その2・貴方は悪魔を信じますか?
教会から外に出て、騎士団の後ろをついて行くマチュア。
だが、その姿を見て人々は一斉に逃げ出した。
「悪魔だ!こんなところまでとうとう悪魔が来た‼︎」
「逃げろ殺されるぞ」
「早くこっちに来なさい‼︎」
蜘蛛の子を散らすように逃げて行く人々。
だが、中には騎士団の後ろをついて歩くマチュアを見て、騎士団が鹵獲したのだと勘違いしているものもある。
「この悪魔が‼︎貴様達のおかげで俺たちがどんだけ苦労していると思っているんだ‼︎」
落ちている石を投げてくる人、侮蔑の顔で睨みつけてくるものなど、この国での悪魔の立場は最悪である。
だが、マチュアは飛んでくる石を躱すことなく、のんびりとついて行く。
周囲に張ってある結界が石をはじき落としているのである。
「それにしても、なんだろうこの文明レベルの低下は。あちこちで炊き出しをしているが、すぐ後ろの酒場では水煙すら上がっていない。食料加工までゴブリン並みに落ちたのか……」
そんな事を呟きながら、マチュアはもう一つマフィンを取り出す。
今度はバナナマフィン。
それを取り出してモグッと齧る。
ほのかなバナナの香りと甘さが口の中に広がる。
口の中で程よく溶けるマフィンが、更に舌の上で甘さを広げている。
──プシュッ
さらに喉が渇いたので、やはり無限にアイテムをしまうことのできる拡張バックから、中に入っている缶ジュースを取り出して開ける。
──ゴクッゴクッゴクッ……
喉を潤す炭酸。
コーラは庶民の味方です。
「ぷっは〜、シュワーッとして旨いわぁ」
暫くすると、前方を歩いている騎士達が喉を鳴らす音が聞こえてくる。
ゴクッと唾を飲む音。
時折振り返ってマチュアを見る。
だが、すぐに頭を振って前を向く。
それをのんびりと見ながら、マチュアは王都中央のアスタート城にやってきた。
………
……
…
城門を超えて跳ね橋を進み、マチュアは王城正門から城内に案内される。
──ザワザワッ
廊下を進むたびに、マチュアを見た侍女は逃げ、騎士は身構える。
前を歩いているのがセシリアでなければ、今頃マチュアは騎士達に囲まれていたであろう。
いくつもの階段を登り、辿り着いた先がこの国の議会場。
そしてセシリアが正面中央の女王席に座ると、マチュアは少し離れた席に案内される。
「そ、それでは、こちらに……」
「はいありがとう。別に殺したりしないから怯えないでよ」
ガクガクと震えている騎士にそう告げると、騎士は数は後ろに下がる。
そこが彼の位置なのだろう。
いつでもマチュアの首を狙える位置に立っている。
──ギィィィィィィッ
ゆっくりと正面扉が開くと、大勢の人々がやって来る。
総勢20名あまり、殆どがまだ若い男性である。
席に着くたびにマチュアを見て驚く一行。
だが、マチュアの背後に騎士が立っているのと、あらかじめカルロス卿から話は聞いていたので、恐る恐るであるが椅子に座っていった。
そして全員が席に着き扉が閉まると、セシリアが集まっている全員に話を始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「まず、ここに悪魔がいて驚いたものもあるだろう。ここにいるのは悪魔マチュア、先ほどの勇者召喚の儀においてこの世界にやってきた異世界の悪魔です」
この時点でもう騒々しい。
悪魔は殺すべしという声があちこちから上がるが、セシリアが手を軽くあげると声は収まる。
「悪魔マチュアは、私たちを救う道を記してくれました。エルフとドワーフ、二つの種族を探し出し、私たちにもう一度文明を取り戻すようにと」
──スッ
元老院席の若い騎士が手を挙げる。
「陛下、悪魔の言葉を信じるのですか?それが大地母神ガイアを主神とする神聖アスタ公国の女王のする事ですか?」
「ですが、勇者召喚の儀は主神ガイアの加護の元行われました。ならば、彼女もガイアの加護を持つ悪魔ではないのですか?」
またしてもざわつく議会。
「ならば、そこの悪魔が主神の加護を持っているのか証拠を見せて欲しい。どうですか?」
「異議なし。そこの悪魔よ、証明してみせろ。悪魔と神は相容れぬ存在。それをみすみす信用するほど我々は甘くはない」
話がマチュアに飛び火した。
ならば神の加護を見せてやろうとなるのだが。
「あ、神の加護ってどうすればいいの?魔法?神の与えし供物?」
のんびりと問い返すマチュア。
すると、一人の騎士が立ち上がった。
