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第41話


ちょっとだけ短いです。





爽快な目覚めと共に、実彩は手早く身支度を済ませると一度冒険者ギルドに向かうために宿を出た。昨日ギルド職員のリルがギルドマスターの執務室で言っていた明日完全予定のローブについて受け取る詳しい時間を聞くためだ。


実彩に一方的な勝負を挑んで来たジョンと……あまり関わり合いになりたくない彼女はなるべく早く出立しだいが為に確認したいのだ。


少しヨレてしまっているローブを目深く羽織って仮面を着けている姿に、宿の食堂で食事をとっていた何人かがギョッとしている姿を見掛けた………昨日実彩を見なかった宿泊客達だろう。明らかに不審そうな顔をしている。


朝食は、この時間帯ならば出店が開いているだろうと食堂で食べようとせずにそのまま宿を出ようとした所、宿の女将に呼び止められた。



「ちょいと仮面のお客様! 待ってくれよ!」


「………?」



宿泊費はすでに払い終えている。


このまま宿を後にすることも話してあった筈。なのに、なんの用だろうか?



「ほら、お客さんこーれ!」


「……え?」



差し出されたのは二つ包み。



「これ……」


「朝飯も食べないで行こうとするから焦っちゃったよ! 聞いたよ、今日はランクアップの試験があるんだろ? ならしっかり食べないとね!!」



二つの包みの内、一つはパンの中に数種類の野菜や肉汁の滴った挽き肉が挟まっており。もう一つには皮のままで食べられる果物が幾つか入っていた。



「昨晩、店の中で喧嘩しようとした奴らを外で叩きのめしてくれた礼さね。さあ、呼び止めて悪かったね。試験、頑張っといで!!」


「…………」



仮面の下で目を丸めながら女将と渡された包みを交互に見詰める。


女将の気のいい気遣いに自然と頬が緩むのが判る。



「……はい! ありがとうございました!!」



笑顔で女将に礼を言って背を向けた。



「またこっちによったら宿屋『トマリギ』を使っておくれよーーー!」



一瞬、足が止まりかけてしまった。



(『トマリギ』………。あの宿屋………そんな名前だったのか…………)



寝れればいいと適当に選んだ宿だったので名前までは気にしていなかった……。


思わずリメスで利用していた宿屋『ヤドリギ』を思い出す。一文字違いなのに、片や守銭奴女将。片や気の良い女将………。この差は、なんなんだろう……。


ちょっと目線が遠くなったが、振り向いて女将に手を振ると今度こそ、実彩は冒険者ギルドに向かったのであった。


女将のくれた朝食を食べながら。











「うふふ。待ってたわよ~」


「…………………」



回れ右。


ガシッ

と掴まれる肩。



「うふふふふふ……な~んでいきなり回れ右? なのかな?」



早朝、冒険者ギルドの前は時間帯が早いためか人気が無い。そんな冒険者ギルドの前に昨日、執務室で会ったギルド職員のリルが、何故か居た─────────



新体操服のような体の線どころか体格そのものが分かる程のピッタリとしたうっっっすい生地に、さらにフリッフリの紗のフリルが肩口、太股を艶めかしく彩って……………



─────────まともな人だと思っていたのに、なんつー格好してんだ? この女。痴女か? 変態か? 娼婦だってそんな格好しないだろ。娼婦自体にまだ会ったことがないけれど。



自分の体に自信が有るのだろうけど……あんたの年齢鑑みても痛いし。確かに? 素晴らしいプロポーションでは有りますけど? 個人的には胸がすこ「うふふふふふふふふふふふ……」別になんでもありません。



「な、に、を考えていたのかな? お姉ちゃんに言ってみなさ~い? 怒 ら な い か ら ♡」


「なにもありませんお早うございます今日は良い天気ですねまさしく試験日和では有りますけどその試験の集合場所に時間通り行くためにも何故リルさんが此処に居るのか教えてくださいお願いします」



リルの笑っていない目を見返しながら早口で挨拶と要件を告げる。知ってるぞ、その手の顔をした女性は怒らないと言いつつ実際に言った瞬間、悪魔の形相になって殴りつけてくることを───!!


どころか妖しげな流し目をくれるリルが垂れ掛かるように実彩の両肩に腕を回した。



「も~う~~。そんなに急がなくてもいいのに♪ 焦っちゃだ・め・よ? 後、私が此処に居る理由は昨日言ったローブは出来たからよ♡ 私も今回ばかりは驚いちゃった。職人気質のあのアホたれは一から刺繍図案練り直そうとしていたのを止めて………時間が無いんだから雛型あるので作りなさいよってせっついたのよ♡ そしたら、こーれ! あの、アホたれ、完徹してまで作り上げたよ。まさか一晩で作ちゃうなんてね~~♪ というワ・ケ・で。アホ職人自慢の一品よ? 大切に使ってあげてね~」



リル曰わく、職人気質のアホと呼ばれた人の作ってくれたローブはギルドカードローブとよく似てはいるが魔力糸によって造られていない為、魔力を通して術を仕込むことは出来ないが、それでも一晩で作られたとは思えないほどに良い出来だった。


流石にギルドカードローブと区別させる為に図案が少々変わっていたけれど、これはこれで悪くない。



「その図案は~~魔術がよく好む図案よねぇ~~何でも大昔に流通していた魔力元素を図式化したものらしいんだけど別に術式として使うにはちょっと『癖』が有るらしくて……万が一術とかが発動しないようにわざと図式を崩しているって聞いたことがあるわ。魔術師である貴女もやっぱりその図式、好きなの?」



リルの疑問に苦笑で答える。……大昔に流通していた魔力元素の図式。そんなものがあること自体知らなかった実彩としては答えようがなかったのだ。



「さあ? まあでも……このローブは、とても気に入りました。このローブを作ってくれた職人とやらにお礼を伝えておいてください」



烏の濡れ羽色のようなローブに白で刺繍されて、相対する色は互いを引き立てあっており、とても美しく、実彩の目に映った。



「ふふふ。喜んでもらえて良かったわ。早速着てみる? 容姿を見られたくないならギルドの中で着替えても良いわよ?」


「是非お願いします!」



明るい声音にリルは優しく微笑む。



(本当に嬉しそうな声。やっぱりお洒落は気にかかるのかしら? 恋する年頃の乙女だものね♪ ────仮面にローブ姿だけど)



……若干、いや……非常に検討違いな勘違いをしている部分もあるが……そんなリルの内心を知らない実彩からすればリルの提案は非常に嬉しいものだった。



(この人、良い人だったんだなー。格好さえ気にしなければ頼りになるお姉さんみたいだ)



──…実彩も若干、失礼なことを思っていたが……。




ザッと新たに手にしたローブを身に纏う。

ギルドの外に出れば、そこにはリルが待っていた。



「ふふ。新しいローブ……なかなか似合っているじゃない!」


「ありがとうございます」



上機嫌の実彩。

リルはニコニコ笑いながら───、



「これで準備万端ね! さぁ、思ったより時間をくちゃったみたいだし……試験集合場所の大門まで早く行くといいわ」


「ええ、そうですね」



確かに、そろそろいい時間だ。少し………急いだ方が良いだろう。



「それではありがとうございました。ローブを作ってくれた職人さんにも、本当にありがとうございましたと伝えてください」



リルに軽く会釈すると実彩は試験集合場所の大門へと急いだ。



「うふふ~。まあ、すぐに会うんだけどね~……」



その後ろ姿をニヤリとリルが企み顔でニヤついているのだった………。















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