第21話
どうして、わたくしではいけないの?
愛しているの、わたくしは本当に貴方を愛しているに………なのに何故? どうしてわたくしを見てはくれないの? どうして、どうして? …………ほら貴方、わたくしはこんなに近くにおりますわ。貴方の隣に貴方の側に。その眼差しをわたくしに向けて、そのお声をわたくしに掛けて、その腕をわたくしに回して、その胸でわたくしを受け止めて………。
貴方はわたくしのモノ。
わたくしのモノなのに───────。
許せない、あの女だけは、決して。
クリストファーとリュカは誰にも襲撃されることなく無事に逃げ切ることが出来た。
唯一、気になるのが実彩の安否だが………実彩の実力はリメスでおきた魔物襲撃兼殲滅事件のときに目の当たりにしているクリストファーはその時のことを思い出し、顔が暗くなる。
リュカは実彩の安否もそうだが、成人した男が女性におひめさまd*★◇≈/¶‡○…………………………………………………………………………………………………………………………………………………うっわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(赤面、泣)←笑
頭を抱えてバカみたいに転がり回りたい気持ちを押さえつける。
時間を巻き戻せたら巻き戻したい………………
…。
「なんとか無事に逃げ切れたのは良かったですが……ミーシャさんと連絡が取れないのは困りましたね。合流できればいいんですが………」
クリストファーの呟きにリュカは意識を浮上させる。
「……ミーシャさんは、無事でしょうか?」
「大丈夫だと思いますよ。あの人の強さは折り紙付きです。格下がいくら集まっても彼女には適わないでしょうね」
クリストファーは肩を竦めると角から顔を出し辺りの様子を見る。
彼らが居るのは中央区から離れた路地裏だ。
実彩がいくら囮になってくれたといっても2人を追ってくる者達はいるだろうと警戒態勢を崩すことなく逃げて来たが、追っ手が差し向かされた気配を感じることはなかった。
おかしい。
クリストファーは疑問に感じた。
クリストファーは────恐らく実彩も────リュカを狙っているのは第2夫人だろうと考えていた。
マロリーが王都に移送されてから大分時間がたった。
マロリーが引き連れていた私兵騎士達は派遣騎士達によって捕らえられ、残りの者もマロリー自身の手によって殺されているので第2夫人がその事を知るのはもう少し時間が掛かるかと思ったが。
マロリーが本当に第2夫人の真の実子なら、そのマロリーを救うためにリュカを殺害しようとしているのではないかと。
バズーラ家最後の男子であるリュカに万が一のことがあった場合。
マロリーを再び後継ぎの座に担ぎ出すために。
(最もマロリーの犯した罪は国の威信と存亡に関わる程の大罪なのでたかだか1貴族の存続の為に赦されはしませんけど)
だがそのことを第2夫人が理解しているかは話は別だ。
しかし、追っ手がいくら待っても来ないとなると考えを改めないといけないかもしれない。
リュカに二度の襲撃があったということは第2夫人は早急にリュカの命を亡き者としたい筈なのである。実彩の手によって阻まれているとはいえ、簡単に諦めるとは思えない。
(正体不明の敵である僕達を警戒しているのか? だとしたら先程の襲撃は一体何だったんだ? 最初の襲撃はミーシャさんによって防がれたのだから向こう側はリュカ殿とミーシャさんが一緒に居ることを報告されているはず…………にもかかわらずまた数で攻めてきた?)
