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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧


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36/44

その34・ワルプルギス動乱

 マチュアとドラゴンランスの面々は、のんびりとライトニング卿からの返事を待っている。

 伝令がしっかりと仕事をしていれば、間も無く連絡は来る。

 その時が来るまで、マチュアとレオニード達はのんびりと待っていた。


──ガチャガチャッ……ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 金属音と共に、城門がゆっくりと開かれる。

 すると目の前には、街道の左右を埋める冒険者と騎士団の姿があった。

 そして伝令の騎士が正面に立つと、マチュア達にゆっくりと頭を下げる。


「大変お待たせして申し訳ありません。それではご案内しますので、こちらへどうぞ」

 その言葉と同時に、マチュアは振り向いてドラゴンランスの面々に『風の加護』を付与した。

 これで飛び道具は止めることもできるし、近接武器の攻撃もある程度躱すことが出来る。


 そして町の中に入ったレオニード達は、自分たちに向けられた『嫌な感覚』に嫌悪感を感じていた。


「……何だ、このねっとりとまとわりつく嫌悪感は……魔族がヒト族を見る目は、こんなに汚れているのか」

 レオニードがそう呟くと、アレクトーとトイプーが寒気を覚えたらしく、ブルッと震えている。

「敵意しか感じない……俺たちも、今まではこんな目をしていたのか」

「うわぉ……あちこちから侮蔑の声がする。こんなの嫌だお……」

 自分たちが向けていた敵意を、今度は受ける事になった。

 レオニード達は、改めてヒト族の立場を言うものを理解した。


 暫くは街道を進んでいる。

 やがて貴族区に差し掛かると、正門ではなく横の通用門から入らように指示された。

「……これはどう言う事?わたし達は正門から通さないの?」

「それがその……貴族達が、正門を汚らわしいヒト族など通すなと」

 汗を掻きながらそう説明する案内人。

 だが、マチュアは堂々と正門の前に立つ。

「わたしは忠告したわよね?この人達は、わたしの大切な仲間だと……二度は言わないから、素直に正門を開きなさい」


──シュンッ

 一瞬で悪魔モードに切り替えると、ハルバートを取り出して身構える。


「マチュアちゃん……わたし達は気にしないから、ね?」

 後ろからアレクトーが宥めようとするが、マチュアは頭を左右に振る。

「い、や、だ。わたしは、わたしの大切なものを踏みにじるものは嫌いなの。身分や立場をかさにきて、偉そうにしている奴らなんて尚更……」

 だが、暫く待っても正門が開く様子はない。

「よーしいい根性だ。今からぶち破るからな」

 そう叫んだ時、後ろでトイプーがマチュアに告げた。


「マチュアさん、貴族区正門や柵には第四聖典ザ・フォースの完全防御壁が施されています。破壊不可能なんですよ」

 その叫びと同時に、正門の向こうからは笑い声のようなものが聞こえて来る。


「あ〜そうかそうか。中の人、正門から離れろよ〜。悪魔マチュアを本気で怒らせたな」


──ポン

 ハルバードをボンキチに預けると、マチュアはゆっくりと正門に近づく。

 そして軽く門に触れると、フゥゥゥンと次々と魔法紋様が浮かび上がる。

「おおおお、なるほどね」

 ス〜ッと息を吸うと、マチュアはゆっくりと間合いを取る。

 そして。

猛虎硬爬山(もうここうはざん)っっ無限刃」


──パァァァァァン

 ゆっくりとした掌底。

 この一撃で正門が後方に砕け吹き飛び、左右30m程の柵までもが吹っ飛んだ。

 吹き飛んだ破片が後ろの人々に直撃し、あちこちで呻き声を上げて倒れている。


「さ、行きましょう……」

 クイクイッとレオニード達を呼ぶと、マチュアは堂々と正門を通り抜ける。

 中から外が見えなかったから粋がっていたのだろう。

 マチュアの姿を見たもの達は、恐怖からその場にしゃがみこんだり、跪いたりしている。


「うわぁ……まーちゃん怖いお」

「まだ本気じゃないわよ。ハルバード使ってないでしょ?」

 そう説明すると、ボンキチがマチュアにハルバードを戻す。

「これで真っ二つにされた身としては、複雑だ」

「痛みはなかったでしょ?そう言う切り方があるのよ」

 そう笑いながら歩いていくと、やがて目の前に、大勢の騎士や冒険者にガードされたライトニングの屋敷が見えてきた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 屋敷前正門。

