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悪魔っ娘ライフの楽しみ方  作者: 久条 巧


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13/44

その12・暴走する悪意

 神聖アスタ公国。

 公都アスタードでは、相変わらずのんびりと国の復興が行われている。

 衛星都市の制圧および市民の救助は遅々として進まず、冒険者ギルドの設営もまだまだ問題を抱えている。

 それでも、僅かずつではあるが、神の結界は人々の信仰を集めて強化され、外からの呪いは染み込まなくなっていた。


──スヤァ

 酒場の三階にある従業員用の部屋。

 その一角にあるマチュアの部屋で、マチュアはのんびりとまどろんでいる。

 他の部屋とは違う、大きめのベットの中では、全裸で眠っているマチュアとフロリダ。

 昨夜なにがあったかはご想像にお任せします。


「ふぁ‥‥朝‥‥」

 寝ぼけまなこで隣を見る。

 スヤスヤと寝息を立ててフロリダが眠っている。

 彼女を起こさないようにそーっとベッドから抜けると、とりあえず着替えて銭湯に向かう。


──カッポーン

 頭からお湯をかぶって湯船に浸かると、ようやく一息。

「いやぁ、羽目外した。深夜のお茶会は楽しいわ」

 あ、そっち。

 なんだつまらん。


 そんなこんなで身体を洗って風呂から出ると、マチュアはいつもの悪魔スタイルで街の中を歩いている。

 都市部中央はほぼ復興が完了。

 大体の市民は家を手に入れて文化的な生活を行なっているのだが。

 生産職が復帰していないので、未だ物作りはできない。

「技術職を雇い入れるのもありだけど、ドワーフが来るのはあと二ヶ月。そろそろ来ないかな?ちょっと見て来るか」


‥‥‥

‥‥


──シュンッ

 一瞬でワルプルギスの冒険者街・酒場カナンの二階に転移する。

 すでに店も完成し、仕入れも終わっている。

 営業許可証も発行されているので、いつでも開けれるのだが。

 マチュアが中々忙しかったので、未だ空いてたり空いてなかったり。


 外に出て体を伸ばす。

 すると目の前の雑貨屋の店主であるパスカルと目が合う。


──コイコイ

 すると、パスカルが、マチュアを手招きする。

「ほいほい、ナンジャラホイ?」

「最近な、うちの店の前でカナン商会が酒場作ってたのよ」

 ふむふむ。

「カナン商会といえば、オーナーが変わってからかなり付き合いのいい商会になったって評判でね、それまでの強引なやり方が嫌で他に移った客も、今ならいいかなってかなり戻ったのよ」

 ほほう、それはすごい。

「うちも仕入れの一部をカナン商会から仕入れているから、うちの店の前の酒場がオーナーが直営でやっているって聞いて、朝から挨拶しようと待っていたのよ」

 あ、挨拶はお約束。

「そうしたら、酒場から眠そうにマチュアが出てきたのよ」

「どーもパスカルさん、カナン商会オーナーノマチュアデス」

 その挨拶にパスカルも納得している。

「一体どうやってマスケット商会を乗っ取った?」

「あれ、私のおじさん」

「は?」

「マスケットさんの兄さんがヒト族を手篭めにして生まれたのが私ということで」

 うわ、生々しいわ。

「そんで後継いない叔父さんが私を引き取って、ここに来なさいって言うから来た」

「成る程。そりゃあ凄いわ。それで師匠は錬金術師で、あんたはその師匠の腕を継承したと」

 淡々と話しているパスカル。

 それ誰から聞いた?


