その17・人族交易許可証
──ガヤガヤガヤガヤ
城塞都市ワルプルギス。
その各門の横と領主の館の前にある掲示版に、国王シャイターンからの御触書が掲示されている。
ヒト族の持つ古き技術や工芸品について、武力ではなく交易を持って得る手段を試したいと。
そのために、王国の選んだ商会にヒト族との交易許可証を発行する。
これにより、結界を超えてヒト族の領地に向かう事を許可すると、掲示版に掲げられていた。
これにはさまざまな意見があり、この期にヒト族の結界を超えて略奪しようと言うもの、滅ぼしてしまってはもう手に入れることができないので、素直に交易しようと言うものが対立している。
もっとも、国王が交易と言っている以上はそれに従うしかなく、今後どうなるのかがもっぱらの噂になっている。
「だってさ」
「あの〜。パスカルさん、いきなりカウンターの中で、だってさと言われても困るのでーすが」
朝一でマフィンを届けに来たマチュアに、パスカルがそう話を切り出していた。
「ヒト族との交易だってさ」
「最初の部分を切らないでください。何が言いたいのかわからないですよ……」
そう話しながら、マチュアは食品売り場の担当にマフィンを二箱手渡すと、その場で代金を受け取っていた。
「しかしなぁ。我が国王はヒト族との交易など考えるタイプでは無いのだが。数ヶ月前の大フリューゲル森林近辺への侵攻禁止といい、中々に革新的ではないか?」
「はて、いいのか悪いのか?」
「ヒト族が受け入れてくれるかが勝負だなぁ。まあ、私としてはヒト族の遺産であるマジックアイテムが手に入るのなら大歓迎さ」
そう呟くと、手にしたキセルをプカーッと吹かす。
「タバコの葉はヒト族の村にはないかなぁ。マチュアのいた村にはタバコはないのかい?」
──カクン
頭を横に捻るマチュア。
「私、タバコ吸わないからなぁ。あったかもしれないしなかったかも知れないし」
「今度戻ったら師匠に聞いておくれよ。良いタバコがあったら買い取るよって」
「それ、個人用ですよね?」
「当然さ……あ、これ、マチュアに渡しておくわ」
そう話しながら、パスカルが奥から綺麗な小箱を持ってきた。
それを開くと、拳大のメダルをマチュアに手渡す。
「これなに?」
「隣国グラントリ王国領の入国許可メダルだよ。マチュアから買い取った魔法の箒な、赤金貨十枚でグラントリ王家に売れたんだわ。だから一本売れ」
──スッ
あっさりと手渡すマチュア。
「赤金貨五枚で良いよな?サンマルチノ王家からも頼まれているんだ」
あ〜そうくるか。
きっとマチュアが作ったって知らないんだろうなぁ。
なら、謹んで受け取ろう。
「流石は大陸でも名を馳せたパスカル雑貨店。一枚噛ませてもらいますよ」
「クックックッ。お主も悪よのう」
そのまま赤金貨五枚を受け取ると、マチュアはすぐに拡張バックに放り込む。
「あ、ライトニングさんとこ行かないと。それじゃあ急ぐので」
「パンの配達か。お気をつけて」
「なんで私がパン屋をやってるのか分からないですよ。とほほ……」
「なんでって、そりゃあマチュアのつくる甘いパンはうまいからな。丸いのも弓形のやつも。それが評判になって、商店街のパン屋でも試行錯誤して作ったらしいが、味もイマイチしかも硬い」
あら。
そりゃあもう、天下のウォルトコですから。
「と言う事で、毎朝うちにも二枚頼めないか?」
「過労死するわ、断固として断る‼︎」
そのマチュアの雰囲気にパスカルは笑いながら手を振る。
そしてマチュアは、のんびりと箒に乗って貴族区のライトニングの屋敷へと飛んでいった。
………
……
…
区画入り口でギルドカードを提示して、マチュアは堂々とライトニング邸までやって来る。
