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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧
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その3・城塞都市ワルプルギス

 マチュアは神聖アスタ王国から飛び出して、旧王都であるアラル王国へとやって来た。


 王都まではまだまだ距離が遠いため、とりあえず最も近い都市までの街道筋を探し出すと、マチュアは街道をのんびりと飛んでいる。


──ガラガラガラガラ

 すると、後ろから二頭立ての馬車が走ってくる。

 道の邪魔にならないようにと横にずれて箒を肩に担ぐ。

 やがて馬車がマチュアの横を走り抜けて行く。


「意外と人通りが多い。もうすぐ夜なのに、安全性を考えていないのかなぁ」

 そんな事を考えて、再び箒に座ってふわふわと飛んでいるが、すぐに前方を走っている何処かの商隊に追いついてしまう。

「うおわっ‼︎」

 慌てて箒から飛び降りて肩に担ぐと、商隊の後ろについて歩く。


「ん?なんかちっこいのがついて来ていると思ったら。お嬢ちゃん。なにか用事かい?」

 最後尾の馬車の幌から顔を出したいかつい犬獣人が、馬車の後ろについてくるマチュアに声を掛けた。

「この先の街まで行くのですが、ちょうど商隊が前を走っていたのでついて来たのです」

「なるほどなぁ。オーナーとの契約があるから関係ないやつは載せるわけにはいかない。が、そうやってついてくる分には構わないよ」

 ニィッと笑いながら話してくれるが、口から溢れそうに光っている犬歯が怖い。

「うぁ、それはどうも……」


 箒に乗ってついて行くのもあり。

 そう考えると、担いでいる箒にまたがるのもありなのだが。

 顎に手を当てて悩んでいると、さっきの獣人が話しかけてくる。

「お嬢ちゃんはどこから来たんだ?」

 ん?

 とりあえず来た方角を指差してみる。

「あっちの村です。街に行って冒険者になります」

「ほう。という事は魔術師か。どうりでへんな箒担いでいると思ったよ」

 なぬ?

 この世界は魔法使いは箒に乗るのか?

「箒に乗った魔法使いを見たことあるのですか?」

「一度だけならな。俺の見た魔法の箒は第二級のマジックアイテムだ。王都の賢者様が使っていた国宝級の代物だよ」

 確定。

 箒は使えない。

「そっか」

「お嬢ちゃんの箒はせいぜい七級のマジックアイテムだろ?プカプカ浮いて乗り物について行くだけのやつ。それならついて来ても構わないと思うぞ」

 ん?

 んんん?

「クラスの数値が上がると性能と価値が上がるのですか」

「なんだ、そんな事も知らないのか。お嬢ちゃんの師匠は大切な事を教えてなかったんだな。まあ、とりあえず乗ってついてきな」

 ならばと箒に横坐りすると、プカプカと馬車の後ろについて行く。

「ほう、馬車と同じ速度か。六級のマジックアイテムとは、師匠も甘やかせているなぁ。マジックアイテムってのはな?その性能によって第一級から第七級までレアリティがあったな。一つ数値が下がるごとに桁が一つ二つ変わってくる」

 ほむほむ。

 折角なので、この人について行って色々と教えて貰おう。

「第三級以上は貴族や王族が好んで欲しがる。あとな、マジックアイテムではなく、その上位にアーティファクトというのがあったな。これは第一階位から第七階位まであって。数値が高いほど希少で強力なアーティファクトなんだ」

 へぇ。その後もいろいろな雑学を教えてもらい、夜はベースキャンプに混ぜてもらって一夜を過ごした。

 そして翌日。

 目的地の城塞都市に到着した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 巨大な城塞都市・ワルプルギス。

 その正門は開かれたまま、門のところには衛兵が立っている。

 商隊と別れたマチュアは、その衛兵の姿を見て頭を捻る。


──ん?

