第51話
特別企画最終日!
とくとご覧あれ!!
ガッキィィン―――――
ガッキィン! ガッキィン! ガッキィィン!!
金属音のぶつかり合う音が洞窟全体の空気を震わせる……。
実際に刃を合わせる者達には合わせた際の衝撃が、それぞれの得物を通じて腕、肩、背中、足、つま先に至るまで走り抜けた―――。
的確かつ鋭く疾い剣筋はしかし、か細く脆そうな長針によって簡単に止められるという有り得ない現状に流石のイシュールの次第に焦りが見え始めた。
(有得ぬ!! ……何故、そんなか細き長針風情で私の剣が止められるのだ……!?)
「……」
一方その時の実彩は先ほどから洞窟に充満している妙な気配に気付いていた。『仮面』のマジックアイテムを使っても把握することが出来なかった洞窟内の様子が疑う余地なく緊迫感に満ち溢れていくのがわかる。
(なんだ………? この、気配は? ………何か、居る………のか?)
洞窟内に満ち溢れている気配には怒りと不安、そして焦燥感のような感情を感じた。リリーナと実彩が見た通り、何かによって封じられたこの洞窟にはその所為でこの溢れる気配が外に漏れることがないのだろう。
「余所見をするとは随分と余裕があると見える……!?」
「…………チッ」
力強く振り下ろされた剣の腹に上手くニトを滑らせて剣筋をいなす。
その際に手の中のニトを素早く持ち替えてイシュールの首筋にひめらかすがイシュールは間一髪避ける………しかし僅かに掠ったのか、イシュールの首筋にうっすらと一筋の血が滲み出ていた………。
「くっ……」
「……………」
イシュールの首筋から滲む血に目を細めながら……実彩はもう一本、ニトを取り出して両手で構えた。
─────だらだらと、何時までもコイツの相手をしてられない…………。
(気配が籠もり過ぎてはいる……が、まだ辿れない程ではない)
イシュールに関してはもう問題無い。
構えを取るイシュールに実彩はニトを投擲すると同時に走り出した。イシュールは易い眼くらましの戦術を鼻で嗤うと投擲された長針を弾こうとした刹那、長針が大量に増殖を始めた。
(!? なんだと……!)
───ニトが増殖することを知らないイシュールは完全に虚を突かれることになった。
ほぼ避けられる間合いでは無いその数に、イシュールは舌打ちしながらも出来るだけ剣で増殖した針を弾き飛ばしながらも避ける。
「……っつ!? この、……っ────はっあぁ!!?」
すべて避ける事が出来ず─────体のあちらこちらに針を刺されたイシュールはその地味な痛みに眉間に皺が寄る。
「……?」
そして───何時まで経っても訪れない実彩からの追撃に訝し気に顔を上げれば─────既に実彩の姿はなかった。よくよく周りを見渡せば傷だらけのジャンの姿すら見えない。
ハッとして自身の背後に広がる薄暗い通路を振り向いてもそこには何の気配も感じられなかった……。
実彩とジャンに逃げられたと悟ったイシュールは後を追おうとするもすぐに足を止める。
「これは……?! おのれ……小癪な真似を!!」
イシュールは実彩を追うことが出来なかった………。
実彩は少しでも時間を稼ぐ為に一本道である洞窟の通路に大量の棘をニトで生やしていた。一歩でも踏み出せば簡単に足の裏が血塗れになること必定の剣山のような針の道。
抜け出すには明らかに時間を掛けねばならない実彩のトラップに、イシュールは奥歯を噛み締めることしか出来なかった─────。
実彩は洞窟内に広がる気配の元を辿りながらひたすら薄暗い通路を駆け抜けていた。ジャンに関しては実彩が地脈に自身の魔力を流し、イシュールに投擲したニトを増殖させてイシュールの視界をニトに集中させた後に土でドームを形成、その中にジャンを隠した。………ジャンがその場にいると仮定し、気を付けて探したとしてもすぐには分からないように場所を移動させた上で隠したので問題無いだろう。
(それでも見つかったら運がなかったんだろ……)
