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第33話

 第二章開幕~。




バズーラ家での戦いから五日経って、ようやく王都から王宮派遣騎士とその責任者らしき貴族の姿があった。


クリストファーから王都からの使者が今日到着するというみねを聞いた実彩はクリストファーと共にバズーラ家の門前で待ち構えていた。リュカは屋敷内で待機している。リュカもローゼとマロリー親子の被害者ではあるがバズーラ家の一員……それも正統なる嫡子とあってはこの場に居るのはマズいとクリストファーの助言のもとにリュカは屋敷で待機することになった。


リュカ自身は王都からの使者達にひれ伏さんばかりの勢いで謝罪をしようとしていたが、クリストファーの言葉にスカイの民と父であるロイドのことを考えて身を引いた。



「あなた方がクリストファー様とミーシャ殿で宜しいでしょうか? わたくしはグリニッジ陛下より辺境伯の位を賜っておりますラルフと申します。以後よしなに」



そう二人に口上を述べているのは二十半ばとおぼしき鮮やかな赤毛を緩く纏めている青年だった。金色の瞳は値踏みするようにクリストファーと実彩を見詰めていた。ちなみに実彩の仮面は無事に見つかりローブは以前使っていた物を纏っている。

一段落ついたらに冒険者ギルドに向かおう。


実彩は随分若い奴が来たな、とラルフの視線をまるで気にせず、むしろ真っ向から見つめ返し──て、ん? と首を傾げた。


一方クリストファーの方はそうではない。

名乗ったラルフを驚愕な顔をして見詰めていた。心なしか冷や汗をかいているようだった。


ラルフは実彩とクリストファーに連れてきた派遣騎士達に指示を出すため挨拶も早々に戻って行った。


どうやら馬車から街の様子を見て早急な対処が必要と感じたらしい。時間が惜しいとラルフは派遣騎士達に次々と指示を飛ばしている。


その様子を見ながら実彩はクリストファーに小声で話しかけた。



(おい、クリストファー。冷や汗なんぞかいて、一体どうした?)


(どうしたもこうしたもありませんよ!! あの方、ラルフ殿は爵位を明かしがら家名を名乗りませんでした……)


(あぁ、それは私も少し気になった。普通は自分は何々爵のなんたらかんたらだ! って言うもんな。家名を名乗らなかったことにそんだけ反応するっつうことは……やっぱ意味あんのか?)


(……何ですか? そのなんたらかんたら、って。────名と爵位を明かしながら家名を名乗らないのは、それは彼が陛下の命のみを聞き動くもの………ラルフ殿は査察官かもしれません)



査察官とは何ぞや? どうしてその査察官とやらで家名を名乗らなかった理由になる。

実彩の無言の訴えにクリストファーはラルフから視線を外すことなく、むしろ緊張しながら実彩に説明する。



(査察官とは陛下直属の官位階級爵位関係なしの隠密部隊の人達のことです。いわゆる内部監査を主な仕事にしていて官僚や騎士ならば仕事仲間としてその中に入り込む。官僚では無い、地方貴族に関しては使用人になりすましたりして賄賂や裏取引などをその貴族が行っていないか監視するんです。彼ら査察官は陛下のみに従う影の存在。故に査察官として行動する時は姿と名を変え家名は名乗らない。………明かすのは陛下より賜った爵位のみ)


(ふーん……。つまり内部間者《スパイ》か)



クリストファーは頷く。



(えぇ。しかし何処にでもいるわけではありません。何しろ陛下のお目がねに適い、尚且ついざという時は家や血族よりも陛下の命令を最優先することが出来るものは、とても少ないですから……)



それはそうだろうと実彩は思った。

貴族に生まれたからには国と王族に忠誠を誓うのとは別に家名や血族を護ることを幼き時よりたたき込まれる。場合によっては国と王族を見捨てて家を護る貴族は少なくない。



その教育方針はもはや『洗脳』と言ってもいい。



(家と血族よりも国と王族に仕える……。いないわな、それは)



実彩は内心納得しながらラルフの後ろ姿を見た。


実彩とて世界は違えど本家《金刺》と分家《手塚》としての考えを教え込まれてきた。

故に、査察官という存在がどれほど怖い物かもよく分かる。クリストファーが怯えるわけだ。



(でも色々と腑には落ちたな。なるほどね~……。査察官、か。ふーん………)



実彩の眼には見えていた。

ラルフが纏っている光の靄のようなものが。



────それは、リュカが纏っていた黒い靄と色こそ違えど恐らくは似た性質のものだと実彩の勘が告げている。



(姿と名を偽る。……それってさ、例え親しき間柄でも命令があれば裏切るし切り捨てるっつーことだよね。怖い怖い。『本当』の意味での忠臣か、敵には回したくはないわ~)



だが、リュカが纏っていた靄の正体が見えただけでもよしとしよう。

これから先、この情報は実彩にとって大いに役立つだろうから。



(とりあえずはラルフの動き次第かな? あの執事野郎の言っていたことも気にかかるし。もうしばらくは、バイエル国に居るとするか……。そうすると……………やっぱり、口止めは必要かな? クリストファーとリュカにはしたけど………)



