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2つの魔剣



・・・古代人魔戦争から500年・・

長引く戦争で疲弊した魔族たちは

数の少なさからやがて絶滅し

生き残った人間たちが、

繁栄の時代を迎えていた



北の大陸の中でも最大といわれるクレール王国・・・

この国がもつ強力な騎士団はその有能さで

クレールの長き平和を守ってきた。

しかし何年も続いた平和は皮肉にも

騎士団の弱体化を招き

平和に慣れた人間たちも

これからかの国に訪れるであろう最大の危機を

知る由も無かった




クレール王国、南端の小さな港町テーベ。

慎ましく漁業を営むこの街の海岸で、少女イレインは

漁師である父親の帰りを待っていた。


波打ち際に闇が落ち、諦めて帰ろうとしたそのとき、

彼女を魔物が襲う。


死を覚悟したイレインを救ったのは、

両の手に特殊な剣を持つ王都クレールの騎士だった――





・・・古代人魔戦争から500年・・

長引く戦争で疲弊した魔族たちは

数の少なさからやがて絶滅し

生き残った人間たちが、

繁栄の時代を迎えていた


北の大陸の中でも最大といわれるクレール王国・・・

この国がもつ強力な騎士団はその有能さで

クレールの長き平和を守ってきた。

しかし何年も続いた平和は皮肉にも

騎士団の弱体化を招き

平和に慣れた人間たちも

これからかの国に訪れるであろう最大の危機を

知る由も無かった





私の故郷テーベは、クレール王国の南端にある港町だ。

街の南にはネド砂漠という大きな砂漠がある。モンスターも多く出る危険な場所。

そのわりに王都クレールから海を挟んでいるせいか、騎士団の目もなかなか届かない。

だから私の町はモンスターの襲撃が他の町より多くあった。

その日も、夜、街はモンスターに襲われた。


「ねえイレイン、まだ帰らないの?」

「ごめんアガタ、先に帰ってもいいよ」

その日いつもの海岸で、私は幼馴染のアガタと遊んでいた。

だけど日が暮れてくると子供は帰らなくちゃいけない。

私がそう言うと、アガタはなんだかさびしそうな顔をした。

「イレイン・・・お父さんのこと待ってるの?」

私のお父さんは漁師で、殆どは海に出て漁をしている。

今日はひさしぶりに帰ってくるだろうって言われてる日だった。

「うん。私もうちょっとここで待つよ」

私はアガタにそういった。

ここからなら、お父さんの船がきたときにすぐわかる。

私は去っていく幼馴染にさよならを言って、また日が沈もうとする海を見つめた。

お父さん・・・もしかしたらもう家についてるのかな・・?でも、船はまだきてないし。

私はため息をついた。

「もう少し・・・待ってみようかな・・・」

そのとき。

がさっと、後ろの茂みのほうで音がした。

なんだろう・・?

私が振り向いた瞬間。

ばっと、茂みから何かが飛び出してきた。

「!!!!!」

飛び出した巨大な何かが、私の前に立ちはだかる。

モンスター!!

狼をもっと大きくしたような風貌。だが口蓋は不自然に割れ、異常に発達した鋭い牙が何本も顔を出していた。

『ぐるるぅ・・・』

狼は低く恐ろしい声で唸り、私を見下ろす。大きさは普通の狼の2倍はあった。

「・・・・っ・・・やあ・・・・」

私は恐怖で声も出ない。やっぱり、アガタと一緒に帰っておくんだった。

暗くなる前に帰りなさいといった母の顔を思い出す。


狼は大量のよだれを砂浜の上にだらだらとたらす。ぐっとその体をかがめて私に狙いをつけているようだった。

『があああっ!!』

狼が大きくジャンプして私に飛び掛る。

もうだめっ・・・

私は頭を抱え目をつぶった。

『ザシュッ』

『ぎゃいんっ!!!!』

・・・・・・・・・?

