その13・エルフがキタぁぁぁぁ
ライトニング率いる討伐隊が帰還して。
街の中は暗い雰囲気に包まれた。
ギルドにやってきた討伐隊の言葉によると、あの森林は混沌竜のテリトリーとなったらしい。
そして、討伐隊は警告を受けた。
大フリューゲル森林に近寄るなと。
警告を無視して近寄ったら、混沌竜とその眷属が相手をすると。軽い翼の羽ばたきと、離れた場所に対してのブレスによる警告。
それだけで討伐隊は全滅しそうになったのである。
数日間は暗い空気に包まれていた。
そしてライトニングは、東方大森林に近づく事を禁止した。
迂闊に近づく事で混沌竜の怒りを買い、このワルプルギスに被害が及ぶのを防ぐため。
暫くはマチュアも街の中を歩いて回ったが、夜になると酒場カナンに戻って一休みする。
建物全体に結界を施したのち、マチュアはアスタードに戻った。
「‥‥まあ。お疲れさん」
大森林の中心で、マチュアは混沌竜の頭を撫でる。
「我が主人よ。今後はどのようにすればいい?」
「まず、神聖アスタ公国に向かって君を紹介する。このままだと、人に討伐されかねない」
そう告げて、マチュアはアドラステアの首に掴まってアスタードに向かった。
………
……
…
──キャァァァァァッ
公都アスタードは大混乱。
まさかの混沌竜の襲来により、人々は建物の中に逃げ、騎士団は飛び道具を持って飛び出した。
そして弓兵が弓を構えた時。
「お〜い、私だ私だ。撃ち方やめぇぇぇぇ」
マチュアは混沌竜の首の上から手を振る。
そしてマチュアは翼を広げて首から離れると、ゆっくりと自力で降りて行く。
「悪魔マチュア、あの混沌竜は敵ではないのですか?」
セシリアが不安そうに問いかけるので、マチュアは上空のアドラステアに声をかける。
「え〜っと、ステア、人に変身してここに降りてきて」
「また無茶な‥‥」
そう呟きながら、アドラステアはダークエルフの女性の姿に変身して、マチュアの前にゆっくりと降り立ち、頭を下げている。
「混沌竜ステア参りました」
その堂々とした出で立ちに、セシリアも騎士団も度肝を抜かれてしまう。
「ステア様ですか‥‥私はこの神聖アスタ公国女王のセシリア・ヒュペリコーンと申します。悪魔マチュアの使徒であるステア様にも敬意を評します」
丁寧に頭を下げるセシリア。
するとステアも頭を下げる。
「我が主人の名により、大森林に侵入する魔族を追い払う役割を得ました」
「それはありがとうございます」
「そういう事だから、ステアもこの街に住んで貰うから。じゃあ、あとは任せて」
そう話してから、マチュアはカナン商会にやってくると、近所の人々や商会の従業員にもステアを紹介する。
あとは寝床やら食料やら何やらかんやらを説明すると、あとはみんなに任せて再びワルプルギスに戻った。
‥‥‥
‥‥
‥
酒場の二階でのんびりと休むマチュア。
翌朝早朝、店から出て身体を伸ばすと、今日は何をしようか考えていた。
少なくともドワーフが来るまであとひと月。
それまではのんびりとしたい。
「ふぁぁぁ、暇だ、やる事ない」
そう朝から叫んでいると。
「お〜い、そこの暇人、ちょいとこっちゃこい」
向かいのパスカルがマチュアを呼んでいる。
そのままトテトテと歩いて行くと、パスカルは一言、
「ソーマあるか?」
「あるけど?買い取り?」
「う〜ん。まあ、事情が事情なんで、まあこっちゃい」
店内はまだ冒険者が店内をうろつく時間でもなく、パスカル雑貨店の店員も商品の整理しているところである。
「売るのはやぶさかじゃないけど、なしたの?」
「そのヤブサカさんが誰かは知らんが。ドラゴンランスのレオニードがな、仲間を蘇生するために必要らしい」
「そんなの、私に直接言えばいいのに」
「それが言えないからこっちに話が来たんだよ。代理購入を頼みたいって」
なんで言えないんだろう。
その理由が知りたい。
なので、マチュアはパスカルに一言。
「代理購入をするのなら適正価格の白金貨百枚頂きますが」
にいっと笑うマチュア。
するとパスカルも笑うしかない。
「カナン商会だからそうなるよなぁ。なら諦めて貰うか」
「直接来て話しろと。それなら蘇生してやるって話しておいて、蘇生薬あるから」
なぬ?