まだ肝心な人が残っている。



実彩は働いている派遣騎士達を横目で見ながらしばし思案に更けるのであった。

そして実彩は踵を返し、屋敷へと戻っていった。

















ウロウロ、ウロウロウロウロ。


リュカは先ほどからずっと部屋の中をぐるぐる歩き回っていた。これから自分に会いに来るであろう王都の使者に対して、スカイの住民に対する慈悲を乞わなくてはならない。


スカイの民もバイエル国が庇護すべき民なのだが、ローゼとジェイルによって歪められたこの街は皆がみな生きるために多少なりとも犯罪に手を染めている。その罪はスカイを治めていたバズーラ家全ての咎だ。


どうか、仕方なしに罪人となった領民達に寛大な処置を。彼らは自分達の被害者でしかないのだから。


リュカの頭にはそれしかない。


実彩がいれば落ち着けと頭を叩かれていたことだろう。



トントン、トン。



部屋にノック音が伝わる。

リュカは来た─と入室の許可を言おうとしたが舌がもつれて声が出せずにいた。


緊張とスカイの民に対する責任という名の重圧に体中が震え上がってくる。



──嗚呼、なんて情けない。


義母ローゼに対して怒りに駆られていたとはいえ、あれほど貴族としての責務を自分の口は語っていたというのに……。いざ王都の使者を前にすれば怖じ気づく有り様。どんなに見た目が変わろうとリュカという存在が、中身がどうしようも無いほどに無様である。義兄───いや、実際には義弟だったマロリーには魔力が無いに等しい力しか持たないリュカをさんざん嘲笑われていたが、世界最高峰と呼ばれる魔力を手にした今でも「……おい。何時になったらドアが開くんだよ………。つか返事ぐらい返せやボケ!!」私は結きょ…く………え?



バッキィィン!!!


というセリフと破壊音と共に吹っ飛んだ部屋のドアに唖然とするリュカ。


部屋の中に堂々と入って来たのは実彩その人。

清々しい笑顔を浮かべていながら……何故だろう。背中に冷たいものが走るのは──?



「え~とぉ。ミーシャさん? 私に何かご用でも?」



実彩は笑顔のままリュカに近付いて、



「用件を聞く前に私に何か言うことはないかなー? リュカ。……テメェ、バレバレな居留守使いやがって覚悟出来てんだろなコラ」



リュカの顔面をガシッと掴み、


ミシミシミシミシ!



「いぃぃいたいですぅぅぅう!!」



アイアンクロウ、炸裂。

仮面を付けていても分かる。口元は確かに笑っているけど感じる視線は真冬の如き冷たさをはらんでいると!!



「すみませんすみませんすみません! 何だかよく分かりませんけどすみません!!」


「分かってないなら謝るな!」


「ふぅぇええええええ!?」



理不尽極まりない。


気が済んだのか実彩はリュカから手を離す。

膝をついたリュカは顔を抑えながら涙目で実彩を見上げる。



「なんか文句があるなら聞くが?」


「………別に、なんでもありませんよ」



ブスッとしながらもリュカは立ち上がり、服を軽くパンパンとはたく。



「結局なにしに来たんですか?」


「ん? あぁ、お前に少し頼み事があってな」


「? 頼み事、ですか?」



実彩がリュカに頼み事。

驚きつつもどこか嫌な予感がする。そしてその勘は当たっていた。

実彩は頷いて、


「リュカ、お前もういっぺん服脱げ」


「何を言っているんですか!?」



サラッととんでもないことをのたまう実彩に、しかし実彩はリュカの反応は想定内。ジリジリ後ろに下がり非難しようとしているリュカに実彩は理由を説明する。



「何もなにも、正妻のソニアが残した日記の記述を改めて確認すんだよ。ローゼはお前を正妻の子と言ったがお前にはその証である痣がなかった。お前の髪と瞳の色が変わったのも気になるからもう一度確認しときたいんだよ────王都から来た連中に変な横槍を入れられる前に────」 



最後にボソッと言った言葉はリュカには聞こえることがなかったが痣のことはリュカも疑問に思うことだった。


実彩とクリストファーによって確認されたリュカの背中には『妖精の悪戯』と呼ばれる痣はどこにもなかった。だからこそ実彩もクリストファーもリュカも誰一人としてリュカが正妻ソニアの実子だと思わなかったのだから。



「理由はわかったか? わかったのならさっさと脱げ」


「でもミーシャさんが確認する必要はありませんよね!?」



リュカの抵抗も虚しく、彼は実彩の手によって再び上着をひんむかれるのであった。













実彩は女としてどうなんだろう……(汗)


リュカよ、強く生きてね。

ちなみにクリストファーは実彩が居なくなったことにラルフの指摘があるまで気付かず、額に青筋を浮かべています(笑)

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