2つの魔剣 4
○最後に選択肢があります。4A,4Bのいずれかにおすすみください。
○あらすじ○
カーニバルの事件から一夜明け、街の散々な様子に心を痛めるイレインと師匠ランスロット。そこへ傭兵クライストが現れ、ランスロットの目の前でイレインをデートに誘おうとするが・・・
まさかカーニバルのときにモンスターが襲ってくるなんて・・・・
王都の人たちは皆そんな思いだっただろう。モンスターの襲撃は平和な街に大きな爪あとを残していった。
街に飾られた花花は無残に散らされ、血にそまり、華やかな屋台も潰れ、打ち壊され・・破片やゴミがたくさん通りにちらばっていた。
モンスターを片付けた後も街は散々たる状態で、私たちのやることは山積みだった。
街で街の人たちと協力しながら片付けをしていても、王宮騎士たちはそ知らぬ顔で通り過ぎていく。
彼らにとっては当たり前のことなのかもしれないけれど、あのおばあさんの話を聞いてから王宮騎士たちが気になってしかたなかった。
もちろん、王宮騎士にも例外はいるが・・・・。
「ありがとうございます、ランスロット様。おかげで助かりました」
「いいえ、通りかかったついででしたので。たいしたことではありませんよ」
屋台の片づけを手伝ったランスロットが、町の人たちと話している。
「ランスロット!」
私が声をかけると彼はこちらを見て走りよってきた。
「・・・ありがとう、忙しいのに・・・街の人のお手伝いしてくれてるの?」
「たいしたことじゃない。崩れた屋台を持ち上げるのを手伝っただけだ」
そういってランスロットは額の汗をぬぐった。
「それでも、ありがたいよ!地方騎士団も怪我人が沢山出てて人手足りないし」
私は大通りから街の様子を見た。
片付けをする人たちに混じって、ぼうぜんと道に座り込んでいる人や、遺品のようなものを持って泣きながら歩いていく人もいる。
街が悲しみに包まれていると思うと、心が痛んだ。
「・・・・・・・・・・・」
ため息をついて胸に手を当てていると、ランスロットが優しく肩に手を置く。
「今はつらいことばかりだが、前を向かなくてはな」
「ランスロット、私・・・・」
私は言いかけて言葉をきった。ランスロットが顔を覗き込んでくる。
疲弊した街の様子を見るにつけ、もう少し自分たちは何かできなかったのかと、後悔ばかりが先にたつ。
今更、そんなことを考えても仕方がない。前を向かなければならないのはわかっていても・・・。
「・・・お前はじゅうぶん騎士として町の人たちを守った。初任務にしては、上出来だ」
私の気持ちを見透かしたかのように、ランスロットがささやく。
「・・あれだけの戦闘を繰り返しながら、ほぼ無傷だとは、私も鼻が高いぞ」
「でも・・・・・」
私は拳を握り締める。胸の中は納得いかない気持ちでいっぱいだった。
「・・・くやしいか。くやしいならもっと腕を磨け。その腕で、もっともっと沢山の人を、守れるように」
「ランスロット・・・」
顔を上げると、彼は私を勇気付けるように笑いかけてくれた。
「・・・はい!」
私は彼の目をまっすぐに見て、返事を返した。
その直後、ランスロットが一瞬だけ、またあの寂しげな表情を浮かべる。
え・・・・
だが、はっとした次の瞬間には、彼はいつもの師匠の顔に戻っていた。
ランスロット・・・?
「あの・・・・・・・」
私が彼に声をかけようとしたとき、後ろから聞き覚えのある声がした。
「あ、いたいた、イレインちゃん」
・・・・ちゃん?
振り返ると、そこには傭兵・・クライストが立っていた。
柔らかな微笑を浮かべ、こちらを優しく見つめている。鮮やかな蒼い髪が風に吹かれてさらりと揺れた。
「あいつは・・カーニバルのときの・・・」
ランスロットが後ろでつぶやく。
「クライストさん?あれ・・でも・・・・」
私はカーニバルのときのことを思い出す。確か、トリスタンに見張られていたと思ったが。
「ああ、そのこと・・・カーニバルの件で信用してくれたんだか知らないけど、団長が監視は解くってさ。
普通の騎士たちと同じように任務に当たってくれって言われたんだ」
とまどう私にクライストがぺらぺらと答える。
「グレッグ団長がそんなことを・・・?」
ライオネスあたりから事情を聞いていたのかわからないが、ランスロットが驚いたように言った。
「はあ・・・」
大丈夫なのかな・・・
グレッグ団長の判断だから仕方ないが、一抹の不安がないわけでもない。
私の気持ちを感じ取ったか、クライストは笑って腕を組んだ。
「ははあ・・・イレインちゃんは俺のことが信用ならないんだ?」
「え?」
「そういう、ことだろ?」
彼の言葉に私はしばし躊躇する。
信用できる、とは言い切れないけれど、全く信用できない・・・ともいえない気がして。
素性は全く明らかではない男だが、カーニバルでモンスターを倒すのに協力してくれたのもまた彼なのだ。
彼がいなければ、被害はもっと大きくなっていたのかもしれない・・・。
そう考えると、最初から疑ってかかることもできないように思えて・・私は少しだけ首を振った。
「そんなことは、ないけど・・・」
クライストが片眉をあげる。
ランスロットの視線を背中に感じながらも、私はおずおずと口を開いた。
「傭兵さんとのことだって、仕方なくって言ってたし・・カーニバルのときも
みんなを助けてくれたし・・全部信じるってわけじゃないけど・・
悪い人、っていうわけではないのかなって思う・・」
「へえ。嬉しいな、そんなふうに思ってもらえるなんてさ」
「ちがうの?」
聞き返すとクライストは肩をすくめた。
「さあな・・俺がいい人なのか悪い人なのかは・・俺自身が決めることじゃないよ。
まあ少なくとも、君たちに危害を加えるつもりはないから、その点は安心していいけどね」
「はあ・・」
「そんなことよりさ・・・」
ここで言葉を切って、クライストは私にすたすたと近づいた。
近くで見ると、やっぱり綺麗な顔立ちをしていた。男性なのに睫が長くてうらやましくも感じる。
「イレインちゃんさ・・・・・これから時間ある?」
「えっ?」
ちょっと見蕩れていると、ふいに問いかけられた。ダークブラウンの瞳が優しく細められて私を見つめる。
「え、えっと・・時間ある・・って?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
後ろでランスロットがひとつ息をつくのが聞こえた。
・・・ランスロット?
