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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧


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その1・悪魔っ娘がキタァァァァ

 遥かなる過去。

 この世界は人間による文明が支配していた。


 神々はこの世界をジ・アースと呼んでいた。

 だが、人々は自らの住む世界を4つの(ラムダ)大陸世界(フェルト)と呼んでいた。


 四つの大陸とそれを囲む大海原。

 それぞれの大陸で、人々は大陸の覇権を求めて争い、新たなる大地を求め、広い大陸からさらなる世界へと侵出していた。

 この世界全土を巻き込んだ戦争はやがて『300年戦争』と呼ばれ、人々の記臆には血塗られた世界して残されてしまった。


 だが、その300年続いた戦争は、ある時を堺にさらなる動乱を迎えたのである。


 世界の遥か西に存在する大陸・ダークゲイル。

 ランドザース帝国を納めるこの地の王アル・ラギア・グラールは、この300年続く戦争に終止符を打つべく、異世界から勇者を呼び出す儀式を行った。

 古代から残された最後の希望、1000年に一度だけ行うことの出来る禁断の秘儀。

 一つの国の民全ての命を捧げて行われた『勇者転生の秘儀』は、誤って異世界の悪魔を召喚してしまった。


 悪魔の名前は『悪魔・ルナティクス』。

 幼い少女にも思える外見とは裏腹に、その残虐性はすざましいものであった。


 彼女はすぐに、勇者転生の秘儀を再び執り行う。

 生贄は暗黒大陸全ての人間の命。

 これにより、1000年に一度しか行えないという因果は捻じ曲げられ、さらなる絶望の勇者を召喚した。

 

 それは人ではない勇者。

 異界の魔人族と呼ばれている種族の勇者がもたらした『世界の天秤』というアーティファクトにより、世界は急変した。

 この天秤により、世界のすべてのバランスは逆転したのである。


 人は文明を失い、蛮族をはじめとする魔族はさらなる知識を得た。

 技術水準も逆転し、魔族は鍛冶や魔術などの様々な知識を得ることになり、人々は道具の作り方を忘れ始める。

 強さのバランスも逆転し、人間はヒト族と呼ばれ国から追放される。

 新たなる世界の台頭者として、魔族が立ち上がった。


 これが、後の世に伝えられし『大厄災』の始まりである。


 そして、暗黒大陸を治めた悪魔ルナティクスは、この世界を統べる4つの魔人を作り出す。

 四皇と呼ばれた魔人それぞれが、東方・アンディアスタ大陸、西方・ダークゲイル大陸、北西・ユリアス大陸、そして中央・ク・リューナク大陸に分かれて、それぞれの大陸の統治を始める。

 ヒト族は虐げられ、最果ての地へと追いやられることになった。

 そして、ルナティクスは勇者のもたらした天秤を4つの分割し、其々の魔人に新たなる力として授け、この世界から消滅した。

 

 それから、300年の月日が流れた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 東方・アンディアスタ大陸。

 その大陸の最も東方にある神聖アスタ公国。

 世界に残っている唯一の『人間の統治する国』である。

 大地母神ガイアの加護により、公国とその周辺の大森林地帯は『神域』と呼ばれている結界によって包まれた。

 だが、結界の外に出ることは許されず、人間は残された文明の遺産を食いつないで、辛うじて生きている。


 やがて、大地母神ガイアによって作られた神域・大ブリューナク森林と神聖アスタ公国には、他大陸からも大勢の人間が落ち延び、元の文明を取り戻すために必死に生き続けていた。


