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番外編 セフィロトの呟き



こだましている実彩の叫びにセフィロトは腹を抱えて笑い転げた。



『あっははは!!! いや~~彼女は実に愉快だ! 喜與子から聞いてはいたけれど、まさかあそこまで面白いとは!!』



ひとしきり笑っていたセフィロトは何かに気づいたかのように顔を上げて──────わらう。



『ごめんね? 実彩。………でも、まだ早い。まだ彼らに逢わせるにはいかない────二千年待ったんだ。君には悪いとは思うけど、僕の為に世界の為に…………なにより喜與子の為にも君の存在を利用させてもらうね──』



 彼女みさが此処にきたのは心底驚いたが。


薄く嗤っているセフィロトの背後に数本のナイフが風を切りながら飛んできた。



『…………』



セフィロトはまるで分かっていたかのように避け、顔に張り付いていた嗤いをいつもの微笑に変えた。



『あっぶないな~もう。当たったら怪我しちゃうところだったよ』


「これは失礼しました。あの女の姿をしているものでしたから………つい手が滑ってしまいました」



現れたのは金銀色プラチナの髪を後ろで一つにまとめた長身の二十代後半の青年。アメジストの瞳に片眼鏡モノクルを右側にかけていた。


柔らかな物腰とは裏腹にその瞳も声も冷たい氷のように冷えていたが。



「………いくらあの人の姿をしているセフィロトが気に入らなかったとはいえ、いきなりナイフを投げつけるのは感心しませんよ。アルさん」



モノクルをかけた青年の後ろからもう一人出てきた。



「それは思い違いというものです、シオン様。俺は本当にあの女だとしてもナイフを投げていましたよ。…………セフィロトが気に入らないのも事実ですけどね」



 モノクルの青年は肩をすくめた。


彼をアルと呼んだのは白金色の髪を腰よりも長く伸ばした蒼と金の瞳のオッドアイを持った二十代前半の青年。


もし、この場に実彩が残っていたらとても驚いたことだろう。


シオンと呼ばれている青年の着ている服は白を基準とした服で金糸銀糸を使った刺繍がとても細やかだ。しかし、問題はその繊細な刺繍ではない。


 シオンの着ている服は─────着物だった。


日本の物とはいえ少し違うが、それは紛れもなく和服だった。



『やあやあ、シオン。そしてアルフォート。久しぶりだね。元気してた? 今日はどうしたの??』



可愛らしく首を傾げるセフィロトにシオンは口をひらいた。



「久しぶりですねセフィロト。私としては何故あなたがあの人の姿をしているのか気になるところですが、言ったところであなたが話してはくれないでしょう?」


『ウッフフ、さすが分かっていらっしゃる』



セフィロトは笑っているがシオンは苦笑し、アルフォートは苦虫を噛んだかのような顔をしている。



「シオン様。セフィロトの戯れ言に関わるのは時間の無駄です。さっさと要件を済ましてしまいましょう」


『アルフォートは相変わらず辛辣だね~』



アルの瞳に物騒な陰が浮かび上がったが、シオンが話し始めたので彼は沈黙した。



「セフィロト。つい先ほどからこの地に妙な揺らぎがあったようですが、何かあったのですか?」


『それを確かめに来たの?君も忙しいだろうに』


「分かっているのなら早く答えていただけませんか? 俺達も暇ではないのです」


『え~!? 酷い! そんな意地悪なことを言う人には答えてあげません!! (`ヘ´) プンプン』


「「…………………」」



アルフォートの纏う空気が段々と冷たくなっていっているのが分かる。シオンはため息をついた。



「アルさん。落ち着いて下さい。セフィロトもあまりアルさんをからかうのは控えていただけませんか?」


「分かっていますよ、シオン様。確かにこの馬鹿を真っ二つにして切り捨てたいのは山々ですが、腐っていても世界を支える世界樹。口惜しいですが手は出しませんよ」



そこは“腐っていても”ではなく“腐っても”ではないだろうかとシオンは思ったが蒸し返すのは得策ではないと口を噤んだ。



『これまた随分と嫌われたな~。残念。あっ、それはそうとシオンの質問の答えだけど、さっきまでちょっとした知り合いが来ていただけだよ。安心してね』


「………セフィロト、あなたの知り合いということは、あの人の知り合いでもあるのですか? だからそのような姿を…………」


『まぁね』


「俺達以外にも此処に来ることが出来る者がいるとは驚きですね。…………誰なんですか一体」


『君達もそのうちに会うことになるだろうから今は秘密だよ』



人差し指を口にあててニッコリ笑うとセフィロトは何でも無いかのように放った言葉は2人に衝撃を与えた。



『もしかしたら、もうすぐ彼女が目を覚ますかもしれないよ?』


「「!」」



 2人は同時に息を呑んだ。


その言葉は2人が二千年もの間、待ち望んでいた言葉だったからだ。



「───誰が、この場所に来たのですか。あなたが何の根拠も無くそのようなことを言うとは思えません。此処に来た方が、あなたになんらかの確信を与えたのではないのですか?」


『確信と言うよりは予感だけどね。あくまでも』


「今は何処にいる」



アルフォートはセフィロトに詰め寄ったがセヒィロトは答えることはなかった。



『秘密だよ。まだまだね。………安心しなよ、僕は嘘はつかないからね』 



クスクス笑うセフィロトに2人は苛立ちを隠せずにいたが、結局は何も言えずにいた。








2人はしばらく粘ってセフィロトに問いただしたが答えないセフィロトに一旦引くことにしたシオンとアルフォートはその場から立ち去った。



『……………』 



シオンとアルフォートの後ろ姿を見送っていたセフィロトは本体である世界樹に振り返りその根元を視た。



『………もうすぐだよ、喜與子。もうすぐしたらきっと君の目を覚まさせることが出来るはずだから』



 セフィロトの目には映っていた。


自身の根元の更に奥、大地の中奥深くに──────喜與子が横たわり、眠っていた。



『今の君は死んではいないけれども…………生きているとも言えなかったから実彩には黙っていたけれど…………やっぱり、怒るかな? 実彩は』



 それでも、実彩から怒りをかうことになろうとも。



『神々が力を失い、僕が喜與子と共に此方こちらに来てはや二千年──────数多の犠牲を払ったんだ。必ず、全てを在るべき姿に戻す…………ゆるしはしないぞ─────聖典せいてんを持つものよ』



『実彩─────喜與子……ごめん』



 セフィロトは少し哀しげに呟いて、消えた。










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