第12話
蒼い瞳が実彩を睨目つける。
「………おいコラ、いい加減喋れガキ」
レタック領王宮派遣騎士本部にて取り調べを実彩は受けていた。実彩の取り調べをしているのは派遣騎士団団長アレン・ゾネ。
何を隠そう十数人いた男共を血まつ………叩きのめした実彩を捉えて騎士団本部に連行したのはアレンなのだ。
追いかけてくる派遣騎士達を撒こうと裏道を走り回っていた実彩は────当たり前の話だが───土地勘がなかった為、すぐ袋小路になり派遣騎士達に囲まれることになった。
『大人しく我々に投降しろ、少年!!』
『誰がするか!! 悪いのはあいつ等だ!』
逃げてしまった手前というのもあるが、先ほどの八つ当たりで発散しきることができなかったのか実彩は派遣騎士達に対して少し(?)反抗的であった。
『はっきり言わせてもらうが、あれは不可抗力だ! 私は正当防衛を主張する!!』
『嘘付け! あれは誰が見てもお前が一方的に彼等を痛めつけていたようにしか見えなかったぞ!!』
『かなり、悲惨だったな。あいつ等』
『そうだな。顔が潰れていた奴もいたし』
実彩と話し合い(*怒鳴りあい)をしている騎士の後ろで他の騎士達が追従する。
『じゃあ何か!? あのままあいつ等に袋叩きにされて死ねと言うのか!!』
『袋叩きにしていたのはお前だろうが!』
埒があかないと思ったのか、実彩は軽く右膝をかがめたと思ったらいきなり騎士達に向かって突っ込んでいった。
騎士達はギョっとした。
実彩の作り出した惨劇の場を思い出して、反射的に腰にある剣に手をかけたが────。
グワッァン
実彩は騎士達が剣を抜くより早く3人いた内、実彩と話していた騎士の、剣を掴んでいた腕を掴み次の瞬間投げ飛ばした。
『うっをぉ!?』
『!?』
『!?』
『…………』
すかさず騎士の1人に足払いをしかけて転ばせ、最後の1人に手刀でもって気絶させてそのまま走り抜けようとしたときだった。
『人の部下になにしやがるガキ』
実彩の足に向けて何かが振りかぶる。
それは鞘に収まった剣だった。
身体を捻り、剣を避ける。
とっさに避けることが出来たのは元の世界で培われた反射神経と瞬発力の賜物だった。
だが、とっさに身体を捻ったせいでほんの少しスキがうまれた。
実彩に仕掛けた相手はそのスキを見逃さなかった。
『おらよっと』
『!!?』
その相手は実彩の首根っこを掴んで、まるで子猫のように実彩をぶら下げた。
『だ、団長!』
『アレン団長!?』
『どうしてここに!?』
派遣騎士団団長アレンは呆れたように自分の部下達を眺めた。
ブラブラ
『お前らこんなガキ相手になにやってんだ、見回りはどうした。サボリか? 仕事しねぇとフィンの奴に締め上げられるぜ』
ブラブラバタバタ
『違いますよ!』
『そうです、そんな恐ろしいこと出来ません!!』
『俺達は見回り中にその少年が十数人の男達を袋叩きにしている現場に遭遇したので、その少年を騎士団に連行しようとしたら逃げられたのでここまで追いかけて来たんですよ!』
ブラブラバタバタブラバタバタバタバタ!
『ほぉう。このガキがねぇ…………てお前』
バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ!!!