 その森林中央にある公都・アスタード。

 大地母神ガイアを信仰するガイア教会の地下には、今、大勢の魔術師が集まっていた。

 彼らは巨大な魔法陣を囲み、静かに祈りを唱えていた。

 魔法陣には、媒体となるさまざまな魔法道具が綺麗に配置されている。

 古き神代の剣、古代の兜、古の魔導書‥‥全てこの大陸の遺跡や、元人間の国から集められたものである。

 そして、その魔法陣の傍で、静かに儀式の成功を祈っているものがいた。


‥‥‥

‥‥


「これが最期の頼みです‥‥大丈夫なのですよね?」

 アスタ公国の若き女王セシリア・ヒュペリコーンは、神に祈りながら目の前の神官長に問いかけている。

 彼女の正面、魔法陣の奥で古い石版を手にしている神官長のカルロス・グスターフは、女王の問いにゆっくりと頷く。

「ええ。これが終われば、我々はもう一度文明を取り戻すことが出来ます」

 不安そうな女王を心配させまいと、カルロスは笑みを浮かべて返答する。 

 そしてキッと気を引き締めると、目の前の儀式に集中した。


「では、最期の詠唱を始める‥‥偉大なるガイアよ、我らに異世界の勇者を与えたまえ。全ての魔族をも滅ぼす、神代の勇者を‥‥」


 周囲の魔術師の唱える言葉が強くなる。

 魔力を乗せた歌声が室内に響き渡ると、魔法陣は突如として光り輝き、稲妻を放出し始めた。

「神よ‥‥悪魔が勇者を呼べるのならば、我ら人間が勇者を呼べない道理はない‼︎ 今こそ来たれ、時の勇者よっ」


──ビシィッ

 周囲の魔術師が詠唱を開始する。

 その魔力のこもった声が魔法陣に共鳴し、ゆっくりと魔法陣に刻まれた儀式文字が輝き始める。

──バリバリバリッ

 やがて儀式文字一つ一つが放電を開始すると、それは束ねられ複数の大きな稲妻となる。

 稲妻の放電が魔法陣の中央に集まると、それはゆっくりと人の形を形成し始めた。


「おお、まだです‼︎まだ魔力が足りない。もっと魔力を注ぐのです」

 カルロスの言葉と同時に、詠唱がさらに強くなる。

 だが、仮初めの魔法陣では、これ以上の魔力には耐えられない。

──ビシビシイッ

 突然魔法陣に亀裂が入る。

「まだだ。もう少しで神の奇跡は人の形をなす。信じるのです‼︎」

 カルロスが力強い詠唱を唱えた時、魔法陣が強烈な光を発した。

 まばゆい光。

 その中に立つ人影。

 その影に、奇跡は成したと誰もが信用した。


──バジィィィィィッ


 そして光が消滅した時、その場には幼い悪魔が立っていた。


 側頭部上方から前に伸びる二つの角。

 150cm程の体には黒いボディストッキングのようなものが、ぴっちりと纏わり付いている。

 年相応とは思えない体躯と背中には蝙蝠の翼。

 そして悪魔を象徴する褐色の肌と尻尾。


 神聖アスタ公国最期の奇跡は、勇者ではなく『ロリ巨乳悪魔っ娘』を召喚してしまった。

 それも、300年前に姿を消した真祖の悪魔、殺戮の女王ルナティクスを。


‥‥‥

‥‥


 期待は絶望に変わる。

 目の前の悪魔は高レベルゴブリンやコボルトではない。

 たった一人で、一つの大陸を滅ぼすことのできる悪魔である。

「おおお‥‥儀式は失敗だったのか‥‥、騎士団よ、その悪魔を殺せ‼︎すぐに殺せぇぇぇぇ」

 カルロス神官長が叫びながら下がると、部屋の周囲で待機していた騎士たちが魔法陣を取り囲んだ。

 その光景をゆっくりと見渡すと、悪魔は静かに口を開く。


「あの神様やりやがったな‥‥何か都合のいい所だ、こっちには最悪じゃないか」


 マチュアはボソッと呟くと、やれやれと困った顔をしている。