何かを切り裂くような音と、狼の鳴き声が砂浜に響いた。

恐る恐る目を開けると・・・

「きゃあああっ」

目の前には、血みどろになった狼の死体がある。

誰かが剣で斬りつけたようだった。

ぼうぜんと狼の死体を見つめていると、後ろから声が聞こえた。

「・・・こんなところに子供が一人で・・・。危ないな。早く家に帰りなさい」

「あ・・・」

振り向いて、一目見た瞬間わかった。

王都クレールの騎士様だ。

男性にしては長めのブロンドが、闇に映える。血に濡れた剣を一本ずつ両手に持ち、私を鋭い瞳で見下ろしていた。

身に着けた鎧と装飾品、マントから、子供の私でも位が上のほうの人だということがわかる。

「あ・・・・」

私はすぐに立ち上がろうとしたが、足がすぐには動かない。

「・・・?・・・怪我でもしているのか?」

騎士様は私に近寄り、長身をかがめた。顔が近づいて、鋭かった瞳がふっと柔らかくなる。

「・・ご、ごめんなさい、怪我はないけど・・た、立てなくて・・・」

おずおずと言うと、彼は優しく微笑んだ。

さっき、血に濡れた剣を持っていた男と同一とは思えないほど、優しい笑みだった。

「・・・そうか、怖かったんだな」

彼はうなずき片手にふたつの剣をまとめると、手を私に差し出す。私がその大きな手につかまると、ひょいと立ち上がらせてくれた。

「・・・大丈夫か?家までたどりつけるな?」

「・・・はい、あ、あのありがとうございました」

「礼はいい。早く行け」

言い方はそっけないが、口調は限りなく優しいものだった。

私は彼に頭を下げて、すぐにきびすをかえし走り出そうとした。

すると、海岸の向こうから誰かが走ってくるのが見えた。

「兄貴!」

こちらは銀髪の少年だった。8歳の私より5,6歳年上くらいだろうか。

その顔にはまだあどけなさが残っているが、腰にはさっきの騎士様と同じふたつの剣を下げていた。

「ライオネス」

後ろでさっきの騎士様が言った。あの少年の名前らしい。

「兄貴!やべえぞ!街にどんどんモンスターが集まってきてる!」

ライオネスは暗かったからか私に気づかないまま、騎士様に叫んだ。

そんな・・!!