「マチュア、それうちに卸さないか?」
鋭い。
まあそう来るのは想定内。
「卸さない。命を売り物にしたくない。原材料なら売るけれど、蘇生薬の販売はする気は無い。使う相手も私が決める‼︎」
「まあ、マチュアがそう話すのなら仕方ないが、それも師匠の教えなのか?」
そういう事にしておこう。
どんどんと、この世界での空想師匠アハツェンの地位が上がりつつある。
「そうだよ」
「そっか。マチュアの師匠なら、古の『蘇生の杖』も作れるのかもなぁ。惜しいよなぁ」
何だそれ?
「へ?蘇生の杖?」
「ああ。古代のヒト族が作ったという神器だよ。第十階位アーティファクトで、すでに物語にしか出てこないレベルだよ」
ふぅん。
自前で蘇生できるので、その発想はなかった。
そうかそうか。
「なるほどねぇ。たしかに師匠なら作れそうだな。ちょいと聞いてみますか」
そう呟くと、マチュアはパスカルに挨拶してから箒で城塞外に向かった。
‥‥‥
‥‥
‥
人が付いて来ていないのを確認して、マチュアは森の中に入って行く。
そこで魔法陣を展開すると、その辺の適当な大きさの枝を放り込み、拡張バックから取り出した大きめの魔晶石と共に放り込む。
この魔晶石も、最初から拡張バックに入っていた代物。
マジックアイテムやアーティファクトの核となる魔法石である。
「アニメイト‥‥枝を杖に加工、魔晶石を固定‥‥よし。魔術付与、完全蘇生、完全再生、完全治癒。チャージ30‥‥」
次々と魔術を付与すると、蘇生の杖が完成した。
「まあ、これも保存するか‥‥ほれ」
ポイッとメモリーオーブを放り込むと、その中に蘇生の杖のデータを保存する。
それを空間収納に放り込むと、マチュアは蘇生の杖を拡張バックにしまう。
あとはのんびりと、箒にのって街まで戻るだけであった。
‥‥‥
‥‥
‥
ワルプルギスに戻ってからは、すぐにパスカル商会に戻らず、少し遠回りして街の中を散策する。
商店街をのんびりと歩き回り、足りない生活用品を補充する。
「あ、農業用って、私が教えたら問題あるかな?」
ふと考える。
魔族の畑は城塞外に存在する。
元々人間の文化なら、人間が畑を耕すのはありだろう。
しかし。
街を作るのに、わざわざワルプルギスで商品を仕入れて販売したり。
技術は教えないと言いながらもドワーフやエルフを探したり。
魔族が結界を越えると聞いたらドラゴン召喚して守らせたり。
人間に対して過保護にも程があるようなのだが、魔族相手にも悪徳商会を手に入れて善行商会にしたり、パスカル雑貨店に高レベルアイテム販売したり。
蘇生や再生を行なった挙句、ついに蘇生の杖まで作り出す。
今のマチュアは魔族を適当に間引きして、人と魔族が共生できる環境を作ろうとしている。
「‥‥園芸品店あるかなぁ‥‥」
ウロウロと商店街を徘徊する。
最近ではマチュアの正体がマスケット商会の娘であると言う噂も流れ、あの爆買いの理由も何となく理解されている。
凄いのは、フェザー・マスケットの兄が外の集落でヒト族の女を囲い、その中でも優秀なマチュアが奴隷商人に囚われてツノオレにされてしまった。
だが、それを聞いたフェザーがマチュアを助け出して養子とすると、後継としてマスケット商会を継いだと言う話。
商人ギルド登録では娘、そしてマチュアは叔父と呼んでいるのはこういう事なんだろうと皆が心の中で納得している。
「マチュアちゃん、今日は何を探しているのかな?」
そう問いかける商店街の人に。
「種。畑を作りたいのですが、種を探してます。何処かにありませんか?」
ふうんという顔で頷くと。
「裏門近くにあるよ。外の畑とかに行くのに便利だから、家畜商人のランドレースさんが統括してるから、行ってみるといいよ」