入り口の前の衛兵に話しかけてパンの入ったバスケットを預けようとしたが、丁度屋敷にやってきたレオニード達とばったり合流してしまった。
「あら、マチュアちゃん、こんなに早くどうしたの?」
手を振りながらアレクトーが話しかけて来るので、衛兵が持っているバスケットを指差す。
「パンを届けにきたのですよ。それでは」
そう頭を下げると、いきなりボンキチがマチュアに向かって走りだし、渾身の右ストレートを叩き込んで来るが。
──ガゴッ
伸びきった右腕に飛びつくと、一気に腕ひしぎ逆十字に関節を決める。
──ミシミシッ
ボンキチの腕から骨と筋の音が鳴る。
「ぐっ……グァァアッ」
痛みに耐えきれず絶叫するボンキチ。
もうこのやり取りは何度目であろう。
「降参しないと、肩から千切る」
「くっ……殺せぇぇぇぇ」
「それをいって良いのはナイスバディの美人だけだと、何度言えばわかるんだぁぁぁぁ」
──ミシミシミシッ
さらに骨が軋む。
このままだと腕が千切れるのは確実。
──ガチャッ
「朝っぱらから、屋敷の前で何をしているんだ?」
扉を開き、呆れた顔でマチュアとボンキチを見るライトニング。
すぐに衛兵が持っていたバスケットを手渡すと、マチュアはボンキチの腕を離して着地する。
「lv58のボンキチを手玉にとるのか。マチュアは一体何レベルなんだ?」
そのライトニングの問いかけに、マチュアは冒険者カードを掲げる。
「相変わらず6レベル‼︎」
「全く。その腕が6レベルなら、この都市の冒険者は全てレベル1だよ。まるでヒト族じゃないか」
ん?
そのライトニングの言葉にマチュアは頭を捻る。
「どゆこと?」
「我々魔族とヒト族では、冒険者のレベルの概念が違うのだよ。何というか、私の知る限りでは、ヒト族のレベルが5ぐらいで魔族の1レベルに該当するのだが、時代によってはこの差が縮まる。三百年前の大厄災前なら、ヒト族の1レベルは魔族の5レベルだったのだよ」
へぇ。
冒険者レートと言うところか。
まてまて?
(あの騎士団長は25だったかな?それって魔族の5レベルか……もう無理ゲーだよ。これネトゲなら炎上してるぞー)
それを何とかしろとは、神さま恐るべし。
「まあまあ、そんな話はいい。今日はドラゴンランスのメンバーに美味いものを食べさせたくてな。最近噂になっている弓形の甘いパン、白くて丸いのもあるぞ、さあ入りたまえ」
そのライトニングの話の後で、レオニード達が一斉にマチュアを見る。
その視線の意味はわかったので、マチュアもコクコクと頷いたので。
「へぇ、あのパンが手に入ったのですか。それは楽しみです」
レオニードがそう話しながらライトニングとともに屋敷に入っていったので。
──スッ
拡張バックから別のバスケットを取り出すと、瓶入りのりんごジュースとオレンジジュース、大量のマフィンを入れた。
それをアレクトーに手渡すと。
「バスケットは酒場の前に置いといて下さい。飲み物はこっちの方が良いでしょ?」
「ごめんなさいね。わたし達は酒場カナンで食べられるけど、ライトニングさんは中々自由に出歩かないから」
「奥さんの具合は?」
「マチュアちゃんの杖のお陰で今は元気よ。今日だって、料理を作っているのは奥さんだと思うわ」
「これから大仕事があるから、ライトニングさんも大変だよぅ」
そのラオラオの言葉に、マチュアはまた頭を捻る。
「何で?」
「先の御触れだよ。ヒト族交易許可証、何処の商隊がその特権を得るかわからないけど、偵察任務を兼ねてライトニングさんの私設冒険者を警備につけたくてね」
「それで、あちこちの商会に連絡しているらしいんですわ。全く、ヒト族が関わるとすぐ熱くなるのですから」
ラオラオとトイプーの言葉は成る程理解。
でもなんで偵察?
