その26・無駄な事はよせよ‼︎
城塞都市ワルプルギスの中央街道。
カナン商会、カマンベーン商会、ビーステス商会、三つの商会が集まった大掛かりな商隊がその場に集まっている。
まもなくヒト族の国へと向かう商隊は出発、ワルプルギスの領主であるライトニング卿が、集まった商会に当たり障りのない挨拶を行なっている。
あのアストラ暴行事件で、怪我の癒えないアストラは残念なことに治療に専念するためにワルプルギスに残り、商会の代表補佐でアストラの兄、レオン・ビーステスが責任者となった。
「それでは、ヒト族との交易、良い報告が聞けるように期待しています」
最後にそう話してライトニングの挨拶は終わる。
そして先頭のカマンベーン商会がゆっくりと走り出すと、その後ろをビーステス商会、カナン商会は最後尾について行くことになった。
………
……
…
──ガラガラガラガラ
のんびりと商隊は走り始める。
マチュアはカナン商会の横を箒でついていき、時折後ろに下がったり最前列のリンダの元に向かったりと、呑気に飛んでいる。
そして。
これだけ大勢と一緒に移動するということで、万が一の時用に、ピンポイントでツノを透明化するリボンを棚に結びつけると、帽子を頭にロックして動かないようにする。
これの作成にはかなり手間がかかったが、どうにか作ることができた。
追加効果で、折れたツノが幻影で見えるようにしてある。
「マチュアちゃん、はろはろ」
ビーステス商会の最後尾の馬車で、アレクトーやレオニードなどドラゴンランスのメンバーが待機していた。
マチュアの教えた挨拶をして、アレクトーは楽しそうである。
「ややや、うちに話しがこなかったのはそう言う事でしたか」
「ええ。ライトニング卿がアストラさんに話しを通したそうですよ」
「成る程ねぇ。あ、マフィン食べる?移動中に食べられるように大量に焼いてきたんだ」
──スッ
拡張バックからマフィンと缶ジュースの入ったバスケットを二つを取り出してアレクトーに手渡す。
「あら、折角だからご馳走になるわね」
「これはマチュアさん、ありがとうございますわ」
アレクトーとトイプーが受け取ると、それをレオニードとボンキチ、ラオラオにわたす。
「ああ、ご馳走になるよ」
「喉が渇いてたんだ。たすかるお」
「遠慮なく頂く」
三人はそれを受け取ると、缶ジュースだけすぐに飲み干してまた静かになる。
「……なんか三人が怖いんですけど」
「護衛の依頼ですから、商隊を襲うモンスターや盗賊が来ないように警戒しているのですよ。マチュアちゃんの所もそうでしょう?」
そう言われてみれば、たしかにその通り。
どの商隊護衛も、かなり気を張っているように感じた。
もっとも、ビーステス商会の護衛については、どうもマチュアのカナン商会に対して敵意を剥き出しにしている。
自分たちの主人を治療院送りにした相手なので無理もないと言えばそうなのだが。
「そんじゃ、邪魔しないように下がるね〜」
ゆっくりと後ろに下がって行くマチュア。
それにはレオニードやボンキチ、ラオラオも軽く手を振っていた。
のどかな風景。
マチュアにとっては、こんな商隊任務は初めてである。
そんなこんなでのんびりとした旅を二日ほど続けて。
事件は三日目に発生した。
………
……
…
──ゴゥゥゥゥゥッ
平原地域を走っている商隊。
天気晴朗風もなし。
平原の向こうから、もうもうと土煙が見えているだけ。
土煙?