 彼女はガイアに請われてこのジ・アースにやって来たのであるが、その出現先は、人類最期の希望をかけた魔法陣の中であった。

 ポリポリと頬をかきながら、マチュアは周囲の騎士たちを値踏みする。


──ボゥゥゥゥッ

 目を凝らしてよく見ると、騎士たちの頭上には、うっすらと名前とレベルが見える。


「ん?これも例のコマンド?」

 ゴシゴシと目を凝らし直す。

 そしてもう一度よく見ると、確かに騎士の頭上にゲームのような名前とクラス、レベルが表示されていた。


──ピッピッ

『クライフ、男性28歳、正騎士LV24』

『アルベルト、男性26歳、準騎士Lv15』

『カルロス・グスターフ、男性58歳、司祭LV31』


 あとはどれも10レベル以下の雑魚騎士である。

 その表示を見て、マチュアは思わず周囲を見渡す。


「どいつもこいつもレベル20以下ばかりか。このレベルが強いのか弱いのかさっぱりわからん。このままだと、どうもならないなぁ」

 小声でボソッと呟くと、正面のクライフが盾と剣を構えて走ってきた。


「この悪魔が。貴様も四皇の僕だなあぁぁぁ」

──キィィィン

 鋭く振り下ろした剣に向かって、マチュアは『空間収納チェスト』から、瞬時にハルバードを取り出して殴りつけた。

 その一撃で剣は破壊され、クライフは後ろに下がってしまう。

(この格好だと剣よりはこっちだろう。しかし‥‥)

 折れた剣をじっと見る。


──ピッピッ

『長剣:ランクF・粗悪品・自身の攻撃力ペナルティ付与』


「あかん。正騎士がその装備はあかんわぁ‥‥」

 パシッと頭を手を当てる。

 これを、この人類を救うのがマチュアの仕事だとしたら。

 大地母神ガイアよ、なんて無理ゲーをやらせるのかと、小一時間問い詰めたい。

「はぁ、まずは誤解を解くしか無いか‥‥」


 そう考えて、話のわかりやすいだろう司祭の方を向く。

「あ、あの、私の声が聞こえます? 私の言葉わかりますか?」

 そうやんわりと話しかけたが、すでに司祭もパニック状態である。

 傍の机に置かれていた小瓶を手に取ると、その蓋を開けて身構える。

「黙れ悪魔め、人の心を拐かそうとしてもそうはいかん‼︎これを食らうが良い」


──バジャーッ

 手にした聖水の瓶から聖水を振りかけてくる。

 それはバシャッとマチュアに降り掛かったものの、何も効果は発揮されない。


「きゃぁぁ‥‥あ?あれ?」

 どこも痛くないし焼かれてもいない。

 マチュアはそのままジーッと聖水の瓶を見る。


──ピッピッ

『純水:沸騰させて不純物を取り除いたもの』


 すると、視界の右上にそう表示が現れた。

「さっきの長剣といい今といい、この表示は一体なんだろ?」

 すぐさまウィンドウを開いて、何か起きているのか確認すると。


──ピッピッ

『コマンド説明:視認サイト:GPSコマンドと連結し、対象を凝視することで鑑定結果が表示される』

 そう説明文が表示される。


──ポン

 と手を叩いてマチュアは納得した。

 ガイアの世界は、こういう世界なのだと。


(創造神の配下の世界神は、ひょっとしたら人間が昇華して神になった存在だとしたら‥‥ガイア、お前、元ゲーマーだろ‼︎)


 そう叫ぶが、返事か返ってくるとは思えないから無視。

「そうかそうか。なら、この現状を打破しましょう‥‥私を召喚したのはどなたかな?」


 周囲を見渡しながら問いかけると、カルロスとは反対側に立っていた、綺麗なドレスを着ている女性がスッと前に出る。


「悪魔よ。私はこの国の女王セシリア・ヒュペリコーン。勇者召喚の儀を行なっていましたが、誤って貴公が召喚されたようです。何卒、我が命を持って国を滅ぼすのだけはおやめください‥‥」