「悪魔に神の奇跡は起こさない。もしできるのなら、この俺の腕を生やしてみろ‼︎貴様たち魔族との戦いで失った腕だ‼︎」
カツカツとマチュアの前に立つ騎士。
左腕が膝から切断されたらしく失われている。
それをチラッと見て、マチュアは騎士をコイコイと目の前まで呼びつける。
「欠損か。なら」
脳裏にある魔法を起動する。
──パチン
軽く指を鳴らすと、騎士の足元に魔法陣が浮かび上がる。
やがて塞がっていた傷口が開き、そこから骨や筋肉、神経がゆっくりと再生を開始。
わずか十分程度で腕を再生した。
この光景には、元老院たちも目を丸くする。
神の加護を示せと叫んだ結果か、おそらく彼らにとってはあり得ない奇跡なのだろう。
「グリジット卿、本当に腕は治ったのか?それも悪魔の幻影ではないのか?」
そう問われた騎士グリジットは、再生された腕で剣を構える。
「まだ感覚までは全て戻っていませんが、確実に私の腕は蘇りました」
そう話してから席に戻ろうとするグリジットに、マチュアは一言。
「直してもらって感謝の言葉もないとは……騎士も地に落ちたものだなぁ」
敢えて煽るスタイルで告げると、グリジットはマチュアの方を振り向く。
「これは貴様の力ではない……ガイアが貴・公・の体を通じて奇跡をなしただけだ」
それだけを告げて、グリジットは戻っていく。
「では、悪魔マチュアがガイアの使いであると認めますか?ほかに意義のあるものはいますか?」
──スッ
すると、今度は別の貴族が手を上げて前に出た。
「奇跡は私は認めましょう。癒しの技は神の奇跡、この悪魔がガイアの力を振るい騎士の力を直した。これは紛れも無い事実。ですが、神の使いならば、神々の供物を持っていて当然。それは、今、ここで示すことができますか?」
その言葉に多くの議員が騒がしくなる。
するとマチュアは、正面の空間に手を突っ込む。
空間収納から大量のマフィンやチョコレート、シュークリームなどを取り出して机の上に並べた。
さらにはウィスキーやワイン、瓶入りのアップルジュースなども、並べると一言。
「ほら、これで良いのか?」
と呟いた。
マチュアの前に並べられた神々の供物を前に、元老院議員たちは喉がなる。
その香りだけで、十分に興味を惹かれていたのである。
「せっかくだから、セシリア、あんたが味見するかい?」そう告げてティーカップを取り出すと、マチュアはそれにアップルジュースを注いだ。
「わかりました。私は悪魔マチュアを信じていますから」
笑顔で壇上から降りると、マチュアの前に向かいチョコチップマフィンを手に取る。
そっと口元に運んだ時の香り。
一口かじった時のチョコのほろ苦さと甘さ。
それが口の中に広がると、セシリアは今まで見たことのない満面の笑みを浮かべていた。
──ソッ
「そこで、このジュースです」
「はい。失礼します」
恐る恐る口をつけて一口飲む。
その瞬間、セシリアの顔が驚きを示し、すぐにゴクゴクと飲み始める。
食べかけのマフィンも齧り、ジュースで喉を潤す。
あっという間に、食べていたマフィンもジュースも空になった。
──ゴクリ
元老院からも誰問わず喉がなっている。
「陛下、お体は大丈夫ですか?」
そう元老院議員が問いかけるが、セシリアはマチュアに問いかけていた。
「この色の違うものも味わいが違うのですか?」
「ん?さっきのはチョコチップ。これがブルーベリー、こっちがバナナでこれが紅茶だな。食べてないやつ持って行って良いよ」
ニィッとマチュアが笑うので、セシリアも頭を下げる。
「では、頂きますね」
そう話して食べてないマフィンを手に取ると、セシリアはマチュアがもう一杯どうぞと差し出したアップルジュースの入ったカップも受け取って席に戻る。
「私は悪魔マチュアを信じて食べました。この味は、私たちの世界に存在しません。気になるのでしたらどうぞ‼︎皆さんもお試しください」
その女王自らが危険はないと示した。
ならばと、先ほどのグリジットもマチュアの前にやってくる。
「二つ頂く」
そう告げて二つだけ持っていくと、席に座って大きな口で齧り付く。
──モシャッ……モグッ……
しばしグリジットの、咀嚼音が響くと、やがてグリジットは高らかに笑った。
「陛下の仰る通りだ。これは我々の世界にはない菓子。このようなものは食べたことはない‼︎悪魔マチュアよ、我は貴公を認めよう」
そのグリジットの宣言で、議員たちはマチュアは マチュアの元に殺到する。
