表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

地味な錬金術師だと婚約破棄され追放されましたが、王国経済は私が握っている

作者: クロネコ
掲載日:2026/02/19


「エレノア・グレイフィールド。貴様との婚約を破棄する!」


王城の舞踏会。燭台の灯りが煌めく中、第一王子アーサーは私の名を呼んだ。


王子に名前を呼ばれた私は、ゆっくりと歩き出す。すると、私を避けるように人波は左右に分かれていく。人々の視線が突き刺さるのがよくわかる。


王子の前まで来ると、王子の隣に立っているのは、淡い桃色のドレスを纏ったミレイア男爵令嬢だった。潤んだ瞳で王子を見上げている。


そんな彼女を抱き寄せ、王子は口をひらく。


「彼女こそが未来の王妃だ。お前のように陰気で、金を食うだけの錬金術師ではない」


王子がそう宣言すると、周囲には失笑が広がる。そして、ミレイア男爵令嬢はニヤリと歪んだ表情を見せる。あらあら、可愛い顔が台無しですよ?


正直どうでも良かったが、多分聞くのがお決まりなのだろうと思った私は、ゆっくりと問いかけた。


「研究の権利は、どうなさいますか?」


「当然、王家に帰属する。お前は国外追放だ」


なるほど、研究結果が目的でしたか。この人達は、表情を取り繕うこともできないのでしょうか?醜く歪んだ顔を見せてあげたいわね。


私は彼らに対して、諦めのため息をつく。そして、そんな私にミレイアが近づいてきて、そっと耳元で囁く。


「安心して。あなたの研究は、わたくしたちがちゃんと使って差し上げますわ」


私は研究について、2人にちゃんと話したことがなかった。だから、あの研究の価値がわかっていないのだろう。まだ完成していないことすら。


「どうぞご自由に」


泣きも縋りもしない私に、アーサーはわずかに苛立った顔をした。なんで私が睨まれなくてはいけないのか。まぁ、これが最後だと思えば、そんなことはどうでもいいことだ。


私は、心穏やかにその場を立ち去った。


ーーーーーーーーーー


エレノアが国外追放を言い渡されたすぐ後のことである。


アーサー達は、エレノアの残した試作中の発明品を、完成品だと思い込み現場に投入してしまっていたのだ。


最初は小さな不具合だったのだが、次第に問題は大きくなっていく。


「殿下っ!大変です!!」


「なんだ騒々しい。見てわからんか、私は忙しいのだ」


アーサーは四六時中ミレイアとイチャイチャしており、仕事らしい仕事をしていなかった。


それもそのはず。今までは、エレノアが実験の合間に執務を代行していたのだから。今は代わりがいない。自分でやらなければいけないのだ。


「先日、殿下が導入した保存食の新たな保存方法に変えてから数日のうちに腐敗が始まりましたっ!」


「ほ、保存食が腐敗だとっ!?」


ど、どういうことだ!?

俺はちゃんとエレノアの研究通りにやったはずだ!!


「き、きっと、気温管理の問題だ!」


とりあえず時間を稼いで、原因を突き止めさせなくては。俺はすぐに指示を出した。


だが被害は拡大し、遠征中の兵士が次々と倒れたと報告が上がる。


現時点でも取り返しがつかないのだが、その後も問題が起きた。


次に問題が発生したのは回復薬だった。訓練中に回復薬を飲んだ騎士が魔力暴走を起こし、訓練場が半壊。


「製造担当を処罰しろ!」


俺はすぐに指示を出す。


しかし、その後も問題が起こるばかりで、何も解決しなかった。


なぜなら、完成品は、エレノアしか知らないからだった。そのエレノアがもういない。そのことに気づくのにそう時間はかからなかった。


王宮では、とある噂が流れていた。

 

「すべてはエレノアを追い出したせいだ」


「エレノアがいればこんなことにはならなかった」


噂は、あっという間に広まった。王宮にとどまることはなく、市井にまで広がっていった。


ーーーーーーーーーー


ある日を境に、アーサーは眠れなくなった。精神的にも問題はあったが、原因は目の前の書類の山だ。


書類の山を前に、爪を噛む。


「なぜだ、あの女はただの研究者だぞっ!」


憤るアーサーに、側近が恐る恐る告げる。


「隣国ルヴェリアで、正式に特許が登録されました。正当な権利者は・・・」


側近から報告書を受け取ると、紙を握り潰した。


「そんなはずはない!研究は王家のものだ!」


アーサーはそう主張するが、国際商会は動かなかった。


完全に権利を失った王国では、様々な問題が起こった。


取引停止。資金凍結。貨幣価値は半分にまで下落。民衆は叫ぶ。


「無能王子!」「偽物王子妃!」


国民の怒りは頂点にまでのぼっていた。


ーーーーーーーーーー


アーサーが眠れぬ夜を過ごす中、新たな婚約者となったミレイアはーーー。


最初は気にもとめていなかった。


「少しの混乱ですわ。わたくしが王妃になれば収まります」


だが騒動は収まるどころか、拡大して行く一方だった。ついには社交界でも囁きが始まる。


「研究を盗んだのでは?」


「王子を操っただけの空っぽ令嬢」


そんな噂を耳にして、彼女は鏡の前で泣き崩れた。


「どうしてなの?わたくし、愛されているはずなのに」


国民の我慢が限界を迎えた時、ついに暴動が起きた。


王城へ戻る馬車に石が飛ぶ。窓が割れ、ドレスが裂ける。


「子供を返せ!」「人殺しっ!!」


彼女は初めて理解する。とんでも無いことをしてしまったのだと。


ーーーーーーーーーー

 

ルヴェリア王宮。


アーサーは痩せ細り、目の下に隈を作っていた。


「エレノア・・・頼む」


かつての傲慢な声色は消え失せていた。


「国が崩壊する。父上も倒れた。私には・・・何もない」


アーサーが懇願する後ろでミレイアが震える。華やかな装飾はなく、簡素な衣装。実家は賠償金で没落した。


「わたくしは・・・ただ王子を」


「支える覚悟はございましたか?」


私の問いに、彼女は答えられない。それもそのはず、愛だの恋だのだけで国は守れない。彼女には自覚が足りなかった。


アーサーが床に崩れ落ちる。


「戻ってきてくれ・・・王妃の座を、いや、なんでもする」


変わり果てた元婚約者を前に、私は静かに告げる。


「研究を理解せず、奪おうとした時点で、信頼は終わりました」


私の隣に立つレオンハルト殿下が、穏やかに私の手を包む。


「彼女は我が国の未来です。軽んじた代償は支払っていただく」


これは、属国化の宣言だ。アーサーの肩が震える。彼はようやく悟った。失ったのは婚約者だけではない。


ーーー国そのものだったと。



それから一年後。


アーサーは王位継承権を剥奪され、地方監査官として左遷。かつての豪奢な衣装は消え、粗末な制服に。


民の怒号を直接受ける立場となった。


一方ミレイアは修道院へ入った。華やかなドレスの代わりに灰色の衣。


彼女は鏡の前で、もう泣かなくなった。泣いても何も戻らないと知ったから。


そして私は――


「エレノア、次の産業案を」


「はい、殿下」


理解し、尊重してくれる人の隣で働く。これほど幸せなことはない。


そう、ただそれだけで、十分だった。


窓の外には繁栄する街。


かつて私を笑った国は、その足元にある。


私は静かに微笑む。


「殿下、これがあなたの選択の結果です」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