 そこはガッチリとガードされている。

「マチュア様、ここから先はお一人で。領主の屋敷にヒト族を入れることはできません」

 正門前で騎士団長が叫ぶので。

「こ、と、わ、る。屋敷ごと吹き飛ばされるのと、素直に通すのどちらがいい?そもそも……私に意見するの?」


──ピッピッ

恐慌ディプレッション全開。ドラゴンランスは外して……と』


 マチュアの言葉の直後に、その場の騎士や冒険者が一斉に跪く。

 正門もすぐに解放され、全員が頭を下げたまま震えている。

「そうね、良い子だよ。私が良しと言うまで、そこから動かないでね……」

 この言葉で、半分ほどの魔族は意識を失って倒れる。

 残ったものも、意識を保っているのが精一杯、指一つ動かすことができない。


「さて。そんじゃあライトニングさん、出てきてくださいな」

 そうマチュアが叫ぶと、扉が開いてライトニングが現れる。

 真っ青な顔で、今にも意識を失いそうなので。


──ピッピッ

『ライトニングも恐慌ディプレッションカット……』


「ほ、本日はようこそおいで頂きました……此方へどうぞ」

 ガクガクと震える声で、ライトニングはマチュア達を部屋に案内する。

 そこは以前にもマチュアが案内された部屋、上座にマチュアは案内されると、その背後にレオニード達が並んだ。


………

……


「そ、それで……本日はどのようなご用件で……」


──ポフッ

 帽子を被ってツノオレモードに装備を換装する。

 すると心なしかライトニングがホッとした。


「まず一つ目。ドラゴンランスのメンバーを連れてきた」

 そう説明すると、ライトニングの表情がパァァァッと明るくなる。

「そ、それは……お願いします、皆を蘇生してもらえますか?」


 やはりそう来るか。

 そこまでは予測通り。

 だが、此処からが正念場。

 レオニードがマチュアの横に立つと、ギルドカードを取り出してライトニングに差し出す。


「ヒト族のギルドカード?これに何が……え?」


 カードを見てすぐに、ヒト族となったレオニードを見る。

 そしてすぐさま他の面々の顔も確認するので、全員がライトニングにカードを差し出した。

 果たして、ヒト族になったドラゴンランスに興味はないのか、それとも受け入れるのか。


「マチュアさん、事情を説明してくださいますか?」


 すると、ライトニングが真剣な顔で問いかけるので。

 マチュアはレオニードの顔を見る。

 そして、死んでからの話を全て説明する。

 最後の一言は。


「チーム・ドラゴンランス、ただ今帰還しました……」


 レオニードがそれで締めくくった。

 暫くの沈黙。

 そして、ライトニングの言葉は一言。


「まずは座りなさい。無事に帰ってきたのは何よりだが、中々に厳しい状況になるぞ?」

「委細承知。レオニードや皆とは相談済みです」

「マチュアちゃんが蘇生の魔法陣を使ってくれなかったら、わたし達は帰って来ることはできませんでした」

「あの戦いだって、一番辛かったのはマチュアさんです」

「まーちゃんは悪くないんです。おいら達が意地を張って戦って、まーちゃんに辛い思いをさせたんです」

 皆がマチュアを庇う。

 そして最後はレオニード。


「ライトニング様。我々は一度死にました。魔族の、皇王に、この国に忠誠を誓ったゴブリンナイトのレオニードはもう居ません」

 レオニードがそう告げると、全員が静かに頷く。

 そして。

「その上で、魔族とヒト族、二つの力を持つ私たちを、この屋敷で雇ってもらえますか?」

「まーちゃんの言う共存、おいら達がその始まりになるあお」

「自分たちの身は自分たちで守れますわ。どうでしょうか?」

「魔族よりも強くなる……」

 皆がライトニングに頭を下げる。

 だが、ライトニングは渋い顔をしている。


「……済まないが、私は君たちをクビにした記憶はない。まあ、国ではなく、私に雇われると言うのなら、それでお願いしよう……おふれを出す必要もあるし、今後のワルプルギスの立場もある……」


