第46話
カムおじさんのお説教の続きなり~~♪
「けど、これはオメェさんだけじゃねぇ………。嬢ちゃん………オメェさんもだ」
「え!? わ、私も!?」
目を白黒させてなんで!? という顔をしているリリーナにカムは重々しく頷いた。
「嬢ちゃんだって探索と周りの気配を探るどころか、このガキとの喧嘩を優先しまくってデケェ声で喚き散らしてただろ? この森中に響き渡るぐらいに、な………」
「あ……」
ようやく気付いたのか顔面を蒼白にするリリーナ……そんなリリーナをイズールは苦々しげに顔を歪めている。ジャンもようやく思考が追いついたのか、血の気が引いていた。実彩はそんな面々の様子に頭が痛くなる。
(一応……私も『眼』と『仮面』を使って周りを警戒していだけど………はぁ………)
実彩は魔力を『眼』に集中させることによって対魔術師が魔力を発動、発動した魔術の出現場所が解るようになる。簡単に言ってしまえば魔力の流れそのものが解るのだ。
そして実彩が着けている『仮面』は、以前リメスで雑貨屋を営んでいる店主から冒険者として駆け出す時に餞別で貰ったものだ。
この『仮面』は使用者に一定の距離に近付いた人物の気配を察知させるスキルが備わっているマジックアイテム。もっともそのスキルを発動させるには条件があった。常に装備していること、発動している間は仮面に魔力を送り続けること、仮面に魔力を送っている間は他の魔法が使えなくなることの3つだ。
デメリットの方が多いように思えるが………こういった場面では割と役立つことが判って良かったと思う。『仮面』のマジックアイテムで現在実彩を中心とした半径二㎞圏内に人の気配はなかった。
「ランクアップの試験とはいえ、俺達が今やっていることは命を懸けた討伐依頼だ。それをデケェ声で騒ぐは喧嘩するはパーティー内の空気は最悪だ。んな状態なのにガキはチビ助にまで噛みつく始末─────────あんたら、二人。冒険者の仕事舐めてんのか?」
ビクッと怯えたようにカムの様子を窺う二人には、もう呆れてものが言えなかった。
(コイツら………本当にDランク者なのかよ………まるっきり悪戯がバレたガキみたいな反応じゃねぇか。なんで、ランクアップの試験受けれたのかすら判んねぇ………)
実彩の内心をよそにカムのジャンとリリーナに対する説教は続く。
「幸い盗賊の気配が今んところなかったから良かったものの………もし聞かれていたら待ち伏せか、もっと悪けりゃ逃げられてんぞ。そうなったらもう試験どころじゃなくなる。冒険者ギルドが討伐に乗り出たのが盗賊側にバレたんだ。奴らは更に身を隠しながら商人を襲うようになる。……………そうなったら今回しくじった俺達の責任だ。どれだけ犠牲者が出るか判ったもんじゃねぇぞ」
カムの言っていることは正しい。
もし今回の討伐をしくじってしまったが最後、今度からこの辺一帯の盗賊達の犯行は巧妙になっていくに違いない。向こうも生活が懸かっているんだから当たり前だ。
「…………リリーナ、ジャン殿。気持ちを切り替える為にも此処で少しの間、休息を取ろう。今のままではとても盗賊討伐に出ることは出来ないと。私はパーティーリーダーとして判断する」
今まで黙っていたイズールがカムの言葉を引き継ぐようにジャンとリリーナに改めてパーティーリーダーとしての決定を告げた。
「………」
「…………」
「無言は肯定と解釈させて貰おう………カム殿、ミーシャ殿…………世話を掛ける。済まない」
「あんたが謝ることじゃない」
「俺ぁ、気にしてねぇよ」
謝るイズールに実彩もカムも気にするなと言うが………やはり責任を感じているのだろう。イズールの表情は暗かった。
「────三十分、休憩とする。各自周りの気配に気を配りつつ自由にしてくれ、以上だ……」
イズールが言い終わると、真っ先にいなくなったのはジャンだった。そしてイズールの様子を窺いながらリリーナがその近くに座った。カムはどこか眠たそうにしながら近くの木の根に寄りかかっている。
(はてさて………私はどうすっかな?)
暇を持て余した実彩は近くに生えている草花を見ながらぶらぶらと歩き出した。
その間、『眼』と『仮面』に魔力は注いだままた。
(ん?)
ふと、実彩の視界にある紫色の花が横切った。
(あれって………へぇ? この世界にもアレがあったんだ……)
良いものを見つけたとばかりに実彩はその花を早速摘みに行った。
(クッソぉ………!! なんでこんなに上手くいかないんだ……!!)
ジャンは苛々しながらデタラメに剣を振り回しては周りの草木に八つ当たりしていた。
(なんで……なんでなんだよ!? アイツと組んでいた時は、こんなこと………なかったのに………)
脳裏に過ぎるのはかつて共に活動していた魔術師の片割れ。貴族の次男坊であったその相方はジャンが冒険者として駆け出しの頃から一緒に居た相棒だった。
(アイツが……アイツがいきなり冒険者を辞めて自分ちの領地に戻りやがるから………)
成人と共に冒険者になってからの二年間。ずっと一緒にいたにも関わらず一言の相談もせずに居なくなった相棒。
詳しい話は一切してくれなかった。どんなに問い詰めても話せないの一点張りで………。
(冒険者として一緒に名を上げるんじゃなかったのかよ!!)
相棒にとっての冒険者とは………ジャンの存在とは簡単に捨ててしまえるほどに軽いものだったのか?
(ぜってぇ……見返してやるって決めたんだ! 俺、一人でだって………上を目指せるってことを証明してやるんだ!!)
そして───
「っ! ……お前が、簡単に捨てちまったもんがどんだけスゲェもんか………俺が必ず見返してやる!!」
その為にもまずはCランクに上がらなくてはいけない。こんなところで、足踏みしている暇は無いんだ………!
イズールの言った三十分が経った。
時間内に戻ってきたジャンとリリーナがどれだけ頭を冷やせたかは判らないがパッと見た限りでは二人とも落ち着いているように見えた。
(まっ、そうなってくれなきゃこっちが困る)
わざわざ休憩を挟んだ意味が無いからな。
それからの進行は散々険悪であったジャンとリリーナも周りに対する警戒心を十分に発揮してくれた。
このままの調子で行けば後一時間で目的地である盗賊団が根城にしている洞窟に辿り着くことが出来るであろう………ただ。
(けっこう近付いているはずなのに………なんでこうも気配が無いんだ?)
斥候の気配ぐらいそろそろあっても可笑しくない頃合いだ。それが………どうにも静か過ぎることに実彩は違和感を感じていた。
(ジャン《馬鹿》とリリーナが騒いでいる時もそうだった。あんだけデカい声で騒いだんだ。見回っている奴らに二人の声が聞こえていても可笑しくないのに…………)
姿が見えずとも山の中の声というものは結構響き渡るものだ。それが…………こうも無反応なのは何故か?
(運良く聞こえていないか………それとも本当に見回りが近くに居なかった?)
または別の理由が、盗賊団の方にあったのか?
ならばそれは如何なる理由なのか?
(…………駄目だな。いくら考えても判らない。今は黙ってアジトに着くまで大人しく周りを警戒しているしかないか………)
まさか既に盗賊団が根城を移動した訳ではないだろうと思いながら………どうにも拭えない。なんとも言えない薄気味悪さを感じながらも、実彩は盗賊団のアジトである洞窟にパーティーメンバーと共に向かうのであった。