何かが引っ掛かる。
引っ掛かる、が。
情報が足りない。
「……ミーシャさんと合流する方法を考えましょう。リュカ殿、貴方は僕について来てください」
リュカは少し悩んでいるようだったが、最後は頷いた。
「分かりました………でも、その前に屋敷にこの事を連絡したいのです────気付いているでしょうが私はバズーラ家の者です。父が不在の最中、領地であった出来事を母上に知らせないわけにはまいりません」
「それは………」
リュカが言っていることはまったくの正論である。
リュカの命を狙っているのが彼が母上と呼ぶ第2夫人で無かったらの話。
何より領主であるロイド・プファルツ・バズーラが不在の間に寂れたこと街を鑑みても第2夫人に領主代理が務まっているとは到底思えないが。
「それに……母に頼まれたものも届けなくてはいけないので」
リュカは自身のベルトについているポーチに視線を寄越しながら言った。
「届けもの?」
「はい。母に買い物を頼まれたんです。今までは使用人が買い出しをしてくれていたのですが、屋敷にはもう殆ど居ません。今日はたまたま母御用達の商人が屋敷に来れないとのことなので私が街まで買い出しに来たのです」
「…………貴族の子息が買い出し」
顔が引きつってしまうのも無理はないだろう。
有り得ない。本来ならば使用人の仕事だ。
「その……母君は貴方に何を頼まれたのですか?」
クリストファーはなんとく聞いてみただけだったが、リュカの反応に思わず訝しんだ。
「それが、私にも良く分からないんです」
「分からない?」
「はい。お店の方にこれでいいか、と聞かれたんですけど………母は取りに行けば分かるとだけ仰っていたので」
「店の方に見せて貰ったんですよね?」
「はい」
そう言ってリュカはポーチから小さな箱を取り出した。
「これです」
見た目は何の変哲もない箱だ。
リュカはおもむろに箱の蓋を外した。
「どうぞ」
「……見てもいいんですか」
「構いません」
クリストファーはリュカから箱を受け取り、中身を見た。
「………?」
中に入っていたのは白い粉だった。
砂糖や塩に比べたら軽く、白粉や小麦粉にしてはやや黄みがかっている。
「何ですか?これは??」
「何なんでしょうね………?」
2人して首を傾げる。
「私も最初は白粉かと思ったんですけど、母上が普段使っているものと色が違うので、クリストファーさんならこれが何か分かるかな? と」
リュカの様子から嘘はついていないだろうと思ったクリストファーは首を横に振るった。
「残念ながら僕にも分かりません。何か気になることでも?」
「大したことでは無いのですが、母上は美容にとてもこだわりがある人なのでいくら御用達の商人が来れなくなったとはいえ、城下の品物を使うとは到底思えなかったんです」
リュカは自身の母の高級嗜好を良く知っていたため疑問に思ったらしい。
クリストファーとリュカは箱を見つめた。
まさかこの箱の中身が後に更なる厄介事を運んで来るとは、この時の2人は知らなかった。
どんな時でも、何時いかなる時でも腹は空くのである。
実彩は飲み物と揚げパンを片手にスカイに鎮座する時計塔の屋根にいた。
何故そんな所に居るのかというと、リュカを追っていたと思われる冒険者、もしくは傭兵を片付けた実彩は腹が空いては戦は出来ぬ、と屋台で食べ物を購入。
見晴らしのいい時計塔で当たりを警戒しつつクリストファーとリュカの捜索をしているのである。
ちなみに、どうやって時計塔に登ったのかは乙女(*←ミーシャさんは絶対違うbyクリストファー)の秘密である。
モグモグ揚げパンを頬張りながら米が食べたいなーと2人を探していた実彩は首都スカイの中で一番の豪邸である屋敷をふと見た。
んー………。
「…………こっちの方が手っ取り早いか」
そう呟くないなや実彩は残りの揚げパンを口の中に突っ込み、飲み物で押し流した。
「旨くないな」
血の味がする───。
実彩は指についていた砂糖をペロリと舐めながら小さなかすれた声で無感情に、無表情に、呟いた。
Q 実彩は今現在どこにいるでしょう?
A バラーズ家の屋敷でございます!
