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第4話



『苗場にしていた魂の持ち主が生きている間に世界樹の種子が抜け出すことは、別に珍しいことではないんだ。芽吹く為の糧さえ得ることが出来ればいいんだから。ただ、苗場にしている魂の持ち主が生まれた種族や、その生まれた世界特有の力が有ったりした場合。魂との相性が悪くなって枯れてしまうもの、または糧を余りに早く得てしまって芽吹く場所が見つからずに腐ってしまうものもいるからね。その点僕と喜與子の相性は抜群に良かった。君達の世界には昔話やお伽話に出てくる“力”は一様、あるにはあったけど種族が人間しかいなかったせいか余り発展はしなかったみたいだしね。え?君達の世界に、科学以外にもそんなモノがあったのかって?もちろんあったよ。本当にほんの一部の人達が伝えているみたいだけどね。どうも君達の世界の権力者達はその“力”を嫌っているみたいだから。何しろそういった“力”って血筋に宿るものが多いからだろうね。その点、喜與子は魂も上質だったけど血筋的にもそういった“力”との相性も良かったし、性格だって悪くなかった。だからね。僕は喜與子に感謝しているんだ』



セフィロトは背後にそびえ立っている己自身を見上げた。



『君の見ての通り、僕がここまで立派な世界樹に成ることが出来たのは喜與子のお陰だから。だからこそ、そんな喜與子を巻き込んでしまった事を僕は後悔していたんだ』



セフィロトは言葉を一旦止めて、実彩を真っ直ぐに見つめた。



『……あのね実彩、この世界の先代の世界樹は保つことが出来なかったんだ』


「保つことが出来なかった………?」



実彩は、ひたすら黙って聞いている。セフィロトはそんな実彩に一つの嘘をつくことなく伝えた。



『先代の世界樹は次代が完全に糧をきる前に────枯れてしまったんだ』


「世界樹が枯れてしまった?それが、喜與姉が私達から居なくならなければいけない理由になるんだ」



 世界樹セフィロトとは世界を支える大樹。


その世界樹はあらゆる叡智を持ち、均衡と平和を司る偉大なる神木。


それが、実彩の知っている世界樹についての知識だ。そもそも他国の神話にそれ程精通している訳でもない実彩にはこれが限界でもあった。


次代が糧を十分に得る前に世界樹が枯れてしまったということの─────危機が。



『世界樹が枯れてしまったらね、実彩。世界樹に支えられていた世界は崩壊してしまうんだ』


「は?崩壊する??一つの木が枯れてしまうだけで?」


『世界樹は世界を支える。この“支える”がなかなかのくせものでね。世界樹は重なり合っている世界同士が完全にくっつかないように隙間を造るのがそもそもの役目なんだ』



多重世界、平行世界と呼ばれているモノが在るのは実彩の生きている世界でも言われていることだ。


その数々の世界が重なりすぎたり、完全に重なったりしてしまうと─────世界そのものが崩壊してしまう。



『僕達のような存在は世界が崩壊しないように世界同士を調整する役目を持っている。他にもたくさんのそういった存在がいて、様々に呼ばれている。────この世界に関しては、今のところ世界樹以外にこの世界を支えるだけの力を持った存在がいなかった。この世界で神として崇められていたモノ達は世界を支えるだけの力をほぼなくしている。喜與子の魂に沈んでいた僕が、どうしても、この世界に必要だったんだ』


「だから……喜與姉は私達の前から居なくなった? この世界が崩壊すれば、私達の生きている世界も崩壊するから……?」



セフィロトは顔を歪めた。従姉妹と同じ顔を。まるで、従姉妹が泣きそうになっているようだ。



『そうだよ。世界の崩壊を防ぐ為に、喜與子は生まれ育った世界と君達を捨てた。………僕が捨てさせた』



 胸にこみ上げてくる激情。


怒り 悲しみ 苦しみ 悔しさ 虚しさ 哀しさ

3年間のあいだに積み重ねていた─────“痛み”だ。



『理由はあった、喜與子が決めたことでもあった。それでも、君達が苦しまなければいけない理由にはならない』


「………喜與姉は、どんな風だった?苦しがってたのか」



 セフィロトは苦笑した。


目の前にいる実彩の方がよっぽど苦しがっているように見えるからた。



『彼女は、笑っていたよ。“何とかなるかな~”て楽観的だったね。僕の世界では結構好き勝手やってたしね』


「………………………………………………はい?」


『うん?』



実彩は口をパカッと開けて、呆けていた。セフィロトはそんな実彩に戸惑った。



『あれ? どうかしたの、何か気になることでも??』



 実彩はポツリと言った。



「………喜與姉────世界の為に死んだんじゃ、ないの?」



『死 ん で な い か ら ね!!!??』



流石のセフィロトもビックリしたらしい。イヤイヤと慌てて補足説明をする。



『確かに彼女には今まで生まれ育った世界を捨ててもらったと言ったけどね!!だからといって=《イコール》死は流石に早とちりだからね!!!??』



まさか実彩の言っていた“どんな風だった?苦しがってた”って



【末期の状態を聞いていたのか─────!!!】



『彼女に君達を捨ててもらったのはあくまでもこっちの世界に来てもらうためだからね!?いくら相性が良くても成長するには糧が足りてなかったから、仕方ないけど、喜與子から糧を得るのと同時に僕も一緒に成長していくことになったんだ。でも、そうするには同じ世界にいたほうが彼女の為にも良かったから、喜與子の命と引き換えに成長した訳じゃないからね!!』



