戦いと戦いと終結
激しい突進と共に、「鈴木 終」が変身した「オルフェーブル」が「バースト」へ突進する。バーストもそれに応戦し、右半身から、零れ落ちる水滴のように分離した暗黒色の玉を放つ。細かい数個の玉が踊るように向かってくる。しかし、それを寸前で交わし、避けきれない玉は、その屈強な両腕で叩き落としていく。
響き渡る爆発音。崩れかける教室の足場。羽矢はユウを抱え、教室を脱出する。
右腕に巻かれた包帯が僅かに血で染まる。そんな事は気にも止めず、オルフェーブルは大きく右腕を振り上げ、バーストを黒板と共に、顔面を殴り飛ばした。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアン。ガランガラン』
教室の壁が激しい音と共に崩れ落ちる。
「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」
バーストの悲鳴が響く。
「今のはただの挨拶だ」
と、バーストは校舎の外、グラウンドにたくさんの生徒達が集まっている事に気付いた。バーストは人が集まっている所が本能的に分かるのだった。
「くらえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
再び右腕を振り上げるオルフェーブル。バーストはその隙を突いた。身体を完全に液状化させ、窓のから教室の外へ離脱を図る。
「くっ!逃げるのか!」
追走しようとした。がっ!!ダメだった!!ここはビル型の教室の15階だ。思わず足がすくむ。自殺行為だ。身体がペシャンコになってしまう。湧き上がる恐怖感。だが、このまま野放しにしてしまったら他の生徒達の命に保証はない。
筋肉に問いかける。いけるのか?いけるよな?
(もちろん。筋肉を信じろ。覚醒させろ)
「よし!!!!!!」
オルフェーブルは覚悟を決め、壊れたガラス窓からジャンプした。空中で身体が二転、三転する。飛び込みの選手のように、意図的な回転ではない。バランスを崩し、身体が重力に弄ばれているのだ。このままでは地面に叩きつけられてしまう。
腹筋、背筋、体の体幹に当たる部分の筋肉を激しく強化する。そう、自分自身が折れることのない、強靭な鉄の棒になるように。そして、今日手を胸の前でクロスし、胸を中心にして回転運動を行った。体操選手のような伸身の回転だ。
後は着地だ。激しい回転をしながらも、地面と足を接地させなくてはいけない。
これはかなりの難易度だ。下半身に限界量の筋肉を注ぎ込む。もちろんショックを吸収するように、太もも、ふくらはぎ、足首とバランスよく振り分ける。失敗は許されない。バーストは既に暴れ始めている。すぐに止めなくてはいけない。
アスファルトが激しく叩かれる音と共に、オルフェーブルの両足が地面に接地する。
だがしかし、身体が前方に投げ出される。力を上手く吸収できずに着地に失敗した。筋肉達だけでなく、骨、関節、腱、全てが悲鳴を上げた。
前方に飛び、力を逃がすことが出来なければ、それらは間違いなく粉々だったはずだ。
「しまった!!!!!!」
その瞬間、進行方向にバーストの姿が見えた。筋肉に支配されていると言っても過言ではない脳みそがフル回転する。下半身は想像以上のダメージを食らっている。長期戦は不可能。
ならば!!!このまま行くしかない!!!!
「この勢い!!!!そのまま使ってやらあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
空中で体勢を立て直す。筋力を上半身に移動する暇はない。ならばそのまま蹴ってしまえばいい。
「メテオおおおおおおおおおおおおおおおおシャワーーーーーーーーーーーーー(筋肉踵落とし)」
振り下ろされた右足のかかとがバーストの脳天を直撃する。そして、そのまま、バーストは崩れ落ちた。
オルフェーブルは勢いを止める事が出来ず、転倒し転がっていった。
ピクリとも動かないバーストの元に羽矢が駆け寄る。そして、
「暗黒より出てしゼウスの魂よ。清浄の海へ帰りたまえ」
と呪文を唱えた。包帯はその言葉に反応するように頭を覆うと、バーストは光を放ち、元々の姿である生徒の姿へと変わっていった。
「これでおしまい」
ニッコリと笑う羽矢。そして、オルフェーブルの元へと駆け寄った。
オルフェーブルは仰向けに倒れている。筋肉はすでに収縮し、元の鈴木終の筋肉に戻っていた。
「ありがとう、鈴木くん。赤白さんも無事だよ」
「こちらこそありがとう………。てか、ばかやろう。おれはオルフェーブルだ」
小さく、掠れた声で言う。
「ううん。鈴木くんだよ。その名前はダサいよ」
「そっか………」
二人は笑った。
「なあ玄野さん………。お願いがあるんだ」
「………なに?」
「肩を………貸して欲しい。筋肉痛で動けないんだ」
羽矢は再び笑った。
そうして、鈴木終とバーストの初めての戦いは終わったのだった。
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