そして我先にとマフィンを掴み、置いてあるカップでジュースやワイン、ウィスキーを飲む。
「こ、こんな上質なワインは飲んだことがない‼︎」
「それよりもこの琥珀色の酒だ。ドワーフの酒とは比較にはならない旨さだ」
「悪魔よ、この供物は何という?」
次々と叫び声を上げる議員たち。
ならばとマチュアも説明を始めた。
………
……
…
ようやく議員が落ち着きを見せる。
カルロス卿など、手元に6個のマフィンとからのウィスキー瓶を抱えていた。
スッと、元老院代表がセシリアの前に立つ。
「我が元老院は、悪魔マチュアをガイアのみ使いを認めたくはありません。ですが、これだけの神々の奇跡を見せられたら、信じるしかない。ガイア教の教えを破ることはできないのでここは譲れません……」
その答えに落胆の表情を見せるセシリアだが。
この後に代表はニィッと笑う。
「ですが、悪魔マチュアは我々に害をなすとは考えられない。認めはしないが受け入れる、これが元老院の決定です」
そう告げて、元老院は退室する。
全ての元老院が部屋から出ていくと、セシリアはマチュアの元に歩いて行った。
「では悪魔マチュアさん、貴賓室にご案内しますのでどうぞ」
「あ、それは良いわ。外で困ってる人助けてくるから」
手をヒラヒラと振りながら、マチュアも出口に歩いていく。
「あと、このままエルフとドワーフ探してくるから、また何かあったら戻ってくるので」
振り返ることなく、マチュアは騎士に案内されて王城の外に出る。
そして正門を超えて市街地に出ると、箒に跨ってのんびりとあたりを飛び始めた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「さてと。この外見はまずいよなぁ……」
とは言えアバターの変化はできない。
ならば、外見が自分の意思で変えられるのか試してみる。
「とりあえず換装……」
──シュンッ
空間収納の中に入っていた、『白亜のローブ』を身に纏う。
そしてフードを被って王城から離れていくと、正門前街道の先にある広場にやってくる。
ここまでの街並みを見ても、やっている店はほとんど存在しない。
「はぁ……この辺でいいか。翼の収納……」
──メキョメキョ
ゆっくりと翼が背中に収納される。
背中に違和感はないので、これはこれでよし。
「尻尾の収納……も入るのか」
ス〜ッと尻尾が消えた。
マチュアには見えないが、腰の付け根に尻尾を示す紋様が浮かんでいる。
そして最後に角である。
「角の収納……はできないかぁ」
そう呟いて、とりあえずはハードを被っている限りは人間なので、そのまま街を散策する。
そしていくつかわかったことがある。
道具屋や雑貨屋などの商店は騎士が警備している。
恐らくら配給制なのだろう。
その他の酒場や宿屋は人気がなく、一般の家には人の気配はある。
このあたりは普通に煮炊きしているようだが、美味そうな匂いはほとんどしない。
「はぁ。人間が廃れているのは寂しい……」
のんびりと歩いていると、ふと後ろから数名の男がつけてくるのに気がついた。
──コツコツ
少し歩く速度を速くする。
すると、後ろの一行も早めてくる。
暫く歩いていると、少しずつ街の雰囲気が悪くなってくる。
臭いも鼻についてくるし、なによりも道の左右にある人達の雰囲気が悪い。
「……空間収納。バックを収納」
──スッ
肩に下げていたバックを空間収納にしまうと、マチュアはくるりと後ろを向く。
「……よお、この辺りじゃ見かけないなぁ」
「最近避難してきたのか?なら、この街のルールを教えてやるよ」
「まずは荷物を置いて貰おう。町に住むには税金が必要でね」
「あとは俺たちのボスに挨拶して貰おうか」
下卑た笑いをしながら、そっとマチュアに近づいてくる。
正体をバラすと厄介。
ならば。
(範囲指定・透明化)
対象を透明化するインビジブルを発動し、角だけを透明化する。
そしてフードを取ると、男たちに一言。
「全て断る。私はあんた達のボスに用事はない」
「お嬢ちゃんが用事なくても、こっちには用事があってなぁ。荷物をどこに隠した?」
後ろから近寄ってくる男に向かって、マチュアは振り向きながらのバックブローを叩き込む。
──ゴキィィィン
やや斜め下に拳を構えていたせいか、そのまま男の股間を直撃した。
「ぐぅぁぁぁぁ」
股間を抑えて転がる男。