 そこにはがっしりとした上質のプレートアーマーに身を包んだ、緑色の体色のゴブリンが立っている。

 マチュアの知っている、よくゲームで見るゴブリンは身長120cm程度。

 頭髪もなければヒゲもない。

 丸い顔に尖った耳の、実によく見るオーソドックススタイルなのだが。

 目の前のそれは、かなり人側に近い顔つきのゴブリンである。

 身長も180cmはあるだろう。

 そんなイケメンゴブリンが、都市部の警備をしている。

 遠くから中を覗くと、どうやらゴブリン種族全体が人間のように主流となっている。



「少しは変装しないとダメだよなぁ」

 ローブを着てフードを被る。

 肩から斜めにバックを掛けると、マチュアは思わず驚いてしまう。

「こ、これが巨乳にのみ許されるパイスラッシュですか‼︎」

 少し感動しているマチュア。

 そしてテクテクと城門に歩いていくと。


「こらこら、城内に入るのなら身分証を提出してもらわないと」

「ん?持ってないよ」

「ふうん。なら、通行税を払えるかな?君はお金って分かる?」

 まさかゴブリンに貨幣経済のなんたるかを説明されるとは思わなかった。

 この世界の貨幣経済なんて知らない。

「分かんない」

「そっか。なら、何か店に売れるものがあるなら、それを買い取ってもらって貰うといい。都市部ではお金が大切だからね。もしくは、冒険者ギルドに登録して依頼を受ければ、報酬としてお金は手に入るよ」

 そう説明してくれると、入り口横の守衛室からゴブリンが一人やってくる。


「今回ははじめての都市見学ということで、三日分の通行許可を出してあげるよ。三日以内に街から出るか、もしくは、ギルドに登録してくるといい。その時はここに戻ってきて、ギルドカードを見せてくれな」

