前編・嵐を呼ぶオオカミ
むかしむかし、あるところに、3匹の子ブタの兄弟がいました。
子ブタたちは両親から1人立ちし、野原にそれぞれ自分のお家をつくる事にしました。
1番上のお兄さんブタは、ワラの家を作ることにしました。
すぐにできました。
2番目のお兄さんブタは、木の家を作ることにしました。
すぐにできました。
末っ子の弟ブタは、とてもしっかり者なので、レンガで家を作ることにしました。
レンガを運んで、レンガを積んで、時間はかかりましたが、ようやくレンガの家が出来上がりました。
そんなある日のこと、3匹の子ブタが住む野原に、悪いオオカミが限定的な希望を口にしながらやって来ました。
「あー、腹減ったなー。豚肉が食べたいなー」
するとオオカミは、日向ぼっこをふるぼっこしている1番上のお兄さんブタを見つけました。
「おっ、あんなところに、まるまる太った旨そうなブタがいるぞ」
オオカミは猛烈に突進し、1番上のお兄さんブタに襲いかかろうとします。
「うわっ!? オオカミだ!」
1番上のお兄さんブタは、あわててワラの家に逃げ込みました。
「はっ、こんなチャチな家、我の息で吹き飛ばしてやる。狼牙フーフー拳!」
オオカミが持ち前の肺活量を利して、フーッフーッと息を吹くと、ワラの家はバラバラにふき飛んでしまいました。
「がーっはっはっ! それでは、しょうが焼きでいただくとするか」
舞い上がるワラの中で、哄笑を上げるオオカミ。
すると、なぜか粉々に吹き飛んだはずの家が、みるみるうちに元の姿に戻っていくではありませんか。
「なんだとっ!? ワラが形状を記憶しているとでも言うのか?」
「違うね、俺の魔法の効果さ……」
再び組み上がったワラの家から、1番上のお兄さんブタが、わらしべを口にくわえ、麦わら帽子をかぶった堂々たる立ち姿で現れました。
「俺の名前はカカシ。藁術士のカカシと呼んでくれ」
「ワラ使いだと……?」
「お前の噂は聞いてるぜ、罪の無い草食動物を食い物にしている、とんだ豚野郎だってな」
「はっ、ブタに豚野郎と言われるとは思わなかったぞ」
「問答無用だ、ストローニードル!」
ワラの家が再び爆散し、先端が尖ったワラがオオカミを襲いました。
「ぐうっ!」
避け損ねた数本のワラが、オオカミの太ももに突き刺さり、ストロー状の針から、どす赤い血が吹き出していきます。
「直接血管に刺さり、塞がらない傷が血液を奪う、藁のストローってヤツさ。シャレが効いてるだろ?」
「ふん、たかがワラと侮っていたが、なかなかやるじゃないか……」
散らばったワラがまたしても収束し、今度は案山子の姿を形作っていきます。
「今さら後悔しても遅いぜ。そして、これが俺の最強技! 案山子の円舞曲!!」
十体以上の案山子がオオカミを一斉に襲います。オオカミは先ほどのダメージのせいか、その場から動こうとはしません。
カカシが勝利を確信した、その時。
ザシュッ! ザシュッ! ズババババッ!