「どうしてその事を?」

「ドラゴンランスのラオラオから聞いたよ。あんたが錬金術師を継承して、マジックアイテム作れるって。なんか作って」

「また大雑把な。これで良いでしょ?」

 そう話してマフィンを手渡す。

 するとパスカルが店の中に手招きする。

 真っ直ぐにカウンターに座ると、パスカルは一言。

「うちで仕入れるよ。いくつ卸せる?」

「さっきの食べてから考えて」


──モグッ

「モグモグ。この前のとは味わいが違うが、これも美味しい。何か違うのか?」

「私が作った」

「成る程ね。で、一つ幾らで何個卸せる?」

 そう話すと、予め用意してあったマフィン用の蓋つき木箱を二つだす。

「一つ四種十個で四十個。それが二つだね。一個銀貨一枚、全部で八十枚」

「ん、乗った」


──ジャラッ

 あっさりと支払いを終えると、店員がマフィン箱を持って入り口の方で販売を始めた。


「実に商売上手いなぁ。あれ、うちの目玉商品なんだよ?」

「まあ、全部うちに卸してくれれば良いよ‥‥と、そう言えば、この前にシャイターン王からの御触れがあったの知ってるか?」

 おっと。

 もう動いたのか。

 すごく仕事の早い事で。


「そらは知らないけど、どんなの?」

「ヒト族の結界の話だよ。東方の大ブリューナク森林とその近くの草原でのヒト狩りを禁止したんだよ」

「へぇ、森林外の草原もなんだ」

「まあ、ワルプルギスからも結構離れてるし、あの辺りの村といえば半魔族の集落しかないからどうでも良いと言えば良いんだが、ヒト族を狩るなっていうのが貴族たちからは反発されてね」

 気持ちは分かる、けどねぇ。

 ダメと言われたものは諦めきれないのだろう。


「特にうちらワルプルギスと隣の城塞都市エーデルワイスは結界に一番近い都市だから、反発する貴族が集まって、近々結界を超えるって話だよ?」

「それって不味くない?」

「ライトニング卿とドラゴンランスは特にヒト族には恨みがあるから、結界中和のタリスマンをあちこちから買い集めているらしいし。冒険者ギルドでは徴兵に近い形で上級冒険者を集めているようだよ」

「‥‥あの辺って、うちの集落近いんだけどなぁ」

 そう呟いてやるが、パスカルはウンウンと頷く。


「なら、早く逃げるように話して来た方がいいよ。あの結界の中がどうなっているか知らないけど、この大侵攻でヒト族を皆殺しにするって躍起になってるよ。

「そりゃあ大変だわ、急いで話ししてくる」

 そう話してから、マチュアはすぐに酒場に向かうと、二階から公都アスタードに転移する。

 そして直ぐに騎士団詰所に向かうと、パスカルから聞いた話をセシリア女王に伝えるように話した。


‥‥‥

‥‥


 箒に乗って高速で飛んでいく。

 目的地は大ブリューナク森林中央。

 マチュアはそこである事を実験しようと考えていた。


 広い森林に着地すると、すぐさま魔法陣を展開する。


──ギュィン‥‥キィィィン

 直径200mもの召喚結界。

 そこでマチュアはドラゴンを召喚しようと考えた。

「召喚した対象との契約は、相手の合意か。さて、どうなる事やら‥‥サークル起動」


──ヒュゥゥゥンッ

 ゆっくりと魔法陣が展開する。

 文字列が中空に浮かび上がり、やがて半円形のドームを作る。

 結界内に魔力が篭る。

 それはやがて集まり、竜の形を作り上げていく。

 光が竜を作り上げると、それはやがて命を伴い、最後に光が全て放出される。

「出来るなら話の出来る白系金系、青でもいい。赤はダメ、脳筋だから。それと‥‥」


──グルルルルルル

 漆黒の鱗に身を包んだ黒竜が、じっとマチュアを見つめている。

「‥‥ハズレ。マジですか?」

 マジです。

 この世界にない単語ですが、マジです。

「ユリアスの遥か地下永久氷壁に手封じられし我を解放した事、礼を言う‥‥せめてもの礼として、貴殿を食らうとしよう」


──ツツー

 全長100m程のドラゴン。

 軽く尻尾を振るだけで、周囲の結界にヒビが入る。

「え〜っと、まず、私が貴方を召喚しました。ここまではおっけ?」

「うむ。我は貴殿の魔力により召喚された」

「ならば、私は貴方の召喚者であり、貴方と契約したい。ここまでおっけ?」

 ゆっくりと頭を縦に振る。

「うむ。召喚の儀は理解している。それて、契約方法は理解しているな?」


(神威mode2、エンチャントまとめて付与‥‥)