 その一言で、レオニードたちは再びこのワルプルギスで歩くことができるようになる。

 そして問題は。


「ルフト王か……君たちを受け入れた時点で、ワルプルギスはルフト王に対して反逆した事になる。これについては、何か知恵はありませんか?」

 ライトニングがマチュアに頭を下げる。

 下げられたのなら一言。

「ルフト王、倒せば?」


──プッ

 そのマチュアの言葉には、全員が噴き出した。


「そ、そんな簡単に言わないでください」

「そうですわ。マチュアさんのように強いのならなんとかできます。けれど、わたし達は」

 ライトニングとトイプーがそう叫ぶので。

「大地母神ガイアと暗黒神ファーマスの加護を受けた転生冒険者。こっちは五人、あっちは一人だ。神聖アスタ公国でも皇王を討つための準備はしていたから、むしろ都合がいい」

 ウンウンと頷くマチュア。

 しかし、レオニードたちにそんな力があるのか?


「マチュアさん、俺たちにそんな力があると思いますか?」

「神から声が掛けられている時点で、もうあると思って良いよ。あとは訓練と実践、わたしはそっちは手伝わないけど、もし紹介して欲しければ良い人を教えてあげる」


──ザワッ

「マチュアさんにお願いしたかったのはそこなんです。ヒト族討伐の失敗、ルフト王が許すはずがない。最悪のケースとしては、このワルプルギスが粛清対象になります」


 ふむふむ。

 それはまずいよなぁ。


「なら、ワルプルギスにはわたしが結界を施してあげやう。それだけ、あとは頑張れ」

「マチュアさんは戦ってはくれないのですね?」

「甘えんな。わたしは架け橋でしかないの。ヒト族の文明修復にも手を貸したから、こっちも結界で守ってあげる。まあ、わたしの本気の結界、破れるものなら破って見なさいだよ」

 ニィッと笑う。

 それでライトニングも落ち着いた。

「それにしても、貴族区の正門を破壊するとは」

「私、第七聖典ザ・ゴッドの魔法も使えますから。あの程度の魔法なんて、拳で十分。まあ、あとで直しておいてくださいな」

 ニコニコと笑う。

 最初は悪魔マチュアに恐怖を抱いていたライトニングだが、いまは半魔族のマチュアを相手していた時に戻っている。


「そんじゃあ、私は帰るね。アレクトーさん、風の加護は常に張り巡らせてね」

 羊皮紙をとりだして、正しい『風の加護』の術式を手渡す。

「今はそれだけ。本気でやるのなら師匠は教えてあげる。あとはみんな次第ね」

 そう話すと、マチュアは椅子から立ち上がった。


──スッ

 拡張エクステバックから次々と武具を取り出して手渡す。

「ボンキチはこれ、雷光のグレイヴ。ラオラオは風の短刀。トイプーさんには回復の杖、アレクトーさんには魔導杖ね。これあげるから頑張って……レオニードさんにはあげたから上げない」


 それぞれが新しい武具を手にする。

 軽く振ったり、手に取って瞑想したり。

 その光景を見てから、マチュアもウンウンと頷く。


「そんじゃあまたね。酒場カナンに戻るので、なんかあったら呼んでね」

 そう告げて部屋から出ようとすると、ライトニングやレオニードたちが一斉に頭を下げた。

「色々と……ありがとうございます」

「マチュアさんにはお礼をいくら告げても足りません」

 あえて返事はしない。

 そのまんま屋敷から出ると、箒に乗ってのんびりと飛んで行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 のんびりと街の中を飛んでいるが、みなマチュアを恐れてか急いで家や建物に隠れてしまう。