 マチュアに向かって跪くと、頭を下げて首を見せる。

 首を差し出すという意味なのだろう。

 すると突然、正騎士のクライフが儀式に使われていた剣を拾い上げると、すかさず抜刀してマチュアに斬り掛かって来た。


「女王ご安心を‼︎このクライフがいる限り、悪魔ごときに遅れは取りません、くらぇぇぇっ」


──バシィィィィッ

 マチュアはハルバードではなく、素早く空間から引き抜いたアダマンタイト製の『突っ込みハリセン』でその一撃を受け止める。

 そしてグイッと後ろに剣を受け流すと、クライフはバランスを失って倒れてしまう。


「貴様、よくも騎士団長に‼︎」

「や、ちょ、おま、私は受け流しただけで、騎士団長ならもっとこう‥‥‥この、へっぽこ騎士がぁ‼︎」


──ヒュヒュヒュヒュンッ

 次々と間合いを詰めて斬り掛かってくる準騎士たち。

 だが、マチュアはその全てを受け止め、流し、躱していく。


 ここの人たち、予想外に弱いけれど、特に装備がとにかくダメである。


──ドッゴォォォォォォ

 いつまで立っても途切れない攻撃を止めるために、マチュアはハリセンを装備したままで、範囲攻撃スキルの『無限刃』を叩き込んだ。

 その一撃で準騎士たちは後方に吹き飛ばされ、呆然としている。

「そこの女王。私を召喚した以上は高くつくわよ。とりあえずは頭を上げて、何が起こっているのか教えなさい」

 そうマチュアが叫ぶと、突然女王以下全てのものが恐怖で震え上がった。


(一体何がなんやら‥‥これか)


 ウィンドウで見たマチュアのステータス。

 その中にある、新しいスキル起動ウィンドウに記されているものが、この状態であった。


──ピッ

『悪魔の咆哮:叫ぶ事で恐慌発動、対象は行動不能となる』


(これは解除と、ポチっとな?)

