覆って受け止める。


──ガチッ

「硬度強化……と。いや、いいんじゃないかな?それ、躱すと衝撃波の二撃目くるやつでしょ?」

 衝撃波の出を止める。

 これで問題はない。

 かわしきれずに鎧で受け止めると、グレイブの重い一撃で鎧は破壊されるだろう。


「それを一瞬で見抜くとは……まだ遠いか?」

「ん〜。神聖アスタ公国公都から、サンマルチノ王領王都ぐらい遠い」

 そう説明すると、ボンキチは嬉しそうに笑う。

「先の見えない十年からは縮んだか。感謝する」

 すぐさま頭を下げると、レオニードの元に戻る。


──ドゴッ

 そのボンキチの腹に向かって、レオニードが拳を入れる。

「あのなぁ……気持ちはわかるが、それはこの先の敵で実践しろよ」

「あ、そ、そうか、済まない……」


──プッ

 頭を掻いて反省するボンキチに、一同笑い始める。


「そ、それでは宜しいですか?」

 スッと鍵を魔法陣に突き刺すマルコ。

 そして全員が頷くのを確認すると、ゆっくりと鍵を回し始めた。


──ブゥゥゥン

 魔法陣がゆっくりと解けていく。

 そして二つの扉に収まると、ゆっくりと扉が開いていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 耐熱処理無くしては、この灼熱の回廊は攻略不可能。