ニトを大量に生やすことによって道は塞いだ。その罠もジャンを隠したことに対する良い眼くらましになったはずだ。あの男ならば抜け出せるだろうがそう簡単にはいかないだろう。時間は稼げられたはず。ならば実彩は先を急ぐのみ。
あっさりとそう結論付け、実彩は先を急ぎひた走るのであった……。
「チッ……、この騒ぎ……どうなってやがる………?」
盗賊団の頭にして元冒険者であったザンザ。
先の戦争で雇われていた貴族が亡くなったことで路頭に迷い……最終的に盗賊に身を窶した、この世界ではよくある典型的な男といえよう。
ザンザは高額な取引商品である爆炎竜を自ら管理していた。
『グルルル………』
威嚇してくる爆炎竜の雛を鼻で嗤う。
魔獣封じの首輪を付けられている以上、幾らこの雛にどれだけの魔力を持っていようと今はただのデカい蜥蜴モドキに過ぎない。
仲間たちは全員同じ穴の狢。爆炎竜という希少な商品に目がくらむとも限らない。もし盗み出されることがあれば自分は勿論のこと、役に立たぬ盗賊団など奴らに皆殺しにされるだろう……。それが判っている故……ザンザは洞窟内にあるいわくつきな盗品や希少な魔獣を閉じ込める特別な宝物庫に二、三人の部下のみ連れてこうして取引相手が来るまで籠っているのだから。
しかし―――先ほどから誰かと争っている声や音が扉の向こうから響いてくる。流石に何時もと様子の違う気配にザンザも段々と顔が険しくなっていくのが分かる。
「いってぇ……この騒ぎはなんだ!?」
「大変だ、頭! 外に冒険者らしき集団数名と例の取引相手、そして下っ端共が前面衝突してやがる!!」
「何だと!!?」
扉の向こうからもたらされる部下の知らせにザンザが憤怒の形相を浮かべた。
「しかも俺達の方はほとんど全滅しやがった!! ヤバいぜ……頭!? 俺達も早く逃げないとヤられちまうよ―――!!!」
「……っ!?」
まさか自分が奥に引っ込んでいる間にそんなことになっているとは――――――!!
(チクショウ……! 何で、よりによって今日に冒険者共が襲撃してくるんだ!?)
腹の底からグツグツと湧き上がるザンザの怒りに呑まれて一緒に宝物庫に入っていた部下がザンザに怯えて後ずさっていた。
「頭ぁ! どうすんだよ! 早く決めっ……?! ぐっふ!!」
「………?」
不自然に途切れた扉の向こう側の部下の声に訝しりザンザが腰を上げた………その時、ドッカァァンと音を立てて宝物庫の扉が砕け散った……。
パラパラと砕け散った扉の木片が頭上に降り注ぐもザンザは扉を破壊したであろう襲撃者に一瞬固まってしまった。現れた襲撃者はザンザ達盗賊団と契約を交わしている者達と同じローブ姿……しかし、そのローブに描かれている刺繍は一時期冒険者をしていたザンザ達が、ほんの数度だが目にしたことのある冒険者ギルド支給の魔術師のローブに酷似している。しかしあくまでも似ているだけ。味方ではない―――されど冒険者と呼ぶにはあまりに悪目立ちするその姿にザンザ達は困惑した。
実彩は実彩の方で洞窟内に満ちている気配を探った先に明らかに盗賊団の頭目を思しき男を見つけて……まさかこの男が(気配の)発信源か? とも思ったが明らかに自分より格下のザンザにそれは無いとすぐに否定する。
ならばこの気配の持ち主はどこだと周りを見渡せば──────
「──────────え?」
『ギャウアァァ!!』
突然現れた実彩を警戒しているのだろう。
グルル……っと唸り声を上げて牙を見せるその生き物は、燃え盛るような真紅の鱗と眼を輝かせて何時でも飛びかからんばかりに身構えていた。
しかし体に巻き付けられた鎖と首に着けられている首輪がその生き物の“力”を封じ込めていると実彩の魔力が込められた『眼』が告げている。
実彩はその生き物を知っていた。
実彩の世界でも知らない者はいないであろうという程の知名度を誇る伝説上の生き物にして最強の名で古くから語られている幻想の存在。
「竜──────?!」
予想外過ぎる予想外の存在に、実彩は言葉を失った…………。
丹下は燃え尽きた………。
灰の中から復活するまでしばしばお待ちを。
次回をお楽しみに~~~♪