「国と国の交易に偵察いるの?」
「この交易で、ライトニングさんはヒト族の交易都市を一つ魔族の有利な地域にしたいのよ。冒険者を常駐して、商人も派遣する。そうする事で、表向きは平穏でもゆっくりと魔族の支配地域を広げるのですって」
こっそりとアレクトーが耳打ちする。
「さ、それじゃあわたし達は行くわね?」
そのままアレクトー達は屋敷に入っていく。
──ポカーン
その話を聞いたマチュアは、しばし呆然としながらも、すぐに箒に乗ってカナン商会に向かった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
商業区・カナン商会
朝から大勢の商人達が集まっている。
外の商隊待機場にはいくつもの商隊が集まっており、荷降ろしや積み込みを行なっていた。
その人混みをかき分けて、マチュアは店内に入って行く。
「「「「「マチュア様、お疲れ様でした」」」」
元気のいい声が飛んできて、思わず頭を下げてしまう。
「あ、おはようございます。今日も頑張ってください。おっちゃんは?」
「フェザー様でしたら二階で商談中ですわ」
「そっか、終わったら来るからここで待つか……」
そう話していると、突然入り口の方がざわざわと騒がしい。
「ん?」
「あれはグラントリ一家ですよ。本日は石鹸とシャンプ、リンスの納品日ですから。それで大勢の商人達が集まっているのですよ」
そう説明してくれるオーク嬢。
噂が噂を呼んだらしく、今では貴族や商人などが競って手に入れようとしているらしい。
しかも、王都でも評判らしく、石鹸やシャンプーは常に売り切れ状態になっているらしい。
(この状況……ムコーダさん、あんた本当に凄いよ。ネットショップスキル欲しいなぁ……)
あんたも自由に拡張バックから出し入れしているでしょ。
「それと、その石鹸の利権について、イスュタル商会とライオネル商会がグラントリ一家を揺さぶっているらしいですわ。うちよりも高額で仕入れるから、こっちに寄越せとか、うちも王室御用達だから卸せとか」
「ふぅん。それで?」
「グラントリ一家は聞く耳持っていないそうで、近々、イスュタル商会とライオネル商会の手の者がグラントリ一家をこっそりと追いかけるらしいですわ」
まあ、そうなるよね。
美味しいものは独り占めされていると腹立つよね。
武具の次は石鹸に目をつけたのか。
「あとなんかある?」
「弓形パンとまん丸パン、マフィーンの製法を探ってます。あの二つの商会は、カナン商会を潰したくて仕方ないのですよ?」
──スッ
そう来るならと、マチュアは拡張バックから大量のマフィンとバターロール、クロワッサン、そしてアンパンとジャムパン、クリームパンを取り出す。
「これ、バスケットに次々と入れて‼︎」
「はい‼︎」
一つのバスケットに色々混ぜて20個入れる。
それを10個ほど用意すると、マチュアはバスケットを持って集まっている商人の元に向かう。
「朝からご苦労様です、一つどうぞ‼︎」
そう話しながら客にパンをサービスする。
それを見て、手の空いている従業員もバスケットを持ったので、マチュアは二つほどバスケットを持つと店の外に出た。
「朝からご苦労様です‼︎おひとつどうぞ」
通りすがりの人にもパンをサービスする。
その最中にも、マチュアは視認を駆使して通行人や商人の中に二つの商会関係者がいないか探していた。
──ピッピッ
『視認、対象指定、イスュタル商会とライオネル商会、選別方法を各ギルドカードで』
対象を絞ると、当てはまる人物のみが反応する。
そして反応した商人がマチュアの近くを通った時、マチュアはその商人にバスケットごと手渡した。
「これ、残り全部どうぞ‼︎」
「え?良いのかい?いやぁ嬉いなぁ」
そう笑っているので、マチュアは小声で一言。
「ライオネルさんに宜しくお伝えください‼︎ 武具だけでなく石鹸やパンに手を出すのなら、うちは戦争やむなしですから……」
声に魔力を乗せて殺気を放つ。
