番外編 暗黒化した惨状
今回から本編意外の内容なものは番外編と銘打って上げていきます。
勝手に変えてしまってすみません。
バズーラ家の屋敷で一晩過ごして迎えた早朝。
実彩は体に染み付いているためか、夜明け前には起き出して庭の一角で日課の鍛錬をこなしていた。素振りから始まり体術の型を一通り繰り返した後、次は仮想敵相手の模擬戦を行ってそれにて朝の鍛錬は終わりだ。
心地良い疲労感を味わいながら、実彩は部屋に戻って固く絞ったタオルで汗を拭き、朝食を食べようと食堂に向かった時だった。
「………何だか、焦げ臭くないか?」
鼻に突く異臭に実彩の気分は急降下していく。
(まさか、昨日の戦闘の影響で食堂にも被害がいっていたのか? いや、でもリュカが起こした魔力の暴発も………クソ執事と戦った地下とはこっちの方までは来てないから関係ないはず………じゃあこの異臭は一体──?)
使用人が使う食堂にたどり着いたが、食堂にも異臭が立ち込めていた。
しかし、戦闘による被害のようなものは確認出来なかった……。
「………」
実彩は、取り敢えずローブの裾で鼻を押さえながら異臭の元を確認しようと食堂の奥へと入って行った……。
そしてたどり着いた食堂の先────厨房で実彩が目にしたものは…………。
「……………………………誰の仕業だ、コレは!!」
大量の煤と、丸焦げになっている鍋と謎の物体各種。天井の一部も焦げ、フライパンと思わしきモノは底が抜けている。鉄製で出来ているコレを一体どうやって……?
酷すぎる惨状に顔の筋肉が引きつるのが分かる。
(誰だ……リュカか? それともクリストファーか? 昨日の晩、飯食うつってたけど何がどうしてこうなった……!!)
取り敢えず実彩が朝食にありつく為には厨房をこのままにしておくわけにはいなかい。流石に……王都の使者が来るまで庭でずっと煮炊きは辛い。
「───掃除、するか…」
こうして実彩は朝から煤焦げた厨房の大掃除を朝からやるはめになったのであった………。
二人は沈痛な面持ちで廊下をとぼとぼと歩いていた。ダークグリーンの髪と白金色の髪を持つ少年達、クリストファーとリュカだ。
二人は昨夜の出来事を思い浮かべて重たくて仕方がない気持ちを胸に、食堂に向かっていた。
① スープを作ろうとして鍋の中に具と水を入れて煮立たせたら、何故か鍋ごと炎に包まれて天井を焼く。
② 急いで消化しようとしたら隣でベーコンを焼いていたフライパンが爆発して穴が開く。
③ 結果、出来上がったのはモノは………炭に近い黒こげの物質。
勿論、食べられないモノだというのは一目瞭然だったので棄てようとしたら…………かなりの熱を持っていたらしく、トング(素手でさわれなかった)が溶けた。
これにはクリストファーもビックリ。リュカは顔面蒼白。
結局二人は空きっ腹を抱えたまま食堂を後にした……。
(……あの時は、私が悪かったのです。いくら初めて魔力を使って疲労困憊だったとはいえ………クリストファー殿に料理を任せてしまった私が─!!)
(何故……、失敗したのでしょうか? 僕の魔術理論は完璧だったはずなのですが……?)
