その32・悪魔マチュアの本気
ワルプルギスを出てミッドガルに滞在した翌日。
マチュアはいつでも戦えるように準備をしていた。
完全本気モード、その気になればワルプルギスなど一瞬で消滅できる力。
これをもってして、どこまで相手を殺さずに無力化出来るか。
──ピッ
結界外の草原地帯に侵入者の反応があった。
「さて、そんじゃあ覚悟を決めますか……」
パン、と両頬を手で叩くと、マチュアは次々と魔術を発動する。
「神威祝福、状態異常耐性強化、全体増幅、遅発型強回復』 を時間差で四つ。自動発動型完全蘇生」
さらに高機動戦闘も加え、すぐさま結界外の草原地帯に転移した。
………
……
…
「対ドラゴンとか大物戦闘なら楽なんだけどなぁ……来た」
草原に転移してきたマチュア。
その前方200mに、ワルプルギスを出発した討伐隊の姿が見えた。
先頭はライトニング卿、左右をドラゴンランスのメンバーが固めている。
その後ろには、200を超える冒険者の一団。
そして草原の真ん中に立っているマチュアに気がついたのか、ライトニングは馬の上からじっとマチュアを見据える。
──トコトコ
全員に待ての指示を出して、ライトニングはマチュアの前方10mまでやって来る。
「知り合いとは言え、この先の侵攻を邪魔するのなら斬り捨てる。そこを退けるか、それとも死ぬか、どちらだ?」
──カチャツ
あちこちから抜刀する音が聞こえる。
ライトニングの横では、心配そうなアレクトーやトイプーの姿も見える。
「お願いよマチュアちゃん、貴方を殺したくないから退けて……」
「これは命令なの、退けてください‼︎」
アレクトーとトイプーの声がする。
すると、マチュアはのんびりと話し始めた。
「この世界は歪んでいるのよ。天秤でバランスは逆転したけれど、それはいつどちらに傾くか分からない……今は魔族の力が重いんじゃないかな? でも、釣り合いだって取れると思うのよ」
──シュルッ
帽子を脱ぐ。
リボンの力でカモフラージュした『折れたツノ』が露わになる。
「異世界の魔人の勇者が、そのバランスを崩そうとしてるのよ。今からでも遅くないから、この鉾先はヒト族ではなくルフト・シュピーゲルに向けて貰えるかな?」
身振り手振りを交えて告げるが、ライトニングの表情は変わらない。
「このヒト族侵攻は、我々がルフト王に対して力を誇示するチャンスなのです。いつか訪れる魔族の粛清、それを躱すためには、ヒト族を殲滅して我々の有能さを認めなくてはならない……」
数歩だけ前に進むライトニング。
どうやら引くことはないようだ。
「なら、交渉決裂。私も本気を出すから……」
──シュルッ
リボンを外して悪魔のツノを露出する。
すぐさまツノオレモードから悪魔モードに換装すると、翼と尻尾を生やして軽く浮上する。
その姿を見て、ライトニングは震えた。
ライトニングだけではない、ドラゴンランスの面々も、その背後の魔族さえも、自分たちの目の前に現れた存在に驚愕した。
「そ、そんな……マチュアちゃんがルナティクス様……」
「バカな、そんなバカな事があるかぁぁぁ、ルナティクス様、なぜ魔族を解放に導いた貴方が、どうしてヒト族に加担するのですか」
ライトニングは驚愕から叫びへと変わる。
だが、残念性スイッチが切れて残虐性スイッチの入ったマチュアには、動揺などない。
「私はルナティクスじゃないわよ。ルナティクスの肉体を得た悪魔マチュア。私の目的は、最初は魔族の殲滅。ヒト族を解放するために、この世界の魔族全てを殲滅しようと思ったのよ……」
──ズズッ……ズズズッ……
伝説を知るものなら、その言葉だけで後ろに下がる。
相手は息を吸うように人を殺す。
その恐怖が目の前にいる。
「最初は……なら、今の、貴方の願いは何ですか……」
ライトニングは馬から降りてマチュアの近くにやって来る。
ここで逆らうほどの勇気はないらしい。
ならばと、マチュアも静かに一言。
「ヒトと魔族の融和だって。私はずっと〜っと話してたでしょうが」
