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番外編 差し迫る闇







薄暗く、つめたい空気が満ちるある洞窟の中には小規模の盗賊団がたむろしていた。



彼らはこの辺りでは有名な盗賊集団である。



十数人弱からなるその集団は、元を正せば戦争などで召集された冒険者や農民の成れの果て。戦争から生還して帰っても渡される報奨金は雀の涙。故郷に帰っても戦争で経験した悲惨な光景が意識の奥にまでこびり付き、家族に害を及ぼしてしまう始末。


そうなってしまっては、もうまともな生活には戻れない………。毎夜夢見る悪夢から逃れようと故郷を飛び出して身の内に湧き上がる破壊衝動と殺戮衝動のままに人を狩り始めるものもいる。


その結果、多くの者は盗賊や野党などといった側に堕ちてしまう。故に………。



「遅ぇじゃねぇか………待ちくたびれちまったぞ」


「………そういうな。こっちにも事情が有るんだ。多少の遅れぐらいは見逃せよ」



盗賊団の頭と対峙する黒い影が四つ。



「ふん……。知るかよ、そんなもん」



忌々しげに吐き捨てる頭に、四つの影の内の一人が口を挟んだ。



「へーー? そんなこと言っちゃうの? 僕らが手を貸さなかったらアンタ達の目的だって叶いやしないのに?」


「───なんだと?」



凄みを増す頭の気配に口を挟んだ一人は、怖ぇ~~と言いながらもゲラゲラ笑っている。


苛立ち始めた盗賊団を最初に頭に返答した者が詫びた。



「この馬鹿が済まない。ふざけた奴ではあるがいざという時はなかなか使える奴なんだ。それに俺達がいがみ合ったところで何の利益も生まん。ここは一つ、穏便に済ませてもらえないか?」


「いっ!? ……ってぇぇ!!」



ゴチンと音を立てて頭を殴られて呻く影に頭が鼻で嗤った。



「ふん! テメェの手駒ならしっかり教育しとけよ……」


「誰が手駒だ!!」


「煩い。お前はしばらく黙ってろ……」



殴られた影とは別の二つの影がクスクス笑っていた。



「調子に乗るからだ。ば~か」


「止めてやれよ? 可哀想だろ?」


「………テメェら!?」



それに気付いた彼は、言葉が喉まで出掛かったが隣から感じる視線に押し黙った。



「………チッ」



ハァ……とため息を吐いて改めて頭と向き合う影。



「失礼した。それではさっそく商談を始めよう……。これが、そちらが要求した品の代金と武器の一式だ。確認してくれ」



今まで黙っていた二つの影がどこからともなくひと抱えはある武器の入った木箱を十数箱分と金貨の入った袋を五袋渡した。


盗賊団の頭が配下に木箱と袋の中身を確認させる。


配下が全員頷くのを確認してから、今度は盗賊団の何人かが洞窟の奥へと向かった。



「確かに……こっちが要求したもんすべて揃っていたな………いいだろう。ほら、アンタらの欲しいもんだ。持ってきな」



洞窟の奥から鎖に繋がれた数匹の魔獣が現れた。



「ほう……良く、ここまで揃えられたな………」



現れた魔獣達はすべて雛であった。通常魔獣の雛は体内の魔力が安定するまでは親である魔獣に育てられる。


今、影達の前に居る雛はすべて五体満足な上に特に弱っている様子は見られなかった。



「クックックッ。コイツらの親は全部、討伐依頼を受けた冒険者と派遣騎士の奴らが片付けてくれたよ………まさか、雛が居るとも知らずになぁ……。お陰様で、こっちはほぼ無傷でコイツらを手に入れられたよ」



ニヤリと醜悪な顔で嗤う頭に対峙する影は感心したように頷いた。



「なる程………冒険者と派遣騎士を上手く利用したのか………ハッハッ!! ではさっそく連れて行かせてもらおうか」


「いや、駄目だ。まだあと一匹、残ってる」



さっそく魔獣の雛達を連れていこうとした影達は止まった。



「なんだよ。まだ一匹居んのか? さっさと連れてこいよな……」


「だから、止めろって」


「仕方ないさ。ガキだからな!」



騒ぐ三人を睨み付けて黙らせる。



「そうか……ならばその雛も早く渡してくれないか?」


「そうはいかねぇ。コイツに関しては追加料金を貰う」


「……………なんだと?」



俄に殺気立つ影達に頭は待ったをかけた。



「まぁ……そう殺気立たねぇで最後まで話を聞けよ? 最後のヤツに関しては手に入れられるのに苦労してな? 何しろ、さる貴族が他国から秘密裏に密輸して来たもんだから警護をかいくぐるのには骨が折れたぜ……だが、そうまでしてぶんどった価値はあるもんだ。………テメェらも見たら別料金払いたくなるってもんよ………」



