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巨神兵は堕ちた  作者: ミツメ


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野心の燻り

[ナリ ブレイソ山間部 陣営拠点]

 ブレイソ山間部の作戦においてクレイダタールは3番目の指揮権を持つ存在だった。親の七光りと言われ、比較的安全だとされるこの戦地に送り出された時はコソコソと嗤う者達を恨めしく思ったが、今はここに来れた事を感謝していた。


 左方、右方、中央でそれぞれ指揮系統の違うこの作戦は、それぞれ戦況に応じて臨機応変に動けるように指揮権の譲渡が許されていた。

 つまりクレイダタールは自分を舐めている無能達にさっさと実力を見せつけられる機会が巡ってくるという事に他ならない。そのためなら多少の被害は瑣末な出来事でしかなかった。


 右方では備蓄の損失による補填作業と内部の密偵を探るために戦線維持にのみ努めている。下手に動いて傷を増やすくらいならば今は耐えるべきと判断したのだろう。

 密偵の可能性が見つかった以上、左方、中央も同じく内部調査に重きを置いて動いている。一部戦線では被害が出ているようだが、ナリから派遣された者達ではなく田舎出身の寄せ集め部隊が削られた程度の被害だ。指揮官で気にしているのは数人程度だった。


 そんなことよりもクレイダタールは、内部調査という絶好の機会を得た事に喜びが溢れていた。うまくいけば、邪魔者を数人蹴落とすことが出来る。そう考えたクレイダタールは部下の男に一つの指示を出した。


「大変です!備蓄庫に火が!」


 クレイダタールの指示はすぐに実行され、自作自演の消化活動を終えたクレイダタールは表情を堅めながら陣営拠点に飛び込んで来た。


「私が早めに気がついたから大事には至らなかった物の、これは明らかな離反行為です。右方だけではなく中央にもネズミがいたという決定的な証拠。いつまで手間取ってるんですか!!」


 内部調査を担当している指揮権2番手のザイオルを睨みつける。クレイダタールより一回り以上歳上の巧者。クレイダタールとは違い平民上がりの彼は実力のみでのし上がったため、当然後ろ盾は無く貴族派からは嫌われていた。


「クレイダタール殿。離反者による内部工作と考えるのは早計かと。今回の事件は不可解な点が多く、判断に時間を要し、」


「貴様、また時間稼ぎか?今作戦の責任をバイフェルト卿に押し付け、自ら指揮権を奪取しようという噂は本当だったようだな。」


「なっ、そんなはずは、」


「その噂私も聴きました、」

「自分も、」


 事前に根回ししておいた貴族派に賛同させ、ザイオルに圧をかける。


「違うと言うのであれば、さっさとネズミを捕まえて見せるべきだ。それが出来ないのであれば、指揮権を放棄でもしなければ私は背中を預けたいと思えない。」


「それは、」


「どうするかさっさと言ったら、」

「それくらいにしておけ、ガルホンの倅よ。」


 ブレイソ山間部総指揮官、『バイフェルト・ドマ』が口を開く。普段、口を開くことは殆どなく戦闘における指示以外はザイオル、クレイダタールが中心となり議論を交わしていた。『ドマ』が決めるのは重要な局面のみで基本的なものは現場判断に任せているのが彼のやり方だった。


「備蓄、補給に関しては部隊を増援させた。内部調査も私とザイオル君で秘密裏に数人動かしているから大丈夫だ。数日すればわかるだろう。ザイオル君の野心も当然私は関知している。それら全てどうでもいいのだ。殺し合いにおいて無駄な思考、無駄な時間なのだよ。」