「ひっ‼︎わ、分かりましたっ」
その瞬間に真っ青になって、ライオネル商会の店員は走り去った。
「お、おおう。あの状態でも食い意地が勝つのか……」
しっかりとバスケットは抱えて走り去る。
その姿には敬意を表したくなる。
「さて、バスケット追加してこよっと……」
テクテクと商会に戻ると、まだバスケットは余っていた。
なので空になったバスケットにだけパンを追加して預けておくと、マチュアは外で待機しているグラントリ一家の商隊に歩いて行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「はろはろ。最近は人気あがってるねぇ」
御者台で待っている、アイオラというドワーフに近寄ると、マチュアはにこやかに手を振る。
「おや、こんな所で堂々と手を振ってて良いんですかい?」
「うちの商会のお客さんに手を振ってても、誰も怪しまないよ」
そう話しながらよっこらせと御者台に乗る。
すると、マチュアは小声でアイオラに話し掛ける。
「正面向いたまま雑談している感じで。この商隊を着け狙っている奴らが居るから」
「あ〜心当たりありますわ。ヒト族の国に帰る途中までこっそりと付いてきた奴らですね。遠くから眺めていましたけど、うちの旦那が気づいて遠回りしたんですよ」
「じゃあ、結界を超えるところは見られてない?」
「う〜ん。出るときに見られた可能性はあるかもですよ。あの草原、シャイターン国王の手出し禁止令が出てからは監視用の集落みたいなの作ってましたから」
なるほど。
そうなると、向こうも懐柔策や取引を仕掛けて来ることもあるか。
「はっはっはっ。そんな心配そうな顔しないでくださいよ。我らはあの国の国民、カナン商会の不利になることはしませんって」
あっさりと笑うとアイオラ。
すると商会から楽しそうに話をしながらフェザーとグラントリがやって来る。
そして二人ともマチュアを見ると、キョトンとしている。
「「なんでマチュア様が?」」
そこハモらない。
とん、とマチュアは御者台から飛び降りると、アイオラに一言。
「さっきの話、旦那にも注意するようにって」
「了解でさぁ。さ、帰りましょ」
「なんの話じゃ?」
「いいからいいから、道すがら話しますって」
そう話してから、グラントリ一家は荷物を載せて出発した。
「さて、第二段階に進みますか。おっちゃん、二階までツラ貸せや」
「畏まりました……」
すぐさまマチュアとフェザーは二階の商談室へと向かうと、遮音結界を張って音が外に出ないようにした。
………
……
…
室内にはマチュアの僕であるフェザーとバラキ、シュテン、ラセツが待機している。
その中でマチュアが席に着くと、まずフェザーが話を始めた。
「マチュア様、グラントリ一家をご存知でしたか」
「あ、そもそも石鹸をグラントリ一家に卸してるのは私だから」
「は?」
一瞬の沈黙。
そして。
「マチュア様が卸しているのなら、わざわざこんな面倒くさい事をしなくても、直接ここで卸してくれれば宜しいのでは?」
「正確には、私がある商会に卸して、それをグラントリ一家が仕入れてここに卸している。物流を作りたかったから」
「物流ですか……それはまたどうして」
「その国はね、文明が衰退しているんだよ。なんていうか、人類は衰退しました?」
沈黙。
すると、フェザーが汗を流し始める。
「あの、まさかとは思いますが……石鹸ってヒト族からですか?」
「そ。そこでだ、フェザーちょっと付き合え、私は今からヒト族の国に行くから」
──ザワッ
フェザーを始め、全員の雰囲気が変わる。
どうしていいか困惑している。
「行っておくが、いまのヒト族は魔族との共和のために動いている。その為に私も手を貸して、ここまで漕ぎ着けたんだ。それをぶち壊すような事をしたらどうなるかわかるよな?」
今の四人にとってマチュアの命令は絶対。
マチュアが言うのならたとえ白でも黒と言わなくてはならない。