「ならば、なぜその姿で、我々の前でそう告げなかったのですか?そうすれば皆、貴方に従います……」
「違う、そうじゃないわ。恐怖からの融和なんて御免被る。それよりも、自然とお互いを認め合えるようにしないと、すぐに亀裂が入るわ」
──スッ
ゆっくりと地面に着地する。
「では……我々は、ここで処刑されるのか?ヒト族に仇なす存在として……」
すると、マチュアはニィッと笑いながらワルプルギスの方角を指差す。
「ライトニングさん、後ろ。ここから後ろ向いてワルプルギスに帰るのなら、私は何もしない。けどね」
──シュンッ
一瞬でハルバートを構えて振り抜くと、目の前に横一線の亀裂を作り出す。
それほど深くはない、印としてラインを引いたように。
「私の忠告を無視してここを超えるのなら、無慈悲に殺してあげる……どっち?」
ニッコリと笑うマチュア。
その言葉、性格はアレクトーたちの知るマチュアではない。
………
……
…
沈黙。
ライトニングは考える。
進むも地獄、戻るも地獄。
なら、どうすればいいのか。
──ザッザッ
すると、ライトニングの横にレオニードがやって来る。
そしてボンキチ、トイプー、ラオラオも。
最後にアレクトーもやって来ると、全員がライトニングの前に立つ。
「ライトニング卿、命令を……」
正面からマチュアを睨みつけるレオニード。
恐怖を忠誠心でねじ伏せた。
自分の主人の命令は絶対。
国に剣を捧げた騎士ならば、ルフト王の命令も絶対。
そしてドラゴンランスの面々も、レオニードに追従する。
リーダーだけを殺さない。
例え、死が確定していても、レオニードは騎士としての誇りのために戦う。
「……冒険者の諸君に告げます。ワルプルギスに戻って防衛の準備をしてください」
英断。
ライトニングは可能性を考えた。
ここで強引に進んでも、待っているのは確実な死。
だが、戻ってルフト王の進軍を抑えるのなら、まだ生き残る可能性はある。
この命令に、死を覚悟していた冒険者もホッとして後退を始める。
次々と踵を返し、馬の向きを変えて撤退する冒険者。
そして全てが終わり、ライトニングも向きを変えようとしたが、レオニードとドラゴンランスはまだマチュアをじっと見ている。
「どうした?」
不安に駆られてライトニングが問いかける。
すると、レオニードは両手剣を抜いてマチュアに向ける。
──カチッ、ヂャキッ
ボンキチもラオラオも獲物を構える。
すぐさまトイプーが仲間たちに防護と強化の祈りを捧げた。
──ヒュンッ
「魔族の神ファーマス、我らに必勝の加護を与え給え」
トイプーの祈りにより、全員の体表に薄い魔法の膜が張り巡らされる。
「駄目だ、下がれレオニード‼︎」
ライトニングが離れたところから叫ぶが、その声は届かない。
「国の命令は絶対。騎士としてそこは譲れません……まして相手がヒト族の味方をしているマチュアならば」
──ゴゥゥゥゥゥッ
レオニードの持つ大剣ザ・フレイムが業火を挙げる。
「十五回か……」
ボソッとマチュアが呟くと、ゆっくりとハルバートを後ろに構える。
「さあ、掛かってきなさい‼︎」
そのマチュアの叫びと同時に、全員が一斉にラインを超えて、マチュアに飛びかかった……。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
争いや戦いなどない。
マチュアの一方的な虐殺。
ドラゴンランスの攻撃はどれもマチュアには届かない。
幾度となく胴体を真っ二つにされ、首を刎ねられ、その都度蘇生の杖で蘇った……。
アレクトーの魔法でさえ、マチュアが指を鳴らすと全てが消滅する。
圧倒的な力量差。
それを、ライトニングは領主として、ずっと見ていた。
──パァァァァァン
最後の魔力を使い切った蘇生の杖も、マチュアの攻撃で真っ二つに砕かれる。
「さぁ、ここからは本当の死だよ。まだやるのなら、一人ずつじっくりと殺してあげる」
返り血を浴びて全身真っ赤なマチュアが、笑いながら告げる。
