第47話
急展開を迎えます。
*誤字脱字の編集しました。
ようやく実彩達が盗賊団のアジトである洞窟を見つけたのは、休憩場所からちょうど一時間ほど歩いた場所であった。それまでの道中……一度として盗賊の見張りの気配すら感じなかったことに実彩は、実は盗賊は既に洞窟にいないのではないか? という考えがチラッと脳裏を掠めたが、隠れながら伺っている洞窟の周りには明らかにその手の輩と思わしき人間達が屯していた……。
「―――――数は大体十数人といったところか………」
「ああ――。だが、なんだか様子がおかしくないか? 妙にそわそわしているというか……」
「けっ、怖気づきでもしたのかよ」
「…………」
「ちょっと!? こんなところで喧嘩吹っ掛けるようなこと言わないでよ……!!」
「嬢ちゃんの言う通りだ。無闇矢鱈にチビ助に噛み付くな」
実彩と同じく盗賊を隠れながら伺っていたイズール・ジャン・リリーナ・カムは盗賊に悟られないように声を潜めながら会話していた。
「リリーナ、お前の探査能力で洞窟内にいる盗賊の数は判るか?」
イズールの質問に、リリーナは少し困ったように顔を顰めた。
「私も……さっきから探ってはいるんだけど……なんだか何かに邪魔されているみたいなの。洞窟全体がボンヤリとした……感じかな? みたいなのに覆われているみたいで……」
「んだよ、それ……」
鼻先に皺を寄せるジャンに、しかしイズールとカムの顔は一気に険しくなった。
(? 二人の纏う空気が鋭くなった?)
急に警戒心が高くなったイズールとカムのただよらぬ様子に実彩も自然と気を引き締めた。
「こいつぁ……ちぃっとばかしヤバいな………」
カムがポツリとこぼした呟きにリリーナとジャンがカムを見た。
実彩もカムの方に向き直れば、三人分の視線を感じたカムが説明してくれる。
「嬢ちゃんが言ったことが本当なら、この洞窟には認識阻害か探索阻害を齎す何らかの魔術、もしくはマジックアイテムの類が使われているってことだ。磁場の関係で自然とそういったことがやりにくい場所もあるにはあるが………ここは、違う。んな話も聞いたことが無いしな………」
「ああ……。カム殿の言うとおり。この場所はそういった場所では無い。エルフとして断言しよう……」
カムの説明にイズールが同意するように頷きながら言った。ジャンはイマイチ分かっていないようだがリリーナは顔を青ざめさせ、実彩も顔を険しくさせた。
おいおいちょっと待て。
その話が本当だとしたら………。
実彩は『眼』にさらに力を込めて盗賊団の屯する洞窟を改めて視た。そこには、確かに洞窟全体を覆い尽くすように、蜃気楼のように揺らいでいる『何か』があった。
これって─────。
「あなた達、ランクアップ試験はここで急遽中止します。急いでこの場から離れなさい」
試験官として今までこちらを影から伺っていたであろうリルが実彩達の前に現れた。
「はぁ!? あんた、いきなり現れて何言ってんだ!?」
ジャンが盗賊に気付かれぬように小声でリルに抗議の声を上げるが、他の面子でリルのランクアップ試験中止の声に否を唱える者はいなかった。
「こちらの調べが足りなかったわ………まさか、そんなことが出来るだけの“裏”が着いていたなんて………苦情は、すべてギルドに無事に帰還出来たてから聞くわ。今は大人しく従ってください」
最後はいきり立つジャンに向けて放たれた言葉だ。
「っだから!! 何でだって言ってんだよ!!」
(こんの馬鹿たれ………まだ分かんないのかよ……!?)