 それを知らない無謀なる冒険者達は、過去にどれだけの骸を晒したことだろう。


「……ハァハァハァハァ」

「た、耐熱処理をしてもまだ、この暑さかよ」

「わ、私も魔力には自信があったのですが……これは流石に……」


 迷宮を進みながら、時折姿をあらわす魔物を討伐する。

 レオニード達には、この第一層の敵は苦ではない。

 問題はやはり、暑さであろう。


「ねぇ、すこし休みませんこと?このままでは、わたし達は干からびてしまいますわ」

「トイプーの言葉に賛成だお……もうだめ死ぬお」

 泣き言を言いながら、その場に座り込むトイプーとラオラオ。

 だが、座った石畳からも熱気が溢れている。

「さ、流石のマチュアさんもこの熱では無口ですか」

 レオニードがそう話しながら後ろを振り向くと。


──シャァァァァッ

 頭上から冷たい水を浴びているマチュア。

 水生成ウォータークリエイト冷気空間コールドフィールドで冷たい水を作り、シャワーを浴びている。


──プシュッ

 そこに冷たい缶コーラを飲む。

「ングッ……ぷっは〜、美味いわぁ……って、何よ?」

 暑さも楽しむマチュア。

 その光景を、レオニード達は生唾を飲見込みながら眺める。

「アレクトー、マチュアさんのあれ、作れるか?」

「少し待って……ええっと……頭上に冷気空間で、そこに水生成……こうかな?」


──フワッ

 すると、アレクトーの頭上に丸い水の塊が出現し、バッシャーっと頭から降り注いだ。

「ひゃぁっ‼︎冷たいぃぃ」

「アレクしゃん、ラオラオにもそれ欲しいお」


──バッシャーッ

 次々と冷たい水を作って頭からかぶる。

 でも、マチュアのようにシャワー状態にはならない。


「どうして、マチュアさんは細かい水を作り出せるのですか?」

「ん〜、イメージ。雨が降ってくるイメージで水を作る、だからシャワーになる。魔法ってイメージが大切だよ?か」

 そう説明する。


 そもそも、この世界にはシャワーなどないから、雨をイメージするしかない。

 そして雨をイメージすると、天候操作の魔法になってしまうので発動しない。


「むぅぅぅぅ。マチュアちゃんのようにできない.」

 少し拗ねるアレクトー。

 だけど、レオニードはすぐさま武器を引き抜くと、前方に意識を向ける。

「遊んでから時間はおしまいだな……」

 レオニードの視線の先からは、真っ赤に燃え上がる炎を身に纏った巨人達が歩いてくる。

 数は全部で八体。

 だが通路の広さから、同時に三体だけが攻撃を仕掛けてくる為に走り出した。


「フレイムジャイアントですわ……」

「それでは行きます‼︎凍てつく吹雪よ‼︎」


──ヒュゥゥゥンッ

 正面のフレイムジャイアントに向かって右手を突き出すアレクトー。

 その掌から、魔力によって生み出された吹雪が放出し、ジャイアント達を覆い尽くしていく。


──グオォォォォォォ

 身を包む炎が消滅し、真っ赤に輝く姿が剥き出しになると。

「くらぇぇぇぇ」

「ふんむぅっっぅ」


──ズバドガァッ

 レオニードとボンキチが、フレイムジャイアントの左右から同時に攻撃を仕掛ける。

 これで左大腿部と右腕が切断されて倒れると、すぐさまラオラオが滑り込んでから首を切断する。


「次だ‼︎」

「はいっ‼︎吹雪よ‼︎」

 さっきと同じ戦法で次のターゲットを倒すと、さらに続いてもう一体。

 その調子で次々とフレイムジャイアントを殲滅していく。

 やがて目の前には、大量の死体が転がっていった。

「さて、ドロップアイテムあるかなぁ……お?」


 ヒト族や魔族などは、討伐時の所持品がドロップアイテムとして回収される。

 そしてそれ以外のモンスターは、体内に魔障核、もしくは魔力核と呼ばれるモンスターの体内器官があり、それを回収して『物質化』という第一聖典ファースト魔法を施すことで、モンスター固有の物質に変化する。


 ラオラオがフレイムジャイアントから回収した魔力核は全部で5つ。

 そのうちの三つが変化なし、一つは短刀、そして最後の一つが両手剣に変化した。

「ほうほう。短刀一つと両手剣ですわね……では」


──ヒュゥゥゥンッ

 さらにトイプーが鑑定の魔術でアイテムの正体を看破する。

「炎の短刀と、フレイムオンコマンドソードですわ……」

 どちらも第三級マジックアイテム。

「とりあえず回収して、先に進もう。あまり時間をかけたくはないからな」


──コクリ

 マチュアを除く全員が頭を縦に振る。

 すると、全員がマチュアを見る。


「あの、ここまで問題ないですよね?」

 心配そうにマチュアに問いかけるアレクトー。

 すると、マチュアもコクコクと頷く。

「パーティーリーダーはレオニードで、ドラゴンランスが主体で動いているから文句も何もないよ〜。むしろ頑張れ」

 ニヤニヤと笑うマチュア。

 それにはボンキチがため息をつく。

「本当についてくるだけか……やれやれ」

「でも、何も問題ないのだから、気にすることはないお。まーちゃんは後ろでのんびりしているお」

 うむ。

 その言葉に甘んじよう。

「なら、あとはどんどん進めておくれ」

 その言葉で、再び一行は先に進み始めた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ステア達の話通り、ドラゴンランスの面々は第一層、第二層も難なく突破した。

 火龍と炎龍の魔力核は持ち帰ってから鑑定することにして、いよいよ第三層に突入。

 ゆっくりと地下階層へと向かう転移の魔法陣に乗ると、全員が第三層へとやってきた。


 漆黒の回廊。

 今までよりもさらに熱量を浴びた壁や天井、床。

 歩いているだけで汗が噴き出し体力が削られていく。

 疲労困憊とはまさにその通り、この灼熱の回廊の第三階層から突破者がいない理由の一つである。

 そしてもう一つの理由が……。


「もう限界ですわ。魔力が残っていませんわよ」

「同じく。耐熱処理で殆ど使い切りました。何処かで休まないとならないわよ」

 流れる汗を拭いつつ、トイプーとアレクトーが泣き言を呟く。

 だが、それはレオニード達も同じ。

 体内の心力が枯渇し始め、これ以上の長期戦闘はキツくなってきた。

「何処かで休みたいのだが……どこで休めるのやら」

「先に進み調べるのが得策か?」

「なら、おいらが調べに向かうお‼︎」

 そう話し合ってから、ラオラオが気配を消して奥に向かった。

 セーフティゾーンを作る場所を探さなくては、いつ、魔物に襲われるかわからない。

 しばらくして、ラオラオがス〜ッと帰ってくる。

「この先に十字路があって、その手前に無人の部屋があるお。魔物の気配も感じられないから、そこまで向かうお」

「よし。なら行こうか」


──スッ

 レオニードの言葉で立ち上がると、一行は先に進む。


(ふつうに問題ないわよねぇ……と?)