 そう説明すると、ゴブリンはマチュアに通行手形を手渡した。

「あ。ありがと」

 軽く会釈をして街の中に入っていく。

 そして溢れるようにゴブリンやコボルト、オーク、オーガと言った連中が堂々と街を歩いている。

 冒険者のように装備をつけているもの、商人のチュニックに身を包んでいるものなど、若干の違いはあるが皆一様に服は着ている。

 そしてカリス・マレスとの最大の違い。


 ゴブリンは体色が緑系なのと額にある小さい角が特徴てある以外は人間と外見が変わらない。

 コボルトはやや獣人・犬族であり、小柄な体が特徴。

 オークはややぽっちゃり系の獣人・豚族に見える。色白で耳と尻尾が特徴のようだ。

 オーガに至っては巨人族にツノが生えただけ。


 この四種族が、この世界の平均的主流種族のようだ。

「うはぁ、本当に文化が、入れ替わっているんだ。なんだろ、このままでも良くなってきたぞ」

 そんな冗談を呟きながら、マチュアはまずはお金を確保するために雑貨屋へと向かう事にした。

「それにしても……魔族いねぇ」

 ボソッと呟くマチュア。

 右も左も、何処にもマチュアのようにツノを生やしている悪魔の姿はいない。

「まあ、そのうち会えるか。しかし魔族っていうのがどれを指すんだろう」

 そんな事を呟きつつ、のんびりと街道を歩いていく。


………

……


 文字はGPSコマンドで自動変換されている。

 なので、マチュアは買取をしてくれる雑貨屋を探して歩いた。

 暫く歩いていると、冒険者らしき人々?が出入りしている店があったので入って見る。


「いらっしゃい。おや、買取かな?」

「そ。これを買い取って欲しい」

 拡張エクステバックに入っている『ドラゴンの牙』を取り出して見せる。

「どれどれ……お、おう、まさかドラゴンの牙か?久し振りに見たなぁ」


──ガタッ

 店主がカウンターの下から大きめの天秤を取り出す。

 そこにドラゴンの牙を置くと、中央の台座にある小さい水晶に魔力を注いでいた。


──ブゥゥゥン

 ゆっくりと牙の受け皿が下がり、そして上に上がる。

 水平の位置までくると、カチッと音がした。

「魔法竜シルバードラゴン?この大陸どころかどの大陸でも聞いたことがない。それにこの含有魔力は洒落にならないな」

 なにか説明ありがとう。

「それで、この価値は?」

「あ、ああ、そこの水晶に浮かんでいる文字がそうだが。これなら買取で十五万銀貨だね」

 その金額が妥当なのかわからない。

 しかし、目の前の商人が嘘をついているとは思えない。

 目の前の水晶には、二十四万銀貨と写っている。

「二十万でどう?」

「それはうちの売値だな。十六万なら?」

「十八万で決まり」

「一七万五千で限界。ここまで」

 やれやれと観念した商人。

 ならばとマチュアは握手する。


「それでいい」

「よし。ならこれはうちのものだ。ちょっと待ってろ、今、金を用意してくるからな」

 そう話して奥の部屋に向かう。

 すると店主は、奥から大きめの袋を持ってくる。

「額が大きいから白金貨で支払うからな」

 そう言われても、白金貨が何かわからない。

「白金貨って何?」

「あ?お嬢ちゃん町は初めてか。なら貨幣はわからないな」

 そう話してから、貨幣の単位を説明してくれた。

 まさかここに来て異世界の通貨レートを知ることになるとは、マチュアは思ってもいない。


「まず銅貨100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚。この上の赤金貨もあるけど、貴族ぐらいしか滅多に使わないので割愛な。十七万五千銀貨なので、まず白金貨17枚と金貨50枚。両替するかい?」


 そう話してくれたので。

「金貨1枚を銀貨にしてください」


──ジャラッ

「ほらよ。このドラゴンの素材ならいつでも持って来てくれ。けど、最近ドラゴンを討伐したっていう話は聞かないからなぁ。ま、お嬢ちゃんがどこから持って来たのかは問わないよ」

 受け取った金は拡張エクステバック経由で空間収納チェストに放り込む。

 すると店主はマチュアにコソッと一言。

「店を出たら気をつけるんだよ。お嬢ちゃんがドラゴンの牙を持ってきたのが、店内の客にはバレたからね」

「ふぁ?そんなに町の中は治安が良くないですか?」

「町の中はまあまし。外は昔と変わらない弱肉強食だからなぁ」

「そっか、あんがと」

 そう頭を下げると、マチュアは雑貨屋の外に出る。

 あとはギルドに登録に行くだけ。

 そのまんま周りを見渡すと、マチュアは冒険者ギルドの看板のある建物へと向かう事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 街の中央から少し手前。

