あなたの服、売ります。
あなたの個性を、どこよりも高値で売ってみせます。
衣替えのついでのつもりだった。
クローゼットの奥に押し込んでいたスーツを引き出し、ハンガーの列を指でなぞる。
これは、去年も着なかった。
今年もたぶん着ないのだろう。
捨てるのは忍びないが、フリーマーケットで売るのも面倒だ。
そんなとき、スマートフォンに表示された広告に目を奪われた。
《あなたの服、高く売ります。即日査定・前金支払い可》
高く買います、じゃないんだ。
代理か委託販売なのかしら。
写真には整然と並んだスーツの列。
光の当たり方まで上品で、無駄がない。
買取価格はいくらくらいかしら。
試しに一着だけ、と送信した。
すぐに返信が来る。
《はい、一着ですね。承りました》
査定された額は、悪くなかった。
これが前金なんて、信じられないな。
預金口座の額が増える予感は、いつだって安心をくれる。
その1時間後、早速ドアベルが鳴った。
梱包資材を抱えた作業服の二人組が立っていた。
挨拶は丁寧で、買取書類の案内も完璧だった。
「確認のため、こちらのカメラの前でしちゃくをお願いできますか」
売る前に一度試着する。
そういう手順もあるのだろうと思った。
売るつもりの服に袖を通して、構えたカメラの前に立った。
「尸着、問題ありません。では、こちらへ」
こちら?
周囲が明るい。
白い光が、境目を消していく。
「完了しました。ちょうど一着分です」
光の洪水が収まった残されたのは、仕上げの良いスーツ一揃い。
「ご安心ください、あなたの服、高く売りますとも」
男たちはスーツになった男を慣れた手つきで丁寧に畳むと、いずこかへと去っていった。
「俺の服、売ります」というタイトルだけがまず浮かび、
雑談で転がしながら、
そもそも俺の服って何?
1.所持している
2.着ている
3.コレクションの一
4.作った
5.役割(制服など)
6.スポンサー(俺のロゴ入り)
ここまで整理していて、
拡がらないなあ、と思ったときに
7.俺が材料
ここまで来たら、後は味付けだけです。
俺が売るより、『あなた』を売る方が怖いよね。
よし、じゃあ、ヤバイ広告で『あなた』を釣るか
今日の10分間クッキング。