そんな名前なのか。
ランドレースとはまた、肉質の良さそうな名前である。
そのままテクテクと歩いて家畜市場へと向かう。
すると、すぐにランドレースがマチュアを見つけて走ってくる。
──タッタッタッタッ
「これはこれはカナン卿。本日は何をお求めですか?」
「ふぁ?卿つかないよ?マチュアさんで良いよ?」
そう話していると、ランドレースは頭を左右に振る。
「いえいえ、カナン商会‥‥元々マスケット商会は商人の中でも卿を名乗る事を許された名家です」
「それはフェザーのおっちゃん。まあいいや」
すると、ランドレースはマチュアの耳元にコッソリと。
「奴隷のいいものがありますよ。表に出さないものでして、基本売買は禁止されています‥‥どうですか?」
あ、ランドレースさん悪い顏してる。
ならば、ならないわけにはいかない。
「どこにいるの?」
そう問いかけると、ランドレースはニィッと笑う。
「ではこちらに。この売買は存在しない。取引が成立したらお互いに忘れる。それで良いですね?」
そこまで念を押すと言う事は、かなりの上玉なんだろう。
何故かワクワクしながら、マチュアはランドレースの館まで向かった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ふぁ‥‥。
ランドレースの館。
その離れの地下にある部屋で、マチュアは鎖に繋がれている奴隷を見て声にならない声を上げる。
そこには、年にして20歳程に見える二人の女性がいた。
奴隷用の質素な衣服、それも胸元と腰だけを隠すような、殆ど全裸と変わらない姿。
綺麗な金髪は腰まで伸び、奴隷に堕ちてもなお、凛とした表情でランドレースを睨みつけている。
下腹部には魔術による文様が浮かび上がり、時折淡く輝いている。
そして特徴的な、横に伸びている長い耳。
「へっへっへっ。本物のエルフです。どうですか?」
その言葉に、マチュアは目を凝らして確認する。
『視認:エルフ種、現存する数少ないエルフ。下腹部の追放文様により精霊界に帰ることを禁止されている』
「ランドレース、買います」
「まいどあり。ですが人とは違います。一人白金貨十枚は必要ですが」
──ジャラッ
そんなものなら、なんぼでも払うわ。
とは言うものの、そろそろカナン商会の売上では物足りない。
「まあ、箒一本売り飛ばすか‥‥」
そう呟きながら、すぐさま白金貨二十枚を支払うと、ギルドカードをランドレースに手渡す。
エルフの首に付いている隷属の首輪の所有者がマチュアに書き換えられると、ランドレースはエルフの足の鎖を外した。
「さ、お前たちの主人はこのマチュア様だ。今後は誠心誠意お使えするように」
そう告げるランドレースだが、マチュアはエルフたちの元に向かうと、エルフ語で耳元に話しかける。
『大丈夫。酷いことはしないから、私のために力を貸して?』
その言葉にハッとすると、二人のエルフはコクコクと頷いた。
「さてと、ランドレースさん、なんか衣服を下さいな」
「そう頼まれると思いました。こちらがちょうど良い衣服です。装備は全て売り払ってしまいましたが、それは構いませんよね?」
「必要なら探して買い取るよ。これに着替えて、このローブを着て耳を隠してね」
そう話すと、二人はすぐに着替える。
そしてマチュアの元にゆっくりと近づくと、その場に跪いた。
「それじゃあ帰るけど‥‥ランドレースさん、このあと外に出たら街の警備兵がいて、この女はエルフを奴隷化した大罪人だ‼︎とか叫んで私を売り飛ばすとかしないよね?」
その問いかけに、ランドレースは頭を左右に振る。
「そんな恐れ多い。カナン商会を敵に回す商会なんて、この街では‥‥」