「厳命、お前ら四人、ヒト族と仲良くなれ。喧嘩とかなら構わないが殺し合いはご法度だ」
すると、全員がその場に跪く。
「マチュア様の命令は絶対です」
「我らはマチュア様のためにあるのです」
そう頭を下げるので、マチュアはそこにゲートを開く。
──ブゥゥゥン
普段は使われていない6番目の建物。
そこにゲートを繋げると、マチュアは四人を手招きする。
「こ、これは第七聖典の転移門……流石はマチュア様ですが、これ使ったら仕入れとか楽じゃありません?」
フェザーは目の付け所がいい。
「楽を覚えると商売は廃れる。工夫は良いが、これはダメだ」
そう話しながらマチュアは四人を座らせると、ティーセットをテーブルに置いた。
「ちょっとまっててね、すぐ戻るから」
そう話して酒場に向かうと、ちょうどそこにいたフロリダを呼ぶ。
「あ、ちょっと良いかな?」
「どうなされました?」
スッとマチュアの前に来るフロリダ。
「急ぎ元老院のアマルテアさんに来るように伝えて。この前の話で、賛同者を二人連れてきてって話せばわかるから」
「は、はい‼︎」
すぐに外に飛び出すフロリダ。
それを見届けてから、マチュアは四人の元に戻っていく。
そしてアマルテアたちが戻って来るのを、のんびりと待っていた。
………
……
…
窓が締め切られている店舗。
元々は武器屋か何かだったのだろうが、今は棚も全て外されて何もない。
その広いフロアに案内されたアマルテアとグリジット、そして。
「なんでボーマン?」
この国で最初にマチュアに喧嘩を売ったボーマン一家の家長であるボーマンが同席している。
「ボーマンは周辺都市の一つを押さえてます。今はこちらに協力的ですが……」
そうアマルテアが説明すると、マチュアも部屋の明かりを灯す。
薄暗くて誰がいるのかわからなかった一同は、その場の魔族の姿に驚愕する。
──チャキッ
すぐさま抜刀してラセツに斬りかかるグリジットと、それを受け止めようとするラセツの間にマチュアが飛び込む。
──ザシュッ
左腕にはグリジットの刃、右腕にはラセツのロットが直撃した。
「マチュア様、どうして」
「あ、わ、私はなんと言う事を……」
愕然とする二人。
だが、怒りの感情はこれで薄まる。
「二人とも血の気多すぎ。まず武器を納めなさい」
──チャキッ
双方が引いたので、マチュアも魔法で傷の手当てをする。
「悪魔マチュア様、これはどう言う事ですか?」
アマルテアがそう問いかけるので、マチュアはまずアマルテア達にフェザーを紹介する事にした。
「紹介します。こいつらは城塞都市ワルプルギスのカナン商会幹部。私のワルプルギスの拠点だよ」
──ザッ
するとフェザー達はすぐさまアマルテアに頭を下げる。
主人に恥をかかせてはならない、ラセツの失態を取り戻さなくてはという考えなのだろう。
すぐにアマルテアとグリジットも頭を下げるが、ボーマンは逆に上から目線。
「へぇ、魔族が人側に頭下がるのか。これはいいや」
ヘラヘラと笑うボーマン。
するとマチュアはボーマンの胸倉を掴む。
「おいボーマン、うちの大切な配下を笑ったか?」
──ザワッ
その瞬間、ボーマンは死を覚悟した。
「あ、すいません悪魔マチュア……」
「礼には礼を尽くせ。それが出来ないのか?」
すぐさまボーマンも四人に頭を下げる。
「申し訳ない……」
その光景をやれやれと呆れた顔で見るマチュア。
すると今度は人間側の紹介である。
「フェザー、こちらは神聖アスタ公国元老院のアマルテアさんとグリジット、おまけのボーマンだ」
今度はアマルテアたちも頭を下げる。
これにもフェザーたちもすぐに返礼する。
「これで良し。アマルテア、この前の魔族との交易な、うちのカナン商会が魔族の代表になるから」
「成る程。それならばマチュア様が表に立たなくても安全な取引ができると言うのですな?」
「その通り。まずは足掛かりを作るんだけど……どうしたフェザー?」
顎がカクーンと開いているフェザー。
後ろの三人も驚きの顔である。