私は逃げ出すことも忘れて騎士様のほうを振り向いた。だが彼は冷静だった。

「・・ネド砂漠からのはぐれモンスターか・・・。街の入り口・・砂漠側に急ぐぞ」

「兄貴!?だ、だけど俺らふたりだけじゃ・・・」

「騎士団からの援護を待っている暇などない。ここで食い止めなければ街はモンスターに全滅させられる」

「だけど・・・」

「ライオネス、お前も騎士の卵なら、覚悟を決めろ」

「やるしかねえってことかよ・・・!」

ライオネスは舌打ちした。自らの腰の剣を鞘ごとぐっと握り締める。

「・・・いつまでそこにいるんだ。早く逃げなさい」

騎士様がこちらを見つめて言う。私ははっとわれに帰った。

「なんだこのガキ?」

ライオネスがやっと私の存在に気づいて、騎士様が答えた。

「・・ウェアウルフに襲われそうになったところを助けた。街の子供だ・・・早く行きなさい」

「ご、ごめんなさい!!」

私はすぐに謝り海岸をあとにした。

ネド砂漠のモンスターは強い。他の地域で出るモンスターよりも、手ごわいといわれている。

それなのに、いくら騎士様といえど、たったふたりで食い止められるのか・・・。

最悪の事態を想像してしまって、私は唇をかんだ。

だけど今、子供の私にできるのは家に帰り母とともに避難すること、それだけだった。


モンスターが襲ってきても、私たちは立ち向かうすべを持たない。

下手に立ち向かい命を落とすよりも、逃げて命を守るほうが賢明だ。

そんなふうに私は小さなときから教えられてきた。

戦うことは傭兵や騎士たちにまかせていればいいのだと。

例え目の前で近しい人が襲われていても、私たちは逃げるしかない。

他の皆はそうやって生き延びてきた。だから特に疑問も持っていなかった。

だけど、私は納得がいかなかった。


「本当にありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいか・・・・・・」

あの悪夢のような夜が明けて、次の朝。

街の広場で街の長が例の騎士様とその弟に何度も頭をさげていた。

「・・・私たちは責務を果たしたに過ぎません。礼など無用です」

騎士様が長に微笑みながら謙虚に返答する。

あれだけの数のモンスターを相手にしながら・・・弟は多少怪我をしたようだが、騎士様は殆ど無傷だった。

「すごいねえ。やっぱり王都の騎士様はお強いんだねえ」

隣の母が感嘆の声を上げた。

「騎士様が戦ってるところ、すごかったもんなあ。両手に剣持ってさ・・あれって双剣っていうらしいぜ」

「双剣って、なんか聞いたことある。すっげえ扱い難しいんだろ?」

広場に集まった男たちが、そんなことを話している。

「ねえねえイレイン、あの騎士様、ちょっと格好いいよね?」

アガタが私をつついてひそひそと耳打ちする。

「そうだね・・昨日の夜、すごく強かったもんね」

私が答えると、アガタはばんっと私の肩を叩いた。

「やだあ~!そりゃそれもそうだけど、顔だよ顔!」

アガタの大声に、広場の皆が私たちのほうを注目する。もちろんあの騎士様も。

「・・・アガタ!声が大きいよ!」

「ごめーん・・」

謝るアガタ、ともかく恥ずかしい。私はその場をそそくさと離れようとして・・

「無事だったんだな。あのあとちゃんと家に帰れたか心配していた」

気がついたら騎士様が目の前に立っていた。私は長身の彼を見上げて目を見開く。

やわらかそうな金髪が風に揺れる。深い紺色の瞳が、優しげに私を見つめていた。

アガタの言う、格好いいとかはよくわからないけれど、なんだかすごく安心できると思った。

「娘を助けていただいたようで・・・本当にありがとうございました」

母がお礼を言って、深々とお辞儀をする。

「礼には及びませんよ」

騎士様は母に丁寧に応対する。彼の肩越しに、あの弟がつまらなそうにこちらを眺めているのが見えた。

アガタは恥ずかしいのか、私の背中に隠れているみたいだ。

私は昨日の夜の、騎士様の戦いを思い出していた。

まるでモンスターたちの間を縫うように走り、目にも留まらぬ速さで次々と斬りふせていった。

それは、剣で普通に斬り付けるのとは違う、特殊な剣術のようだった。

堂々とモンスターたちの前に立ち、大勢の人を守るために戦う、そのすべを持っている人・・・。

私にもそんな力があったら・・・・

私は彼を見つめながら、そう願っていた。いつのまにか握り締めた両手にはたくさんの汗をかいていた。


どうしてそんなことを思ったのだろう。

剣を扱えるようになれるなんて、そんなことを自分で思っていたのかどうかさえわからない。