「ええ。では早速契約をお願いします」

「では殺りあうとしよう。我を屈服させられるならば、我は盟約により汝を主人と認めよう」


(悪魔スキル、オールアクティブ‥‥)


「そうだな。では、少しだけ時間が欲しい。久し振りの全力モードでいかせてもらうからな」


『確認:対象、ケイオスドラゴン、真名アドラステア』


「よかろう。弱きものよ、準備ができたらいつでもかかって来るが良い」

「あ、準備できました。では行きます‼︎」

「かかってこい‼︎」

 翼を広げ、鱗全体が黒く輝く。

 ケイオスドラゴンは、魔法反射結界を全身に張り巡らせた。

「では、マチュアが真名において命ずる。アドラステアよ、その場にひれ伏せ‼︎」

「なっ、貴様どうやって我の名をぉぉぉぉぉ」


──ドゴォォォォォッ

 突然アドラステアと呼ばれたケイオスドラゴンは、その場にゆっくりと身体を倒し、頭を下げる。

「まあ、こんな感じ。まだやる?」

「‥‥真名を縛るか。だが、その辺のゴミ程度では我が真名を縛ることはできない。貴様は何者だ?」

「悪魔マチュア。真名じゃないわよ?」


──グッグッグッ

 喉を鳴らし笑うアドラステア。

「貴殿に問いたい。我を縛り、何を求める」

「ちょいと協力してくれないかい?もうすぐこの森の結界を中和して魔族がやって来る。なので、結界を越える前に脅して返してくれないか?」

 その話には、アドラステアは頭を捻る。

「殺せば済むのでは?」

「いやぁ‥‥殺したりしたら、またドラゴン討伐とかでやって来るでしょ?なので適当な事を話して追い返して。多少は殺して構わないけど、こいつらは生かしておいて」


──ブゥゥゥン

 両手の中に、スフィアと呼ばれる魔力球を作り出す。

 その中に、自身の記憶を封じると、『記憶のスフィア』と呼ばれるものを作り出した。


 これは、受け取ったものが両手に魔力を込める事で開放し、記憶を受け取る事ができる。

 応用で、スキルや知識を封じた『知識のスフィア』や、技や体術・技術を封じた『技術のスフィア』なども作り出すことができる。

 全て、ジョブ・賢者の知識であり、マチュアはそれを難なく使用する事ができる。


 そして、ライトニングとドラゴンランスのメンバーの顔を記憶のスフィアに封じると、アドラステアに渡す。

 それはあっさりと吸収されると、アドラステアは目を細めた。

「ならば、我の額に手を当てろ。契約の儀だ」

「ほいさ。宜しくお願いしますね」

 ひょいとアドラステアの頭に乗っかると、その額に手を当てて魔力を込める。


──ブゥゥゥン

 アドラステアの額にマチュアを示す魔法印が浮かび上がる。

 それはスッと消えると、アドラステアはマチュアに語りかける。

「主人よ、我は主人と共にある‥‥さて、まずは主人の命ずるままに、小さきものを追い返すとしよう」

「君の基本的な仕事は、魔族に襲われている人間を助けること、助けた人間をこの結界の向こうの王国に連れていく事。それを行う限り、君の持てる力の全てを使う事を許可する」

「‥‥では」


──フワッ

 ゆっくりと飛び上がると、アドラステアは真っ直ぐに結界の外へと飛んで行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「倉庫の武器を全て出してください、騎士団は王都正面を守って」