実彩は固まってしまった。てっきり喜與子は世界の為に犠牲になったものだとばかり。



「じ、じゃあ喜與姉は生きているのか?無事なんだな!!?」


『………………いやあ、まあね。そうなるかな?』


「何だよ、その間とその曖昧な返事は」



何と言うかね~。っとセフィロトは視線を漂わせ、ため息をついた。



『彼女は生きていたよ…………二千年くらい前ほどに』


「二千年前!!?何を言っているんだ、喜與姉が居なくなったのは3年前だ。それが、なんで二千年前になるんだよ!!!」


『えっとね。聞いたことがないかな?よくさ、人が住んでいる世界と天上の世界だと3日ほど日にちがズレて進んでいるって。それと同じ理屈でこの世界と君が暮らしている世界では時間の流れが違うんだ─────そして、君にとっても残念なお知らせがあるんだ』



 実彩は嫌な予感をヒシヒシと感じた。



『ここに来た時点で、君は元の世界にモドレマセン。………えっと、元気出して(≧∇≦)b』


「……………………………『ギィイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ』」



セフィロトは表情を消した実彩にほぼ一方的に攻撃を掛けられ続けられて、一生懸命避け続けていた。この攻防戦は、実彩の体力が切れるまで続いた。












『……うっ………ヒィク、だっ…だから、最初に聞いたのに………“どうしてこんな所に、どうやってきたの”って。聞いたのにっ………!!』



膝を抱えながらノの字を書いて、シクシク泣いている従姉妹の姿をしたモノを、某害虫をみる女性のような嫌悪感のある目。もしくは、変態をみる蔑んだ目をしている実彩。



「……ちっ」



 実彩は忌々しげに舌打ちした。


当の実彩本人は体力が無くなり地面に片膝をついて肩で息をついている。



(例え、喜與姉の姿をしていたとしても………ここまで気色悪と、ためらいなく、攻撃出来るな……はぁ、あの野郎っ………!! 私の攻撃をことごとく余裕で避けやがった! 腹立つ!!? 警棒を使った私の杖術じょうじゅつが!!!)(*杖術とは棒術の一種である)



『こっ………こんなの、やつあたりだっ!酷い!!ヒドすぎるぅ……………うぅ』



セフィロトは実彩をチラチラ見ながら涙ながらに訴えてくる。マジうざい。



「………私は、帰れないのか」


『─────帰れないよ。君が選べるのは、一つしかない。喜與子が生きた世界に、僕の世界に行くことだ』



先程までの鬱屈した雰囲気を一転させてセヒィロトは真剣に実彩に宣告した。


それが、己の役割だと───喜與子を奪った責任だと。



「……喜與姉の、生きた世界か」



 実彩の顔には苦渋の色が浮かんでいた。



【無理もないかな。………君達から喜與子を奪って、君から家族と生まれ育った世界を奪って。君の家族は、君をうしなう】



その思いは複雑極まりないだろう。今度は、己が家族を苦しめる原因となるのだから。



『実彩が異世界に居ることを君の家族に知らせることは出来なくはないよ』



唐突に告げられた台詞に勢い良く実彩は顔を上げた。今、セフィロトは何と言った?自分の現状ことを知らせることが出来る?



『出来なくはないんだ。ただその方法は少し曖昧で、君の家族が信じるかは分からない。それに、君の家族に知らせる迄には時間も必要だ』


「それは! どんな方法なんだ!? 教えてくれ!!?」



実彩は必死だった。家族に、金刺家に、あの時と同じ思いを抱かせてはいけない。



『夢を使うんだ』


「夢? を、使う??」



 あっさり言われた言葉に実彩を混乱させた。



「夢でどうやって家族に私の事を伝えるっていうんだ」


『夢はね、実彩。時間の制約を受けないんだ。だからこそ未来を垣間見れることもあるし、過去に意識を飛ばすことも出来る』


「……………」


『夢を使えば、君の家族に君のことを知らせることが出来る。でも、幾ら夢を使っても君の家族に伝わるまでは2・3年はかかる』


「2・3年?」



ここで実彩はハッとした。今日、金刺家に呼ばれたのはまさか。



『そうか、君は今日。金刺家に呼ばれたんだね』



セフィロトは薄い微笑を浮かべていた。それこそが、答えだった。



「喜與姉は、夢で私達に伝えようとしていた?」


『そうだよ、実彩。喜與子は君達に知らせようとしていた。自分が居なくなって君達が苦しむのが分かっていたからね』


「…………………そっか………」



そっか、っと実彩は空を見上げて繰り返した。────もう、会うことの出来ない。大切な家族を想って───



(喜與姉、みんな………さようなら)



『実彩、術は僕がかけよう。家族に伝えたいことを、残したい言葉を』



そして、僕の世界にようこそ。

君を歓迎しよう。

彼女の血族たる、せかいの犠牲者。










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