第56話
読者の皆さんが読む前に謝ります。
ごめんなさい。
→作者謝罪の答えは本編を読んでくださればわかります。
うん、待って。
ちょっと、待って。
ものすんごく待って!
竜人って、何? それってハーフってこと? つかオッサンって、え? オッサンはオッサンじゃないのか? なんか若返ってるし。それに敵さんが滅茶苦茶ビックリしてるんだけど…………それってつまり他国に伝わる程の有名人ってこと? ──────なんでそんな人がたかだか辺境で行われてるランクアップ試験の試験官してんの!? しかも雇われ試験官!! 受ける方も受ける方だけど、頼む方も頼む方だ!! ありえねぇだろ──────!!
頭を抱えて言葉無く絶叫している様子の実彩を眺めていたカム────カムイワッカはポリポリと鼻先を掻く。
(チビ助の奴………やっぱり混乱しちまってるわ………)
最後までバラす気の無かったカムイワッカからすれば、腕の中にいる存在───竜の雛のことが無かったら………いや、それは違うなとすぐに思い直す。
チラッと見るのは壁に叩きつけられて満身創痍になったイシュールの姿。
イシュールが竜の雛を抑える為に使っていた謎の石版………確か『聖典』と呼んでいたもの。
あれは、力を隠した状態ではまともに相手が出来るものではなかった………今までに感じたことのない、不可思議な──『力』。
(魔力とも違う………どちらかっつーとアレは元素、精霊や竜といったものに近い)
だが違う。
あの『聖典』に宿っていた力はもっと違う何かだ。
カムイワッカは『聖典』から力が溢れ出した瞬間に感じたことは────────畏怖だった。
本能的にアレは自分如きが対峙してはいけないものだと畏れた。
格が違う。その一言しか思えなかった。
「まぁ……だからって────男が尻尾巻いて敵に背を向ける訳にはいかねぇよな!」
イシュールが再び『聖典』を使ってくるのを横目で確認していたカムイワッカは『聖典』から放たれる光の粒子に当たらぬよう、素早く身を翻した。
「チィ……!!」
悔し気に舌打ちするイシュールの視界の端にキラッと走るものを見た。
ハッとしてその場から跳びすさるも、避けられることを想定されていたその攻撃は、逃げるイシュールに向かって執拗に迫る。
「……!」
地面に刺さったソレを見れば………それは身に憶えのある細長い長針。そんなものを武器として使っているのは………。
「オッサ………ああもう面倒くせぇ! オッサンは今は竜の雛連れてんだ! んな危なっかしいもんを近付けさせられるか!!」
一瞬、見た目が若くなったカムイワッカをオッサン呼びする戸惑ってしまったが、今更変えるのも面倒くせぇ! 今そんなこと考える暇無ねぇし!! とばかりにようやく武器化したニトを操ってイシュールに追撃を繰り返す。
「……っ、こぉ……のおお!!」
実彩からの投擲を避けきれなくなったイシュールは先に実彩を始末しようと『聖典』を差し向けようとするが。
「─────はい、隙でーきた!」
イシュールの足元から突如として地面から大量の槍が突き出してきた。
「なんだと!?」
慌てて避けるも、その多さに避けきれる筈もなく、イシュールは体のあちらこちらに決して浅くはない傷を負った。
「………なんだ、これはぁ!?」
突然地面から突き出してきた大量の槍の正体は槍のような形をした土の塊。
普通に考えれば魔術に依るものだと判断るが………理解ないのはこれをどうやって行使したのかと言うこと。実彩が無詠唱と自然界を流れる魔力を目視することが出来る『眼』を持っていることを知らないイシュールからすれば常識として有り得ない、有るはずのない現象を目前にしてパニックをおこしかけていた。
(何なのだ、これは!! 一体………私の前で何が起こっている?!)
カムイワッカだけでも手に余るのに………さらなる不確定要素の出現にイシュールはドンドン追い込まれていった。しかし目の前で起こった現象にもう一人、困惑する人物がいた。
(オイ、オイオイオイ! なんじゃこりゃあ!? なんで地面からこんなトゲトゲしいもんが生えてくんだよ!!?)
実彩の特殊過ぎる魔術を知らないカムイワッカである。
地面から土の槍を生やしたのは実彩であることは察してはいるものの、それでも目の前で起こった出来事を受け入れ、呑み込むには竜人の名を冠するカムイワッカといえど容易いことでは無かった。
それほどまでに実彩の魔術は特殊ということだ。
だから以前、クリストファーとリュカも実彩の特殊かつ反則過ぎる魔術を知った時、あれほど驚愕していたのだ。
「オイ! こりゃあどうなってんだチビ助!!」
「んな説明は後だ後! 今はあの野郎を〆るのが先だ!!」
実彩は間髪入れずにカムイワッカにそう返すと今度は地面から土の槍ではなく、木の根を上下左右あらゆるところから出現させた。
「!?」
「捕まえたぁあーーーっ!!」
現れたのは根っ子はイシュールに襲いかかるのでは無く、イシュールから半径一メートルほどの距離を開けて取り囲んだ。
実彩は流した魔力によって樹木の根による檻を作り出したのだ。
「っつ……こんな物! すぐにでも壊し「これで終わりな訳ねぇだろ」」
オラッ!! と実彩は檻に捕らわれたイシュールに向かってニトではなく…………何故か短剣を投げつけた。
「今更このような物で……!!」
「俺を忘れてもらっちゃあ困るぜ」
「!?」
声が聞こえた刹那………イシュールは再び『聖典』を弾かれ、カムイワッカの手に奪われてしまう。
短刀を避ける為に身を翻した瞬間をカムイワッカに狙われたのだ。
「竜人!!」
奪われた『聖典』に気を取られ………イシュールは実彩が投擲した短剣がイシュールの腕を掠めた。
「っつ……!!今更………この程度の傷如きで………っ!?」
「おっし! ソッコーで効いたな」
口の中が痺れ………全身に走る悪寒と、指先から小刻みに震える。痛みこそ無いが───突然の起こった体の変調にイシュールと側で見ていたカムイワッカもすぐに察した。
──────毒か!!
