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甘いお誘い

チャイムは、はるか遠くに聞こえる。

俺の名前は阪野さかの)(めぐみ

今聞こえるのは

ぎゃあっはっはははははははっはははははっはははっはは

下品な同級生の笑い声。

この春受かったばかりの高校に通う15歳。

笑い声はいつまでも耳に住みつく。

身長168㎝。体重57kg。黒髪。視力A・Dのガチャ目。元バスケットボール部。

頭がくらくらする。さっき殴られた。血も出てきた。

制服の破れたワイシャツは赤く染まっていく、視界も赤く染まる。薄ぼんやりと見える最悪な奴ら。

メガネの優秀ぶってる針金男福井、大人ぶってるパンチパーマデブの桐田、そして他人はおもちゃとしか思っていない長身の吉嶋。クラスで一番の権力を持つ最悪いじめっ子グループ。

放課後の男子トイレには、ほかには誰もいない。

誰も俺を守ってくれない。


「おいィ~もう立てないのかなァー」

座り込む俺を見てデブは言う。喋るな、耳が汚される。

「いやァもう無理じゃね?つかお前が殴ったんだろぉう桐田ァ。かわいそうにい―血がこんなにシャツについてたら痛いでちゅよね~」

クソメガネとでも言いたかったでも、もうそれを言う気力さえない。

吉嶋は上からそんな姿を眺めているだけ実行しないただこうやって

「おい、お前らこれで血流してやれよ」

吉嶋は桐田に水の入ったバケツを渡した。

「お!いいねえ~でもこれ逆に汚れちゃうんじゃないッッッ!!」

バシャッ

うっゲホっがハガハッ。口の中に悪臭が広がる。


ぎゃははははっははははっはははははっははははっはははっはははあっはははっはははっはははっは


吉嶋はただ他人おもちゃが苦しむところを見ているのが楽しいのだ。だから実行しない。


バケツの汚水でシャツはよりいっそ汚くなった。

ただの水なわけがないそんなことは分かってたけどとっさに動けなかった。いや、もう動くこともできないのかも。

吉嶋がふうっと息をつくと福井は

「ん~俺さぁ今日ぅ塾だわぁ~そろそろ帰らねえか?吉嶋さん」

リーダは吉嶋。何をどうするかはすべて吉嶋が決める。

間を入れずに

「そうだな。帰るぞ、お前ら。」

「へいっ吉嶋さんっ」

桐田はド馬鹿だが自分の立場はわきまえている。

「うい~っす!ばいばいでちゅー」

俺に福井は手を振りながら男子トイレのドアを開けた。

「へい、吉嶋さん」

「ああ。」

吉嶋は自分のカバンを桐田に持たせ、福井にドアを開けさせた、何も言わなくてもそれをやらなければならないという空気があの子分どもにはある。

颯爽と消える三人をこの目で追いながら俺はボロボロのズボンの中にあったサバイバルナイフを手首にあてた。

ツゥーっと一筋の血がながれてきた。

それとともに3人の笑い声がはるか遠くに響いてくる。



「「ウザイ。ウザイ。殴りたい。殺したい。この世界から消えろ。」」

言いたいけど言えない。

そんな俺を一番殺したい。

殺したい。

ナイフがぐじゅりぎゅちゅりと手首に入ってくる。

そんなこと考えていると自分は一人ぼっちなんだなって思う。

考えの暗い嫌な奴だって思う。そんなことわかってるけど、もう戻れない。

もう嫌だ。

孤独だと思うと涙ばっかり出てくる。溢れるまで流れて声を出さないように、

できるだけ感情を出さないで泣きじゃくる。

でもそれが俺にはできない。

感情を誰かに伝えたいのか?助けてもらいたいのか?

もう無理だよお前にはもうそんな優しい人はいない。頭ん中の俺が言う。

全て嫌になる。

「アアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

叫んでも何にもならないそんなことは知っているけど

僕は声が出るまで叫ぶ。

いつまでも。

誰かに気づいてもらえるまで。

でも、誰も気付いてはくれない。いや、気づいてるのかもしれないだが手は差し伸べない。


人間は残酷な生き物だ。



「確かにそうだね!」

何処からか僕に共感する可愛らしい明るい声が聞こえる。

「じゃあさ、死のうよ!!死んだらきぃっと楽だよぉ~」

血がドクドク流れる。幻聴か?こんなにかわいい声ならいっかなぁ。ああ、もうやばいのかも。

「死ぬかぁ...」

俺は手首にさらにナイフを突き立てる。ぐじゅりゅぐじょりゅぎゅじゅり。血がドロリと溢れかえる。

「あ・り・が・とぅ」

可愛い声でそんなこと言われた。なんでアリガトウなんて言われなきゃいけないんだ。

「自分で死んでくれてサリエル嬉しぃーの」

サリエル?かわいい名前だな...

「だって自分で殺さなくて済むからねぇ....じゃあそろそろいこうか?」

行くってどこ行くんだよ・・あそっか・・

「サリエル、君は天国からの使いか?」

馬鹿みたいだ・・幻聴に質問するなんて・・バッカみたい。

「違うよぉーん」

じゃあ、地獄の使いかな...。そんなこと思っていると知らぬ間に白髪のツインテールの10歳くらいの女の子が僕の目の前に現れた。ニィと笑うサリエルは言う。


「私は踊り子サリエル。貴方を王にするために来たの。」

何言っているんだ?そんな顔をした俺をほおっておいてサリエルは俺に手を伸ばしてきた。

「あなたが王になる新しい世界来てくれるよね?」

新しい世界?あるなら行ってやるよ。もう現実にいる意味はない。さっさと王様にしろよ。

サリエルの手を最後の力でギュッと握る。

そんな俺を見てサリエルは言った。

「まあ、王になれるかはあなた次第ですけどね.....。」

誰にも聞こえない声でそっと彼女は呟いた。

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