すると正面に回っていた男がマチュアの肩をつかもうとしたので。
──ゴキッ
掴もうとした腕を掴んで、ぐるっと回って一本背負いをお見舞いする。
ドサッと背中きら落ちた男は呼吸が止まり、その場で悶絶している。
そして残った男をキッと睨み付けると、そのまま捨て台詞を吐き捨てて走り去って行った。
「ありゃ、あれはあんたの仲間だろ?見捨てるなんてひどいよなぁ」
「う、うるせぇ‼︎とっととどっか行きやがれ」
股間を抑えて蹲る男は、マチュアにそう叫んでから静かになった。
「そんじゃ……」
そう呟いて、マチュアは広場に戻った。
………
……
…
「あのー、この辺の酒場とかは、勝手に使っていいのですか?」
広場を巡回していた騎士に、酒場の使用許可を求める。
「ああ、特に誰のものとかはないなぁ。勝手に使っても大丈夫だよ」
「ありがとうございました」
スタコラと、騎士の元から離れて近くの使われていない酒場に入る。
埃が積もっていて、誰も使ってないのが一目でわかる。
「そんじゃあ、まずは掃除しますか」
──ヒュゥゥゥンッ
とりあえず風の魔法で埃を払ってから、水の魔法でテーブルや椅子に霧状の水滴を垂らしてみる。
あとは雑巾で拭き掃除をしてまずは完了。
厨房に入るが、焼き場などは風化して壊れていたので、魔法でキッチンを作り出すと、空間収納からシチューや豚汁を取り出して、火にかけて温める。
──グツグツコトコト
ほのかに香る美味い匂い。
それが酒場の外に流れていったのか、外には人が集まっていた。
「あ、あの……食べ物を分けて欲しいのですが」
そう店の中に話しかける人がいたので、マチュアはすぐにホールに出ると。
「まあ、適当な席に座ってください。一人分ですか?」
「私はいいので、この子達にお願いします」
母親の横にいる子供達。
ならばとマチュアは子供と母親の分をよそって持ってくる。
──ゴトッ
熱々のシチューと豚汁、炙ったパンを纏めて持ってくると、すぐに子供達が食べ始めた。
「あの、お金も何もなくて……それで……」
「ん?今日は良いよ。こらは子供達の分で、あとで食べるんだよ?」
二つのマフィンを子供達に手渡すと、二人ともニィッと笑った。
「お姉さんありがとう」
「あいがと〜」
「うむ、ちゃんと挨拶もお礼も言える子は好きだ」
するとまた別の人が入り口にやってきた。
「食べ物があるのか?」
「あるけど女性と老人、子供が優先だよ」
そう顔を出した男に告げると、男は何か吐き捨てるように文句を言って出ていく。
「なんだ、治安悪すぎるだろう……本当に何だかなぁ」
そう呟いて厨房に戻る。
また匂いにつられて人がやってくると、今度は老人だったので店内に案内する。
しばらくすると、子供づれの女性や高齢者も噂を聞いて集まってきたので、マチュアは次々と食事を分け与えていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ドカッ
夕方までは大勢の人が集まってきたが、突然人相の悪い男達が店内にやってきた。
「お前か?この辺りで美味い飯を食わせるってやつは。食ってやるから出せよ」
「そうだ、とっとと出せよ」
「この方は、このあたりの一帯を取り仕切っているボーマン様だ、美味いものを出さないとタダじゃおかないぞ」
いかにもゴロツキかチンピラか。
そんな感じの三人組が偉そうに言うので。
「まあ、カエレ。あんたらに食わせる飯はないよ」
一番偉そうなやつに叫ぶ。
すると、ボーマンと呼ばれた男は、マチュアのローブを掴んでグイッと持ち上げる。
──グググッ
「この女……俺を誰だと思ってやがる?」
「知らないよ。誰だよ?」
「俺はこの辺りを取り仕切っているボーマン一家の家長、ボーマン様だ。お前は今日から俺のために飯を作るんだよ‼︎」
──ドカッ
そのまま力任せにマチュアを壁に叩きつける。
するとローブのフードが外れ、悪魔の角が見えてしまった。
「あ。ち、ちょっと待て、何だお前、悪魔みたいな角生やしやがって‼︎」
──バサッ
すぐさま背中の翼を広げるマチュア。
「みたい、じゃなくて悪魔だよ。今、飯作ってやるから待ってろ、お代はあんたらの魂で十分だ……」
にこやかに厨房に入るマチュア。
だが、ボーマン達は絶叫を上げながら、外に飛び出して行った。
「悪魔だぁぁぁぁ。誰か助けてくれぇぇぇぇ」
そんな声が遠くに消えていく。
「やれやれ。これでまた人が来なくなるじゃないか」