でもたとえなれなくってもいいと思った。何もしないで諦めることが私にはできなかった、ただそれだけのことなのだ。


「お願いします! 私を弟子にしてください!」

私は無理を承知で、海岸にいた騎士様に弟子入りを頼んだ。

案の定、騎士様はひどく困ったような表情をしていた。

そんな反応も予想のうちだった。でもやれるだけのことはやりたい。

私はうつむいて、ぽつぽつ彼に話し始めた。

「・・・・・他のみんなは言うんです。逃げていろ、隠れていろって・・・。

 戦いのことは騎士様にまかせていろって・・・。でも、私は嫌なんです。

 もう逃げるのも、隠れているのも・・・」

彼はひとつ息をついた。ため息のようにも思えた。

「・・・逃げるのも隠れるのも自らの生命を守るために必要なことだ。

 恥ずべきことではない」

私は顔を上げた。でも、それでも―

「でも!!!」

「私もみんなを守りたいんです!貴方みたいに!!」

そして・・・・・・・・・・・・・・。

騎士様とともに母へ事情を話すと、母はとても驚いて当然のように反対した。

女の子が騎士になるなどとんでもないことだと、だが、騎士様の説得に折れ、私は彼の元で正式に弟子として修行することになった。

私の師匠となった騎士様の名前は、ランスロット。

エリートと言われるクレール王宮騎士団の一員で、世界でも稀とよばれる双剣を扱う一流の剣士だった。


私はランスロットとライオネスとともにテーベを離れて、王都クレールで修行することになった。

たくさんの汗と、悔し涙とともに歳月はあっというまに流れ・・・



それから、8年。






「やあっ!!たああっ!!」

声とともに剣戟が耳に響く。

私はいつもの森で、ランスロットと訓練に明け暮れていた。

ランスロットは1年前、王宮警備を仕事とする、王宮騎士団の隊長に昇格した。

そんなだから、なかなか訓練の時間をとれることも少なくなったけれど、

今日はひさしぶりに一日稽古につきあってくれていた。

速いスピードで連続に繰り出す二つの剣を、ランスロットは丁寧に打ち返す。

通常の剣のように、双剣の攻撃は1度ずつではない。

攻撃一回が4,5回斬り付ける一連の動作で、高速で身を翻しながら何度も何度も斬り付けるのだ。

動作に隙がないほど、相手に反撃させず有利に戦うことができる。ただその分高い技術がいった。

「ようし!今日はここまで!」

ランスロットが叫ぶ。私はその一声に練習用の模擬剣を収め、一礼した。

「・・・ありがとうございました!」

息を切らしながら言うと、ランスロットは満足そうに微笑んだ。

「よくがんばったな、イレイン」

「疲れたあ・・・」

訓練のときはすごく厳しいが、終わればランスロットはすごく優しい。

草の上にぺたんと座って、乱れた呼吸を整える。

「これくらいでばててどうする。明日は正騎士承認の試験だろう?」

ランスロットの言葉に、私は首をかしげる。

・・・・あれ?・・・・ああ!!

「そうだった。忘れてた!」

毎日訓練のことばかり考えていて、試験があるということを忘れてしまっていた。

「忘れるなよ・・・」

ランスロットは額に手を当て一瞬うつむいたが、すぐに顔を上げて私に言った。

「いよいよ、見習いから正騎士に承認だな」

「まだわからないよ、ランスロット」

そう改めて言われるとなんだかちょっと不安になってくる。

「お前なら大丈夫だ。イレイン、自信をもっていってこい」

「う、うん・・・」

ランスロットが私の目を覗き込んで元気付けるように言ってくれる。

ランスロットがそういうなら・・・大丈夫だよね、きっと。

私がうなずいていると、ランスロットは持っていた模擬剣を片手にそろえた。

それからやはり彼も汗をかいていたのか、襟元を開ける。形のいい鎖骨が少し見えた。

「今日は少し暑いな」

「もう少しで春だものね。日差しが暖かくなってきたよね」

そういう私も汗びっしょりだ。早く帰って水浴びしたいなあ・・

「そうそう、試験官は私の弟、ライオネスに決まったよ」

「ええっ!そうなの?」

ランスロットが思い出したように言い、私は驚く。

ライオネスかあ・・・なんかすごく厳しくされそうな予感・・・。

私の心中を読んだか、ランスロットは少し意地悪そうに笑う。

「ああ、手加減しないように言っておいた」

「うう~・・」

さらに追い討ちかけるようなこといわないでほしいと思う・・・。

「さ、そろそろクレールに帰るか。ほら、疲れているのはわかるがちゃんと立てよ」

ランスロットは私の模擬剣を回収するとそういってさっさと先を歩き出す。

その言葉に私は我にかえった。そうだよね、とにかく明日はがんばらないと!