内心悪態を付いて実彩が軽く………やや早口でジャンに説明した。
「いいか? さっきオッサンが言ってたのを聞いていただろ? あの盗賊団の根城にしている洞窟には認識阻害か、探索阻害を行っている魔術師。もしくはそんな効果を齎す類のマジックアイテムが使われているってことだ」
「んなことは聞いたよ! 俺はここで引く理由を聞いて………」
「だからだ!! たかだかちょっと名がある程度の盗賊団にそんなことが出来る魔術師が居るわけねぇだろ!! 仮にマジックアイテムを使っているんだとしても何時、どうやって手に入れたっていうんだ。買うのだって盗賊団如きの財力じゃ無理があるだろが!!」
魔術師は希少────それこそ先祖返りでもない限り王侯貴族しかいない。
冒険者ギルドがランクアップ試験に使うくらいだ。少なくともギルドの情報網ではあの盗賊団に魔術師は居ないと判断された。そして魔術師で無いのならマジックアイテムということになるが…………マジックアイテムとて希少品。手に入れるにはダンジョンに潜るか、もしくは金銭で取引するしかない。だが、盗賊団にマジックアイテムを買う財力があるとは到底思えない。
「……だが、盗賊なら商人から奪ったっていう可能性も………」
「だったらギルドが先に私達に教えてるだろ!! んな危険な代物!! ………でもな、一番ヤバいのはそこじゃーねーんだよ……」
一気に声を潜める実彩に訝し気に見返すジャン。
「────ミーシャ殿が危惧しているのは、盗賊団が魔術師かマジックアイテムを使うような事をしているということだ………」
実彩の言葉を継いだのはパーティーリーダーのイズールだった。
「今、ミーシャ殿が言っていた通り盗賊団に魔術師がいたのならギルドが把握していないはずがない。マジックアイテムだったとしてもだ。認識阻害と探索阻害のどちらかを有するマジックアイテムを盗まれたというならば盗まれた側が国とギルドに訴えない訳が無い…………表に出せない品という可能性も無くは無いが…………この盗賊団の規模と活動範囲から断ずるに限りなく低い」
「…………………やっぱり、それって」
リリーナが、震える。
イズールは険しい顔のまま頷いた。
「あの盗賊団の後ろに“何か”がいる。魔術師か、それも認識阻害と探索阻害のどちらかの効能を齎すマジックアイテムを所有出来る程の実力のあるものが……………そして盗賊団はそれを使っているということは」
「何か、ヤベェ事を洞窟内でヤってるっつーことだ。それもかなり危険な、な………」
イズールとカムの説明を聞いて、漸く理解が追いついたのだろう。ジャンの顔色が悪くなった。
「…………皆さん理解出来たようですね? ならばコレがあなた達の手に負えないことも分かっているでしょう。…………ここは、危険です。早くこの場から立ち去ってください」
「!? じゃあ、試験は……!!」
「バッカじゃ無いの!? そんなこと言っているばあいじゃ無いの分かんないの!?」
「!」
「……!」
カムから半拍遅れて、実彩も気が付いた。
「? 二人共………如何し…………!?」
「!!」
それからさらに一拍遅れてイズールとリルが同時に気が付いた。
カムと実彩は素早く獲物を構えて静かに全身から殺気を立ち上らせる…………。
ジャンとリリーナはみんなの様子の変化に付いて行けず、困惑している。
「おい……、お前ら? どうしたんだ?」
「早く得物を構えろ! …………来るぞ!!」
鋭い実彩の口調にジャンは瞬間的にカチンときたが………四人の醸し出す殺伐とした雰囲気がジャンを押し留めた───────すると、
「あんら~~~? なんだか、面白い子達が居るわね~~~♪」
「おお!? マジだ!! 雑魚が雁首揃えて馬鹿面晒してやがる!!」
「……お前ら……初対面の奴らに少し失礼じゃね?」
実彩のように全身をローブで隠した四人組が実彩達の目の前に突然現れた。
(───この現れた感じから行って転送型では無いわね……)
使われたのは明らかに転送型よりも高価で希少価値がある移転型マジックアイテム。リルは冷や汗を流す。
(しかもこの四人共にかなりの実力者ね……)
誰もが突如として訪れた危機的状況に誰もが緊張感を漲らせる。
すると、現れた四人組のリーダー格と思しき男が前に出た。
「死ぬ前に一応聞いてやろう………貴様ら、何者だ? 何をしにここにやってきた?」
傲慢で、威圧感な男の言葉にリルやイズール、ジャンやリリーナが敵意を露わに四人組を睨み付ける。
しかしカムは冷静に彼らを観察し、実彩は冷たい視線が逸らすことなく四人を見詰めるのだった……………。
次回、遂にバトル勃発か!?
試験はどうなる!?
実彩達はどうなる!?
彼らの活躍をごうご期待!!