そう呟いて、倒れたテーブルとかを直す。
すると、子供が三人、店内をのぞいている。
「あ。あの……悪魔さん、ご飯ください……」
「さっき友だちが、ここでごはんたべたって」
「くらさゃい」
恐る恐る問いかける子供達。
すると、マチュアもニィッと笑う。
「悪魔の作るご飯は怖くないのかい?」
「怖いけど……良い人だって……」
空腹に耐えられず、勇気を絞ってやってきたのだろう。
「その辺に座りな。すぐに持ってきてあげるから」
そう話して三人分用意すると、マチュアは子供達の席に持っていく。
「これは食後に食べるんだよ。オヤツだからね」
と伝えてマフィンを置いておく。
──ゴンゴン
すると入り口をだれかが叩いている。
「ここに悪魔がいると聞いたが……」
都市の警備をしている騎士らしい。
さっきマチュアがこの酒場を使って良いか尋ねた騎士である。
ならばとそのまの格好で騎士の前に出る。
「私が悪魔のマチュアさんだけど?」
突然ひょいと顔を出したものだから騎士も慌てて後ずさりし抜刀する。
「さ、さっきの子か。マチュアというと、カルロス司祭が咎めなしと先程告知した悪魔か……」
そう告げて剣を収める。
「ここで何をしている?」
「見ての通り、お腹空かした子供や老人に神の加護を与えているのさ」
悪魔が神の加護などと呟くと、思わず鼻で笑ってしまいたくなる。
だがら実際に店内では子供達が美味しそうに、みたことのない食事を食べている。
それをみて騎士も警戒を解いだ。
「先ほどは済まなかった。では失礼する」
そう話して立ち去る騎士。
やがて子供達もお腹いっぱいになったのか、マチュアにお礼を告げて帰っていった。
「まあ、悪魔が炊き出しやってても、飢えと恐怖、どちらに耐えられるかだよなぁ」
飢えに勝てればここには来ない。
だが、恐怖に勝てたなら、ここに食べ物があるのはわかっている人はやってくる。
──ソーッ
こっそりと入り口から入ってくる人影が見える。
「どなたですか?」
そう呟きながら厨房から出ると、カルロス司祭がお供を連れてやってきた。
「あ、誰かと思ったらカルロス司祭か。私のこと、咎めなしって話してくれたんだって?ありがとさん」
軽く頭を下げるマチュア。
するとカルロスは何かを言おうとして、言葉を詰まらせている。
「あ〜、ん〜、その、なんだ〜」
「代わりに伝えます。カルロス様は、神の供物を所望しています」
お供の司祭がマチュアに告げる。
悪魔に頭を下げたくないのが、上から見下ろすように話していた。
「まあ、カルロス司祭にはお世話になったから良いわよ。幾つ欲しいの?」
そう問いかけるマチュア。
すると再び変な言葉を繋いでいる。
「むん〜なんだ、その、あれ、あ〜」
「カルロス様は四つの種類を4つずつ欲しいそうです」
──プッ
思わず笑う。
それほどまでに気に入ったのかと、つい笑ってしまう。
「はいはい。でも今日だけですよ。これはお腹を空かせている子供達に差し上げるのですから」
空間から拡張バックを取り出して、そこからマフィンの詰め合わせを2セット取り出す。
そこから4つずつ取り出すと、お供の人が持ってきたバスケットにしまい込む。
「か、神の祝福は痛くないか?」
そうカルロスが問いかけるので、マチュアは一言。
「ガイアの加護があるんでね。問題ないよ」
その言葉に気を良くしたのか、カルロスはマチュアに向かって空中で文字を切り、右手をマチュアの頭に掲げる。
──ボウッ
それはガイア教の祝福。
ほんの少しのステータスアップと、マイナス補正の付与を打ち消す力がある。
「あ、カルロス司祭、ちゃんと加護持ってるじゃない」
「怪我を癒すことはできるが再生はできない……ガイアの加護があるように」
そう告げて酒場を出ていく。
その後も子供づれの女性がやってきたりしたので炊き出しをしていると、夜には二つの寸胴が空になる。
マフィンはまだまだ大量にあるが、これをばら撒きすぎるのも問題がある。
なので。
「さて、そんじゃあひとまずは王都にでも行ってきますか」
店内の道具をすべて片付けると、マチュアは外に出て拡張バックから魔法の箒を取り出す。
そして箒に跨ると、高速で旧王都方面へと飛んでいく。
その途中で神域の壁に触れたが、マチュアは軽々とその結界をスルー。
あとは高速で王都へと飛んでいった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。