 軽く触れると、そのスキルは待機ウィンドウに移動する。

 すると、先ほどまで震えていたものたちも徐々に正気を取り戻し、震えも収まっていく。


「わっ、わた、私はこの国の女王‥‥我が命を差し上げるので、国を滅ぼすのだけはご勘弁を」


 ずっと頭を下げたままの女王。

 これ程までに、この世界では悪魔というのは恐怖の対象なのかと考えたが。

 とりあえず誤解を解くためにハイエルフモードに戻ろうとしたのだが、ウィンドウのアバターの欄を見ると『変更不可』の表示が出ている。

 この世界では、マチュアはこの悪魔アバターしか選択できないらしい。

 ハイエルフのアバターは使用禁止マークが付いている。


「こ、この悪魔め‥‥神の威光を‥‥ひぃぃぃぃっ」

 ようやく正気をまで取り戻したカルロスが、手にした聖水を周りに振りまいている。

 すると、マチュアは司祭が大切に石版を抱き抱えているのに気がついた。

「それか‥‥どれ」

 すぐさまカルロスの近くに歩いていくと、右手に持っている石版を取り上げる。

「そ。それは勇者召喚の為の‥‥」

「こんなもので私を呼び出すとは凄いわぁ‥‥」


──ピッ

『勇者召喚の秘技:これによって異世界より亜人の勇者が召喚される。人間の勇者は不可』


 そう説明が表示されたので、マチュアは石版をその場で破壊した。

──ベキィィィッ

 粉々に砕け散った石版。

 両手で真っ二つに折ると、バラバラになったかけらを全て踏み潰す。


 粉々になったカケラを見て、カルロスは膝から崩れた。

 全てを失ったような絶望的表情。

 そしてその絶望は周囲のものたちにも伝播した。

 準騎士たちも武器を構えていた腕を下ろし、空を見上げて咽び泣く。

 魔術師たちもその場に座り込み、命乞いの言葉を告げる。

 そして女王は、ずっと正座した状態で上半身を折り曲げるように頭を下げると、首を見せる形で頭を差し出す。


「何卒ご慈悲を‥‥悪魔の女王ルナティクスよ‥‥」


 震える声、両手を組んで神に祈る。

 その正面に回り込むと、マチュアは女王の服の後ろ襟を掴んで持ち上げる。


──ヒョイ

 そのまんま肩に担ぐと、とりあえずは出口を探すことにした。


「ガイアよ、何卒ご慈悲を‥‥ガイアよ‥何卒ご慈悲を」


 耳元に聞こえる声。

 その弱々しい声に、マチュアも思わずため息が出る。


──ハァ

「全く、ちゃんと話を聞きなさい。まずはこんな場所から外に出る。そこで話を聞かせてもらうわよ」

 そう呟いて、マチュアは女王の尻をパシーンと引っ叩く。

──ヒッ‼︎

「ル、ルナティクス様、ご慈悲を‥‥」

 そのまま階段を登り大聖堂までやって来ると、マチュアは女王を演台の上に座らせる事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「さて、セシリア女王といったかしら。まず誤解を解いてあげる。私はあなた達を殺すために召喚されたのではないわ」