クックックッと喉で嗤う頭に影達は訝しげに見やる。



「そいつは………今支払ったものでは足りないほどの価値があると?」


「嗚呼……。絶対にあるね」



自信満々で言い切る頭に口を開こうとすれば────洞窟の奥から地響きのような唸り声が洞窟全体に響き渡った。



「─────この、声は?」



影達がすでに引き渡された魔獣の雛達はその唸り声に怯えて………互いに身を寄せ合うようにして震え上がっていた。



「一体……何の雛を捕まえたんだよ………」


「「…………」」



そして────洞窟の奥から現れた雛の姿を目にして………影達を引率していた者が堰を切ったように哄笑した───!!



「クックックッ───うはっはっはっはっはっ!!? まさか、まさかこのような大物とは思いもしなかったぞ!? これは確かに今支払った額では到底足りぬ代物よ……!!!」


「すっげぇ……。僕、初めて見た……」


「俺もだぜ……こいつぁ……すげぇ………」


「予想外だったな」



盗賊団の配下が洞窟の奥から連れて来たものは、



「あはははは!! 驚いただろう!! 海を越えた灼熱の国に住まう魔獣の頂点に立つ至高の王!!!






        爆炎竜《エクスプローシブレイムドラゴン》の雛だ!!!       





                         」



竜《ドラゴン》の────それも攻撃特化型の火を司る竜種の中で爆炎竜は最も強く、最も凶暴な種であると伝えられている。


灼熱の国『フレイアムス』の地域近くでしか生息して居ないといわれる爆炎竜──。


その鱗と眼《まなこ》は燃え盛るような真紅に輝き、他の竜種には見られない爆炎竜特有の角。


この角は、時に竜の力の源とされる竜珠よりも高値で取引されることもある稀少品。


この爆炎竜の雛は雛である為か、その角はかろうじて目視で確認出来る程度にしかないが………。


見たところ、この雛は生後二・三カ月といったところであろう。よくもまあ……親竜から奪取出来たものだ。この雛の親竜は、さぞや怒り狂っていることだろうよ。


爆炎竜の雛の首に着いた首輪。

おそらく、竜としての力が振るわれないようにする魔封じ系統のマジックアイテムであろう。


さる貴族と盗賊団の頭が言っていたのでその貴族の持ち物か………?


何を考えてこのような暴挙を犯したのかは知らないが……だがその暴挙、この雛を手に入れられる我らからすれば願ってもなきこと。心の底から感謝してやろう────!!



「いいだろう………。今支払った額の三倍は出そう!! が、………今は持ち合わせが無い。支払いは次にこの場に訪れた時で構わないか?」


「構いやしないぜ? だが、支払いが済むまでこの爆炎竜の雛はこちらが預かる………。文句はねぇな?」


「………致し方ない、か」



本音を言えばすぐに引き取りたいが盗賊団の頭が警戒するのも分かる。ここで爆炎竜の雛を力づくで奪うのは訳ないが、そうなると新たな取引先を探さなくてはならなくなる。自国ならいざ知らず、先の一件で他国で自由に動くのが難しくなった今となっては無用な面倒事を起こすわけにはいかない。



「解った………代金は、そうだな………明後日までには用意しよう」


「明後日か………そりゃあ随分と気前が良いもんだ。へっへっ……」



こうして影達と盗賊団との交渉は終わった。


実彩達が昇級試験でこの盗賊団を狩る、二日前の出来事だった…………。











爆炎竜の英語読み。正確にはexplosive flame→エクスプローシブ フレイム ドラゴンが正しいです。区切って読むと読みにくいかな~? と繋げてみました。


故に!! これ、読み方違くね? という苦情はお聞き出来ません! 悪しからず!!


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