そう話してから、ランドレースは指折り数える。
「‥‥なんか結構あるぞ?」
「ええ。先代マスケット商会時の悪行で顧客が離れてましたが、マチュアさんに変わってからは戻ってますし、なによりも王室御用達を受けてからは減税分値引きしてますからねぇ」
へぇ。
減免措置だけでなく王室御用達かぁ。
あの国王は一度締めたほうがいい。
「そんじゃ、いつものように裏門からお願いします」
「え?ローブ着てますから堂々と戻られては?」
「いやいや、また奴隷を買ったって怒られるので、こっそりと私の私邸にね。そこで‥‥」
「ほう。マチュアさんもお好きですなぁ‥」
そこの二人自重しろ。
そんなこんなで裏門に臨時手当てを支払うと、マチュアは嬉しそうに街の外に出る。
そこで人気のないところでゲートを繋げると、アスタードのカナン商会に戻った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
マチュアは酒場上の自室に戻る。
そこで二人も部屋に入れると、まずは自己紹介。
「私はマチュアです。人の言葉はわかりますよね?」
そう問いかけると、二人はコクリと頷く。
「自己紹介お願い。名前で呼びたいから」
そう告げると、二人はようやく言葉を発する。
「私はフリージア・ティルコット・アルテミス。精霊界アルテミスの里、ティルコットの氏族です」
ふむ。
なかなかの爆乳。
ボンキュッボンの見本のような体型である。
金髪ロングヘアーもなかなかに綺麗、そして少しゆるい顔つき。
「私はシャロン・ミリアルド・アルテミス。フリージアと同じアルテミスの里、ミリアルドの氏族です」
こっちは美乳。均整の取れた肉体美、金銀入り混じった髪と、キッと締まった顔つきのエルフである。
「あの、この追放文様はなしたの?」
そう問いかけると、フリージアとシャロンの二人はきっぱりと一言。
「ワルプルギスには、神々のもたらした供物があると、知り合いの商人から聞きました」
「それを食するために精霊界を出たのですが、その味わいに歓喜し、これを食べられるなら精霊界に戻らなくてもいいかなと呟いたら‥‥」
──ガクッ
あ。
アホの子だ。
外見はエルフだが、立派なアホの子だ。
「でも、その程度で追放?随分と厳しいんだね?」
「追放の本当の理由は禁忌の食材を食べたから。わたし達は肉食は禁止されています。それを食べたものは穢らわしい存在として、精霊界から追放されます」
‥‥
‥
「ん?マフィンの材料の卵か。それは済まなかったなぁ」
ボリボリと頭を掻くマチュア。
すると、フリージアもシャロンも頭を捻る。
「え?何故マチュアさまが?」
「主人が謝る必要はどこにあるのですか?」
そう問いかける二人に、マチュアは拡張バックから取り出したチョコチップマフィンを取り出してみせた。
「神の供物‼︎」
「な、何故マチュア様が?」
慌てながら問いかけるが、視線はマフィンに釘付けの二人。
「ん。食べていいよ。あと、わたしの本当の姿を見せるわ」
ローブを脱ぎ捨てボディスーツになる。
尻尾と翼を広げて帽子を脱いで悪魔の姿になると、目の前の二人は‥‥驚いていない。
「あ、悪魔でしたか。それも真祖さまとは」
「体内保有魔力が常人どころか上位魔族のそれを遥かに上まっていたもので。悪魔だなぁとは思ってました」
あ、そーなの。
「驚かないなら話は早いわ。私の名前はマチュア、悪魔マチュアという名前よ。普段はこの国かワルプルギスにいるから。そこで貴方たちに頼みがあるのよ」
そう問いかけると、フリージアもシャロンも食べる手を止める。
「あ、食べながら聞いてて」
──モグッ
食欲に素直なエルフだなぁ。
太るぞ?
