仮病が痛いので、今日は仕事休みます
「仮病が悪化したので、本日はお休みさせていただきます」
新入社員からそう連絡が入り、朝の営業部にざわめきが走った。
「あいつ、仮病持ちだったんだ。大変だなあ」
「ねえ、仮病ってうつるんじゃなかったっけ?」
「言われてみれば、なんだか寒気がするような……」
「私も微熱があるみたい」
営業部では、体調不良を訴えて早退する者が続出した。空っぽのデスクが増えていく光景を見た営業部長は、「大変なことになったぞ」とうなる。
「このままでは、ほかの部署にも感染を広げてしまうかもしれない。そんなことになったら一大事だ。今日のところは営業部を閉鎖しよう」
そう言うと、部長はさっさと帰宅していった。
この話を聞いたほかの部署の職員たちは、不安げな顔になる。そんな中、一人の社員が「なんてこと!」と叫んだ。
「さっきから体がだるかったのは、少し前に営業部に資料を届けにいったせいだったのね! きっと私も仮病に感染したんだわ!」
その声を皮切りに、様々な部署から仮病を訴える者が出始めた。こうなっては、もう仕事どころではない。昼休憩が始まる前に、会社は臨時休業することとなった。
しかし、それだけでは感染拡大は止まらない。ウワサを聞きつけた近くの会社でも、仮病を主張する社員が次々に現れたのである。
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「こんばんは。六時になりました。夕方のニュースをお伝えいたします。
現在も感染者が増加している仮病について、本日第一回目の対策委員会が開かれる予定でしたが、出席予定者の大多数が直前になって体調不良を訴えたため、急遽開催は延期されることとなりました。なお、振り替え予定日は未定です。
仮病は発症すると、吐き気や腹痛、めまいなどを覚えると言われていますが、専門家によるとその症状は多岐にわたり、最近では『公共交通機関の運休』『存在しない親族の葬儀』などを持ち出す患者も確認されているとのことです。
以上、仮病に関する最新のニュースで……うっ、足から頭痛が!」
アナウンサーが胸元を押さえながら椅子から転げ落ち、画面外にフェードアウトしていく。
映像が乱れた直後に映し出されたテロップには、「しばらくお待ちください」とあったが、番組が再開する様子は一向になかった。
恐らく、代理のアナウンサーや、裏方の者たちも、皆仮病にかかってしまったのだろう。
どうやらこの厄介な病が国中を覆い尽くすのは、そう遠い未来の話ではないようだ。