「マチュア様、その件は先日ようやく御触れが出たばかりで、まだ当商会が権利を得るとは限りません」
「あ〜、もうシャイターンとは話つけてきたんだよ。グラントリとサンマルチノのところの交易商人とうちのカナン商会が合流してここの衛星都市で異種間交易するって」
……
…
「あの、マチュア様、今なんと?」
「噛み砕くぞ、三王とは話つけたから、アスタ公国の準備ができたら始めるぞ」
いきなり汗が噴き出す。
もうどうして良いのかわからないようだ。
「いつのまにか三王まで……」
「ん、全員跪かせてきた。だからある程度は安心しろ。ワルプルギス側は何か企んでいるが、それはこっちの警備でなんとかする……ステア、フリージア、シャロン‼︎」
──シュンッ
マチュアの声で、混沌竜アドラステアとフリージア、シャロンが姿を表す。
この瞬間に、今度はフェザー達が死を覚悟する。
体から発している魔力で、そしてその名前で相手の力量を知ったのだろう。
「混沌竜アドラステア、そして英雄フリージアとシャロン……そんな……」
ガクガクと震える四人だが。
「おいおい、グラントリだって英雄の一人だろうが?」
──パーン
思わず手を叩くフェザー。
そして後ろの三人は、フリージアとシャロンにも頭を下げた。
「我が主人マチュア様の使徒よ。無礼をお許しください」
すぐさまフェザーも頭を下げるが、フリージアたちは気にしていない。
「ここは謁見の場です。今は頭をあげてください」
「はっ‼︎」
すぐさま四人は頭をあげる。
するとアマルテアはマチュアに問いかけた。
「悪魔マチュア様。この場は顔見せという事ですか?」
「そ。ゆくゆくはあっちのカナン商会とこっちのカナン商会も一つに纏めたいのよ。でもそれはまだずっと先の話、今は少しでも交流の場を設けたいから」
ニィッと笑うマチュア。
するとフェザーが恐る恐るマチュアに問いかける。
「マチュア様、シャイターン王は人と魔族の共存にはなんと?」
「お互いの恨みがあるから今は無理。だけど少しずつ機会は設ける。ヒト族が魔族の国に来ると理解のない魔族に殺されるだろうから、まずは人の国に赴いて交易からってね」
そう話をして、マチュアはアマルテアにも。
「感謝しろよ?本当なら干渉したくなかったんだが、三王からこの結界についての魔族の不可侵を取り付けたんだからな」
──ガクッ
アマルテアはワナワナと体を震わせて咽び泣く。
「悪魔マチュア様。この慈悲に感謝します」
「あ、そういうのいいから。まずはこっちは都市の解放から、ボーマン、そこは信じていいね?」
双方問いかけると、ボーマンもマチュアの前に跪く。
「全ては」
「いいから立て。そういうのいらないから、立って普通に話しろ」
その言葉で、ボーマンは立ち上がって一言。
「まあ、騎士団と協力しますわ」
「ん、それでいいよ。期待してるからな」
それで話は終わった。
「そんじゃ戻るか。アマルテア、全ての魔族は信用するな。自分が信用していいと思うものを信用しろ……フェザー、人間の立場も考えて動け。あの二大商会は危険だから細心の注意を払え、全員、ここの会話は他言無用であとよろしく」
──ブゥゥゥン
そう話して、マチュアはさっきの商談室にゲートを繋げる。最後にフェザー達が一礼して出ていくのを確認すると、アマルテア達も頭を下げて建物から出て行った。
「そんじゃあとよろしくお願いします」
あっさりと告げると、マチュアもゲートを越えて行った。
そして空間がゆっくりと閉じられると、ステア達も建物の外に出ていく。
「なんと言うか、遠回りが好きな方だよなぁ」
「出来る限り自分の手柄にはしたくないのですわ。さ、仕事に戻りましょう」
ステアにフリージアが返答すると、シャロンもそれに続いて仕事に向かう。
これで非公式ではあるが、ヒト族と魔族のはじめての会談は終った。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