少しいらだったような気配を背中に感じるのは気のせいか。
「予定ある?って聞いたんだけど」
相変わらずクライストはにこにこしながら言う。私はとまどいつつも返事を返した。
「特には・・・」
「それならさ、君につきあってほしい場所があるんだ。一緒に行かないか?」
「つきあってほしい場所・・?」
クライストは微笑んでうなずく。
「うん。イレインちゃんに来て欲しいんだ。駄目かな?」
・・・これって・・ふたりでって意味なんだよね・・?
そんなことを考えるとちょっと恥ずかしくなってくる。
私は躊躇しながらも口を開いて・・そのとき
「・・・クライストと言ったな」
いきなりランスロットが後ろから口を挟んだ。
少し怒っているような声にどきりとし、私は思わず振り向く。
ランスロットは厳しい表情でクライストを見つめていた。いや・・睨んでいる?
「?うん」
普通の男性なら縮み上がりそうなその視線にも動じず、クライストは平然と答える。
「なぜ一緒に行くのがイレインでなくてはならないんだ?」
「なぜって・・・そりゃ俺がイレインちゃんとデートしたいからだけど?」
「っ・・・・」
さらっと答えられて、ランスロットは絶句したようだった。
で・・デート・・・!やっぱりこれってデートの誘いなんだ・・・
男の人にこんなふうに誘われたことなんかない。私は顔が熱くなってきた。
「イレインちゃん、この人イレインちゃんの彼氏なの?」
クライストがランスロットを指差して問う。
「ちっ・・ちが・・・っ・・。剣の先生で・・・・」
慌てて弁解するとクライストは嬉しそうに笑った。
「なんだ。それならよかった。じゃあ一緒に行こう?」
「で、でもどうして私・・・?さ、誘うならセレさんとかのほうが・・・」
なんだか信じられなくて、そう問うとクライストは満面の笑みで答えた。
「・・・俺は君がいいんだ。さっきも言ったよ。それに・・・もしセレなんか誘ったら、トリスタンに串刺しにされちゃうからさ」
「えっ・・・トリスタン?トリスタンがどうして・・」
「あれ、知らなかった。あのふたり、できてるんだよ?」
「ええっっっ!!!???」
それこそ初耳だ。あのふたりが一緒にいるところなんて仕事くらいしか見たことないのに・・・。
「まあふたりとも知られたくなさそうだったから、一応黙っててよ」
「はあ・・・・」
私が茫然と答えるとクライストは空を見上げた。太陽がもう真上に昇ってきている。もうすぐ正午だろう。
「そろそろお昼だし、お腹もすいただろ?どこか食べにも行こう?行きたい場所はそのあとでいいからさ」
「え、ええと・・・・・・」
少し強引な誘い方に、私はとまどう。
どうしよう・・・でも、団長が信用したってことなら・・いいのかな・・。皆を助けてくれたし、悪い人じゃないようだし・・・
「駄目だ。イレイン」
「ランスロット?」
それまで沈黙を守っていたランスロットが声を上げた。
「グレッグ団長が信用しても、私は信用できない。お前はまだ世間知らずなところがある。気軽に男の誘いには応じるものじゃない」
ランスロットの言葉に、クライストが目を細める。ふたりの間が少しだけ殺気立ったような気がした。
「・・君はイレインちゃんの恋人でもなんでもないんだろ?彼女を止める権利はないはずだよ」
「権利はなくとも、私には保護者としての責任がある。イレインを危ない目にあわせるわけにはいかない」
「もう保護者が必要な歳には見えないけどな」
「・・・そうは見えても、まだイレインは未熟なところがあるんだ。誰かが見守ってやらなくてはならない」
ランスロットはクライストをまっすぐににらみつけた。敵意までありそうなその表情に、私はハラハラしてしまう。
ランスロットどうしたんだろう・・・いつもは穏やかなのに・・
クライストは負けることなくランスロットを見つめ返した。
「・・・だけど、決めるのは彼女だろ?いくら保護者といっても、彼女の意思は尊重するべきじゃないかな」
「・・・・・・・・・・・・」
納得できないような表情のランスロットだったが、それ以上は何も言わなかった。
ランスロット・・・・
確かに彼のいうとおり、クライストはまだ全面的に信頼できるような相手ではない。
だけど、私は本部の救護室で彼が子供たちに向けていた笑顔を思い出した。
軽い感じはするけれど、そこまで警戒するような人でもないかもしれない・・
そんなことを考えていると、クライストが私に向き直って聞いてくる。
「・・・さて、イレインちゃん。それで君はどうするの?」
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