「はい!!」

私は勢いよく返事をして、彼の背中を追った。


王都クレールはこのクレール王国の首都。

小さい港町テーベから最初つれられてきたときにはその広さにすごくびっくりしたっけ・・・。

石畳の道にレンガでできた家々が立ち並び、町並みは綺麗に整えられている。

今日も街の大通りはわいわいとにぎやかそうだった。

「今日は寄り道せず早めに帰って、自分の部屋で休めよ。

 帰ったら、グレッグ地方騎士団長に挨拶を忘れずにな」

ランスロットが王都の門の前で言う。地方騎士団っていうのは私が今お世話になっているところだ。

王族や王宮の警備をするのがランスロットのいる王宮騎士団で、王都の警備をするのが地方騎士団ということになる。

「わかってるよそんなこと!ランスロットはいつも同じことばっかりいうんだから」

私はついつい反発してしまった。

「ははっ、そうか」

彼は大して気にもせず笑い、私の頭をなでた。まだまだ子供だと思ってるんだろうか。

なんだか複雑な気分だ。

「それじゃ明日の試験、頑張れよ。いい知らせを待ってる。」

「うん・・・」

「じゃあな」

ランスロットはまた私の頭をなでたあと、マントを翻して大通りを王宮のほうへ歩いていった。すぐに人ごみにまぎれて姿は見えなくなる。

・・・・・・さて、早く帰って水浴びしよっと。あ・・えっと、その前に団長に報告だっけ。

私は気を取り直して、地方騎士団本部の方向へ歩き出そうとした。するとー

『がっしゃーんっ!!!』

「きゃあーーーー!!」

突然響いた、ガラスやらなにやらが割れたような音。とほぼ同時に、女性の叫び声が聞こえてくる。

「なんだなんだ?」

「酒場のほうから聞こえてきたな・・」

通りは一時騒然となった。

「酒場・・・?」

ちょっと怖いような気もするけど、私も見習いとはいえ騎士団に所属する身だし・・ほっとくわけにもいかないよね・・。

私は通りに面する大きな酒場に入った。

「2階に様子を見に行きたいけど、怖くていけないよ・・・。

柄のわるい傭兵をみたときから、嫌な予感がしてたんだよなあ・・・」

1階では男性客が震えている。

私は深呼吸をして、おそるおそる2階への階段をのぼった。

2階に上がると、左手奥のカウンターには誰もおらず、ほぼ真ん中のテーブルに青い髪の青年が食事している。

その脇にいかつい顔で筋肉隆々の男が立って、なにか青年にわめいていた。

他のお客は姿が見えないと思ったら男の剣幕におびえて遠巻きに眺めているらしい。

「んだとてめえ!!!もう一回言ってみろ!!!」

男ががらがらのだみ声で青年に怒鳴る。だが青年は全く気にしていない様子で、フォークについたチキンのひときれを口に運んだ。

もぐもぐと口を動かしごくりと飲み干したあと、いかにもめんどくさそうに椅子から立ち上がる。

「・・・だからさ・・・俺はなにもしてないって」

「嘘付けこの野郎!!!俺のスーリアに手出したのはてめえだろお!!」

青年は肩をすくめる。

「なんのことだかさっぱりだ」

男はすっかり頭にきたという感じで、テーブルを拳でがんとなぐりつけた。

「うるせええ!!!ネタはあがってるんだ助平野郎!!」

「・・・・君には言われたくないなあ。

とりあえずさ、その怒鳴り声なんとかしてくれないか。俺は静かに食事したいんだ」

青年はここでちょっと言葉を切る。ほんの少しだけ間をおいて、思い出したように言った。

「・・それに・・俺は拒まなかっただけで、あのときは向こうから・・」

男が目を剥く。

「やっぱりてめえじゃねえか!胸に刺青のある男って言うから、どんな奴かと思ってたが・・こんなガキに俺のスーリアが・・・」

「俺は一応、今年で25なんだけどなあ・・」

青年のとぼけた態度に、男はもう一度テーブルを殴りつける。テーブルの表面が凹んだ。

「んなこたあ聞いてねえんだよ!ともかく許せねえ、ここで袋にしてやる!!」

男は今にも青年に殴りかかりそうな雰囲気だ。遠巻きに見ていた店員が蚊のなくような声で懇願した。

「お、お客さん、困りますよぅ・・・・・・」

ここで割り込むのには勇気がいるけれど、店の人も困っている。ほうっておくわけにもいかない。

私は意を決して一歩を踏み出すと男たちの前に飛び出した。

「やめて!!」

男が不機嫌そうに振り返る。

「ああ?」

青い髪の青年は男の肩越しから不思議そうにこちらを見た。

「?」

体格のいい男を前に、私はまるで子供だ。男の目がぎろりと私を見下ろしている。

こ・・こわい・・・でも言わなきゃ!!

「他のお客さんが迷惑してるよ!!お店の人だって・・」

「・・なんだあ?このちいせえガキは・・・」

完全に馬鹿にされてる気がする。私は一生懸命胸を張った。

「ちいさいガキって・・

私は、ち、地方騎士団の者です。市民に迷惑をかける行為は許しません!」

「騎士団だあ?っくくっ・・・はははははははははっ!!!