──ブゥゥゥン
「ウォォォォォォ」
真正面からボンキチが両手斧を振り回して来る。
それを難なく手で受け止めると、マチュアはボンキチの心臓を手刀で抉り出した。
──プシュッ
それを力一杯握りしめて潰す。
「だから、いつも真正面は駄目だって……散々言ったじゃない」
すると、真横の空間から飛び出したラオラオ目掛けて、ハルバートを横薙ぎに入れる。
──カブアッ
顎から頭頂部にかけて真っ二つになるラオラオ。
すると倒れていくボンキチの背後から飛び出してきたレオニードの胴体も横に薙ぐ。
──ブシャァァァァ
臓腑を撒き散らしながら倒れるレオニード。
その時点でトイプーもアレクトーも身動きが取れない。
ここで、恐怖が勇気を上まった。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
膝から崩れて必死に哀願するトイプー。
──プシュッ
その首が、ハルバートで簡単に切断された。
「……ラインを越えたら死ぬって話したわよね?」
残りはアレクトー一人。
振り向いてアレクトーに向かって右手を構えた。
すると、その姿を見たアレクトーが、静かに一言。
「どうして泣いているの……マチュアちゃん?」
それはマチュアでも気づいていない。
ラインを越えて飛び出してきたドラゴンランス。
最初の一人を殺した時から、マチュアはずっと涙を流していた。
とめどなく流れる涙の意味。
マチュアは分からなかったが、ドラゴンランスの面々は理解していた。
だからこそ、全力で戦った。
辛いのは俺たちだけじゃない。
死んで蘇生してまた死ぬ。
大切な友達を、マチュアは何度も殺さなくてはならない。
それがわかっているから、アレクトーは勇気を振り絞って笑った。
「……私で終わり。もう、泣かなくていいからね」
──プシュッ
絶叫を上げながら、マチュアはアレクトーの首を飛ばした。
「う……うぁ……うぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
それを抱きしめて、マチュアは泣いた。
ただひたすらに。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
大陸中央部、元ベルファスト王都。
その王城で、ルフト・シュピーゲルはのんびりと街を眺めている。
順調に大陸の侵攻は進んでいる。
ここを橋頭堡として、ルフトは大陸の全てを手中に収めたのち、次の大陸へと向かおうと考えていた。
今は強い手駒が欲しい。
他の大陸に進出するときに留守を任せられるような。
「マリオ、この大陸の兵とはどんな奴らがいる?」
傍に控えているマリオに問い掛けると、マリオは指折り数えて説明する。
「そうですなぁ。まずは三王、シャイターンとグラントリ、サンマルチノは確定ですな。ここからず〜っと下がって、サンマルチノ王領のアストラとレオン、シャイターン王領ならライトニングと彼の配下が有力かと」
ふむふむ。
ならば、それらのものに別の大陸の侵攻を任せてみようかと考える。
「ならば、そのものたちに中央大陸への侵攻を命じろ」
「恐れながら、ライトニングとその配下は、先日のヒト族侵攻から戻っておりませぬかと。まずはアストラとレオン、彼らのビーステス商会に他大陸侵攻の権利を与え、様子を見るのが良いかと思います」
頭を下げながらマリオが説明する。
すると、ルフトも成る程と相槌を打つ。
「そうか。ヒト族侵攻は思ったよりも手間がかかっているなぁ」
「あの結界が厄介でして。神々の結界は魔族にとっては不可侵、中和してからの突入となるので時間が掛かるのは仕方ありませぬ」
「そういうものか。なら、そこは任せるしか無いか……ビーステス商会に連絡を入れろ」
そう告げると、ルフトはまた空を見上げる。
今は失われた遠い記憶。
ふと時折、何かが脳裏に浮かび上がる。
それが誰なのか、ルフトには分からない。
ただ、今はこの世界を破壊しなくてはならない。