 街道沿いに冒険者ギルドはあった。

 併設している酒場県宿屋からは、大勢のゴブリンやその上位種のホブゴブリンなどの笑い声が聞こえてくる。

「うは、ホブゴブリンか。ゴブリンの上なんだよなぁ、クワバラクワバラ」

 オーガが通れるような巨大な入り口をとおりぬけ、トテトテと受付カウンターに向かう。

 カウンターの中にはオーク族の女性。

 優しそうな目をしながら、カウンターに来たマチュアに話しかけて来た。


「おや、お嬢ちゃんは登録かな?」

「まあ、そんなところ。登録料はいくらですか?」

 そう問いかけると、受付は一言。

「銀貨5枚だね」


──ジャラッ

 すぐさま拡張エクステバックから銀貨を取り出すと、それをトレーに乗せる。

「はいありがとうさん。この水晶に手を当てな」

 そう説明してカウンターに水晶を乗せる。

 そこにマチュアは手を乗せると、やがて水晶が輝き、ゆっくりと溶けて透き通ったプレートに変化した。

「まあ、最初は駆け出しだから頑張りな。レベルが上がったら、いい依頼を受けることができるからね」

「へえ。それじゃあ頑張りますよ」

 そう話してから、とりあえず先に西門まで戻って、正式に入国許可を受けてくる。


 その道中、手に入れたギルドプレートを眺めると、表には名前と性別、種族、レベルが表示されている。

「名前はマチュア、種族は神魔。神魔族ってなんだ?」


──ピッピッ

『神魔族:神と悪魔の性質を持つ魔族。悪魔の真祖でもある』


 視界の上に表示される文字列。

 あ〜、本当にこれ便利だ。

 このスキルは持って帰りたい。

 無事に入国許可を受けるが、提示したギルドカードを見せても特に驚かれない。

「あ、あの、私の種族で驚かないのですか?」

「ん、半魔族だろ?この大陸には良くあるよ」


──ピッピッ

『半魔族:ヒト族と、ゴブリンやコボルトなどの魔族の混血。褐色の皮膚や小さなツノなどを特徴とする以外、特に迫害されるものではない』


「ふぁ?」

 この褐色の皮膚が半魔族の証らしい。

 なら、それは好都合。

「あ〜、わかるわかる。お嬢ちゃん程のべっぴんさんなら、酒場でも働けるから。冒険者としては大成しない種族だけど頑張れよ」

「あ、ありがと」

 励まされてギルドの方角を向かって歩く。

「でも、なんで種族が変わったのやら」

 ウィンドウを調べてあちこち見てみると、どうやらマチュアは『尻尾と翼』を収納し、ツノを外界から隠したら半魔族の表示になるらしい。

 せめてものガイアの思し召しなのだろう。

 ちなみにツノが見えた時点で表示が神魔に変わる。

 このツノがステータスらしい。

「……理屈がわかったら腹立って来た。それにレベルも1+だし。なんだ+って?」

 これも確認すると、マチュアの現在のレベルは存在しない。

 正確にはカウントオーバーで表示できないらしく、それならと1+になっているらしい。

 これは自然に2+、3+と上がるようだと説明には書いてある。

「はぁ……ウィンドウにチュートリアルとかヘルプ機能まで追加されている。ガイアって、ゲーマーじゃねえ、ゲームデザイナーかGM経験者だな?」


 それならと、歩きながら色々と調べる。

 この世界の説明、スキルの使い方、この世界固有のスキルやアビリティ、神々からの祝福など。

「無理ゲーなので、せめてもの償いに……か」

 そんな事をぶつぶつと呟いていると、やがて冒険者ギルド隣の宿屋まで到着する。

 まずは活動するための拠点を用意しようと、堂々と店内に入っていった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 広い店内には、大勢の魔族が楽しげに酒を飲んでいる。