なんかのまちがいだろ?おうちに帰ってお菓子でも食べてな、おじょーちゃん」

男は唾をとばし大声で笑い出す。本当に馬鹿にされている。

わ・・笑われた・・・・。私は途端に恥ずかしくなりながらも叫んだ。

「っ・・・とにかく、迷惑がかかるからもうやめて!」

「やだって言ったら、おじょーちゃん何してくれんのかな?」

にやにや笑って、私の顔を覗き込む男。私は腰に下げた2本の剣を抜いた。

「力ずくでも従わせます!・・・」

「なんだそりゃ・・おもちゃの剣か?」

男は双剣をまじまじと見つめている。まさか真剣だとは思っていないらしい。

「・・・・・・へえ・・・双剣・・かな?珍しいな・・」

青年がぽつりとつぶやくのが聞こえた。

「ガキが騎士なんかきどりやがって・・・誰がてめえの言うこと聞くかってんだ!

ふっざけんな!!」

男は私に向かって拳を振り下ろそうとした。大柄なわりに意外な速さ。

間に合わない!!!

私は目をつぶった。

「・・・・・?」

予想していた衝撃がこないことをいぶかしんで目を開けると、目の前に誰かの背中がある。男の拳を手で受け止めていた。

見慣れた後姿だった。短くしたくせ毛のプラチナブロンド。見上げるほどの長身に、広い肩幅、大きな背中。

「そこまでだ。てめえら」

低い声が酒場に響き渡る。遠巻きに見ていた人たちが安心の表情を浮かべるのが見えた。

「ライオネス!!」

私はその男の名前を呼んだ。ライオネスは振り返る。透き通ったアイスブルーの瞳が私を捉えて―

「この馬鹿野郎!!」

いきなり叱られた。

「ひゃ・・」

「まだひよっこの癖に、こんなとこで剣なんかほいほい抜いてんじゃねえ!!」

「ご・・・ごめんなさい・・・」

結構怒ってるみたい・・・。確かに剣を抜いたのは軽率だったかな・・・剣をしまいながら私がしゅんとして謝ると、彼は大きなため息をついた。

「ったく・・・兄貴も甘すぎだぜ・・どんな教育してんだよ・・」

大柄男は、突然強そうなライオネスが現れたので、しばし呆然としている。

ライオネスは気をとりなおすように顔を上げ、大柄男に尋ねた。

「で、喧嘩の原因はなんなんだ?」

「・・・なんだああんた?他人のことに首つっこんでんじゃねえよ」

男は我に帰ったようでライオネスに文句を言う。

「そういうわけにもいかねんだ。俺ら地方騎士団は街の治安を守る義務がある。

市民が迷惑するようなこたあやらねえでもらいたいんだ」

「他の奴らなんか関係ねえ!俺はこいつに女を寝取られたんだぞ!!」

男は青い髪の青年を指差した。青年はそ知らぬ顔で食事を再開している。

ライオネスはため息をついた。

「はあ・・・色恋沙汰かよ・・」

「だから・・俺が寝取ったんじゃない、あっちが勝手に・・・」

青年が口をもぐもぐさせながら言うと、男は振り返って怒鳴りつける。

「うるせえ同じだ!!」

ライオネスは頭をぼりぼりとかきながら、面倒くさそうに言葉を吐いた。

「あー、落ち着け落ち着け。お前ら、どっちも傭兵だな?」

男と青年は同時にライオネスを見た。

「・・・おう」

男は青年を相変わらずにらみながら返答する。

「・・・うん、まあそうだね」

そんなことを言いながら青年は紅茶をひとくち飲んだ。

傭兵さんなんだ・・。一見、そうは見えなかった。青年はどちらかというと細身で、線が細いイメージだ。

だが装備をよくみると、胸当てなどからやはり戦いを生業としている人間ということがわかる。

「じゃあとりあえず、街出ろ。で、どっかの森で決闘でもしろ。俺が連れてってやる」

決闘!?ライオネスの言葉に私は驚く。そんなことしていいの??