「実家にあった調合方に私がアレンジを加えた特別薬だ。全身が痺れて動けまい───!!」
鼻高々に宣言する実彩に、イシュールは忌々しげに、カムイワッカはうわぁー……といった感じで引いていた。
(コイツ………接近戦や中距離戦………はたまた長距離戦まで出来るのにトドメに後衛補助にも対応出来るのが…………敵に回るとすんげー面倒くさい奴だったんだな………)
しかも毒の類を使うことに躊躇いも何も無いときたもんだ。冒険者業でもちょっと引くぞ? 騎士道やら何やら掲げている奴らからすれば実彩の在りようは怨敵ものだ。
(こりゃあ………チビ助のことだから知らんうちに至る所に敵を作りまくりそうだな)
思わず、実彩の行く末を心配してしまうカムイワッカ。彼の頭の上に引っ付いている竜の雛は実彩を顔面蒼白になりながらガン見して震えてる。──────漏らすなよ。オイ。
「きっ……さ、ま! 戦いのに身を置くものとしての矜持は無いのか………!? 毒なぞ卑怯な真似を………!!」
「………すっご、舌も痺れている筈だからしゃべれるワケ無いのに………弱かったのかな?」
イシュールの射殺さんばかりの視線などなんのその、イシュールに使ったとされる毒の入った薬瓶を片手に弄ぶ。
「戦いに身を置くものとしての矜持、ねぇ………こちとら基本魔獣相手の冒険者だ。んなもんに重きを置いて死んだら元も子もないし。第一、あんたは不法入国及びに盗賊団との武器取引………さらにはその盗賊団を使って………何に使うつもりなのか、魔獣の雛達を集めるという妖しさオンパレードな事してんだぞ? 明らかに国もしくは冒険者ギルドに強制連行ものの重犯罪だ。そんな奴ら相手に、卑怯も糞も言ってられっか」
「ぐっ」
実彩は竜の雛を捕らえていた部屋を見ていた。その部屋ようすから、明らかに竜の雛一匹だけに使われたのでは無い形跡のある空の檻や鎖などを確認していた。
「つか卑怯も何もあんただってあの馬鹿………あ゛ー、あんたに向かっていった剣士の馬鹿野郎を思いっきりいたぶっていたよな? 人のことをとやかく言えんのかよ、あんた」
「う゛……あれは! それこそ貴様の言えた義理か!? 最後は貴様がトドメを刺したものだろうがぁ!!」
「当たり前だ。あんたにヤらせるくらいなら私がその他を代表してあの馬鹿 殺るわ」
「いや……殺んな? お前も殺んな?」
思わず合いの手を入れるカムイワッカ。ジャンがボロボロになっていた経緯を知って顔を引きつらせている。え? アレやったの敵さんしゃなくてチビ助なの? マジか……何やってんだよ!?
「あのなぁ、チビ助。お前……………!!」
「!」
実彩とカムイワッカが同時に振り返る。
互いに鋭い視線を薄闇の奥へと向ける。
(………しっかりと拘束したつもりだったんだがな。抜け出しやがったか………)
カムイワッカは小さく舌打ちする。
闇の奥から急速にこちらに近付く気配は実彩もカムイワッカも構える。すると─────
「ゲッ? なんだこれ? おいおいイシュール………おまっ、なんてざまだよ? 檻の中のイシュールってか? 何それウケ狙いなわけ? 全ッッッ然、笑えねぇー………」
闇の奥から現れた姿に、実彩は息を飲んだ。
「貴様は………その、姿、は…………何故、なった」
全身薄汚れてヨレヨレになってはいるがそんなことはどうでもいい。問題なのは、その、姿………。
イシュールが顔を歪めて己を助けにきた者を見上げた。
「仕ッ方ねぇか………一応、お前が俺らん中の頭だし? 助けてやんよ、イシュール………」
「…………ナジム」
苦々しく呟く名はナジム。イシュールも初めて目にする姿に。
両の腕はビッシリとした剛毛の獣毛。その爪は鋭く、口元には僅かに牙は覗いている。その瞳は黄金に輝き、頭には獣の耳があった。感情によって動いている尻尾はゆっくりと揺れていた。
疑いようも無いその姿に実彩は魅入ってしまうが、それよりも驚くべきことは───
「───純白の、獣人?」
ナジムの両腕の獣毛、髪の色、耳、尻尾に至るまで一切のくすみも無い純白の色だったこと。
それは、この世界で三番目に強い魔力を持つ者の証であった。
決着………今回で決着になる予定だったのに………何故、こんなことに!?
おかしい………私の中では既に次に移っているのに………書いていたら次々と文章が増えていって!! いや、ホントすみません<(_ _)>
次回は実彩&カムイワッカvsナジムとなります。
もう、次回で決着とか言いません………言えません…………文章力の低い丹下を許して………。