 まあ、この手のことは慣れっこなので、あまり気にしないようにしている。


 ふと気がつくと、マチュアはカナン商会の前までやってきていた。

「ここも同じだろうなぁ……」

 そう呟いて建物に入っていくと。


「「「「お疲れ様でした、マチュアさま」」」」


 従業員が一斉に挨拶する。

 そしてすぐさま仕事に戻る。

 いつもと同じ光景に、逆にマチュアがビビってしまう。


「ふぁぁ?何これ?」

 すぐさまフェザーの方を向くと、ニコニコと笑っているフェザーの顔が見えた。

「第一次討伐隊が悪魔に蹴散らされたと聞きまして。その時点で従業員には伝えてあります。皆、何も変わることなく、いつも通りの仕事をしてますよ」

「あ、あ〜、みんなにオヤツをあげやう」


 動揺したマチュアが、とりあえず落ち着くために菓子を配り始める。

 すると何人かの従業員が空のバスケットを持ってくる。


「外でも配布してきますので、少し多めに頂けますか?」

「はいはい……宜しくお願いしますね」

 そう話して、マチュアは次々とマフィンやアンパン、ジャムパン、クリームパンをとりだしてバスケットに入れる。

 それを手にして、従業員は外に飛び出して行った。


「なんも心配する事ないんだなぁ……そんじゃあ帰るね」

「はい。あとはお任せください」

 勤めて普通に振舞っている。

 ツノが隠れているので、恐怖感はないのだろう。

 フェザーの教育の賜物であるらしいが、この徹底ぶりは見事である。

「さて……」

 箒にまたがり、街の中を見て回る。

 すると、冒険者ギルドに大勢の人が集まっているのご見える。


「まだ討伐任務やっているのか……あ?」

 慌てて建物に飛び込む。

「ル、ルナティクス様……」

「悪魔マチュアさま……」

 次々と二つの名前を呼んだ跪く冒険者たち。

 もう面倒臭くなったので、マチュアはカウンターに向かうと、依頼の掲示板から自分の出した依頼を剥がす。


──ドン

 それをカウンターに置くと、目の前でマチュアを見ているギルドマスターに一言。

「この依頼、取り消したいんだけど……」

 さあ、ギルドマスターも跪くの?

 権力に負けるの?

 そう不安であったが。

「ギルドカードを見せろ。本人確認しないとな」

「は? あ、あ〜、ちょっとまってね」

 すぐさま拡張エクステバックからギルドカードを取り出すと、それをカウンターに置く。


──ヒョイ

 すぐさまカードを手にとって確認すると、ギルドマスターがマチュアに一言。

「ここにいる連中や討伐隊は、お前さんのことをルナティクス様の再来とか、悪魔マチュア様とか言うけどよ……今俺の目の前にいるのは、半魔族のドジっ子マチュアで良いんだよな?」


──バン

 依頼取り消しの印を依頼書に押すと、前払い分の代金を返却する。

 それをジャラッと受け取って拡張エクステバックにしまうと、マチュアはニィッと笑った。


「ツノが見えないでしょ?なら今は半魔族のマチュアだよ」

「そっか……レベルが10になってるが、随分と成長が早いな。ここ以外で仕事したのか?」

 んんん?

 仕事ではないが予想はつく。

「ドラゴンランスのメンバー皆殺しにしたからかな?」

 あっさりと呟く。

 これだけで冒険者達は震え上がり、どうすることもできない。

 だが、ギルドマスターはあっさりと一言。


「そりゃあ凄えな。悪魔に戻ったら、そんなに強いのか」

「まあね。でも、ツノが隠れてると、心が穏やかになるんだよ」

「それで、ドラゴンランスの連中は?」

「ん〜と、蘇生して、また殺して、蘇生して殺してを繰り返したら、ヒト族に転生した。今はもう、ライトニングさんのとこで働いてるよ……だから」

 マチュアにニィッと笑う。

「レオニードさん達も、私みたいに普通に接してくれると良いんだけど」

「……ふぅ。ギルドカード持っているんだろう?なら、俺にとっては冒険者だよ。お前さんもだ……ほら、話聞いただろうが、お前らもいつまで跪いているんだ、とっとと働け‼︎」

 急に冒険者達にハッパをかける。

 それで慌てて冒険者達も立ち上がると、掲示板に駆け寄ったり酒場に向かったりする。

 これでここはおしまい。

 ギルドマスターが理解してくれて良かったと、建物から出ようとした時。

「10レベルだろうと悪魔だろうと構わんが、ちゃんと働けよ」

 ギルドマスターが笑いながら叫んでいた。


………

……


 最後はここ。

 パスカル雑貨店。

 マチュアにとって、他のとこなどどうでも良い。

 ここに来られなくなるのが怖かった。


──ソーッ

 ゆっくりと扉をあけて中を覗き込む。

 幸いなことに客数は少なかったので、コソコソとカウンターに向かう。


──プハーッ

 そこでは、いつものようにキセルを咥えたパスカルが、商人と取引をしていた。

「あ、こ、これは、悪魔マチュアさま……どうぞどうぞ」

 商人はすぐにマチュアを見ると、荷物を片付けてマチュアに順番を譲ろうとしたが。

「マチュア、急ぎじゃないなら少し待てるかい? 今は大切な商談なんだ」

「ふぁ?ならスクロール見てくるわ」

 あれ?