案山子の首が胴体から離れ、また別の案山子は縦に真っ二つに割かれます。
一陣の風が吹き荒れた瞬間、全ての案山子が一瞬でバラバラに切り裂かれました。
「何っ!」
「魔法が使えるのが貴様だけと思うな……。我が名はゼファー、『静かなる風』の名を冠する者」
「風使いだとっ!?」
ゼファーと名乗るオオカミから、ただならぬオーラを感じます。カカシは戦慄を禁じえません。
「くっ! スケアクロンド!」
「暴虐の風!」
オオカミが放った突風が、カカシを案山子ごと吹き飛ばします。
「うわーっ!」
*
魔法対決で敗れたカカシは、あわてて2番目のお兄さんブタの木の家に逃げ込みました。
「弟よ、助けてくれーっ!」
「まったく、しょうがない兄さんですね。あの程度の相手に後れを取るなんて」
本を読んでいた2番目のお兄さんブタは、実の兄に対して辛辣に言い放ちます。
そうこうしていると、カカシを追ってきたオオカミが、木の家にいる2匹を見つけました。
「おっ、次は木の家か。こんな家、体当たりでぶち壊してやる!」
オオカミは木の家に、霊長類最強女子もかくやと思わせるタックルをお見舞いしようとします。
すると。
「爆発的植生!」
「ぬおっ!」
爆発的な勢いで成長した木が、オオカミの足元から突き上がり、オオカミを空中に高々と跳ね上げます。
「リーフカッター!」
さらに、追い打ちをかけるように、無数の木の葉の刃がオオカミを襲います。
「むうっ! 旋風の鉄鎧!」
オオカミの周りを竜巻が覆い、飛来する木の葉を弾きとばします。
風に乗ってオオカミは地面に軟着陸し、伊達メガネをかけた2番目のお兄さんブタと対峙しました。
「私の名はセイリュウ、木術士です。以後お見知りおきを」
「ワラ使いの次は木使いか、同じ植物系とは芸の無い」
「兄に勝ったからといって調子に乗ってもらっては困りますね。兄は三兄弟の中でも最弱、一族の面汚しです。一緒にするのはやめてもらいたい」
「まあ、間違ってはないんだけど、兄ちゃん傷つくなあ」
弟の言いぶりに、カカシは普通にへこみます。
「ふん……じゃあ、言うだけの事はあるか見せてもらおうか!」
オオカミは、前足で手刀を切る動作を行い。
「疾風の斬撃!」
「ウッドウォール!」
セイリュウはオオカミが風の刃を放つと、すかさず地面から木を生やし、木の壁でそれを防ぎます。
さらに。
「エクスプロシヴ・ベジテイション、迷いの森!」
木が次々と生長し、オオカミの周りを取り囲みます。
オオカミは風の力で空を飛び、脱出を計りますが、頭上には空を覆うほどの巨大な樹の姿が!
「私は、豚IQ180の男。あなたの行動はすでに予測済みです」
セイリュウの詰め将棋を思わせる戦略的な戦いぶりに、驚愕を隠せないオオカミ。
「これで止めです、メガトン・レッドウッド!!」
巨大樹が上空から降り下ろされ、野原に隕石が墜落したような衝撃波が走ります。
明らかにオーバーキルの攻撃でしたが、あくまでセイリュウは冷徹に。
「今まで奪って来た、命の重さを思い知るがいい。あなたには過ぎたる墓標ですけどね……」
そう言うと、興味を失ったかのように、背を向けかけるセイリュウでしたが。
「それで、勝ったつもりか?」
「何だと? 樹が枯れていく……?」
恐ろしく冷たい風が吹き荒れたかと思うと、先ほどまで青々と繁っていた巨大樹の葉が、さらに周辺の木々の葉も、みるみるうちに茶色く染まり、葉が、枝が、幹が、ボロボロと崩れていきます。
そして、朽ちて果てた木々の中から、姿を変えたオオカミが現れます。
茶色だったオオカミの毛色が、今は灰色に変わっていました。
「氷狼形態、この形態になると、我は風と氷を司ることができる」
「バカな! 二属性持ちだと!?」
「ここまで追い詰められたのは久しぶりだ。どれ、敬意を表して、氷の芸術というものを見せてやろう。寒獄の暴風!」
「エクスプロシヴ・ベジテイション! ウッドウォール……ダメだ! 防ぎきれないっ!!」
壁を形成するはずの木が生長しきる前に、次々と凍りつき枯れていきます。
そして、オオカミが身に纏った氷と共に、木々を蹴散らしながら体当たりを仕掛けてきました。
「氷鎧突撃!」
「うわあああああーっ!」
中編に続く