それが、この世界の神々の希望なのだから。
………
……
…
アストラは震えていた。
ルフト王になってから、あちこちで騒乱が繰り広げられている。
この期に乗じて、ビーステス商会は、あちこちから武具を買い付けては適切な価格で販売していた。
亜種族の討伐は国王の命令故に、冒険者たちは常に討伐依頼をこなすために旅立つ。
ボロボロの防具を安く買取り、新しい防具を値引きして売る。
買い取った防具は修理して中古として販売する。
大量の鍛冶屋を傘下に持つビーステス商会ならではのやり方である。
そして、このビーステス商会のやり方に巻き込まれたのが、ワルプルギスのライオネル商会であった。
「ヌォォォオ、何だこの在庫の山は‼︎」
大量の武具がライオネル商会に運び込まれた。
海路でやってきたビーステス商会の責任者はレオン。
この度、レオンはワルプルギスにビーステス商会の支店を作るのにやってきたのである。
「提携を組んでいる商会が倉庫を提供するのは当然です……というのは冗談で、まだうちの倉庫が完成してないので、それまでは預かってもらいますよ」
淡々と話すレオン。
こんな事なら提携など組むのではなかった。
「ま、まあ、その程度なら……」
「あと数日中には完成しますから、そのときには運搬もお願いします。それにしても」
そう話してから、レオンはライオネル商会の倉庫を見渡す。
在庫らしいものは何もなく、預かりの積荷さえない。
閑古鳥が鳴いているのである。
「静かなものですね……まあ、この後、ライオネル商会がこの大陸に戻ってくるのはしばらく先になりますから、在庫一掃と言う意味では良いかと思います」
そう告げて、レオンはライオネルに一通の書簡を手渡す。
それはアストラ・ビーステスからの手紙。
手紙を読んでから十五の日までに、シャイターン王領の港町まで来るようにとの命令文である。
その後、船でサンマルチノ王領へ向かい、そこから大型帆船で隣の中央大陸に向かう。
サンマルチノ王領が保有する海軍戦力を駆使しての、大侵攻作戦に参加せよとの辞令である。
──ズルッ
これにはライオネルも目が泳ぐ。
書簡にはルフト王の印も記されている。
つまり逆らうことは出来ない。
「こ、こんなことがまかり通るとは……」
「まあ、ライオネル商会は冒険者も大量に保有していますからねぇ。商会はそのまま誰かに任せて、ライオネル卿は同行するようにとの命令ですからね」
これでは死刑宣告と変わらない。
現王であるルフト・シュピーゲルは、ライオネルに命を差し出せと言っているのと同じである。
「……王の勅命なら逆らえぬか……グスタフ、すぐに商会の全員に通達。急ぎ王都に向かう準備をしろ。ワシの留守はお前に任せる」
そう告げてから、ライオネルは倉庫から出て行く。
まだまだやらなくてはならないことがある。
──ガラガラガラガラ
すると、正門の方角から大量の冒険者の姿が見え隠れしてきた。
「なんだ?ヒト族侵攻が予想外にスムーズに終わったのか?」
そう告げてから、ライオネルは帰ってきた冒険者を眺める。
どれも疲弊しきった表情で、街道をガラガラと走ってくる。
その中に、ライトニングの家紋を持つ馬車が走ってくるのを、ライオネルは見た。
──タッタッタッタッ
すぐさま駆け寄ると、常にライトニングを警備しているドラゴンランスの姿がない。
なので、ライオネルはやや駆け足で馬車と並走すると、両手で顔を抑えて呆然としているライトニングに話しかけた。
「ライトニング卿、私です。ライオネルです、一体何かあったと言うのですか?」
「……ライオネルか。済まないが、暫くは放っておいてくれ……」
「ドラゴンランスは?レオニード達はどうなされました?」
この問いには沈黙で返す。
それだけで十分である。
ドラゴンランスは全滅したのだろう。
この討伐隊の雰囲気からも、敗戦して逃走してきたのだと十分に理解できる。
なら、これに乗れば、中央大陸まで向かわなくても済むのではないか?
