2つの魔剣 2A
ランスロットに試験のお祝いをしてもらえることになったイレイン。楽しい時間をすごす二人だが、時々彼の表情が曇ることに気づいて・・・
「セレさん、ごめんなさい・・」
私は心の中でセレさんにわびながら、ランスロットに言った。
「ありがとう、ランスロット。だけど、大丈夫?カーニバルの前だけど・・」
ランスロットは微笑んだ。
「・・それくらいの時間はとってある。それじゃあ、夕刻に街の入り口で、いいか?」
私はうなずいた。
一緒に食事をとるなんて、久しぶりだ。だから、すごく嬉しかった。
日が翳り始めて、王都を夕日が染める。
このぶんだと、お祭りの明日も晴れかな・・・
私は王都の門の前で、そんなことを考えながらランスロットを待っていた。
しかし、日がすっかり落ちて街が暗くなっても、彼は現れない。
・・ランスロット・・遅いなあ・・どうしたんだろう・・・
ぼうっと待ちぼうけをくっていると、ふいに声がかかった。
「・・なあ、さっきから見てたんだけど、あんた誰か待ってんの?」
声のしたほうを向くと、知らない男が立っていた。
服装からすると、普通の市民のように見えるが、腰に剣をさげている。
傭兵かなにかだろうか。雰囲気からして柄が悪そうで、ニヤニヤしながら私を見つめていた。
なんだか嫌な予感がする。
「・・貴方には関係ありません」
早くどこかにいってほしくて、そっけなく対応した。そもそも、私の腰にある双剣が目に入らないのだろうか。
「・・女の子が剣なんかぶらさげて、ずいぶん物騒じゃないか?騎士きどりかい?」
「・・・・・・・・」
ここで本物だといったところで、笑い飛ばされるに違いない。
面倒くさくて黙っていると相手が手を伸ばしてきた。
「・・・・大分時間もたってるしさ、もう来ないんじゃない?それより、俺にちょっとつきあってくれよ」
「さ、触らないで!」
腰に伸ばされた手を払いのけようとしたそのとき。
「イレイン!」
ランスロットがこちらに走ってくるのが見えた。
ランスロットは一瞬で状況を察したらしい。私の腰に触れていた男の腕をひねりあげた。
「い、いで、いでででででっ」
男が情けない声をあげる。
「・・・・・・このまま、へし折ってもかまわないか?」
怒りのこもった低い声音に、男が縮み上がる。
「す、すみませんっ!!もうしません、もうしませんから!!」
ランスロットが腕を放すと、男は一目散に逃げ去った。
「ランスロット・・・」
「すまない、遅くなってしまって。・・ずいぶん待たせてしまったな」
ランスロットが申し訳なさそうに謝る。私は首を振った。
「・・ランスロット、忙しいもの。仕方ないよ」
「・・・すまない・・・。急に来客の対応をしなければいけなくなってな・・」
彼は私の背中にそっと触れた。その手のぬくもりに、気持ちも落ち着いてくる。
「何かされなかったか?大丈夫か」
「うん・・・助けてもらって、ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
「仮にもちゃんと騎士になれたのに・・こんなんじゃ駄目だよね・・・」
ランスロットは笑って、私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「・・・それでも、なれたばかりだろう。・・・向上心は必要だが・・あせらなくていい」
「・・・うん・・・」
うつむいた私を、彼は励ますように言った。
「さあ、すっかり遅くなってしまったな。腹はすいたか?」
そういわれて、お腹がぺこぺこなことに今更気がつく。
大きくうなずくと、ランスロットは微笑んだ。
「それじゃあ、店に急ぐぞ」
そこは魚料理のお店だった。
「今日は祝いだ。お前の好きなものをなんでも頼んでいいぞ」
メニューには魚料理がたくさんのっているけど、多すぎて迷ってしまう。
するとランスロットは苦笑しながら店員におすすめを聞いて、いくつか美味しそうなものを頼んでくれた。
「わあ・・・この煮魚・・おいしい・・・!!」
ちょうどよく味付けされた白身を口にいれると、ふわっととろける優しい味。思わず言葉が出た。
「口にあったようで、よかった」
「うん!お母さんの煮魚の次に美味しい!!」
港町で育った私は父が釣ってきた魚で母がつくる煮魚が大好きだった。
お母さん・・・元気でいるかなあ・・
故郷のテーベが懐かしく思い出されて、一人暮らしの母が少し心配になる。
「・・・どうした?」
ランスロットが白ワインのグラスを片手に尋ねてくる。
「お母さんにも、合格したこと伝えなきゃね」
「ああ・・そうだな。きっと、心配していることだろう」
そうだよね・・しばらく帰っていないし・・次はいつ行けるかなあ・・・
そんなことを考えながら魚を口に運んでいるとランスロットが口を開いた。
「今度、一緒にテーベにいくか」
「えっ・・い、いいの?」
ランスロットはうなずいた。
「私もお前の母上に、お前がちゃんとやっていることを伝えなくてはならないからな」
「お前がしっかりやってると自分で言っても、信用されないだろう」
「そっ・・そんなこと・・・」
思わず反論する。が、ランスロットはふっと笑った。
「・・・あるだろう?」
「た・・確かにそうかもしれないけど・・そんなはっきり言わなくても・・」
「はは、すまない。だが、お前が正騎士になったことを知れば、母上もきっとお前を認めてくれるはずだ」
「・・・うん・・・そうだね」
弟子入りすると決めたときの母の顔を思い出す。
私は結局、自分で説得しきれなくてランスロットが助け舟を出してくれたんだった。