「何か来たような?」
マチュアが右側の土煙を眺めると、先頭のリンダが商隊全体に叫ぶ。
「敵襲っ、護衛は迎撃態勢を、商人は馬車の中へ」
──ドドドドドッ
その叫びと同時に、全ての商隊護衛は馬車の外に飛び出し、馬で移動していた冒険者たちも武器を構える。
「敵確認、ケンタウロスとラットマンの軍勢です」
高速で走るケンタウロスの背中に、重武装のラットマンが乗っている。
獣人ネズミ族、通称ラットマン。
何処のどんな環境にも適合する力を持っているが、ある業が禍して都市には入ることができないらしい。
「同族喰いのラットマン……絶対に近寄らせるな‼︎」
護衛の誰かが叫ぶと、魔術師や弓使いが一斉に攻撃を始める。
ラットマンの同族喰いは、ラットマンたちのことではない。
全ての魔族を喰らう。
ケンタウロスとは共生しているらしく、このように手を組んで商隊を襲撃することがあるらしい。
「うわぁ……何だこの数、洒落にならないぞ」
街道の左右から襲い掛かるケンタウロスとラットマンの数、ざっと見積もっても100近く。
それに対して此方の護衛は50ほど。
数の差では圧倒的に不利である。
「……まあいっか」
すぐさま羊皮紙を広げて魔法陣を描く。
それを空に投げ飛ばすと、カナン商会の馬車全てを包む結界を生み出した。
「これは、マチュア様の魔法陣‼︎」
「助かりました」
商会の商人は結界の中にいるので安全。
(まあ、中身は広範囲・敵性防御・可変なんだけどね)
心の中でそう呟く。
魔法陣を描いている時点で発動条件を整え、投げることで発動しているだけ。
それでも、マチュアや商隊に対して敵意を剥き出しにしているものは、この結界を越えることができない。
「戦えない者は私の馬車へ、魔法で結界を施しました‼︎」
マチュアの叫びと同時に、商人たちが走ってくる。
次々と結界を超えてやって来ると、その周りを数名の冒険者がガードする。
すぐさま迎撃が始まると、一進一退の攻撃が繰り広げられる。
結界ギリギリを駆け抜けて来るケンタウロスと斬り合う冒険者、範囲魔法で敵を一閃するものなど、流石は高レベル冒険者である。
そんな中。
「馬車の護衛に着きます‼︎」
そう叫んでマチュアの元にやって来る三名の戦士。
──バンッ
三名はアストラの雇った護衛であるが、結界を超える瞬間に弾き飛ばされたのである。
「なっ‼︎マチュアさん、結界を緩められますか?」
「このままだと、中で守ることができません」
「奴らがくるまえに、急いで‼︎」
そう叫んでいるのだが、マチュアは結界の中で三人を睨みつける。
「誰に雇われて私を狙った?」
キッと三人を睨むと、三人は一瞬だけ怯む。
「何を言っている?それよりも早くしてくれ‼︎」
リーダー格の男が叫ぶが、マチュアは離れた場所に向かうと結界から手を出して、すぐに下げる。
「この結界は、私に敵対意思を持つ者は弾かれる。命を狙っているなら尚更ね……」
──ビクッ
「そ、そんな筈あるはずが」
「魔法でそんなことできる筈がないだろう?」
動揺を隠そうとしているようだが、もう駄目。
「なら、この中に入れる筈だよ……」
そう呟いた時、近くをトイプーが走って来る。
「トイプー、ちょっと来てくれますか‼︎」
必死の形相でトイプーを呼ぶと、彼女は走って結界を超えて来る。
「ど、どうしたのですか、怪我人?」
「その三人は敵だ‼︎私を殺そうとしている」
その叫びにキョトンとするトイプーだが、三人は必死に否定する。
「落ち着いてください。わたし達は貴方を護衛するためにここに来たのですよ。早く結界を解除してください、それでなくては近寄れません‼︎」
「だから、わたしに敵対意思を持たなければ入れるんだから。トイプーさんは入れたでしょ?」
その言い争いにトイプーもハッと驚く。
「貴方たちはドラゴンランスと同じ外部からの護衛ですよね?どういう事か説明してもらえますか?」
トイプーも三人を睨みつける。
すると、三人はいきなり走って逃げ出した。
「に、が、さ、な、い‼︎」
右手を突き出して叫ぶと、魔法の鎖で三人の足を大地に固定する。
すぐさま羊皮紙を広げて魔法陣を描くと、それを三人めがけて投げる。
──ボウッ
三人を包む結界。
攻性防壁を逆転して掛けた結界により、三人はどれだけ攻撃してもダメージは全て吸収される。
「あとで詳しく教えて貰うわ……」
そう告げて、マチュアはいくつもの魔法陣を準備する。
「どうしてマチュアさんが狙われるのでしょう……」