クリストファーは昨夜の出来事に首を傾げながら、リュカは絶対にクリストファーを厨房には入れないと決意しながら食堂に向かって歩く。料理は出来ずとも生で食べれるものは、探せば有るかも知れないという希望を抱いて……。
そんなことを思っていたら、どこからかいい匂いが漂ってくることにクリストファーとリュカは気付いた。どうやら匂いは食堂から漂ってきているみたいだった。
二人は不思議に思いながら───空腹もあり───警戒心もなく、ふらふらと匂いに引き寄せられるように歩いていく……。
そして二人が食堂で目にした光景は………。
「こ、これは!?」
「え? ……えぇええ?? なんで『ちゃんとした』食事があるんですか???」
素直に驚いているクリストファーと、理解が追いつかず、若干失礼なことを口に出すリュカ。
だが二人が驚くのも無理は無い。
食堂のテーブルの上にはサラダとベーコンと目玉焼きとトマトで作ったと思われるスープと何かの果実水の入ったコップ。
まだ温かいのか、ベーコンと目玉焼きとスープからは仄かに湯気が出ていた。
パンの入った籠の隣にはバターとジャムの瓶が置いてあった。
「この料理は一体……?」
クリストファーは疑問を口にするが、それよりも雄弁な腹の虫が食堂に響く。美味しそうな食事を前に空きっ腹のお腹が食べ物を寄越せと訴えてくる。
リュカに関してはほぼ丸一日食べてない。
育ち盛りの二人にとってはついつい空腹の誘惑に負けそうになったが、かろうじて理性が二人を押しとどめた。
「………いくら何でも怪し過ぎます。下手に料理に手出ししない方がいいでしょう」
「確かに怪しいですが………」
ぐぅるるるる~………。
「「……………」」
二人分の腹の音。
「「…………(チラッ、サッ×2)」」
ぐぅうううう~………。
「「……(チラッ、チラッ×2)」」
ぐぅるるるる~……ぐぅうううう~……!
「………一口、だけ食べてみましょうか?」
「…………そうですね。毒見してみます?」
クリストファーとリュカは空腹に負けた……。
仕方がない。成長期だから……。
二人は恐る恐るテーブルに付いた。
そして二人はゆっくりと料理に手を伸ばしてほぼ同時に口に含む。
「「(パクッ)………!!!」」
料理は冗談抜きにうまかった。
そしてこの瞬間、クリストファーとリュカの理性は二人の本能に負けた。
もうがっつく勢いで料理を食べ始める。その様子を後ろから見ている人物に気付きもせずに……。
ゆらぁあと食堂に入ってくる黒い陰。だがしかし! 食事に夢中の二人は忍び寄る冷たい陰に気付かない……!!
「───人が、第二夫人に飯届けている隙に……な~ん~で! お前らが先に食ってんだ、あぁん?」
ピシッと空気が凍りついた。
ギギギとクリストファーとリュカが首を声がした方に向く。
そこにいたのは完全に目が据わって仁王立ちしている実彩だった。
「朝飯食おうとしたら食堂からは異臭がするは厨房は煤だらけな上に調理器具は焦げてるは大穴開いてるは謎の暗黒物質が置きっぱなしになってるは…………………………おかげでこちとら朝から厨房を大掃除させてもらったよ───」
ダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラ!!!
冷や汗をかいている二人に向かって実彩は、それはそれは優しい笑みを向けた。
「とりあえず、食った後でいいから……テメェら後でちょっと面貸せ」
…………クリストファーとリュカは、それでも食事を続けた。美味しい食事が空きっ腹の胃に沁みる。
そして食事を終えた二人は実彩によって床に正座させられた。正座が分からなかった二人は実彩が実際に目の前で座ってみせたのを見様見真似で真似した。
で、
そこからは実彩による怒涛のお説教が始まった。食べ物を粗末に扱ったことからやって遣りっ放しの厨房の惨状を放置したこと、などなど。
そして散々実彩による説教を受けた後、あの料理が実彩によって作られたものだと知ったクリストファーとリュカは仰天した。………失敬な。
こうして、朝昼晩の食事の準備は実彩が行うこととなった。……………ただし、クリストファーは厨房を出入り禁止になったとさ。
実彩は弟妹の世話をよくしていたので料理洗濯といった家事は一通り出来ます。
ちなみにお菓子作りも得意です。
一番得意なのはパウンドケーキ!
意外と家庭的な子なんです実彩は。




