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筋肉とヒロインと出会い~プロローグ~

肩肘張らず気楽に読んでいただければ幸いです。

 立ち並ぶビル群から二三駅程離れた学園都市。


 一人の少年が学校に向かうため走っていた。このままでは遅刻だった。この時間は大学生が多く、横断歩道は人で溢れていた。人の波をかき分け進む。人の避け方は不器用で、あまり俊敏さは感じられなかった。

 少年の名前は「鈴木すずき おわり」高校一年生の15歳だ。

 

「くっそー!電車が遅れなければっ!」


 電車が遅れたのは五分程度であったが、いつもギリギリで登校していた彼にとっては死活問題だった。


「走れ!弾けろ!おれの足!今こそその力をみせるんだ!」


 しかし、生粋の漫画研究会であった彼の足は動くはずがない。彼の足は毎日折りたたまれており、安物の手羽先のように寂しかった」


「おいこらああああ!!!!!!!!!!!!」


 突然の怒号に終はびっくりして立ち止まった。人を掻き分ける際、もしかしたら衝突したのかもしれないと思ったからだった。声のした方向に、恐る恐る振り向いた。

 

 人の波がそこだけぽっかりと空いている。終と同じ制服を着た少女が、3人の大柄な男達に囲まれていた。頭はしっかりと禿げている。


「どこ見て歩いてんだよ!!!!!このクソロリコンがああああ。鼻血でちまったじゃねえかああああ」


「兄貴!ロリコンは男に言う言葉ですぜ!」


 ハゲ男Bは鼻血を垂らしながら少女を恫喝した。「ご、ごめんなさい……」と少女はか細い声で謝ったものの、筋肉ハゲ達には聞こえていないようだった。


 終は頭を抱えながら「これは遅刻決定だ」とポツリと呟いた。


「女の子いじめてんじゃねえよ」


 そう言うと、野次馬を掻き分け、男達の前に立った。


「なんだてめえ。やんのか」


「ああ。かかってこいよ」


 そして、終は少女に逃げるように促す。


「あ、ありがとうございます」


 少女は頭を下げ人の波に消えていった。


 ハゲ筋肉三兄弟を終は睨みつける。


「さあ戦闘開始だ。来いよハゲ三兄弟」


 

 

だが――――――――――鈴木終は―――――――弱かった。


 


 腹、頬、背中、足、次々に攻撃を受ける。終は正義感だけは強いのだが、残念ながら戦う力は全くなかった。なのにトラブルに首を突っ込んでしまう。「エロくないとらぶるを起こす男」と漫研内では呼ばれる程だった。

 もちろん弱い事は本人もそれは重々理解しており、人ごみに紛れながら、なんとか逃げる方法を模索していた。逃げ足の早さだけは誰にも負けない自信があった。

 しかし、この日は運が悪かった。

 先程蹴られた足が部分が痺れていて、その場に倒れこんでしまった。

 馬乗りになりハゲ男A。終は、浦島太郎に出てくるいじめられた亀の様な状況になってしまった。


 パトカーの音が聞こえてくるまでその状況は続いた。殴られている時間はほんの僅かではあったが、終には永遠に続くほど長く感じていた。感覚が麻痺し始めており、痛さは感じなくなっていた。


 男達が逃げていく。


 後ろ姿を見ながら安堵した。もう少し遅かったら死んでいたかもしれないと思った。と、その時だった。終は途切れそうな意識の中で、


「―――――走って!」


 先程逃がしたはずの少女の声が聞こえた。見ると、いつの間にか足と腕には包帯が巻かれていた。

 

 少女が懸命に包帯を巻いていた。一瞬の出来事だった。


「逃げた……はずじゃあ……」


「筋肉を!今なら、筋肉を開放できる!!!!!筋肉を……覚醒させて!!!!!!」

 

 突然、鈴木終の筋肉は肥大を始めた。ふくらはぎ、太もも、腹筋、背筋、肩、そして腕。ある程度まで肥大した筋肉は、次第にしなやかさを持ち始める。目的を持った変化、その理由が終にはハッキリ分かった。

 これは―――――走るための筋肉だ―――――。それも、瞬発力特化型。

 ゆっくり立ち上がる。男達の行き先はまだ目視出来た。


「行って!筋肉!」

 

 少女の声が終を後押しする。今の体ならいける。チーターのように、あのハゲ共を捕獲できる。終はしっかりと目を見開き、クラウチングスタートの姿勢をとった。そして、


「………弾けろ……」


 と呟いた。


 次の瞬間―――――目にも止まらぬ速さで人ごみを掻き分け走りだした。グングンと加速し、スルスルと人ごみを避ける。スピードは全く落ない。超超短距離に特化し、極限にまで瞬発力を高めた筋肉達が躍動する。


「走れ!まだだ!まだだ!弾けろ!!!!!もっと!!!!!」


 次第に縮まる男達との差。そして、


「飛べええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


 叫ぶ。肥大した腹筋が指令を与える。他の筋肉たちはそれに答え、その身を変化させる。

 

 終は飛んだ。誰よりも高く。包帯が太陽光を反射し、キラキラと輝いた。


 そして一人、二人、三人。男達を、まるでトランポリンをするように蹴り上げた。膝から崩れ落ち、男達は立ち上がれない。

 

 高く舞い上がった終は、二度空中でひねりを加えた後、綺麗に信号機の上に着地した。


 湧き上がる歓声。鳴り止まない拍手。


 「はあ、はあ……」息を切らし、肩で息をする終。


 役目を終えた筋肉は急速に小さくなっていった。

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