 ドマの言葉は静かだがスッと頭に入ってきた。全身がシャンとするようなドマの風貌に天幕に集まる者達全てが息を呑む。


「問題は田舎の土畜共をのさばらせている事だ。戦局ではこのブレイソ山間部が劣勢だと触れ回られいると聞く。それが私は辛抱堪らんくてなぁ、」


 語気に力が入り、同じように力を込められた肘置きがミシッと音を立てて罅が入る。天幕内の空気の密度が突然跳ね上がったかのような圧迫感と息苦しさ。生唾を飲む音すら逆鱗の対象になるのではないかと、一同はドマに視線を返す事しか出来なかった。


「作戦は5日後。それまでには調査も物資も問題は全て完璧に片付いてる。何も関係ない者は5日後向けて支度を始めろ。兵には2日前に伝えるように。以上だ。」


「ですが、っ」

 クレイダタールがこの好機を逃すわけにはいかないと、唾を飲み込み一歩踏み出す。が、


「以上だ。」


 ギロッと視線を送られただけで言葉が出なくなる。あと一歩が踏み出せない。

「はい、」とか細く絞り出し声がヘナヘナと沈んでいき、作戦を待つだけの立場に帰ってきてしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――


[マドル傭兵軍 マオバ隊]


 六つに分けられた彼らは各々作戦の位置に向かって森を切り拓きながら進んでいた。作戦を始めてちょうど半日が経つ頃には不満を表す者が出始める。

 それもしょうがない。他の隊について詳しくは知らないが、自分たちは恐らく補助係という認識はマオバ隊の全員にあった。1人を除いて。メンツを見れば戦闘ではなく工作要員。


 最も傭兵として名を挙げ、金を得られるのは名のある者の首を取る事。敵に名前を売る事だった。つまり、秘密に動きこっそりと邪魔をするというのは傭兵を志願した殆どにとって相反する愚行とも思えた。


「マオバさん、これ本当に僕たちいるんですか?」


「練習も走るのと石投げるのばっかりで、あのアホそうなやつと古参の人たちしか真剣にやってないですよ。」


 目標地点に向かう途中、休憩の際にそんな意見が飛ぶ。


「これがうちのやり方だ。嫌なら戻れ、敵前逃亡にはしないでおいてやる。」


「それは、」


 マオバは特に反論をする事もなく、これまで通り走り出した。古参、ルオと続いて不満を持つ彼らもマオバの後に続いた。


 喧嘩を売るならかかってこいと言わんばかりの殺気が当たり一面に広がっている。マオバとルオ以外の者は眼前に広がる景色を見て言葉を失った。

「マオバ隊の役割は一つ。補給部隊の本体である中央路を撃退すること。」


「ちょ、えっ、待ってください!マオバさん!中央は厳しいだろうから他を攻めるってこの前、」


「誰もそんなこと言ってないぞ。あくまでも報告でそう言ってただけだろ。」


「けど、報告通り凄い人数ですし、騎馬隊だけじゃなくて投石機とか、火砲もあるじゃないですか。」


「見た通りだよ。こんな見晴らしのいいところから陣を見せてくれるなんてずいぶん余裕なんだろうな。」


「人数差、考えてください。」


 これまで発言することのなかった古参の者達もあまりの無謀に言葉を漏らす。


「何も、短期突撃しろなんて無茶は言わないさ。そのための投石と逃げ足だ。俺たちは今日から二日間ここであいつらに石を投げ続ける。時には木でもいいし、土でも、なんだっていい。とにかくあいつらを二日間ここで押さえておく。撃退が最高だが、とめておけばそれでもいい。どうだ?お前らがさっきまで願ってた活躍の機会だぞ?」


 マオバの言葉が彼らに発破をかけようとしていることはここにいる全員が理解している。しかし、その煽りに乗るものなど、


「よっしゃぁー!石投げるだけで良いのか!!」


「そうだ。簡単な話。とりあえず動き方と今後について軽く説明をする。」


 ケロッとしたルオはまるで自分が死ぬという選択肢を持っていないかのような表情でマオバの話に耳を傾けた。

 楽観的なルオの言動にマオバはついゾッとしながら笑みを浮かべた。


 

読んでいただきありがとうございます。


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