表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

覚悟と変身と覚醒の筋肉

 昼食後の緩い雰囲気が流れる世界史の授業。終はぼんやりと外を眺めていた。羽矢がたびたび終のほうに視線を送ってくるため、意識しないようにするためたっだ。


 ただ、それ以上に、罪悪感があった。


 もちろん、話を聞かず逃げ出すように立ち去ってしまった事だ。もしかしたら、たいした『お願い』ではなかったのかもしれない。勝手に悪と戦う想像をしただけで、実際は漫画研究に入りたかっただけなのかもしれない。自分が物語の主人公に選ばれるなんて自意識過剰だ。

 ただ、もし悪い敵と戦う事だったら――――――。暴漢に殴られていた時に記憶がフラッシュバックする。頭をプルプルと振る。考えていはいけない。終は大きく息を吐く。


 コロコロと、終の足元に消しゴムが転がった。前の席に座っていたユウが落とした物だった。


「ごめんね終、消しゴム取って」


「あ、ああ。しょうがねえな」


 終が腰を屈め、消しゴムを取ろうとした瞬間―――――


 『『『『ガガーーーーーーーン』』』』


 爆発音と共に窓ガラスが揺れヒビが入る。この瞬間、全ての生徒の耳が聞こえなくなった。無音の世界で生徒達は机の下に身を隠した。」

 終も屈みながら、状況を確認する。咄嗟にユウを庇っており、抱きしめるような形になっていた。小刻みに震えるユウの身体。次第に回復する聴力。少しずつ増幅する悲鳴。呆然と立ち尽くす生徒と、我先にと逃げ出すクラスメイト達。

 そんな中――――――-


 玄野羽矢が、机の上に立ち身構え、扉の向こう側を、鬼のような形相で睨みつけていた。


 はにかんだ笑顔が多かった彼女とは思えないような表情だった。右腕に巻いてあった包帯は、手のひらから、半袖のワイシャツであらわになっている二の腕まで伸びていた。また、左足にも包帯が巻かれており、少し短いスカート辺りまで、足全体を覆うように巻かれていた。終の筋肉が覚醒した時とは段違いの包帯の量だった。


 鈴木終は理解した。彼女は、玄野羽矢は、何かと戦おうとしている。だったら、この場は確実に戦場になる。

 

「残ってる奴はさっさと逃げろ!!!!!!!!!」

 

 クラス中に響き渡るように、この階全体に響き渡るように、学校中に響き渡るように、声を張り上げた。何度も。何度も。


 その時だった。爆煙と共に、ある生物が現れた。人間のようで、人間ではない。体の半分が暗黒色に覆われている。元は学生であった事が制服で分かるが、表情は既に暗黒色に覆われて、誰なのかは全く判別できなくなっていた。


「なんだ……あれ……」


 驚きの声をあげる終。抱きしめていたユウの身体を更にしっかりと抱き。その異形が生物から隠すようにした。ユウは完全に腰を抜かしており、ただただ泣くしか出来なくなっていた。


「闇に……食べらられてしまった……名前は『バースト(心の侵食者)』」


 羽矢は悲しそうに言う。その声に反応したのか、生物はこちらを見た。


「玄野さんが言っていたお願いって言うのは……?」


「うん……。バーストの事。このまま放置したら、間違いなく、学校のみんなが犠牲になってしまう。バーストは人を求めてるの。鈴木くんも早く逃げて。ここは私がなんとかする」


 他の生徒は全て逃げ終えており、教室には三人しかいなかった。


「逃げろ」と羽矢は言った。

 羽矢の心の中にも、やはり罪悪感があった。このような危険な戦いに彼を巻き込もうとしてしまった事だ。鈴木くんと一緒に戦えたら。羽矢はそう思ってしまった。見ず知らずの人間を助けようとした終の「勇気」に惹かれてしまっていたからだ。

 バーストは人の心を食べる。弱い心を食べ、更に肉体をも乗っ取る。乗っ取られた肉体は、新しい心と肉体を探し暴れまわる。

 彼女の戦いは困難を極めた。

 彼女には仲間はいなかった。彼女には頼れる人間がいなかった、彼女には友達がいなかった。彼女には両親がしなかった。彼女には家族がいなかった。

 

 彼女はこの世界の人間でなかった。


 一人で戦うのはあまりには苦しかった。仲間が欲しかった。戦う姿を見せると、みんな羽矢の前から去っていった。こんな生物、誰だって怖い。当たり前だ。


 しかし、今は戦わけけば終達が犠牲になってしまう。

 

 戦わなければ!!!!!!大きく息を吐き、早矢は覚悟を決めた。


「筋肉―――――」


「待て」


 羽矢が今まさに筋肉の覚醒状態になろうとした時、終が羽矢を静止した。そして、ユウを優しくその場に座らせた。


 終は、大きく、大きく息を吐くと、力強く言った。


「おれが戦う。包帯を巻いてくれ」


「で、でも――――――――――」


「早くっ!!!!!!おれは………困っている人がいたら、絶対に助けるんだ……。それがどんな不利な状況でもだっ!!!!!!さあ、早く!!!!おれに力を貸してくれ!!!!」


 終の頭の中には羽矢とユウを助ける事しかなかった。僅かにあった恐怖感はもうない。

 

 羽矢の身体をまとっていた包帯は、呼びかけに答えるように、終の身体を覆い尽くす。


 右腕の全てを、左足の全てを、頭部を。そして、僅かな隙間から覗く両目が赤色に変化する。


 終の筋肉が唸り声をあげ肥大する。上半身、上半身、上半身。ただただ上半身。終は理解する。

 

 これは―――――あの化物を殴り飛ばすための筋肉なのだと―――――そしてこの下半身は―――――強靭な土台だ。


 余った包帯はバラバラと風に煽られ、包帯は微かに光を放っている。


 終の思いがけない変化に羽矢は驚いた。ここまで大きな変化は見たことがなかった。


「鈴木くん大丈夫!?」


「……鈴木君?それは……違うな」


 低く、ドスの聞いた声で答える。終の声とは思えない声だった。表情も、包帯のせいで目しか分からないため、全く分からない。


「えっ!?」


「おれは……!!!!!おれの名は!!!バーストを滅ぼすもの……包帯の使者、オルフェーブル(金肉細工師)だ!!!!!!!!!!!」


 絶叫と共にバーストに向かって突進し、


「覚醒せよ筋肉!!!!!!!!弾けろ!!!!!!!!!!!!!!」


 そして、能力を、筋肉達を開放した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