はてさてそんな訳で実彩はバラーズ家の屋敷にやってきた。
「よっこいしょっと!!」
トンと軽い足音と共に屋敷に侵入した実彩は素早く壁際ぞいに人気のない部屋へと入った。
リュカの話の通り、領主の屋敷で有りながら拡散としているので素人の実彩でもアッサリ忍び込むことが出来た。
実彩が目指しているのはリュカの母(仮)である第2夫人の部屋である。
もともとレタック伯から依頼された実彩の仕事はリュカが本当に第2夫人の子息かどうか、正妻の子息はマロリーなのか、違うのかを調べることだ。
実彩は2人に合流するよりも先に仕事を優先した。
リュカはクリストファーと共にいるのだ、よほどヤバい輩ではない限りは無事だろうとの判断だった。
ドアごしに外の様子をうかがう。
「………」
下調べも無しに侵入するなぞ失敗しに来ているようなものだが、不自然なまでにリュカが立て続けに狙われた以上このまま後手に回るのは得策ではない。
しかし恐ろしいまでにひと気がまったく無い。
屋敷の外も衛兵や門番すら居なかった。リュカは給金が払えなくなった為みな出て行ったと言っていたがそれにしてはヒド過ぎやしないか?
これでは屋敷の維持ですら出来なくなってしまうだろう。
実彩が何度目かの部屋に侵入した時だった。
どこからか微かに人の気配がした。
警戒レベルを跳ね上げる。
物陰に隠れて様子をうかがってみるが、何も起こらない。が、人の気配は消えることは無かった。
(どうする。少し近づいてみるか? だがもしも侵入者に気づいたのなら退くべきか………いや、また侵入できる保証が無い以上は留まった方がいいかも知れない。私に気づいたのではないかも知れないし…………成果も上げてない)
実彩は潜入捜査の続行を決めた。そして人の気配がする方へ慎重に近づいて行った。
部屋の中から人の声が聞こえてくる。隣部屋に入り込んだ実彩は耳を澄まし、自身の気配を殺す。
『ねぇ……報告はまだなの? いつまでわたくしを待たせる気なの…………?』
どこか無邪気さを感じる声が隣の部屋から聞こえてくる。実彩は直感的にこの声の主は第2夫人だと悟った。
「まったく、使えない人達だこと。アレほど人を送ったにも関わらず────まだリュカを殺せないなんて…………」
第2夫人は目の前にいる自身の配下に呆れと苛立ちを込めて睨みつける。
「申し訳ございません、奥様。どうやらリュカ様にはどなたかが守りを敷いたみたいなのです」
第2夫人の怒りに配下の者───ジェイルは静かに受け止めた。
「あんな子に様を付ける必要はないわ。あんな目障りなわたくしの悪魔なんかに………」
悪魔とは随分と酷い言いようだ。
第2夫人────ローゼ・プファルツ・バズーラはその見事な金髪を指先で弄りながら蒼い瞳に険を宿らせる。
「本当に、忌々しい悪魔……。あの子さえ生まれなければわたくしの可愛いマロリーが旦那様に受け入れられたのに。まったく、流石はあの女の子供だこと何処までもわたくしの邪魔をするんだもの」
「奥様……。どこで誰が聞いているか分かりません。不用意にそのようなことを仰っては………」
ジェイルの苦言にローゼはむくれてそっぽを向いた。
「構いやしないわ。何しろこの屋敷には人が殆ど居なくなってしまったのだから………高貴な者に仕えられる栄誉を与えて差し上げたのに、たかが給金が滞っただけで辞めていくだなんて……これだから下々は卑しくて嫌なのよ」
身勝手極まりない言いぐさに実彩は呆れ返った。
(給金が滞っただけって………一般人からしたら死活問題なんだらか辞められたって仕方ないだろうが……それにしてもリュカは噂通り第2夫人の息子では無いか、でも正妻の息子である証明にはならないな。どこかに証拠があればいいんだが)
やれやれと、実彩はそのまま会話を盗み聞きしたが結局、大した会話は拾うことは出来なかった。