 自ら先陣を切って指揮をとるセシリア。

 マチュアからの警告を受けて、すぐに守りの体制を整える。

 敵の軍勢の規模はわからないが、今までとは明らかに違うのは雰囲気で察している。


──シュンッ

 すると、王城正面にマチュアが転移して来る。

「悪魔マチュア、私たちを助けてくれるのですか?」

 希望に満ちた顔でマチュアを見る。

 だが、マチュアはあっさりと一言。

「んにゃ。私は助けないわよ。ここで助けると干渉になるから。だから、わたしの友達にお願いしたよ」

「友達‥‥ですか?」

「そ、最強の友達。まあ、警戒を解いて良いとは言わない。でも、少しは希望を持ってくださいな」

 そう話すと、マチュアは酒場に歩いていく。

「どちらへ?」

「へ?営業準備だけど?魔族の襲来が来るのはまだ少し先じゃないかな?ちょっと調べてきてあげるわ」


──シュンッ

 再び転移すると、マチュアはワルプルギスの酒場カナンに戻った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──トントントントン

 のんびりと階段を降りて店の外に出る。

 そこから箒でのんびりと冒険者ギルドに向かうと、すでにギルドの中はてんてこ舞い状態。

「うわぁ、これはすごいなぁ‥‥」

 ギルドホールから酒場に逃げると、マチュアはウェイトレスのコボルト嬢に軽い食事を注文する。


──トン

 届けられたパンと鶏肉の煮込み、焼いた野菜をのんびりと食べる。

 すると。

「お、マチュア、うちのパーティ来ないか?ヒーラーがいると生還率が高いからなぁ」

「ポーション買っていけば?私は怖いから行かないよ」

「怖いって、お前冒険者だろ?」

「5レベルに何させるのよ?途中で死んだらどうするのよ」


──あ〜

 あちこちでウンウンと納得する声が聞こえて来る。

 よし、あとはのんびりと情報収集しよう。

 そう考えていた時。


「マチュアさん、我々と一緒にヒト族を殲滅しよう‼︎」

 酒場に入ってきたレオニードが、食事をしているマチュアに話しかける。


「うん、断る」

「そうだろう。やはりヒト族を殲滅するのは我々魔族の‥‥いま何と?」

「こ、と、わ、る。何で私がヒト族を殲滅するのよ。私は半魔族、母親はヒトなのよ?だから断る‼︎」

 これにはレオニードも顔を真っ赤にする。

「エルダーリッチの時といい今回といい。どうして君はヒト族を殲滅するのを断るんだ」

 その叫びはギルドまで届いた。

 ならばとマチュアも立ち上がって叫ぶ。

「私の母親はヒト族だ、村は半魔族とヒト族の女しかいない。魔族が母親を勝手に犯して捨てた。私は魔族ではなく半魔族に育てられたんだ、だから手を貸すわけないだろう」

 この叫びは、ギルドで仕事を受けようとしている魔族にも響いた。

「それに国王がおふれを出したろう、ヒト族の国は襲うなって、国王の命令を無視するのか?それは国王に対する反逆行為じゃないのか」


(さあ殴れ)