「貴方達エルフには、この国の人々にエルフの技術を教えて欲しいのよ。植物の育成栽培、木材品の加工、弓や剣の取り扱い、体術なども含めたね。など。ヒト族は文明を忘れて久しいから、文明を取り戻す手伝いをお願いしたい」
その話は飲み込んだらしい。
「私たちはマチュアさまの僕です。何なりとご用命下さい」
「ええ。僕には命令で十分です」
その言葉に、マチュアは慌てて一言。
「まった、自分たちを僕と認めると‥‥」
──ピッピッ
『フリージアを悪魔マチュアの僕として登録しました、加護を与えますか?』
『シャロンを悪魔マチュアの僕として登録しました、加護を与えますか?』
「あっちゃあ‥‥またやったか‥‥ならいいわ、フリージア、シャロン、二人を悪魔マチュアの使徒とする。エルフではなくハイエルフとなり、忠誠を尽くしなさい」
──サーッ
二人の下腹部の追放文様が消滅し、マチュアの魔術印が浮かび上がる。
すると二人はマチュアの足元に跪く。
「「新しい名を‥‥」」
「フリージアは、フリージア・ライト・カナン。シャロンはシャロン・レフト・カナン。私の左右に立つ事を許します‥‥もういいでしょ、とっとと立ちなさいよ」
──ドゴッ
新しい名を得た瞬間、隷属の首輪が砕ける。
「それでは、私たちはこれからどうすれば」
「さっき話した通り。そんじゃ街を案内するから」
そう説明して、マチュアは酒場から外に出る。
衣服屋で二人の服を揃え、銭湯で三人でのんびりと体を洗う。
酒場に戻って部屋も与えて、日用品も一通り配り終える。
「マチュアさま、夜伽の順番ですが、どのようにすれば」
「二人同時でも構いませんが」
さらっと告げる二人に、マチュアが真っ赤な顔になる。
「な、なんでこの世界は奴隷イコール夜伽なんだよ?」
「 いえ、支配者の務めですから」
「ええ。是非とも御寵愛下さい」
──ブンブン
大慌てで手をふるマチュア。
「ひ、必要な時は呼ぶ。それまではいい‥‥さ、次行くよ」
すぐさま二人をカナン商会の人々に紹介すると、マチュアは二人を連れて久し振りの王城へと向かった。
‥‥‥
‥‥
‥
すでに王城は顔パス。
マチュアは真っ直ぐにセシリアのいる謁見の間に向かうと、部屋の外で謁見の順番を待っている。
「悪魔マチュア、貴方がヒトと同じように待つ事はないのですが」
護衛の騎士がマチュアにそう告げると、マチュアはいつものように笑う。
「ヒトのルール、順番は守るのでしょ?だからのんびりと待っているわよ」
「わかりました‥‥」
少しのち、マチュアの順番になって謁見の間に入ると、セシリアが王座から降りて走ってくる。
「悪魔マチュア、申してくれれば全てを後回しにしましたのに」
「一国の代表がそれは良くない。たとえ悪魔相手でも、常に凛としていなさい」
その言葉に、セシリアは深々と頭を下げる。
「さて、約束通りエルフを連れてきました。今後は二人が国内の人々にエルフの技術を授けます」
するとフリージアとシャロンはセシリアに跪く。
「フリージア・ライト・カナン、悪魔マチュアの命により助力いたします」
「シャロン・レフト・カナン、同じく」
その丁寧な挨拶に、セシリアも頷く。
「二人とも顔をあげて下さい。悪魔マチュアの配下のものです、私にそのようなことは無用です。今後ともよろしくお願いします」
二人の手を取るセシリア。
これで残るはドワーフのみ。
それも予定では間も無くやって来るはず。
「あとはドワーフかぁ」
──ゲッ‼︎
力一杯嫌そうな顔のフリージアとシャロン。
え?
やっぱりエルフとドワーフは犬猿の仲?