 マチュアの敵性感知に反応あり。

 前方十字路の向こうに、スモールドラゴンが一体潜んでいる。

 だが、レオニード達は気がついていない。

「……ま、いっか……」

 箒から降りて絨毯に乗り換えると、マチュアはス〜ッと上昇して上からみんなを眺める。

 疲労で集中力が欠除しているのか、一行はドラゴンに気がついていない。


──ヒタヒタヒタヒタ

 レオニード達は少し進んだところで足を止める。

 先頭を歩いていたラオラオが後ろの仲間達にサインを送り、警戒態勢に切り替わった。


(あ、予想外に優秀だ……このまま進んだらアウトだったよなぁ)


 いつでも防御魔法を飛ばせるように、右手で印を組み終わっていたマチュア。

 でも、スッと魔力をカットして様子を見ることに切り替えた。


 やがてラオラオが下がりボンキチとレオニードが前に出る。

 アレクトーとトイプーも杖を構えて詠唱準備に入ると、レオニードが盾を構えて走り出した……。


………

……


 ボロボロになりながらも、どうにかスモールドラゴンを倒した一行。

 火傷や切り傷などで被害は最小限に食い止めていたが、それでも治療に充てる魔力が足りないらしい。

「酷い火傷……」


──ブゥゥゥン

 ボンキチの背中全面が灼け爛れ、激痛に顔を歪めている。

 必死にトイプーが癒しの術式を発動しているが、それでも傷が癒えることはない。


「マチュアさん、ボンキチの手当をお願いできますか?」

 上空をプカプカ浮いているマチュアに、レオニードが叫ぶが。

 マチュアは手をヒラヒラと左右に振った。

「断る。まだ出番じゃないよ」

「マチュアちゃん、もう魔力が足りないの。こういう時の対処法を教えてくれるかしら?」

 すぐさまアレクトーが問いかけたので。

 なら、教えましょう。

第三聖典ザ・サード魔力移送トランスファー。これは受け渡すだけでなく受け取る効果もあるのよ。レオニードやボンキチは魔力使わないから半分ぐらい貰いなさいな」


──ポン

 これには全員があっけに取られる。

「で、では、レオニードさん貰います……」

「お手柔らかに」

 すぐさまアレクトーがレオニードから魔力を受け取ると、それをトイプーに注ぎ込む。

 すると、全員の怪我を癒す強治癒グレーターヒールを発動した。

「これで……終了です」


──シュゥゥッ

 全員の火傷や怪我が一気に治る。

 するとラオラオがドラゴンを解体して魔力核の回収を始めた。


「さて。ここからどうするか……」

 一行はこの後の行軍について考える。

 このような場所では、まともに体を休めることなど不可能。

「しかし、アスタードではステア師匠たちは第三層の黒焔龍までは簡単と話していたのだが……」

「話は簡単、潜在的な力はあるものの、私たちの連携や作戦に無駄があるからですわ」

 ボンキチの疑問にはトイプーが答えた。

「そうね。もっと魔力を抑えてもいい敵は多かったわ。実質、ここまで全力で来たので消耗しきってしまったのも事実ですし」

「休息を取るにも、この暑さでは……堪りませんわ」

 アレクトーとトイプーの言葉には、全員が頷く。


「まーちゃん、この状況でゆっくりと体を休める方法はあるお?」

 ラオラオが下から問いかけるので。

 マチュアはコクコクと頷く。

「当然。今のみんなで十分に可能ですよ……さあ、知恵を絞ってがんがれ」

 そう説明してから、マチュアは拡張エクステバックから竹串とマシュマロを取り出し、熱気を放出している壁の隙間で炙り始める。


──ジュゥゥ

「うわ、火力強いわ……ホフッホフッ」

 美味しそうに焼きマシュマロを食べている。

 その間も、下では会議が続けられている。

 そして三十分ほどで、アレクトーがみんなから魔力を集めて熱気遮断ヒートカット結界を作り出すと、その中をベースキャンプとして体を休めることにしたらしい。


「まーちゃん、これで良いお?」

「まあ良し。熱気遮断よりは冷気結界で、温度を調整した方が良かったけどね」

「でも、それですと温度を調節するために術者は起きていないとならないのでは?」

 アレクトーが頭を捻るので。

「いや、結界に条件設定を施すとよろしい。それと半永続化も付与。そうすれば問題はない……という事ですので!おやすみなさい」


──ブゥゥゥン

 絨毯の上で深淵の書庫アーカイブを起動すると、マチュアは全周囲に敵性感知を発動する。

 そして軽く仮眠をとることにした。

 まずは、ここまでは及第点。

 ここからが本当の地獄である。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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