 そのマチュアの念が通じたのが、レオニードはマチュアを平手で張り飛ばした。


──ガッシャーン

 近くのテーブルをひっくり返し、ついでに口から血を流す。

 マチュアはそれを拭いながらも、レオニードを睨みつける。

「あの卑怯極まりないヒト族の味方をするのか‥‥見損なったぞ」

「何がだ、ヒト族だっていい人はいる。それをヒト族という括りで無闇矢鱈に殺す。どっちが酷いやつだよ」

「何だと‼︎」


──ガチャッ

 レオニードが剣を引き抜くと、マチュアに向けた。

「ツノオレは殺しても罪にはならない。ここで殺した方がいい」

 するとレオニードの後ろからボンキチがやって来る。

 そして直ぐにロングソードを引き抜くと、マチュアに向ける。

「あの時は油断した。今度は首を刎ねる」


──バッ

 するとボンキチとマチュアの間にアレクトーが割って入る。


「ここでマチュアちゃんを殺して何か変わるの?あなたの敵はこの子じゃない。ライトニング卿はヒト族を殲滅しろって話したのよ?」

「この子の思想は危険だ、ここで殺さないとヒト族に手を貸す魔族が出るかも知れない。アレクトー、そこを退け」

 ボンキチが叫ぶと、マチュアの横にトイプーも来る。

「リーダー、この子は魔族が回復魔法を使える道を示した。それで王都にも招かれたそうです‥‥そんな人を殺すと、それこそドラゴンランスがお尋ね者になるわ」

 マチュアはじっとボンキチを睨む。

 そしてボンキチも、いつでもとびかかれるように身構えているが。


──ドゴォォォォォッ

 レオニードの後頭部に拳骨が叩き込まれる。

「痛っ‥‥誰だ‼︎」

 すぐさま振り返ると、そこにはギルマスが真っ赤な顔で立っている。

「レオニード、ボンキチ、剣を引け。お前たちにマチュアを殺す権利はない。明日には街を出るんだろう、それまでは準備に忙しいだろうが」

 淡々と語るギルマス。

「ですが師匠、マチュアの発想は危険です、ひょっとしたらヒト族と密通しているかもしれない」

「なら俺が見張っていてやるよ、ここで見ていれば良いんだろう。マチュアもだ、お前の気持ちはわかる。が、お前も密通者として見られると、この先この街では生きていけないだろう」

「構いませんよ。私はここの宿でのんびりとしてますよ。何だよ、私が何したっていうんですか‥‥」

 すると、アレクトーがマチュアに話しかける。

「レオニードの両親はヒト族に殺されたのよ‥‥」

「だったら、その仇を取れば良いだけじゃない。仇はとったの?」

「ええ。でも、それでは許さないって‥‥」


──プッツーン

「ばっかじゃない?それって敵討ちと称して殺戮しているだけじゃない?ただのガキと変わらないじゃない」

「な、何だとこのガキ‼︎」

 レオニードも切れた。

 後ろから羽交い締めしているギルマスがいなければ、恐らくマチュアに斬りかかっているだろう。

「仇をとったのならそれでおしまい。あんたそれでも騎士なの?騎士道どこに置いてきた?献身と謙譲の心はどこに置いてきた‼︎」

 この叫びに、レオニードも止まる。

「‥‥おい、行くぞ」

 ギルマスの手を振り払って、レオニードはボンキチやアレクトー、トイプーを連れてギルドから出ていく。

 するとギルマスもマチュアの方にやって来ると、マチュアは軽く拳骨を叩き込まれる。


──ゴィィィン

「この馬鹿。本当に殺されたらどうする。レオニードはあれでも高レベル冒険者だ、手加減なんてしないぞ」

「わ、私は間違ったことは言ってない‼︎」

「まあ、そうなんだがなぁ。という事でだ、お前は三日宿を取ってこい。ギルドから出る時はうちの職員をつける」

「ふぁい。ここで遊んでますよーだ」

 とっとと宿を取ると、マチュアはテーブルを直すのを手伝ってもう一度食事を取り直した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ワルプルギスで三日が経過する。

 ここから馬なら一日半で大フリューゲル森林に辿り着く。もしも戦闘になっていたら、今頃は大戦闘状態である。

 当然昼間はギルドとなりの酒場でゴロゴロし、暇なのでギルドの手伝いをこなす。

 夜は部屋でよく眠り、また朝にはギルドにやって来る。

 そんな毎日を過ごしていた。


 さらに二日後。

 ライトニング率いるヒト族討伐隊が帰還する。

 どの冒険者も満身創痍となり、その数も三分の一に減っている。

 ライトニングも右腕を失い、真っ青な顔になっている。

 