「ン〜。ライオネルかアストラか。それともどっちもか……わかんないなぁ」
腕を組んで考えるが……心当たりがありすぎる。
「どっちもかなぁ」
「全く、困っているのか楽しんでいるのかわからないですね……では、怪我人の手当てに向かいます」
トイプーはスッと立ち上がって走り出す。
それを見送って、マチュアはすぐさま蘇生の杖を用意する。
使用回数が切れているので、魔力を流し込んで急速チャージ。
あとは怪我人の治療のために待機した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
どれぐらいの間、戦いが続いたのだろう。
草原には大量の死体が転がっている。
中にはケンタウロスやラットマンに混ざって、冒険者の死体もあちこちに散乱している。
生き残ったケンタウロスとラットマンは逃走し、ようやく戦闘は終わったかに見えた。
「ハァハァハァ……」
生き残った冒険者、23名。
内訳はカマンベーンの護衛が十名、ビーステスの護衛が八名、カナン商会が五名。
ビーステスはドラゴンランスが五名と、マチュアを狙った三名のみ。
「プライムフォックスとザ・サンの死体を回収して‼︎すぐに蘇生しますから」
マチュアが蘇生の杖を構えて指示を飛ばすと、二つのチームの生き残りが草原に走る。
「しっかし、随分と、うちばっかり死んだなぁ……どうしたらこうなるんだろ」
困った顔で呟いていると、ボンキチとレオニードがマチュアの結界を超えて入って来る。
「マチュアさん、すまないが治療をお願いできるか?ボンキチの怪我がひどいんだ」
レオニードに担がれてやって来るボンキチ。
その怪我の具合から、恐らくは毒に侵されている。
「トイプーは?」
「カマンベーンの護衛の治療に向かって貰った。俺を治そうとしたんだがらマチュアさんに頼むからと言ってあっちに回って貰ったんだ」
ならばと、まずはボンキチの毒の治療、そしてレオニードとボンキチに完全回復。
あとは、回収されたプライムフォックスとザ・サンの七名の蘇生、完全回復。
残りのチャージ数、あと13。
「マチュアちゃん、蘇生の杖ある?」
慌てて駆けつけたアレクトーが叫ぶ。
「あるよ。どしたの?」
「ビーステス商会のレオンさんが、毒に侵されて死んだのよ‼︎ トイプーだと蘇生できないの」
あの憎っくきアストラの兄であるが、マチュアのレオンに対する印象は『人が良すぎる魔族』。
なんで兄弟でこんなに違うのかと思ってしまう。
「何処?」
「ビーステス商会の先頭馬車の外です。お願いします」
杖を持って立ち上がると、マチュアはアレクトーに案内されて先頭馬車まで走った。
案内された場所には、ビーステス商会とカマンベーン商会の護衛の死体が並んでいる。
あまりの凄惨な状況に、リンダもその場に立ち尽くしている。
──タッタッタッタッ
駆けつけたマチュアを見て、リンダは少しだけホッとした。
「良かった、マチュアさんは無事でしたのね」
「わたしの商隊は結界で守りましたから。レオンさんは何処ですか?」
「此処です。さっき毒消しを使ったのですが、毒の強度が強すぎて……間に合いませんでした」
無念そうに呟く。
だが、マチュアは蘇生の杖でレオンの体内の毒素を浄化すると、蘇生、そして完全治療を順に施していく。
「杖よ、かのものから毒を抜き給え……かのものの命を冥府より呼び起せ……完全治療っ‼︎」
──シュゥゥッ
レオンの全身が輝き、顔に生気が戻っていく。
「ふぅ……あと10回か……」
杖の先の魔晶石を眺めながら、残りの使用回数をボソッと呟く。
ぶっちゃけるなら、杖の魔力などなんぼでも回復できるのだが、あまり頼られるのも嫌だ。
なのでレオンにもきっぱりと。
「レオンさん、命の代価、白金貨一枚支払ってね」
身体を起こしている最中のレオンにそう告げると、レオンは理解したらしく頷いている。
「マチュアさん、私の雇った護衛も蘇生できるかしら?」
すぐにリンダも話しかけて来るが、マチュアは杖を見せる。
「杖の魔力は残り10回分。この先のことも考えると……五人なら」
「それでも構わないわ、お願いします」
カマンベーン商会の死者は八名。
リンダはレベルの高い五名を選んだ。
「なら、イオニアとバックスは必要。それと……」
一人一人指定すると、マチュアは都度蘇生する。
だが体力は回復しないので、二、三日は体は動かせない。
マチュアが蘇生するたびに、それを見ていた大勢の商人や冒険者が驚愕する。
すると、急ぎレオンもマチュアの元に歩いて来る。