「なんだ?二人ともドワーフは嫌いか?」
「はい。そしてドワーフはエルフが嫌いです。何というか、精霊のくせにドブ臭い」
ひでえ言い方だなぁ。
「はいはい。ドワーフには金属加工のなんたるかを教えて貰うんだから。喧嘩しないこと。そんじゃあとはセシリアに聞いてね」
そう話してマチュアはツノオレモードに換装すると、ワルプルギスの酒場カナンに転移した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
パスカル商会。
マチュアは真っ直ぐそこに向かうと、一直線にカウンターの前に立つ。
「おや、マチュアかい、何か入り用かい?」
キセルを咥えてのんびりしているパスカル。するとマチュアはニィッと笑った。
拡張バックから予備の魔法の箒を取り出してカウンターに置く。
「買取だ‼︎わたしの最高傑作、いくらで買う?」
──ポケーッ
キセルをプカプカ吹かしながら、パスカルは鑑定天秤を取り出す。
「これ、いつも乗ってるやつ?」
「んにゃ。パスカルさんに売るのに作ってきた」
ニコニコと笑うマチュア。
するとパスカルも天秤に箒を乗せてから、よっこらしょと店の奥に向かう。
少ししてパスカルが戻ると、綺麗な装飾が施された小箱を持ってきた。
「はぁ。お前さん、馬鹿だろ?」
「それは師匠に対しての褒め言葉と受け取ろう。この前話していたよね?なんか作れって」
「そ、の、何かが、なんで第十階位アーティファクトなんだよ、馬鹿だろお前、なんかこう、小さくて、それでも頑張ったんだよ、これ買ってもらえる?そういうのを期待してたのに、ドヤ顔でワールドクラスのアーティファクト持って来るなぁぁぁ」
──パカッ
小箱から取り出した赤金貨。
それを五枚、マチュアに手渡す。
「現状では、これ以上の価値鑑定は不可能。突然値段なんてつけられない‥‥だから、うちの支払える最高額だ」
そう話していると、マチュアは小箱を指差す。
「まだ五枚あるよ?」
「煩いわ、どんな事があってもこの五枚は渡せないの」
そう告げるパスカル。
するとマチュアは赤金貨を一枚だけ受け取る。
「一枚でいいよ。また作るから、そん時は一枚で買い取って」
そう話して、マチュアは受け取った赤金貨をパスカルに手渡す。
「ん?なんだ?」
「白金貨に両替して。街の両替に持ってったら手数料が洒落にならない」
「まあ、それはいいが。マチュアは、どうやってこういうの作るんだ?」
ジャラッと白金貨を九十八枚取り出して手渡す。
二枚は手数料だが、それでも安い。
「なんかこう、師匠の魔導書は全て覚えたから、ここだけの話、収納バッグでもなんでも作れるよ。この前の蘇生の杖も試作したし」
「へぇ。材料費も高そうだなぁ、大したものだよ」
店内の冒険者は、マチュアとパスカルの話にずっと耳を傾けていた。
常識的に考えても、マジックアイテムやアーティファクトを作り出すことなど不可能。
それを作れるということは、とんでもない材料が必要になると思っている。
だからこそ、それを知る事ができれば高く売れる。
ここに持ってきたら、パスカルが買い取ってマチュアが購入するだろうと踏んだのである。
「ふっふっふっ。魔法竜の鱗があるから、あとは材料なんて何処にでもあるものでいいんだよ。この蘇生の杖だって、拾った魔晶石と落ちていた枝で作ったんだ」
──スッ
拡張バックから取り出した杖。
それを見てパスカルは一言。
「鑑定なんてしないからな。もう、マチュアの持ってくるものは面倒くさい」
「でも儲かったでしょ?」
「この建物を三階建てに立て直せるぐらいはね。あ、マチュア、蘇生の杖なんて作れるのなら、回復の杖は作れるか?」
ははぁ。
それは面白い。
「枝拾ってきたら、自分ちで作れるけど?」
「「「「何で拾ってくるかなぁぁぁ」」」」
店内の冒険者が絶叫する。
「ふぁ?」
「伝説級の、それも我々では不可能なアーティファクト」
「膨大な研究時間と莫大な予算」
「幻の材料と希少な触媒」
「それらを集めて、長い時間をかけて作り出す」
「それがアーティファクトでしょうが‼︎」
突然冒険者たちに説教される。
このあと、約一時間の間、マチュアは延々とアーティファクトと浪漫について説教されたのはいうまでもない。
「り、理不尽だぁ〜」
うん。
お前が悪い。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