 人族以外の文明を持つものが、この世界の下位魔族、もしくは準魔族と呼ばれているらしい。

 下位魔族が地位や名誉を得たり進化したものが中位魔族、悪魔などの支配階位が上位魔族、もしくは魔人族と区分される。



「ははぁ、受付は奥なのか」

 騒がしい店内の奥が受付兼酒場のカウンターらしい。

 ならばと店内に堂々と入り、奥のカウンターに向かう。

 そこで受付をしなくてはならないのだが。


──スッ

 入り口から奥に向かう途中。テーブルの隙間なら通路に、あちこちから足を伸ばしてくる連中がいる。

 明らかにマチュアを通さないという意思表示。

「お約束だなぁ……

 そのまんま無視して真っ直ぐに突き進む。


──ガキガキバキッ

 伸びている足を蹴り上げ、踏み潰し、そして踏みつけていく。

「痛えっ‼︎」

「おうおう、そこのガキンチョ、今俺の足踏んだなら」

「いてぇっ、折れたぞどうしてくれるんだ?」

 案の定、威勢のいいオークのパーティーが3人突っかかってくる。

「あ、ゴミかと思った。済まなかったね」

 そう話してから、カウンターに進んで行こうとして。


──グイッ

 一人の男がマチュアの肩を掴む。

「おいおい、それだけかよ。悪いが謝ってもらった程度じゃ治らなくてなぁ。一晩じっくりと看病して貰おうか?」

「三人相手だと大変だろうが、あんたの穴、全部使えば大丈夫だろうさ。明日の朝には解放してやるよ」

「この匂いは初物かぁ。一番は俺な、俺が初物を貰うぜ」

 実に下卑た笑いである。

 情けをかける必要もないぐらいである。


「あ〜、オークのパーティか。悪いがクッ殺してる暇わないんだわ」

 憐憫の目でオークたちを見る。

 すると、肩を掴んでいた奴が、力一杯ローブを引っ張る。

 目立たないようにと、白亜のローブではなく市販されているものを着ていたのが、功を奏したのか仇となったのか。


──バサッ

 ボタンが飛びローブが脱がされる。

 すると、隠していた角と尻尾が露わになる。

 そして。


「お、悪魔族……それも……まさか……」

「ルナティクス……悪魔ルナティクスが蘇った」

「お赦しを……慈悲を……」

 その場に座り込み命乞いを始めるオークたち。

 その騒動は店内全てに広がり、その場で腰を抜かしたり慈悲をこう声が聞こえてくる。

 逃げ出したいらしいが、どうやら恐怖で体がすくみ動かないらしい。


「……ボタンが取れた。まあ、いいか」


──ブゥゥゥン

 足元に広がる魔法陣。

 そしてそれは店内に広がると、カウンターの中の店主とオーク達以外を包み込む。

忘却オブリビオン……」


──パチン

 すっ、とマチュアに関する記憶を消すと、すぐにローブを羽織ってツノを隠す。

 するとマチュアはオークたちを無視してカウンターに向かう。

 そして今の光景を見て呆然としているゴブリン族の店主に一言。

「一ヶ月分部屋を頼みたい‼︎前払いでも構わない」

「そ、そんな、お代は結構ですのでご慈悲を」

「それは困る。無銭で宿泊などしたら怒られてしまうから、一泊いくらだ?」

 そう問いかけると、店主は震える声で一言。

「一泊銀貨2枚で、私には一ヶ月の意味がわかりません」

「なら、100日分で、一番いい部屋を頼みます。朝晩は軽い食事も。あと毎日室内の掃除もお願いします」

 そう話しながら金貨五枚を取り出して手渡す。

 それには店員も驚いている。

「これは多すぎます……」

「口止め料こみだよ。私の正体は外に漏らさない……そこのオークもいいね?もしも漏らしたら……」

 ニィッと笑いながら床で頭を下げているオークを見下ろす。


──ヒイッ

「ミンチだ。部屋は何処?」

「はっ。只今ご用意します」

 すぐさま店員に指示すると、すぐさまマチュアは四階の部屋に案内される。

 スイートルームとしては少し小さいが、それでもこの宿の一番大きな部屋らしい。

「それでは失礼します」

 店員のコボルト嬢が頭を下げたので。

「これはチップ。労働の代価の一部で貴方に支払うもの。ありがとうね」

 銀貨を二枚握らせると、コボルト嬢は尻尾を左右に振りながら頭を下げる。

「何かありましたらいつでもどうぞ」

「そうね。その時はよろしくね」

 そう話しをすると、コボルト嬢は部屋から出ていった。


「さて、これからどうするか。なんだか懐かしいわ」

 ドサッとフカフカのベッドに転がると、マチュアは疲れが出たらしくス〜ッと眠りについた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──チュンチュン

