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第65話

遅くなって、すみません!!












実彩は大門をくぐり抜け、背後に聳える大門を感慨深げに見詰つめる。


(ようやく旅立てるのか…………二日しか居なかった筈なのに、まるで一年近くいたかのような気分になるな……………)



立ち寄った街で、依頼主アンドレアスからの意向があったとはいえ、ただランクアップの試験を受けるはずが。



まさか泊まる予定の宿で因縁ふっかけられて試験最中に勝負することになるとか。



まさか試験内容の討伐する予定だった盗賊団がコルト公国(*ほぼ断定)の息が掛かっていたとか。



まさか試験最中にコルト公国の工作員と鉢合わせするとか。



まさか考え無しのバカ剣士が勝負勝ちたさに暴走するとか。



まさかオッサンが覆面試験官で、しかも竜人とかいう二つ名の付いた上位の冒険者だったとか。



まさか爆炎竜の雛が居たこととか。



ニトにはまだ知らない能力が隠されているかもしれないとか。



……………もう、あげ連ねるのが面倒くさくなる程たくさんのことがあった。



……………だから、



『やっほー、実彩ちゃん久しぶり♪ 元気してた    ☆(ゝω・)』



突然現れたセフィロトに、ニトを投擲する準備をしても許されるよね………?



頭が沸いているんじゃないか? というようなテンションで実彩の前に現れたセフィロト。


大好きな従姉妹の姿で────しかも勝手に使っている分際で────一言目からウザいとしか言えないような登場の仕方をされて少し………いや、かなりイラッとした実彩は真顔でニトを魔力で増殖、山嵐もビックリする程のたくさんの大小様々な鍼灸針を大量発生させる。


セフィロトに生やせば、さぞや見応えのある山嵐モドキ(*臨戦・防御態勢)が見られることだろう。



『……………あれれぇ? 実彩ちゃん、何でそんなにニトを大量発生させているのかな☆』


「取り敢えず死ね」


『あはは♪ そんな真顔で冗談言っても面白くないぞ☆…………って、え? ちょ、ちょっと待って!? いやぁあああ!! 刺さる、刺さっちゃう! 僕の大事なトコロに刺さっちゃう♡』


「 マ ジ で 死 ね … … ! ! 」



ウインク飛ばしながら逃げ惑うセフィロトに容赦なくニトを投擲しまくる。


心無しか、ニトの攻撃力が増している気がする。



…………そうか。ニトもウザいと感じたか。



ニトが突き刺さった地面は抉れ、軽い破壊音とともに土埃が舞う。


え? こんな状況、人に見られたらどうするんだって? …………問題ない、問題ない。こんだけ暴れても守衛すらやって来ないことが鑑みるに、セフィロトが何かしたんだろう。そうでもなけりゃ………こんな場所にわざわざセフィロトが姿を現すわけないからな。



『実彩ちゃん実彩ちゃん実彩ちゃん? そんな冷静に現状把握とかしなくていいからね? 取り敢えず、ニトを仕舞おう? ね、ね?』


「───────────ニト」




針の雨を降らせてやれ────。




両手を前に組み、コテンと頭を倒してウルウルした瞳を向けてくるセフィロトを見て、実彩の中の何かが切れた。


実彩の要請に応じて、ニトが大量発生させた無数の針がセフィロトの頭上高くに現れた。


セフィロトを中心に、半径ニメートルはあると思われる影がセフィロトの身を包み込んだ。



『いっや~はははは…………これは、ちょっとねー…………』



引きつるセフィロトを視界に収めながら、実彩は無情に告げた。



け」


『僕は死んだらダメなんだけどな!?』



セフィロトの頭上から雨雲のような黒い影から銀色の針が雨のように文字通り降り注いだ。


で、



『ひっどいな~ひっどいな~~実彩ちゃんたらひっどいな~~~♪』



腹立つことに………ホントに腹立だしいことに! ニトの攻撃を無傷で防ぎきったセフィロトは悲しげな態度とは裏腹な、「実彩ちゃんたらひっどいな~」と、楽しげな声音で歌っていた。



「…………」



いっらぁぁ…………。


湧き上がる苛立ちを込めるかのように、セフィロトに向ける実彩。その頭の上に鎮座しているニトも無表情なウサギであるのにも関わらず、どことなく冷めた顔をしているように見えた。


するとおもむろに実彩はカツカツとセフィロトに向かって歩き出した。



『? どうしたの、実彩ちゃん?』



頬良かに笑うセフィロトに、しかし実彩は着けていた仮面を乱暴に取り払うとそのままセフィロトの胸倉を掴み上げた。



『み、実彩ちゃん?』


「………どういうことだ」



低く、冷たい声が喉の奥から零れる。


聞きたいことがあった。

その為に、疎ましく思いながらも、呼び出そうと思っていた。


実彩の脳裏にイシュールの言っていた言葉が木霊する。


絞り出すかのような声音に、セフィロトは笑顔で先を尋ねる。



『んん~?? 何の話をしているのかな?』


「とぼけんじゃねぇよ、喜與姉のことだ。────なんで、隠して嫌がった」


感情の窺えない眼差しをセフィロトに向ける実彩。



『喜與子がどうしたの?』


「────喜與姉が生きていること、どうして黙っていやがった!? コルト公国のスパイ共が言っていたことだ!! 嘘にしては、あまりにも奴らは必死だった…………そもそも奴らが私に嘘吐く必要性はねぇ!!」



実彩の顔を見たセフィロトは、しかしニコニコと笑ったまま───。



「生きているんだろ? あの人は、────どこに居るんだ!!」



掴み上げる胸倉を握る実彩の手は、力の入れ過ぎで白く染まっていた。



「どこに『それを知って、どうするの?』…………何だと?」



セフィロトの言葉に、実彩は勢いを削がれる。


セフィロトの方も実彩に向かって笑顔でありながらも、心底不思議でしょうがないとでもいうように首を傾げる。



『ん~確かにねぇー。喜與子が生きているのはホントだよ? でもね、どうしてそれを君に教えなくちゃいけないの?』


「なっ……!!」



息を呑む実彩を尻目にセフィロトは笑顔のまま言う。



『だってさ、君がこちらに来てしまったのは偶々なんだよ? そんな君に、いくら喜與子の大切な従姉妹だからといって、何が出来るかも分からない君に対して…………何故、話す必要性があるのかな?』



実彩はセフィロトが何を言っているのか理解出来なかった。


喜與子は実彩にとって掛け替えのない家族だ。

幼い自分の面倒をよく見てくれて…………誰よりも強く賢い従姉妹を、実彩は心の底から尊敬していた。



実彩に何が出来るかって?



大切な家族の身を心配するのに、生きていると知って居場所を知りたいと思うことに何の関係があるっていうんだーーー!!!



「ふざけんな!!」



ギリリッとセフィロトを掴む手には、もはや絞め殺さんとしているようにしか見えない。



「奪っておいて…………私達から奪っておいてよくもそんなヌケヌケと!! 私に何が出来るかって? ─────何の関係が、ある。そんなこと。何の関係があるっていうんだ! あの人は私達の家族だ! それが全てだ!! その家族を取り戻したいと願ってなにが悪い!?」



『うん、そうだね。でも、だから何?』



セフィロトも陽気な笑顔を引っ込めた。



『だからさ、それが僕に、何の関係があるっていうんだい?』



セフィロトの冷たい声が、実彩に突き刺さる。








真っ黒セフィロト降臨する?

何だか最低なこと言っとりますセフィロトに実彩はどう対抗するのか。


実彩はこれからどうなっていくのか。


次回、最終回となります。


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