アレンは実彩が門の前で自分を観察していた子供だと気付いたが、実彩はアレンの腕から逃れようと暴れていて話せる状態ではなかった。
『とりあえず暴れんな』
実彩の頭上に拳が振り落とされた。
そして、現在。
「いつまでだんまり決め込んでいるつもりなんだ。いい加減なんか喋れ」
「黙秘」
「…………この野郎」
さすがに頬が引きつる。
実彩はアレンに殴られ騎士団に連行されてからというものだんまりを決め込んでそっぽを向いていた。
「あのな、事情があるなら話せって言ってんだよ。事情の内容によっては今回の事は大目に見れるかもしれねぇえしな」
「……………」
ひたすら沈黙していた実彩はチラッとアレンを見るがすぐに視線を逸らす。
アレンはいい加減殴るか、と少し物騒な考えが頭にチラついていたときだ。
「取り調べの最中申し訳ありません! アレン団長大変です、バズーラ家の私兵騎士が冒険者ギルトに乗り込んで例の少年の情報を寄越せと暴れているそうです。ギルトから我々に出動要請が来ています!! どうか急いできて下さい!!!」
ノックも無しに入りこんできた平騎士がアレンにそう言い放った。
これにはアレンだけではなく実彩も憤った。
「ざっけんじゃねぇぞ、バカ貴族が! ギルトと冒険者達を全員敵に回す気か!?」
「おい、アレン団長とやら取引だ。今回の件、全部話すから私もギルトに連れてけ!」
「あ゛? なにいってやがるガキ」
「もう貴族とは関わりたくないから黙っていたが、流石にギルトが襲撃されたと聞いていち冒険者として黙ってられるか」
しかもバズーラ家がギルトに乗り込んだ原因は実彩の情報を奪うためだ、知らぬ存ぜぬは出来ない。
実彩は吐き捨てるかのようにいうとアレンを見上げる。
「で? どうする。取引するかしないか」
「…………仕方ねぇな。お前、腕はあるんだろうな?」
「腕はギルトが保証するよ」
おもむろにローブを広げる。
そこには両手首と右裾の刺繍は鮮やかな金色をしていた。
「見ての通り、私のランクはEだ。少なくても自分の身ぐらい自分で守るよ」
「ほう、Eか。ガキの癖になかなかやるようだな」
アレンはニタリと笑った。
自分を観察していたのは気付いていた。
その視線が自分の動きを追えきっていたことも。
「面白れぇ。良いだろう、その取引乗った!」
「えぇええええええ! いいんですか団長!? そいつ確か十数人の荒くれ共を全員血祭りに上げた奴でしょう!! そんな取引したと副団長に知れたらドヤサレますよ!!」
「大丈夫だろ、多分」
「多分て…………逃げられたらどうするんですか! 実際コイツ騎士達から一度逃げたんでしょう!?」
「取引した以上逃げねぇよ」
「コイツもこう言ってるし、何とかなるだろう」
「そんな適当な………」
「細かいことは気にすんな。じゃ、行くぞガキ」
「話は後でいいのか?」
実彩の言葉にアレンはただ笑う。
「逃げる気も取引を破る気も無いなら後でも大丈夫だろ?」
したり顔で笑う男に実彩は少し呆れた。
「それはまた、気前のいいことで」
頭を抱えた平騎士を尻目に実彩とアレンは共に騎士団を後にした。
2人が出て行ってから約10分後。
「貴方達! 騎士団に緑の帽子と仮面を被った少年がアレン団長に連れて来られたと聞きましたが今どこにいるんですか!?」
派遣騎士団本部になだれ込むように走ってきたフィン・ファルツ・ズィーゲン副団長は近くにいた平騎士を捕まえて、さっきまでいた『少年』について聞いてくる。
フィンに捕まった平騎士達は目線を泳がせた。
「えっと…………その、何と言いますか。俺……いや、私は止めたんですよ。止めたんですが、ほらあの、アレン団長て人の話を余り聞かないじゃないですか、ですからその…………何というか」
「私は、ここに、連れて、来られた、少年は、どこにいるか、聞いているんです」
わざわざ区切られて告げられる台詞に怯える平騎士達。
「どうするよ」
「話すしかないんじゃないか?」
「…………アレン団長に扱かれるか、フィン副団長にどやされるか…………究極の選択だな」
アレンとフィンは普段は仲は良いのだが、2人共我の強いところがあるので意見が決別したときの2人にはなるべく近寄らないのが騎士団での鉄則。
どっちかに味方したら、味方しなかった方に八つ当たりされる……………割と大人げないのだ。
「貴方達?」
フィン副団長の笑顔が死神の微笑に見えたと、後に彼等は語ったのだった。




