後編・未来をその手(まえあし)に
グレンと白いオオカミ、2匹の戦いのあまりのスピードに、目がついていかないセイリュウ。
ですが、明らかにグレンの方が圧倒されています。
「くそおおおおおぉ、僕は負けられない……負けられないんだあああああっ!」
さらに、追い詰められて冷静さを欠くグレン。
「まずい、焦りが出てます。こんな時こそ、精神的支柱の兄さんがいてくれればいいのに……そうだ!」
セイリュウは壊れた自分の木の家に行くと、瓦礫の中を掻き分けて1冊の本を見つけます。
「あった、禁術の書! 確か、木術による死者蘇生の方法が……あった!」
セイリュウは倒れているカカシの元に戻ると、魔導書を開き、呪文を唱えます。
ですが、魔力を根こそぎ吸い取られるような感覚に、セイリュウは意識朦朧となりますが。
「頼む、兄さんを生き返らせたいのです……。弟のためにも、ブタ族の未来のためにも、応えてください! ユグドラシル!」
セイリュウが力のある言葉を口にした瞬間、地面から輝きを放つ小さな木が生えてきました。
「出来た……。これが、世界樹ユグドラシル……」
さっそく、セイリュウは世界樹から摘み取った葉をミキサーですりつぶし、そこへ世界樹の樹液を足して、青汁のようなものを創りだしました。
「できました! これが、ユグドラシルから抽出したエキス。その名も『ユグドラ汁』!」
セイリュウはユグドラ汁の半分を、カカシの口に流し込み、半分を傷口に振りかけます。
「あとは、50%の確率で生き返るはずですが……」
セイリュウが空を見上げると、炎のジェット噴射で空を飛ぶグレンと風の能力を駆使するオオカミの間で、激しい空中戦が繰り広げられていましたが、オオカミの拳がグレンの鳩尾にめり込みます。
「ぐふうっ!」
血を吐きながら、グレンは失いかける意識をかろうじて保ちますが、飛ぶ力を失いゆっくりと降下していきます。
それを見たオオカミは、胸の前で両前足を構えると、白い球形の高エネルギー体が光り輝きます。
「はーっはっはっ、どうやらここまでのようだな。とどめは古の禁術で仕留めるとしようか」
「やはり、僕では勝てないのか……カカシ兄さん、じっちゃん、ごめん、カタキは討てそうにない……」
「食らえっ、アブソリュート……ぐわっ!」
前足の輝きが消え、急に苦しみだすオオカミ。
「あきらめんなよ、グレン。どんなに強大な敵でも、コツコツやれば必ず倒せる。昔じいさんに聞かせてもらった、わらしべ1本から城を手に入れた英雄の話を思い出すんだ!」
「カカシ兄さん!? どうして……?」
グレンの目に映るのは、そこにいるはずがない兄の姿。
1番上のお兄さんブタのカカシが、五寸釘が刺さった、狼を型どったワラ人形(狼形?)を持って立っていました。
「呪藁術、カース・オブ・ワラニンギョー! オオカミにも効果あるもんだな」
「これを、受け取りなさい!」
突如、グレンの目の前に飛来する、緑色の液体が入った小瓶。
「セイリュウ兄さん、何これ、青汁?」
「青汁ではありません、霊薬『ユグドラ汁』。生きる者が飲めば、完全回復薬になります」
「そして、死せる者が飲めば、蘇生術の媒体になる。俺はそいつの力で黄泉還ったんだ」
「そうか……、良かった……。カカシ兄さんのみにくい豚面を、また見ることが出来て本当に良かった……」
「キミたちには、兄ちゃんを敬おうという気持ちはないのかね」
顔のレベルは大差ないはずなんだがなあ、という兄のボヤキを尻目に、グレンは小瓶の中身をあおると、グレンの身体に刻まれた傷が癒えて無くなり、全身から力が溢れます。
「そして、飲んだ直後はドーピング効果で、一時的に魔力と身体能力が向上します。今なら、そいつに一方的に後れを取ることもないはずです」
グレンとオオカミが地上に降りると、3匹の子ブタと1匹のオオカミが、対峙する形になりました。
「こっからは俺達も参戦させてもらうぜ。もともと、タイマン勝負をしてた訳じゃないからな」
「よかろう、貴様らまとめてトンカツにしてくれようぞ」
「お前は、絶対に僕達が倒す。デュランドの名にかけてっ!」
オオカミは、再び両前足を白色光に輝かせると、3匹に向かってエネルギー波を撃ち放ちます。
3匹の子ブタもそれに対して、それぞれの持つ最強の技を繰り出しました。
「喰らえ、禁術・破滅の極光!」
「地球の田園! 俺に藁を分けてくれ! ホール・クロップ・サイレージ玉っ!」
「エクスプロシヴ・ベジテイション、ギガトン・ユグドラシル!」
「太陽よ、我が力となりて双剣に集え! 秘奥義! 炎煌十字斬!!」
その日、戦場となった野原は、レンガの家を残して、全て焦土と化したのでした。
*
はあ、はあ、と肩で息をする、3匹の子ブタと白いオオカミ。
誰からともなく、休戦の話が出てきます。
「なぜ、我々は戦っているのであろうか……」
「そりゃあ、お前が俺たちを食べようとしてたからじゃないのか?」
「でも正直、私たちを食べるために、こんなに苦労してたら割に合わなくないですか?」
「それは、我も薄々と思ってはいたが、退くにひけなくなったのでな、ノリ的に」
「もう、この際だから、みんなで焼肉屋さんに行かない?」
「ほう……。なかなか、思い切った提案だが、貴様は我が舌を満足させる旨い店を知っているのか?」
「たしか、駅前に『徐々に奇妙な焼肉園』ってのがあったと思うけど」
「あー、『ジョジョ園』ですね。あそこは相当美味しいらしいですよ」
「じゃあ、そこに行くか。やい、オオカミ! 散々俺たちに迷惑かけたんだから、今回はお前のオゴリな。実際、俺は殺されかけたし、おごってくれるなら、じいちゃんの事はチャラにしてやってもいいぜ」
この瞬間、祖父の命 ≦ 焼肉おごり、という方程式が成立します。
「むう……、やむを得まい。良かろう、ついてくるがよい!」
『やったー!!』
こうして、4匹は連れ立って焼肉屋に行くことになりました。
しかし、その頃。
彼らが向かう焼肉屋では、もう1つの戦いが始まろうとしていました。
一方は肉食が過ぎて、カエルの姿で地上に落とされた堕天使、ミカエル=スペアリブ=オ=ガブリエル。
それに立ち向かうのは、異世界転生して牛になった高校生、松阪英吾。後に乳牛牧場を築き、平成の怪物・牛魔王エーゴと呼ばれる男!
「貴様のその肉体は、神が与えしモノ。ならば、妾の糧となるのが自明の理ではないか?」
「ふざけるな! この腕も、この足も、この身体も、全て俺様の物だ! 両生類のくせに焼肉食ってんじゃねえぞバーカ! 虫を食え、虫を!」
「おのれ、神を愚弄するか。ならば、力ずくで調理してしんぜよう!」
「望む所だあああぁ、ぶっ潰してやらぁ!!」
そして数刻後、エーゴは3匹の子ブタと邂逅を果たし、ミカエルとの戦いで共闘する事となります。
偶蹄類の命運をかけた、新たな闘いが今ここに幕を開けるのでした。
めでたし、めでたし?
おしまい