「マチュアさん、うちの商会の護衛の蘇生はお願いできますか?」
「断る‼︎」
きっぱりと言い切るマチュア。
これにはレオンも驚くのだが。
「そこの結界に閉じ込めた三人は、戦闘の最中に私を殺そうとした。そんな奴を雇っている商会の護衛なんで蘇生したら、私の命がいくつあっても足りない」
マチュアはチラッと結界の中の三人を見る。
するとレオンはさらに驚いた様子で三人に駆け寄った。
「それはどういう事だ、貴様たちアストラに雇われたのだろう?まさかアストラの指示なのか?」
温和な性格のレオンだが、その剣幕はかなり鋭い。
結界のため摑みかかることもできないが、なければ摑みかかるどころか殴りつけていたかもしれない。
結界の中の三人は、何も返答を返さずにニヤニヤと笑うだけ。
なので。
「私、その結界は解除しないからね。その中で飢え死にでもなんでもご自由にすれば良いのよ」
マチュアは冷たく言い放つ。
そしてレオンにも一言。
「杖の魔力はあと五回。うちの商会の護衛に使いたいから、これ以上は使いたくないの」
そうきっぱりと告げる。
そもそも死んだら蘇生などできない。
それが、偶々マチュアがいたから蘇生できただけである。
「そうですよね。では、この死体は燃やすとしますか……アンデットになられても困りますから」
その言葉の後に、死体が次々と集められる。
トイプーが死体に祈りを捧げ、アレクトーやほかの魔術師が炎の魔術で死体を燃やし始める。
この世界では、魔族は死ぬとかなり高確率でアンデット化するらしい。
その為、死体は全て燃やさなくてはならない。
燃えている最中にも、トイプーや他のパーティーの僧侶たちは祈りを唱える。
魔族の神に捧げる、死者を無事に送り届けるための歌を。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ケンタウロスの襲撃から遅れて四日後。
この間、商隊は襲撃を受けることなく、結界の見える草原までやって来た。
マチュアを襲った三人はレオンとリンダの要望により、マチュアが魔法陣により両手足を拘束、馬車の隅に放り込まれている。
この後どうするかは、交易が終わってから考えることにしたらしい。
──ガラガラガラ
やがて商隊は街道の真ん中で止まる。
左右には大きな石碑が安置されており、ここから先が結界であることを示している。
「では、結界を中和します。時間は限られていますので、速やかに進んでください」
リンダが馬車から降りて、大きな杖を構える。
すると、街道の先の結界が丸く消滅する。
──オオオオオオオッ
商人や冒険者からは大きな声が漏れる。
この先は、彼らにとっても未知の世界。
護衛達もすぐに戦闘に飛び込めるよう身構えると、馬車はゆっくりと先に進んだ。
………
……
…
そこから先、時間にして一刻も走ると、街道の先に巨大な城塞都市が見えて来る。
魔族の予想を覆す規模、しかも城門はワルプルギスと同じぐらい頑丈な作りである。
その門の通用口が開くと、そこからオークと人間の騎士と老人がやって来る。
「シャイターン王からの使いから連絡は聞いてます。こちらは戦う意思はありませんので、まず冒険者の皆さんは装備を解除して頂けますか?」
交易都市ミッドガルの領主・ウィンドが先頭の馬車に乗っているリンダに話しかける。
まさか出迎えがオークであるとは、リンダや他の魔族も驚いている。
すると、リンダはレオンとマチュアを呼ぶ。
「初めまして。私はこの交易商隊の責任者のリンダ・カマンベーンです。彼はレオン・ビーステス、彼女はマチュア・カナンです。本日から十の日、お世話になりますわ」
丁寧な挨拶に、レオンとマチュアも頭を下げる。
すると、ウィンド達もゆっくりと頭を下げる。
そして。
──チャッ
リンダが懐から割符を取り出す。
ワルプルギス交易ギルド発行の、ヒト族との交易用割符。
それをウィンドは受け取ると、自分の持っている割符と合わせる。
──カチャツ
綺麗に当てはまると、ウィンドは頷く。
そしてサッ、と手を挙げると、城門がゆっくりと開いた。
──ゴゴゴゴゴゴッ
大きく開かれた城門。
中では半魔族やヒト族が大勢集まっている。
ヒト族の代表の一人、グリジットが馬に乗って商隊を先導。
都市中央にある商業区まで案内した。
綺麗に整備された街道、中央商業区では建物が修復され、あちこちに小さいながら店も作られている。
リンダたち魔族はその中でも大きな建物に案内されると、そこでグリジットから説明を受ける。