 窓の外から鳥の鳴き声がする。

「ふぁ……骸骨騎士様……」

 あ。

 なんの夢がわかる。

 それは一発でわかる。


 目を冷ますために風呂にお湯を貯める。

 この世界の質の悪い石鹸は使わず、空間収納チェストの中の牛のマークの石鹸で体を洗う。

「しっかし、何処をどう見てもロリ巨乳悪魔か。ガイアの趣味が思いっきり反映しているなあ」

 シャンプーも取り出して頭を洗う。

 それをバスタオルでゴシゴシと拭うと、火と風の魔法で温風を作り出し、乾かしていく。


「問題はツノをどう隠すか。魔法だと時間で切れるが永続だとなんかあったらめんどくさい……帽子かな?」

 それが手っ取り早い。

 すぐさま空間収納チェストの中から帽子を探すと、ちょうど大きめのベレー帽見たいのがあった。

 それを深々と被ると、しっかりとツノを隠すことができる。

 ツノの先端が帽子の中で引っかかるので、風が吹いても簡単に脱げる事はない。

 黒いボディスーツを身につけて、上からチュニックとスカートをつける。

 そして上質のローブを身に纏うと、何処から見ても駆け出し冒険者の完成である。

「さて、情報収集にでも向かいますか」

 肩から拡張エクステバックを下げると、まずは朝食を食べに一階に向かった。


………

……


 朝食を食べ終えてマチュアは宿から外に出る。

 外の風景、雰囲気はよくあるファンタジーゲームの世界と変わらない。

「異世界落ち……違和感無いだけタチが悪いな」


 主街道を歩いて都市中央に向かう。

 円形都市の中心には、都市のハつの会堂が全て交差する。

 ここから各方面に向かうと貴族区や行政区、商業区、歓楽街、一般区へと向かうことができる。

 冒険者のいる区域は歓楽街と商業区の間、冒険特区という区分になるらしい。


「情報屋はどこやら……酒場で聞くか」

 右の街道に入って歓楽街に向かう。

 そして適当な酒場に入ると、中は朝っぱらから酒を飲んでいる酔っ払いの巣窟である。

「うわ、酒臭っ‼︎」

 思わず呟いてしまうと、店員がマチュアの元にやってくる。

「食事ですか?それともお酒?あっちのサービスはうちはありませんよ?」

 ニッコリと笑うゴブリン嬢。

「軽くお酒をください。果実酒あります?」

「サザン酒ならありますよ」

「それとお肉あります?腸詰とか」

「ヤクシャ肉ならありますよ。今お持ちしますね」


──ピッピッ

『ヤクシャ:カリス・マレスでいうグランドボア種、食用に飼育されている』

『サザン酒を:多年性果樹サザンの果実から作った発酵酒。甘酸っぱい癖になる味』


「ん〜、便利なんだが何か違う」

 そんな事を呟きながら、届けられた酒と腸詰をのんびりと食べる。

(聞き耳スキルをアクティブに)


──キィィィン

 周囲の声がマチュアの耳に集まる。

 同時に聞こえてきたものまで、個別に識別出来てしまう。

 それらの中から求める情報を探してみるが、それらしいものは存在しない。

「あ〜、おねーさん、おかわりください」

「はいはーい」

 すぐさま追加のサザン酒を持ってくると、マチュアはゴブリン嬢に銀貨を五枚握らせる。

「多いですよ?」

「このあたりに情報屋さんないかしら。ちょっと探しものがあるんだけど」

 ああ、成る程と納得するゴブリン嬢。

「公設の情報屋さんなら冒険者特区と商業区ですよ。ここからだと商業区の方が近いですね」

 ふむふむと頭を縦に振るが、マチュアには場所がわからない。


 軽く頭を捻るマチュア。

「昨日この街に来たばかりで、道がわからないのです」

「あ〜成る程。冒険者登録?商売?」

「冒険者登録はしました。それで道順は?」

「今地図書いてあげるね、ちょっとまってて」

 そう話してからゴブリン嬢は奥のカウンターまで走ると、羊皮紙に殴り書きした地図を持ってくる。

「ちょっと裏の通りになるから、少し治安が悪いけど我慢してね?」

「助かりました、ありがとうございます」

 ペコッと頭を下げると、マチュアは店から出て公設情報屋へと向かう事にした。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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