第44話
実彩、カム、ジャン、イズール、リリーナの五人は試験内限定の臨時パーティーでの役割分担の話し合いを行った。その間、試験官であるリルは少し離れた場所で見守っている。
まずは互いに自己紹介と得意な戦闘を明かした。
「私は見て判った方も居るだろうがエルフ族のイズールだ。得意な戦術は精霊魔法を使った後方支援を主としたものだ。宜しく頼む」
「私はイズールの異母妹のリリーナよ。人間とのハーフだから精霊魔法は使えないけど探査能力はエルフに負けないぐらい強いわよ! 攻撃魔術は主に風魔術を使っての遠距離攻撃が得意よ」
エルフ異母兄弟の次にジャンが名乗りを上げた。
「俺の名前はジャンだ! 得意な戦法は剣を使っての接近戦! 力には自信があるぜ!!」
「俺はカムってんだ。俺は主に罠を作ったり解除したりすることが得意だな。戦闘だと大抵肉弾戦主体だ」
思わず無言でカムを見る面々。
肉弾戦って………まさか、素手? 徒手空拳? 今までそれで冒険者やってきたのか!?
対人でもキツいだろうに………魔獣相手にはどうしてたんだ? やっぱ素手??
微妙な空気な中、実彩が気まずげに名乗りだした。
「あー……私は魔術師のミーシャ。一応、戦闘型治癒士ということになってる。魔術師と名乗っているが主に針を使った中距離接近戦に魔術を合わせた戦法を使う。あ、あと念の為に言うが私の治癒魔法は当てにしない方がいい。痛みを何となく軽減する程度しか効果ないから」
「「「「…………………………………」」」」
カムの時以上の困惑した視線が突き刺さった。
戦闘型治癒士? なんだそれはという疑問符が頭に浮かび。
針を使った中距離接近戦に魔術を組み合わせるというスタイルに困惑を深め。
痛みを何となく軽減する程度の治癒魔法しか使えないという時点で四人は同時に同じことを思った。
((((治癒魔法、使えねー(ない)!!!)))
さらに微妙な空気はなったが言った本人はいけしゃあしゃあと涼しい顔(仮面で見えないが雰囲気が)をしていた。
皆は気分を取り直し、パーティーリーダーを決めることにした。そしてパーティーリーダーにジャンが立候補した。
「俺がこのパーティーもリーダーになってやる!!」
意気揚々と宣言するジャンに、他のメンバーは一斉に却下した。
「お前がリーダーやるのは絶対に無理だ」
「あのな、坊主? パーティーリーダーつうもんはパーティーの指針を任せる大事な役目だ。いざとなったらソイツに命預けて闘わなくちゃあならねぇ………」
「貴殿のように視野が狭く、思い込みも激しい者がやるべきではない」
「………私も、貴方はちょっと不安かも」
次々出されるダメ出しにジャンは一気に顔を真っ赤にさせた。
「なっ!?」
声を詰まらせるジャンを後目に実彩はある人物を指名した。
「私はイズールをリーダーに推薦したい」
「お、俺も」
続いてカムも実彩の提案に乗った。
「む? 私、か?」
「アンタがこの中で一番理性的に見えるし。何よりその客観的な姿勢は一時的に組む臨時パーティーのリーダーを務めるのに相応しく思える」
実際に一歩下がって全体を見渡す崩さないイズールの姿勢は臨時パーティーのリーダーとしてはうってつけに思えた。
「私もイズールなら安心だし」
「………………」
リリーナは勢い良く頷いてジャンは顔を歪めながらも反論はしなかった。………恐らくここで反発しても自分が選ばれることは無いと薄々判っているからだろう。
イズールは皆の顔を一瞬見渡してから、深く、頷いた。
「………承知した。ならば、精一杯務めさせてもらおう」
これでパーティーリーダーは決まりだ。
「では早速リーダーとしての務めとして前衛と後衛の役割分担と…………試験官殿、貴殿に一つ聞きたいことがあるのだが」
「うふ。私に? 何が知りたいの?」
黙ってこちらの様子を窺っていたリルが………何故そこで艶めかしい流し目をイズールにむけるのか?
イズールは一瞬、視線が遠くなったが咳払いをして意識を切り替えた。
「んんっ!! ………では質問なのですが。この度の私達の盗賊討伐は一応試験となっていますが盗賊を討伐した際の討伐報酬は発生するのですか?」
盗賊の討伐………報酬?
「うふふ~。勿論、出るわよ? いくら試験だからと言っても一般人を脅かす盗賊を討伐するのですとの。それ相応の報酬は約束されるわ」
そうなのか。あくまで試験という印象だった為、てっきり出ないものだと思った………。
そしてそう思ったのは実彩だけではない。
ジャンやリリーナも驚いた顔をしていた。しかしカムは予想していたのか………うっすらと笑みを浮かべていた。
「そうですか………では、盗賊が所持しているであろう盗品などはどうなりますか?」
続くイズールの質問にさらに笑みを深くするリル。
「貴方………本当に良い質問するわねぇ。んふふ……盗賊の所持している盗品は基本的に討伐した冒険者に所有権があるわ。た・だ・し。それはあくまでも盗品届けが出されていないものだけ。盗品届けが出されているものは持ち主に返却しなくてはならないから勝手に懐に入れちゃ駄目よ?」
最後の台詞は実彩達にも向けて言われた。
敢えて念押しするということはねこばばした際には冒険者ギルドから処罰が下るということだろう。
リルの話を聞いたイズールはリルに礼を言って改めて実彩達に向き直った。
「皆も聞いての通りこの度の試験では報酬が出るようだ。配分は討伐後、ギルドに戻ってからにする。良いか?」
特に異論はなかったのでみな首肯した。
「次に前衛後衛の役割分担だが……話を聞いたところそれぞれ極端に得意分野が分かたれているようだが盗賊達の見張り、先兵を警戒して一番先頭を探査能力が強いリリーナ、次にジャン殿、カム殿、中距離に対応出来るミーシャに最後にリリーナと同じく探査能力がある私で固める………異論は、有る者は?」
これも黙って首肯。
皆の意見が統一されていることを確認したイズール。
「決まりだな。それでは試験官殿。早速私達は盗賊討伐に向かいたいので私達の狩る盗賊の情報とその居場所を教えてもらえまいか?」
リルはまさしく、妖艶という言葉が匂い立つかのようになんとも色のある、吐息のような声音で告げた。
「アナタ達が狩る盗賊はこの辺りではそこそこ名の通った『山の鉤爪』と呼ばれている集団よ………。アイツらの住処は此処から少し離れた奥深い山の中にある洞窟に居るわ………さあ、Cランクを目指す冒険者の皆さん方? 彼らを、一人残らず討伐しなさい。私に、冒険者ギルドに、その覚悟を示す時よ─────」
リルの愉しげな雰囲気に、カムを除いた者達は一斉に顔をしかめたが結局は何も言わずにギルドが用意した場所に乗り込んだ。
既に、試験内容が戦闘ものだと判っていただけに誰もが準備を済ませている。
そして一行は盗賊達の根城である奥深い山の洞窟へと向かうのであった。
そして同時刻。
コルト公国から四人の怪しい人影が実彩達と同じ盗賊団の根城に向かった。その報告がギルドに届いた時には──────時すでに遅く、実彩達は盗賊団の洞窟に着いてしまった後であった……………。