「この建物すべてが、魔族の商隊に使ってもらうための建物です。二階は宿泊施設になってまして、裏には厨房や倉庫もあります……」
リンダとレオンを伴って、グリジットが建物の中を案内する。
一階は仕切りによっていくつもの店に区切られており、作、各商会ごとに店舗を出せるだけの大きさを持っている。
「大体五つの商会が作れるぐらいは用意しました。こちらで十の日、営業して構いませんので」
そう説明を終えると、リンダもレオンも驚いている。
ここまでの準備の手際の良さではない。
目の前に仇敵の魔族がいるのに、はっきりとわかる敵対意思を示すヒト族や半魔族が見えないのである。
「わたし達魔族を、敵対せずに受け入れるとはねぇ。襲われない自信があったの?」
「まさか。襲われる事ぐらいは覚悟していましたが」
そうグリジットが話している横で、マチュアが適当な店舗を抑えて荷物を入れ始めている。
「早く早く、ここはカナン商会が抑えるんだから‼︎」
「わ、ち、ちょっと待ってくださいよ‼︎」
緊張感などなんのその、マチュアは急ぎ荷物を降ろして店舗を作り始めている。
「半魔族の商会ですよね。うちの領主の弟が、ワルプルギスで商会を経営してまして。色々と話は聞いているのですよ」
そう説明を受けると、リンダは後ろで待機している商会員に指示を出す。
「カナン商会に遅れをとっているんじゃないわよ‼︎」
「うちもです。ビーステス商会は右壁を抑えてください‼︎」
レオンも急ぎ準備を始めると、護衛達は皆、二階の部屋へと案内される。
そのあとは、建物の外でリンダとレオン、マチュア、ウィンド、グリジットがこの街での取り決めを説明し、詳細を話している。
「武器の装備は基本的には禁止で、護衛のみ有効とします。ですか、緊急時以外の抜剣は罰金を課しますので、そこは理解してください」
グリジットが話すと、リンダが問い返す。
「ヒト族が抜剣したら?」
「この交易商隊に対して、私たちも罰金を支払います。商会用の建物と裏の宿泊施設は自由に使って構いません、厨房も厩もありますが、食材は自前のものか商店で購入してください」
ふむふむ。
納得している振りをするマチュア。
ここのルールは全てウィンドと元老院で決めたもの、マチュアは後から確認しただけで一切口出しはしていない。
話を聞いていたマチュアでさえ、思わず『ほえ〜』と驚いていたぐらいである。
万が一、マチュアが商隊のメンバーとして参加していても、知り合いではなく商隊のメンバーとして扱ってほしいと話はしている。
なので、マチュアから知り合いであるような話をしない限りは、グリジットやウィンド達もマチュアを魔族の商会員として扱っている。
「貨幣は使えるの?」
「ええ。此方にも、今回の魔族との仲介をお願いした商隊から価値の擦り合わせも終わらせてありますから」
リンダの問いには、グランドリ一家も姿を現して話を始めている。
「今商会に預かったグランドリだ。このミッドガルとヒト族の王都、ワルプルギスの三つの都市で商隊をしている。あと、この都市の警備責任者は彼らが行なっているので、万が一にも暴れたりしないことだ」
そうグランドリがリンダとレオン、マチュアに説明をした後、グランドリの後ろでエルフのフリージアとシャロン、竜人族のステアの三人が頭を下げている。
「ま、まさか勇者フリージアと勇者シャロン……これがヒト族の切り札ですか?」
その言葉には、グリジットも頷いている。
「ええ。何もしなければ我々も何もしません。フリージア殿とシャロン殿は、ヒト族と魔族が手を組むのに賛成していますので」
「そう……まあ、私たちも護衛をつけている以上、そちらが彼女達を警備につけていても文句は言えないわね。あとは何かあるかしら?」
リンダが問いかけると、グリジットは一言。
「ここは交易の街。商人同士の約束は守る事、ご法度には触れない。力による無理強いも禁止、これは理解できますよね?」
「当然です。それでは明日からでも始めるとしましょう」
それで話はお終い。
魔族側は全員を商会の建物に集め、今の注意事項を全て説明する。
商会の従業員や同行している商人達は如何にか納得したが、護衛や冒険者はあまり納得していないらしく、渋々だが了承している。
そして明日からの交易のために、この日は早めに準備を切り上げて、ゆっくりと体を休める事にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