「‥‥ありゃ酷いな」

 ギルドの前を通過していく討伐隊。

 それを見ながら、ギルマスがやれやれという顔をしている。

「ヒト族がこんなに強いなんて‥‥」

 そうマチュアが呟くと。

「違う、俺たちは森にさえ辿り着けなかった‥‥あの森林には竜が住み着いていた‥‥恐らくは、ヒト族も竜に殺されただろう‥‥」

 討伐隊のメンバーが話しているが、その言葉と彼らの姿を見ると、それも嘘ではないだろうと思ってしまう。

 やがてレオニードたちの姿が見えると、マチュアはそこに一人足りないことに気がつく。


──スタタタタッ

「レオニード、アレクトーはどうした、どこにいるんだよ」

 そう叫ぶと、レオニードは後ろをついて来る馬車を指差す。

 マチュアも急いでそっちに向かうと、馬車の中で横たわっているアレクトーの姿があった。

 肌の色は白く、腰から異様な角度にまがっている。

 なんらかの攻撃で即死した。

(お、おおう‥‥)

「止めて、アレクトーを下ろして‼︎」

 そう叫ぶと、マチュアは拡張エクステバックを空間収納チェストに繋げる。

(え〜っと、死者蘇生アイテムあったよなぁ‥‥ないか)

 すぐさま適当な小瓶を取り出すと、マチュアは路上に倒れているアレクトーの口元にそれを注ぐ。

(無詠唱・完全蘇生‥‥)


──キィィィィィィン

 するとアレクトーの全身が輝いて、アレクトーが息を吹き返した。

「ごふっ‥‥ごぶ‥‥わ、私は」

 そう呟きながら目の前を見る。

 そこには、空になった小瓶を手にしたマチュアがいる。


──スッ

 すぐにアレクトーはマチュアを抱きしめる。

「マチュアが助けてくれたの?ありがとう‥‥」

「アレクトーは酒場で私を庇ってくれたから」

 小瓶を拡張エクステバックに戻す。そしてギルドにマチュアは戻っていく。


(しっかし‥‥幾ら何でもやり過ぎだろうが)


 そんな事を考えていると、レオニードがマチュアの元にやって来る。

「済まない‥‥ボンキチも生き返らせてほしい。それと、ライトニング卿の腕も直せないか?」

 あ、よく見たらボンキチもいないや。

「どっちも嫌だ。ちゃんと国王の命令を聞いてヒトの森に手を出さないっていうのなら、どっちかは直せる。もう薬は一つしかないんだ」

 嘘である。

 そもそも薬などない。

 仲間を取るか忠義を取るか。

 そこで悩んでいるレオニードをよそに、ライトニングがマチュアの元にくる。

「マチュアさん。さっきの話、約束する。ボンキチを助けてあげてください。他にも死体が残っている仲間たちは回収した。どうにか出来るなら‥‥」

 そう呟きながらマチュアに頭を下げる。

 うん、それなら。

 拡張エクステバックから別の小瓶を手に取ると、マチュアはライトニングを掴んで傷口にかける。

(再生‥‥)


──シュゥゥッ

 ライトニングの傷口から煙が噴き出し、ゆっくりと再生する。


「な、何故私を‥‥」

「ライトニングさんは約束した。それは領主として。でも、レオニードは返事をしない。冒険者だから‥‥。この薬はソーマを原料とする師匠が作った薬だから、作るのにも時間がかかると思う」

 そう話すと、アレクトーはマチュアに話しかける。

「また借りを作ったね。いつか必ず返すから」

「‥‥いらない。アレクトーがいつまでも私の友達でいてくれるなら」

 その言葉には、アレクトーはコクリと頷く。

 するとライトニングがマチュアに話しかける。


「蘇生薬を作るのにはどれぐらいかかる?出来れば人数分揃えてほしい。報酬は支払うから」

「何本ですか?それがわからないと師匠に話ができない。それに‥‥師匠は争いを望みません。蘇生してもまたヒト族を討伐に行くというのなら、師匠は絶対に薬を作らない」

 それにはライトニングも言葉を詰まらせる。

「考えておく。本数は後で教える」

 そう告げると、討伐隊はライトニングの屋敷に向かって戻っていった。


 それを、マチュアはじっと眺めている。

 恐らくレオニードはまた行くだろう。

 何が彼をそう駆り立てるのか、マチュアには理解できなかった。

誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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