「お前はちゃんと選ばれた。自信を持っていい」
ランスロットは私に微笑んだ。私がうなずくとうなずき返して、また自身の食事を再開する。
相変わらず上品な食べ方だなあと思いつつ、私も残りの煮魚を切り分けた。
お腹もすっかりいっぱいになって、満足しながら店を出る。
「今夜は月が明るいな」
「本当だ。明日のカーニバルもきっといい天気だよね」
「・・・・・そうだな」
昼間のにぎやかさが嘘のように王都の通りはひっそりと静まり返っていた。
たまに家路を急ぐ人やできあがった酔っ払いがいるくらいで、人通りはほとんどない。
大きな銀月が夜道を照らす。夜だというのに妙に明るく、不思議な感じもした。
「・・・本部まで送っていく」
「大丈夫だよ。よく知っている道だし」
ランスロットは明日すごく忙しいはずだ。負担をかけたくなくてそう答えると、彼は首を振った。
「夜道は心配だ。特にお前は少し抜けているからな」
「抜けてないよ!」
「いいから、私の言うとおりにしなさい。いいな」
師匠の顔でそういわれて、私はしぶしぶうなずく。
ランスロットからこういうことをいわれるたび、まだまだ子ども扱いされてるんだ、と思ってしまう。
来年には成人もするのに・・・
私は隣を歩くランスロットをちらと見た。
ふと目があって、ぷいとそらすと頭を撫でられる。
やっぱり子供扱い・・・
そんな私の気持ちも知らず、ランスロットが月を見上げて口を開いた。
「・・お前は、花を贈る相手はいるのか?」
「え?花?なんで?」
私が聞き返すと、ランスロットは肩をすくめる。
「お前・・知らないのか。花のカーニバルには意中の相手に花を贈る慣わしがあるだろう」
「そうなんだ。知らなかった・・・」
ランスロットは笑って言った。
「その調子では、相手もいなそうだな。まあ、お前にはまだまだ早いか」
「はっ・・早くなんか・・・。また子供扱いして・・・」
「はははっ・・」
「もう、ランスロット!!」
彼は声をあげて笑う。いつもよりちょっとだけ上機嫌にも見えるのは、お酒のせいなんだろうか。
「ほら、そんなことを言っているうちに本部についたぞ」
笑いながらランスロットが言って、気がつくとそこは本部の門の前だった。
「・・・お・・・送ってくれて、ありがとう」
「ああ・・・・。・・・・・・・・・・・・。」
とりあえずお礼を言う。ランスロットは微笑んで答えたが、すぐに笑みを消し、なにか考え込むような仕草を見せた。
「・・・・・・・・・・・・」
「ランスロット・・?」
彼は瞑目してしばらく思案していたようだったが、やがて目を開けて、言った。
「・・・イレイン」
「はい・・・」
私はゆっくりとうなずいた。彼の険しい表情に、思わず身が引き締まる。
それにうなずき返すと、彼は厳しい口調で話し始めた。
「・・・・今後の、ことなんだがな・・・」
ランスロットの紺の瞳が、私を見据える。私は緊張しながらも、彼の次の言葉を待った。
「・・・・お前が弟子入りするとき私がした話を、覚えているか」
「・・・・・・・・?」
「女性の身で騎士としてやっていくには、並大抵の苦労ではすまないと」
「・・・はい」
その話は弟子入りのときだけでなく、何度も何度も聞かされた。
セレさんにも同じようなことを言われた気がする。
「騎士としての技量は問題ないだろう。だが、男たちの中にはお前を快く思わない者も多い」
私は試験前夜のことを思い出した。嫌悪感が胸にこみ上げ、慌てて頭の中から追い払う。
「正騎士となったことで、男所帯の騎士団では、今まで以上の苦労を強いられることとなる」
「・・・わかってます」
「本当にわかっているか?」
私は少し躊躇したけれど、彼を見つめて大きくうなずいた。
具体的にどれだけの苦労があるのか、正直わからない部分も多い。
だがこんなところまできて今更あきらめたくはない。覚悟はできているつもりだった。
「・・・・・・・・」
ランスロットは目を伏せてしばらく思案しているようだったが、やがて私をまっすぐに見つめて口を開いた。
「・・・お前の母上が言ったように、他の生きる道もあるだろうに・・お前はあえてこの道を選ぶのだな」
殆どの女の子が選ぶ生き方を、私はあえて選ばなかった。だからこそ、ここでやめるわけにはいかない。
私が決意をこめて彼を見つめ返すと、彼はなぜか切なげな表情を浮かべた。
ランスロット・・・?
「・・・それなら、今まで以上にお前は強くならなければいけないな。どちらかというと、精神的に」
「・・・はい」
ランスロットは微笑み、私の肩に手を置いた。
「・・・・・。師匠として、お前の活躍を期待している。グレッグ地方騎士団長のもと、王国のために尽力してくれ」
「ランスロット」
「みんなを守るために、その剣を振るうのだろう?」
「はい!!!」
勢いよく返事をするとランスロットは激励するように私の肩を叩いた。
「・・・・・とりあえず、明日は羽を伸ばすといい。ただし、羽目をはずしすぎるなよ?」
「わかってます!」
私の言葉に、彼が満足そうにうなずく。
「・・・頼むぞ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、ランスロット!」
ランスロットはふっと笑って、身を翻し去っていった。
これからもっともっと、頑張らなくちゃ・・・!
夜の帳に消える彼の後姿を見ながら、私はこれからの決意を固める。
おそらく様々な困難がこの先たちふさがるのだろう。
だが、おびえているわけにはいかない。私は満ち足りた月を見上げながら、騎士団本部の門をくぐった。
→次話 2つの魔剣 3