「ちょ、ライオネス!?」

「理由はどうあれ、そうでもしねえと気が晴れねえんだろ?」

片手を腰に当てながら言うライオネスに、大柄な男は嬉しそうにガッツポーズした。

「わかってるじゃねえか兄ちゃん!!」

「やれやれ・・面倒くさいことになったなあ・・・」

青年はあまり乗り気でない様子だ。

「てめえも異存ないな?」

だがライオネスに言われると、渋々ながらもうなずいた。

「・・わかったよ。あ、でもその前にこのチキン定食食べてもいいかな?」

絶品でさー残すのはもったいないよーといいながら青年は食事を指差す。

「さっさとかっこめ」

「ら、ライオネス・・・」

青年にすげなく言い放って、ライオネスは私のほうを向いた。

「てめえは明日試験だろ?とっとと騎士団長のとこ挨拶して休めよ。あとのことは俺が引き継ぐ。てめえら、行くぞ」」

ライオネスは傭兵ふたりをつれて酒場を出て行く。青年が店員にごちそうさまーと声をかけるのが見えた。



街に出ると、ちょうどグレッグ地方騎士団長とその一人娘で先輩のセレさんが迷子を保護しているところだった。

地方騎士団員は、町の警護だけじゃなくて町の人たちの役に立つことならなんでも請け負う。

自分も直接街に出て仕事をするグレッグ団長は、セレさんとともに街のみんなに慕われていた。


「傭兵?」

私が聞き返すと、セレさんは渋い顔をした。

どんな表情をしても、セレさんは本当に美人だとつくづく思う。

つやのある長い髪、長い睫に切れ長の瞳。透き通るような白肌。加えて・・通った男の人がみんなふりむくような女性らしい身体つき。

だけど、男勝りというか、ものすごく気が強いから男たちは憧れながらもみんな近づけないようだった。

本当はすごく優しい人なんだけどね・・・。

「・・・地方騎士団はずっとここのところ人手不足なんだ。お前も・・うすうす気づいていたかもしれないが」

「だから、父さんはとりあえずの不足を解消するために、傭兵を雇うことにしたんだ」

セレさんは先を歩く団長の背中を見ながら言った。なんだか少しつらそうだった。

「傭兵かあ・・・」

さっきの男と青年が思い浮かぶ。もしかしてあのふたりも・・地方騎士団にきてたとか?

