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転校生と苦悩と弱気

 鈴木すずき おわりが通う高校はこの学園都市のちょうど真ん中に位置している。周りには幼稚園から大学院まで数多くの教育機関があるが、その中でも特に大きい建物であった。高層ビルと洋風の校舎が独特に組み合わさりモダンな外観を生み出していた。


「二時間の途中に登校とはいいご身分だな」

 

 ちょうど数学の時間であり、担任の坂本がニヤニヤしながら教室に入ってきた終に言う。


「すいません、寝坊しました」


 坂本の悪意がたっぷり含んだ言葉など意に介さず、窓際にある自分の席にそそくさと座った。暴漢から女の子を救ったと正直に言っても良かったが、納得がいく説明をする自信がなかったのが一番の理由だった。

 

 あの騒動後、終は警察が到着するまで信号機の上で、子猫の様に震えて助けを待つことになった。まるで幻だったように運動能力は低下し、身体は元に形に萎んでいた。

 不思議な事に殴られた部分は綺麗に完治していた。激しい筋肉痛は残ったものの動かせない程ではない。警察官から「表彰させて欲しい」という言葉があったが、終はそれをやんわりと断り、さっさと学校に向かったのだった。


「あの女の子は先に学校に行ったのかな?」


 窓の外に広がる初夏の雄大な雲を見ながらぼんやりと呟く。同じ制服を着ていた事が唯一の手がかりだった。


「よーし。ちょっと早いが今日の授業はここまで」


 坂本が数学の教科書を勢い良く閉じた。


「みんなに紹介したい生徒がいる。ちょっと待ってろ」


 そう言うと坂本は教室から出て行った。教室が若干ざわつく。


「遅刻しちゃだめだよ」


 終の前の席に座っている「赤白 ユウ(あかしろ ゆう)」が声をかけた。終とユウは小学校からの付き合いであり、いわゆる幼なじみだった。黒髪の長髪の少女であり、他の生徒より若干大人びた表情をしている。終の冴えない感じとは真逆であり、二人が喋っている姿はあまりにも不釣り合いと学内で話題になった程だ。


「女の子を助けてた」


 ぶっきら棒に終は答える。


「なにそれ。終が描いてる漫画の設定?」


 小さく笑うユウの姿は透明感で満ち溢れていた。終が「ごぼう」であるならば、ユウはシャンパーニュだった。


 と―――――坂本が教室に戻ってきた。


 そして―――――終は――――――-驚きのあまり声を失った―――――。


「転校生の「玄野くろの 羽矢はや」さんだ。事情があり今の時間の紹介になってしまったが、みんな仲良くしてやってくれ」


 羽矢がペコリと頭を下げる。高校生とは思えない小さな身体と顔つき。セミロングの髪をいじりながらモジモジと恥ずかしそうにしている姿に、クラスの男共は保護欲を掻き立てられ、静かなる興奮は絶叫にも似た歓声へと変わっていった。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!羽矢ちゃんんんんんんn!!!!!』


「うるさい黙れ。じゃあ、あの席に座って」


 坂本は終の席の隣を指差した。ちょこちょこと席へ向かう羽矢。湧き上がる歓声。

 そんな中、終だけは、彼女の右腕に巻かれた包帯に目を奪われていた。

 ―――――筋肉の―――――覚醒―――――-。羽矢の発した言葉が脳裏を横切った。


                       ○

 

 ―――――昼休憩のチャイムがなった。

 玄野羽矢は相変わらず男女共に大人気であり、話しかけようにもいつ順番が回ってくるか分からない状況だった。

 昼食を食べ終え、いつものように漫画研究会の部室に向かった。漫画研究会と言っても、実態は「漫画読み会」と言った方が正しく、作品を作っているのは数える程しかいなかった。

 

 今日は珍しく部室には誰もいない。終は引き出しからネームを取り出し眺めた。

 『電撃』の特殊能力をを持つバトル物だ。画力の圧倒的な足りなさに挫折をした作品だった。

 その主人公は天才の能力者であり、誰も彼に敵う物はいなかった。そして全ての人間に尊敬される彼は、ハーレムでモテモテであり、バッタバッタと悪者を倒していく。いわゆる「おれTUEEEE]ジャンルだった。


「……能力か……」

 

「今日はありがとうございました」


 はっとして終は振り返った。そこには―――――玄野羽矢が立っていた。


「いや、こちらこそ。玄野さんって言うんだな、あんた。あの時、一体おれに何をしたんだ?」


「筋肉の覚醒。目覚め。戦う力の開放………えっと魔法みたいなもの」


 魔法と聞いた瞬間、終は頭を抱えた。


「そんな馬鹿な話があるのかよ。ははっ…漫画の世界にでも迷い込んじまったのか?」


「現実なの。お願い、信じて。この包帯が媒介となって鈴木くんの能力を引き上げているの」


 そうして羽矢は右腕をしっかりと見せた。羽矢が終に巻きつけた包帯は今は終のカバンの中にあった。終は包帯を取り出した。

 

「包帯が覚醒のための道具だったのか…。またこれを巻き付ければ同じように爆発的な運動能力を得られるのか?」


「うん。それでね、お願いがあるの…」


 ―――――お願い―――――と言う言葉は、時と場合によっては、最悪の言葉である。終はそれを瞬時に察した。最悪の言葉を叩き落とすように、持っていた包帯を羽矢の手の中に押し込む。


 「ごめんな。それ返すよ。きっと、もっと相応しい奴が見つかるから。こういう道具はちゃんと才能がある奴に渡すべきだ。こんなヒョロヒョロで喧嘩にも勝てないような、戦いの才能がない人間に渡すもんじゃない。道具が泣くよ」


 思いがけない行動に羽矢は大いに戸惑った。


「えっ、待ってっ、鈴木くんならきっとあいつらを倒せ―――――」


「ホントにごめんな!絶対いい人が見つかるから!それじゃ」


 素早くカバンを持つと、終は部室から逃げ出すように飛び出した。


「あなたの強い心があればきっと……」


 しかし、その言葉は終には届かなかった


次回、第3話。覚悟と変身と覚醒の筋肉です。

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