 そうゆっくりと話しながら、目の前に座っているセシリアに『平穏ピースフル』の魔法を施す。


──ホワァァァァン

 柔らかい光がセシリアを包むと、ようやく話ができる程度に落ち着いている。

「私たちが誤って貴女様を召喚したのです」

「まあ、それは良いわ。あの石版では人間の勇者は召喚できない。あれは異界の魔物系勇者召喚用よ、古代魔法文字は読めなかったの?」

 その問いかけに、セシリアは静かに頷いた。

「今の私たちの国には、そのような文字を読めるものは存在しません。魔人の勇者がもたらした『世界の天秤』により、私たち人間は英知を失いました‥‥」

 ふむふむ。

 それならば話はしやすい。


「この世界について教えて。私は魔族だけど、話の内容によっては、貴方達人間を救うことができるかもしれない」

 正面からセシリアの目を見て問いかける。

 すると、セシリアもゆっくりと話を始める。

 この世界の、セシリアの知る歴史を。


‥‥‥

‥‥


 セシリアから聞いた世界の歴史。

 そして今のこの現状。

 それらを考えると、決して無理ゲーではないとマチュアは判断した。


「その『世界の天秤』さえあればなんとかなるか。けど、それは私の仕事じゃないんだよなぁ」


 腕を組んで考えるマチュア。

 その天秤は、今は世界を統べる四皇の誰が持っている。

 それを取り返すのは、可能ならば人間にやってもらわなくてはならない。

 マチュアがほいっと四皇を倒して取り返しても、それは異世界の悪魔が取り返しただけで人間の力ではない。


「よし、まずはあんたらを鍛えるとしますか。武器や防具はどこの鍛冶屋で作ってるの?」

「か、鍛治師はいません。その知識がないもので、城の倉庫の武具を使っているだけです」

「魔法は?魔術師はいたよね?」

 その問いにはきっぱりと。

「城内や街の書物屋の文字を解析して‥‥」

「道具屋は?馬具とか、包丁などの金物、あとは被服関係‥‥それも失われているの?」

 そう問いかけると、セシリアは視線をそっとずらす。

「全て‥‥残されたものから解析していますが。それでもわからないことが多すぎまして‥‥」


「こりゃあ難しいなぁ。ここまで綺麗に奪ってくれると、私が教えるよりはエルフやドワーフに力を借りるしかないかぁ」

 腕を組んで考える。

 思考する。

 情報が足りない。

「今現在、この国は結界で守られているんだよね?」

「はい。この結界だけは魔族でも越える事が出来ません」

「食料は外の森からなんとか出来ると」

「はい。生きて行く分にはなんとかなります」

 一つ一つを確認すると、今の現状を維持するだけならばなんとか出来ている。


 だか、このままでは滅びの道を歩むのは確定である。

 人が減るとガイアの加護が減る。

 するとこの結界も弱くなる。

 そうなれば魔族は一斉にこの国を襲うだろう。


「エルフとドワーフは敵ですか?」

 この質問が今後の展開を左右する。

「エルフとドワーフは古き精霊の種族。それ故に中立です」

──パーン

 軽く手を叩く。

 これなら何とかなる。

 エルフとドワーフの助力を借りよう。


「エルフとドワーフに会うためにはどうすれば良い?」

「分かりません。ですが、昔はこの王都にも、エルフやドワーフも交易で訪れていた事があるそうです」

 そこで運良く会えればよし。

 そうでなくても、何かしらの情報を得ることは出来るだろう。


「それじゃあ、私は外の世界でエルフとドワーフを探してくる。それまではここで頑張っていて」

「わかりましたルナティクス様‥‥」

 両手を組んでマチュアを拝むセシリア。

 すると、マチュアは彼女の頭をポンポンと叩いた。

「私はルナティクスじゃないよ。私の名前はマチュア、悪魔のマチュアだ」

「はい。マチュア様を信じます‥‥」

 そう瞳を閉じて宣誓するセシリア。


 すると、物陰に隠れていた騎士達がマチュアの背後に飛び出してきた。

「今度こそこれで終わりだ‼︎」

 素早く斬り掛かってくるクライフ。

 だが、マチュアはそれよりも早く後ろ回し蹴りでクライフを吹き飛ばした。


──ドッゴォォォォォォ

 その瞬間、残りの騎士達もマチュアを取り囲む。

 その背後でカルロスが騎士達に祝福の魔術を施した。


「セシリア様、騙されてはなりません。そいつは悪魔です、人を騙すことなど簡単です‼︎」

 笑いながら叫ぶカルロスだが。

 セシリアは演台から飛び降りてカルロスの前に立つ。

「だまりなさいカルロス卿。すぐに元老院を召集してください。私は、神に背こうとも、この悪魔マチュアの言葉を信じます」

 凛とした表情でカルロスに告げるセシリア。

 するとカルロスも胸に手を当て頭を下げる。

「は、はい‥‥全てはセシリア様の命じるままに」

 そう告げてから、カルロスは配下の騎士を数名連れて教会から飛び出した。


 そしてセシリアは、意識を取り戻したクライフと残りの騎士を連れて教会から出ようとした。

「悪魔マチュア、此方へどうぞ。元老院の皆さんに、貴方を紹介しなくてはなりません」

 その言葉に悪意は感じない。

 まあ、周囲の騎士や、特にクライフはこっちを睨みつけているが。

「私はこの世界、この国では招かざれる客人です。それでもなお、セシリアは私を元老院に紹介するのですか?それは貴方の立場を危うくしますよ?」

 そう問いかける。

 だが、この言葉で揺らぐ心を持ち合わせてはいないらしい。


「悪魔マチュアは私たちの為にエルフとドワーフを連れてくると話してくれました。その言葉を無下に疑うことはできません」

 その言葉を紡いだ表情は、女王の威厳を保っている。

「では案内して貰おうかな‥‥」

 肩から下げているバックに手を入れる。

 そして空間収納チェストの起動も確認するが、全て正常に稼働している。


(これなら問題はないか。チェストコマンド、拡張エクステバックから空間収納チェストへアイテムの移動。数値設定して‥‥よし)


 コソコソと荷物を移動させてから、魔法の箒を取り出して横坐りする。

 その姿ですでに騎士が身構えたのだが、すぐさまセシリアがそれを制した。


──フワーッ

 のんびりと騎士団の後ろをついて行く。

 その途中で小腹が減ったので、マチュアは拡張エクステバックの中に入っていたチョコチップマフィンを取り出して、食べながら飛んで行った。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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