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僕に届いたあの手紙

作者: けろよん

 ある朝のことだった。一通の手紙が僕の元に届いた。それを読んで僕は驚愕に打ち震えてしまった。

 その手紙に書かれていた文章はこうだ。

『この手紙は不幸の手紙です。今すぐ同じ内容の手紙を50人の人に出さないとあなたは不幸になるでしょう』

 なんてこった! 誰がこんなひどいことを! 僕は幸せに暮らしたいのにー!

 僕は仕方なく言われた通りに同じ内容の手紙を50枚書いた。だって不幸になりたくなかったんだ。誰だって僕と同じ立場に立てば、僕と同じ気持ちになって、僕と同じことをするだろう。

 50枚も書くのはひどく大変な作業だったけど、なんとか我慢して書き終えることが出来た。

 しかし……と僕はこの期に及んで考え込んでしまった。

 これをこのまま出してしまって良いんだろうか。

 僕は悩んだ。僕はこれでも全人類の平和と幸福を願うごく普通のまっとうな人間なんだ。他人を不幸に巻き込んで嬉しいはずがない。

 考えた末、僕は不幸の不の字を消して書き直すことにした。不幸の神様がどこで見ているかは知らないけど、一文字ぐらいの違いぐらいは見逃してしまうかもしれない。

『この手紙は幸の手紙です。今すぐ同じ内容の手紙を50人の人に出さないとあなたは幸になるでしょう』

 この文章だ。これでみんなが幸せになれる。

 手紙をもらった人達は幸せに酔いしれ、幸せを手放したくないばかりに僕の手紙を末長く保管し、それ以上変な手紙が広がることもなくなるだろう。

 それは甘い考えかもしれなかった。だが、僕はカレーなら甘口が大好きだ。甘くて悪いことなど何もない。だが、辛いのは駄目だ。あれは僕が好きな甘口カレーとは似て非なる存在だ。辛いカレーなんて滅びればいいのに。

 おっと今はカレーのことなんてどうでもいい。早く手紙を書かないと。

 僕は50枚の手紙を書き終える。そして、ポストへ出しに家を出て行った。

 しかし、僕はここで致命的なミスを犯したことに気がつかなかった。幸せの線が一本足りなかったのだ。

『この手紙は辛の手紙です。今すぐ同じ内容の手紙を50人の人に出さないとあなたは辛になるでしょう』

 カレーのことなど考えたのがいけなかった。つい頭の中で辛いの文字が踊ってしまっていたのだ。

 だが、出した手紙を取り戻すすべはすでに無く、僕がそれに気づく機会もまた無かった。

 僕の出した辛の手紙はネズミが数を増やすように次々と町中に広まっていき、僕の町はあっと言う間に辛の文字が蔓延する町になってしまった。

 刷り込みとは恐ろしい効果だ。辛の文字を見てみんな辛いものが食べたくなったのだろう。

 辛いカレーは飛ぶように売れた。そして人気のない甘口カレーは滅んでしまった。

 僕は甘口カレーが食べられなくなってしまった。

 なんて不幸だろう。やはり不幸の神様の目を欺けるものでは無かったのだ。

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