 いつもと全く変わらない。

 なので、マチュアはスクロールの入っている棚に向かうと、面白いものはないかと物色し始めた。


──チラッチラッ

 あちこちから、マチュアを好奇心の目が突く。

 畏れ多くて話しかけられない風の人もいれば、目を合わせるのも怖いらしい人もいる。

「よし、マチュア、こっちは終わったよ」

「ほいほい……」

 意を決してパスカルの元に向かうと、マチュアは頭を下げた。

「悪魔なの隠してごめんなさい」


──ブーッ

 あちこちの冒険者や客が吹き出す。

 だが、パスカルは一言。


「ん、知ってた」


 それだけ。

 すると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になるマチュア。

「へ?知ってたの?いつから?」

「そうさなぁ、結構前だよ。色々と変なもの持ってくるから、この子はどこの子だろうなって調べたら、そうだったからねぇ。正体を必死に隠していたし、なら私も見なかったことにしていた」

 呆気にとられるとはこの事。


「ふぁぁ……良かったぁぁぁ」


 ポロポロと泣き始めるマチュア。

 この人には嫌われたくなかった。

 でも、知っていていつも通りに接してくれていた。

 すると。


「お、俺たちもな、ここにいるマチュアちゃんの味方だからな」

「そうだそうだ……少し怖いけど、マチュアさんの味方ですから」

「また変なもの見せてくださいよ」

 あちこちの冒険者が励ましてくれる。

 なら、ここでもいつもどおりです。

「さて、マチュア、マフィンが切れそうなんだが、あるかい?」

「二枚なら」

「ん」


──ジャラッ

 いつも通りに代金をカウンターに置く。

 それを受け取って、マチュアは食品売り場に箱を二つ持っていく。

 その姿を見ていた冒険者は、パスカルの元に近づくと話しかける。


「パスカルさん、悪魔マチュアが怖くないんですか?」

「ありゃあ半魔族のマチュアだよ。そもそも、私の経歴知っているでしょうが……今更怖いものはないよ」

 ニィッと笑うパスカル。

 すると納品を終えたマチュアが戻ってくる。

「ほらほら、あんた達も早く出発しな」

「はいはい。マチュアちゃん、それじゃあな」

 パスカルに促されて、冒険者たちはいそいそと店から出ていく。

 その後はまた暫く、マチュアはパスカルの話し相手になっていた。


………

……


 その頃のライオネル商会倉庫は大波乱。

「そんな馬鹿な……マチュアさんが、悪魔ルナティクスの再来だとは……」

 レオン・ビーステスは倉庫のハズレで震えている。

 ヒト族との交易で同行した半魔族の正体が悪魔だとわかった時、レオンは自分の行った事すべてが悪魔ルナティクスに対しての不敬であると考え、自決しようとまでした。

 それを商会の面々が慌てて取り押さえたのだが、今は時折その記憶が蘇り、震えが止まらなくなるらしい。


「全く……けつの穴が小さい奴だなぁ」

 焼きたての骨つき肉を豪快に齧ると、ライオネルが倉庫で作業をしている面々を眺めている。

 仕事は部下に任せてあるので、ライオネルは監督のみ。

 本来なら、明日にはレオンたちはこの街を出るはずなのだが、ずっとあの調子で街から出られなくなっていた。


「しかし、マチュア様が悪魔ルナティクスの再来という話は、もうワルプルギスでは公然の事実です……我々ライオネル商会は、どうなるのでしょうか?」

 グスタフが心配そうに問いかける。

 その心配は、商会の誰もが思っていた。

 散々嫌がられをしていた相手が、大厄災を引き起こした悪魔である。

 もうね、自決しても良いレベル。

 レオンが震えるのも無理はないのだが。


「なんだかなぁ。実感ないわぁ……」


──ムシャッ……モグモグ

 肉を噛みちぎり食べている。

 この図太さが、ライオネルの強さなのだろう。

「い、今からでも遅くはありません。謝りましょう」

「過去の件ならもう話は付いている。あとは商人同士の話だ。マチュアが悪魔だろうが神だろうが、商人でカナン商会の奴なら、俺は今までと変わる気は無い‼︎」

 きっぱりと言い切るライオネル。


──オオオオオオオツ

 これには商会の従業員も震え立つ。

 皆の気合も入り、ますます団結力を強くしたライオネル商会であった。


 しかしライオネル、丸くなったなぁ。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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