「心中お察しします。では、すぐさま私も、手駒の冒険者と共に出兵しましょう。皆さんの敵討ちは行いますので」
そう告げると、ライオネルはスッと馬車から離れる。
「ま、待て、ライオネル卿、それはならん。ヒト族侵攻は中止だ、手を出してはならない」
「はっはっはっ、ご安心を。我が精鋭はどのような敵にも怯むことはありません。それでは」
ライオネルの身を案じてそう話してくれたのだろう。
そう考えたライオネルは、すぐさま商会へと戻っていった。
………
……
…
「中央大陸へは向かえないと?」
ライオネル商会倉庫に戻ったライオネルは、そこで積み荷のチェックをしているレオンに、中央大陸へは向かえないことを伝えた。
「ああ。確かに中央大陸に向かわなくてはならないのは理解できる。だが、先程敗戦して戻った討伐隊の敵討ちは行わねばならぬ」
雄弁に語り始めるライオネル。
「今ならヒト族も油断しているだろう。そこを正面から叩く。そもそも我が商会が中央大陸に向かわなければならないのはビーステス商会からの命令書であり、ルフト王自らが、我が商会を名指ししたのではない」
理論武装を始めると、ライオネルは頭の切れがいい。
レオンに反撃の糸口など与えずに、話を続けている。
「ならば、ルフト王の勅命であるヒト族討伐こそが任務ではないのか?」
ふむ。
ライオネルの言葉にも一理ある。
ならば強引な手を使う必要はない。
「わかりました。では、この討伐が終わったら、その時は協力すると言うことで間違いはありませんね?」
「良かろう。その時は、第二次船団でもなんでも同行させて貰う。グスタフ、冒険者共に出陣の準備をさせろ、一刻後にはヒト族討伐に向かうぞ」
傍らで待機しているグスタフに伝えると、ライオネルもすぐに準備を始める。
そして一刻後、集まった冒険者と共に、ライオネルは出陣した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
意識が混濁する。
俺は死んだはず。
ここはどこなんだ。
ここは魂の回廊だよ。
レオニード、選べ。
このまま無になって、遥か先の時代に目覚めるか
今一度、この世界での再生の道を選ぶか。
死んだ。
そうだ、仲間は無事か?
どうなんだ?
全滅したよ。
そもそも勝てる見込みがあったのか?
ただ、無駄死にしただけじゃなかったのか?
そうだな。
俺は騎士道を貫いただけ。
皆はそれに付き合った、ただそれだけだよ。
それで、貫き通して満足か?
仲間達も巻き込んで。
いや、満足はしてないよ。
騎士道は貫いたが、結果的に仲間は死んだ。
あの子も苦しめたんだ。
そうか。
なら、どうする?
俺はいい。
みんなを助けられるか?
俺のわがままに付き合って死んだんだ。
それは構わない。
ただ、みんなは死にすぎた。
元の力は取り戻せない。
そうか。
もう一度立ち上がれるのなら、チャンスをあげてくれ
俺の代わりに、もう一度。
そうやって、自分だけ楽をするのか?
残されたもの達の気持ちは?
それで元に戻ると?
……もう、無理だ。
また生き返っても、俺は主君の名に従う。
また、死ぬのが分かってても、あの子と戦う。
だから、生き返りたくないと。
騎士としての役割から逃げるのだね?
そうじゃない。
俺も生き帰ると、また皆を巻き込む。
また、辛い思いをさせてしまう。
だから、俺は殺してくれ。
このまま、そっとしておいてくれ。
そうか。
君は立派な騎士だよ。
主君の名にも従う、仲間を大切に思う。
死んだ状態で褒められてもなぁ。
ま、それでも楽しい人生だったさ。
もう良いだろう?
ひとつだけチャンスをあげよう。
君も仲間も全て蘇り、過去に囚われることがない。
君たちが望めば、全てを丸く収めることができる。
そんな都合のいい事があるのか?
それなら願ったり叶ったりだ。
なら、それをお願いしたい。
わかったよ。
ちなみに、この質問は君が最後だ。
仲間達は、君だけの蘇生を望んでいたんだ。
なん……だと。
どうして?
なぜみんなは蘇生を望んでなかったんだ?
理由は簡単だよ。
皆、君の枷になることを望まなかった。
君だけなら、また主君の元で新しい道を歩んでいける。
そんな無駄なこと。
俺は、俺だけが生き返ったら、あの子の元に走る。
仲間を、君の友達を蘇生して欲しいと頼む。
あの子が答えるとでも?
あの子は、君たちがあのラインを超えて欲しくないと。
心が張り裂けながら、あの子は戦った。
わかっている。
あれは俺なりのけじめ。
それに皆を付き合わせてしまったのは反省している。
最後にひとつ。
もし生き返ったら、君はまたあの子の敵となるのか?
それとも味方になるのか?
わかんないなぁ。
そう困った事があったらメンバーで相談。
それがドラゴンランスのルールなんでな
そうか。
なら、最後のチャンスだ。
君たちは、新しい運命を受け入れるんだ。
それがどんなに困難かは、目が覚めたら理解する。
だが、それを君たちは変えられる。
だが、それを君たちは超えられる。
目覚めなさい。
大地母神ガイアの名において、今一度眠りから覚めることを許します。
暗黒神ファーマスの名において、今一度眠りから覚めることを許す。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