だけどいきなり騎士団員のライオネスに世話になるくらいだし、そういうわけでもないか・・・。

本部の団長の部屋につくと、早速団長が明日の試験の説明をしてくれることになった。

だが肝心の試験官のライオネスがいない。

「そういえば、酒場で傭兵さんたちの喧嘩があって、決闘させるっていって森に・・・」

私が言うと、セレさんは目を見開いた。

「決闘だと!?」

「ライオネス・・やってくれたな」

団長は頭を抱えている。

「なにか・・・いけないんですか?」

ただならぬ雰囲気に私が質問すると、セレさんが慌てた様子で答える。

「当たり前だろう!傭兵同士で決闘などしたら、死人が出て仲裁どころじゃ・・・」

「ただいま戻りましたっと」

セレさんの言葉の語尾に、ライオネスの台詞が重なる。声のほうを向くと団長の部屋にぶらぶらと入ってくる彼の姿が見えた。

「ライオネス!傭兵同士で決闘させたというのは本当か!?」

セレさんの勢いに、ライオネスは多少驚きながらも普通に答えた。

「・・なんか悪かったか?ああでもしなきゃあいつらずっとやってそうだったし・・・」

「この馬鹿者めが!」

団長の叱責がとぶ。団長が激するなんて、珍しいことだ。私もライオネスも、びっくりして目を丸くした。

「殺し合いをしろ、というようなものだろう!地方騎士団の騎士ともあろうものが、殺人を進めてどうする!」

団長の剣幕に、多少おびえながらもライオネスは言い訳くさく答える。

「いや、剣は使わないように言って・・・」

「最後まで見届けたのか?」

セレさんの間髪入れずの質問にライオネスはことばにつまった。

「いや・・・・その・・・」

「はあ・・・」

セレさんがため息をつくと同時に、ひとりの騎士が血相を変えて走ってきた。

「大変です!今報告がありまして、クレール近くの森にて傭兵の死体が発見されたと・・・!!」

「!!!!」

顔を青くするライオネス。団長が予測していたかのようにため息をついた。

「・・わかった。あとで調査と回収にいくぞ。・・・ライオネス」

「は・・・はい・・・」

ライオネスは小さくなって、団長に返事を返した。

「明日の試験は予定通り行う。その後は当分停職扱いだ。いいな」

団長の無情な言葉に、ライオネスはますます小さくなる。

「て・・・停職・・・・」

「当たり前だ・・・・・」

セレさんが深ーいため息をついた。


そのあと、団長から試験の説明をされて、夜。

私はなんだか緊張して眠れなかった。

私は夜風にでもあたろうと、少しだけ裏庭にでも出てみることにした。

もうすぐ春だけあって、夜風の冷たさも和らいでいる。

「ふう・・・」

私が裏庭で休んでいると、後ろから誰かがやってきた。

「おっ、騎士の卵じゃねーか。こんなとこでなにしてんだ?」

知らない騎士だった。でも人手不足とはいえ、地方騎士団もたくさんの騎士がいる。

私はたいして気にもせず、普通に返答した。

「あ、ちょっと眠れなくて・・・」

騎士はそれを聞くと、いやな笑いを浮かべた。

「ふうん・・・眠れなくてねえ・・・」

なに・・・?なんかやな感じ・・・

彼の笑いにすごく嫌な予感がした。何とはいえないが、とにかく嫌な感じだった。

「あ、あの、私そろそろ部屋に・・・」

そう言った瞬間、どんと強い力で突き飛ばされた。

「きゃっ・・・!?」

私は尻餅をついた。裏庭の木に背中をしたたか打ち付ける。

「いたっ・・・」

いきなり、なに!?

痛みに耐えながら見上げると、騎士はいきなり私の顎をとらえる。

「っ・・・」

「へえ、やっぱりかわいい顔してんじゃないか」

そばかすだらけの顔が近づいて、私は逃れようと身をよじるが、逆に今度は覆いかぶされた。

「!!!や・・・」

「もったいねえなあ・・

 わざわざ血生臭い仕事なんか、することねえだろ」

男が何をしようとしているのかがわかり、私は恐怖に駆られて必死に逃げようとした。

だが、腕も足も押さえつけられていて、こんな体勢では身を守ろうともできるわけがなかった。

「剣を握るのは男の仕事だぜ。女のすることじゃねえ。そうだろ?」

男が耳のところでささやく。全身が粟だった。

「女の仕事ってのはな・・・」

男が私の衣服に手をかける。

「やっ・・」

息を吸い、大声で助けを呼ぼうとするが、同時に後頭部をつかまれて男の顔がぐんと近づく。

・・・・・・!!!!

もうだめだと思い目を閉じた瞬間、体にのしかかっていた重みがふっと消え去った。

「・・・・え?」

こわごわ目を開けると、男の姿はすでにない。

「何やってんだ、てめえっっ!!」

聞きなれた声が聞こえて、私は顔を上げる。そこには、男に殴りかかるライオネスの姿があった。

「ひ、ひいいいっ」

ライオネスに一発殴られてにらみつけられた男はそれだけで怯え、慌てて逃げ去っていく。

「・・・・クズ野郎が・・・」

ライオネスは男の逃げた方に向かい舌打ちすると、私のほうにかがみこんだ。

「・・・・・・ライオネス・・・」

私は肩で息をしながら彼を見つめる。まだ襲われたときの恐怖が体に残っていて、足がカクカク震えていた。

「・・・お前よ・・夜中に一人でこんなとこ、出てくんなよ」

ライオネスがぽつりと言う。その表情は月明かりの影になってよく見えなかった。

「だ、だって・・・」

まさかこんなことに、という言葉を飲み込む。同じ騎士団本部の中だからと、油断していたのもあるのだろうか。

「・・・・まあ・・・ああいうくそな連中がいるっつー事自体が、一番問題なんだけどよ・・」

はああ、と彼がため息をつく。

「・・・・・・・・・・・・」

私は腕の震えをとめる様にぐっと手首を握り締める。歯を食いしばって、こみあげてくる何かに必死に耐えた。

これから騎士になろうとしてるのに・・こんなことでどうするの・・・

私は自分を自分の中で叱咤した。でもどうしても耐えられなくて、嗚咽をもらした。

「っ・・・・・・う・・・」

一度涙がこぼれると、あとはもう取り返しがつかなかった。

泣いてはいけないと思うほど、涙はあとからあとからとどまることを知らなかった。

「・・・・・仕方ねえな・・」

「!」

ライオネスは私の肩に手を回し、そのまま引き寄せた。少しだけ抱き寄せられたような形になって、どきりとする。

「・・・早く泣き止めよ。それまで、ちっとこーしててやっから」

ぶっきらぼうな物言いと反対に肩にまわした手はすごく優しくて、私はまた涙をこぼしてしまった。


→次話 2つの魔剣 2 へ



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