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短編No.01-20

No.11 花恋愛し

作者: 藤夜 要

 お庭の、雨神様方が通り易い一角で、お互いをいつも『お隣さん』と呼び合っている、可愛らしいお二人を眺め、いつも思うのでございます。

 ああ、何て愛らしいお二方なのでしょう、と。

 それだけに、とても苦しゅうございました。

 何故に神様は、あの背の大きなお方に、お小さな方の可憐なお姿を見せて差し上げないのでしょう、と。

 わたくしの傍らにくっついて、遥か遠いこのお庭まで、姿を隠して旅していらっしゃったコロポックルさんに、わたくしはいつも語るのでございます。

「神様は意地悪でございますのね。あのお二人は、あんなに好き合うていらっしゃるのに」

 最もお美しい瞬間を共にお過ごし出来ないなんて、折角お美しいお顔をしていらっしゃるのに、とわたくしはいつも思うのです。

 ですが、コロポックルさんは、ふぉ、ふぉ、ふぉ、と笑います。

「お前さんは、美しい花に目がないからのぉ。一番綺麗な瞬間を、お前さんなら見せたいと思うのじゃろう」

 相変わらず意地悪な方でございます。わたくしが、葉や茎と変わりのない、薄緑の地味な顔しか出来ない事をご存知で、それがとても悲しいと思っている事をご存知の癖に、この方はまたそんな事を仰います。

「左様でございますよ。わたくしが叶わない事を、あのお二方はお出来になるのに、一番お見せしたい愛しい方には愛でて戴けないなんて、お気の毒ではございませんか」

 強い口調でそう言っていると、さやさやとした風が、わたくしのいる塀際の日陰まで届いて参りました。それと共に、何とも愛らしく可憐で美しい歌声が……。

「ほぉら、今日も小さな『お隣さん』が、背高さんの為にお歌いなさる。一緒にご相伴に預かろうではないか、のう?」

 少しだけ温かみを増して来た風が、いきり立つわたくしの細い身体を撫で揺らします。

 お小さい方の可憐で涼やかな雨神様を呼ぶ歌声が、切なさをほこほことぬくもった気持ちに変えて下さいます。

「癒されますわねえ……ねえ、コロポックルさん」

「そうじゃのう。ほら、ご覧なされ。背高さんも、とても気持ちがよさそうじゃ」

 そう言われ、わたくしも未来の背高様の方を見遣ると、今はまだお小さい方よりも更に小さな『お隣さん』は、気持ちよさそうに、風に凪いでおりました。夢見るように、うっとりと、お小さな方の歌声に聴き惚れていらっしゃいました。芽吹いたばかりの小さなお体を、右へ、左へ、とゆらりゆらりさせながら、何やら『お隣さん』とお話をしていらっしゃいました。

「本当に……仲睦まじくて、愛らしゅうございますわね」

 コロポックルさんは、そんなわたくしの言葉を受けて、また、ふぉ、ふぉ、ふぉ、とお笑いになりました。きっと、わたくしがまた同じ事を申し上げたので可笑しかったのでしょう。

 お小さな『お隣さん』に癒されて、柔らかな心持になったわたくしも、お恥ずかしい気持ちから、一緒になって、ほほほ、と笑いました。

「さぁて。それではわしは、雨神様達に見つかる前に、隠れて眠る事にしようかの」

 わたくしは、そんな夕暮れ時が少しだけ寂しゅうございます。表に面したお二方の様に、ずっとお傍にいて下さる、伴侶の様な方がいないのです。

 広い葉を“しゅん”とうな垂れさせてしまったのは、決してわざとではございませんのよ?

 慌てて、もう一度ぴん、と張り戻したのですが、長年連れ添ったコロポックルさんを誤魔化す事は出来ませんでした。

「全くお前さんは寂しがり屋さんじゃのう。さぁ、それではお小さい方の子守唄で、お前さんもお眠りなされ。それまでは、傍にいて差し上げよう」

 そうしてわたくしは、また今日も同じ事をさとるのです。

 背高様とお小さい方は、お傍にいられる事で充分にお幸せなのだ、と。

 時折背高様の願う、お小さい方の可憐な姿を拝したいという想いも、いずれ叶う日が来るやも知れない。

 わたくしは、今宵も祈りながら眠ります。

 雨神様、どうか背高様に、お小さい方のあの美しいお姿を見せて差し上げて下さいませ、と。

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