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巨神兵は堕ちた  作者: ミツメ


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5/7

手術台のその先

読んでいただきありがとうございます。


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水、土更新のつもりですが、日にち前後する可能性もありますのでブックマークしていただけるとわかりやすいと思います。

 手術後は過集中の影響でどっと疲れが広がる。そのため数十分仮眠をとる必要があった。男は一息ついたあと、まだ起きる様子のないルオを確認しルオの臓器が入った溶液を保冷室に運ぶ。


「あれ、本当に人いますね。」


いつもはくらい通路に明かりが入り込んでいて不思議に思っていたがやはり客がいた。


「もしかして、これの件でしょうか?」


男は手にも持つ臓器入りの瓶を見せる。


「あぁ。違うよ。自分たちはバイファルド卿の紹介でここを、」


「バイファルドさんのお客さんでしたか。もう少し後になるのかとお聞きしてましたが、」


「少しだけ予定が変わってね。じゃああれか、クライスさんのみた子は貴方の商品?」


「あ、手術台に寝てる子はそうですね。もしかして足元の増、」


「あれ、触らないでね。危ないから。」


「大丈夫です。そのままにしてありますから。」

 男は彼が貴族の客であり、彼ら自身から出る雰囲気ことからもあまり関わらない方が良い存在であることを即時に理解した。闇の世界で生きるためには無関心と距離感が大事なのだ。しかし、それより男は危険だと言ったあれを少年に与えてしまったことに冷や汗をかく。


「じゃあ、少し作業するけど気にしないで。いろいろ確認した後、お金は送っておきますね。」


「承知しました。今日からいつまで位、」


「それは未定なんですよ。とりあえず一か月単位でお金は送るし、もし仕事入る様なら事前に連絡貰えば部屋空けておくんで。」


 そう言うと彼らは作業に戻る。男は瓶を置き手術室へ戻った。それに乗じるように二人は手術室を見せてくれと着いてきた。

 全体の説明を終えたところで、意識を失っていたルオから気配を感じた。麻酔の影響でまだ現実と夢の境界が曖昧なのだろう。うぅと鳴き声のような声を漏らして何かを確かめるような素振りを続ける。


「少年くん。起きたかな。」


 男はルオに近づき、手術台から担ぎ上げると椅子に座らせた。ぼんやりとした様子のルオに男は水を渡す。一連の様子を客の二人は何気なく見ているが何か言ってくる様子もない。

 色々と話しかけられると面倒だと思っていたが、彼らも彼らで詮索するつもりはないのだろう。とは言え、ルオの様子を見ようにもあの血の塊を使ってしまった以上、この場所で下手な質問は出来そうにない。


「あれ、おっさん、まだやらねぇのか?」


「もう終わったんだよ。大丈夫かい?立てるかい?」


「なんか頭と目が重たい。起きてるのに寝てるみたいだし、体に力入りづらぇよ。」


「水を飲んで少し落ち着こうか。時間が経てばその感じにも慣れてくるはずさ。」


 ここまでは今までの商品達と同じ。特に異変はない。そもそも危険だと言われたあれを使ったのだから、起きるかどうかがいちばんの問題で、この子が目覚めた以上予想していた様々な可能性は殆ど排除できたと言える。


「外の空気吸った方が良いかも知れないね。」


 片方の男が突然口を開く。


「その様子だと、まだ意識が混濁してるから。気付けの薬とか使えば早いんだろうけど、まだ若いし術後だからね。刺激強すぎるかな。」


「そうですね。では、少し外に連れていきます。もし何かありましたらまた呼んでください。」


 きっとこの部屋から出て行って欲しかったのだろう。単純なアドバイスの意味もあるだろうが、この時足元おぼつかない少年をわざわざ外に出す必要はなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 クライスは臓器商とかいう奇妙な存在に警戒心を最大に向けていた。トロツクの方はなぜか理解があるようで、手術室の話を聞いた時全く意味がわからなかったが、実際にその存在を前にすると余計に意味がわからなくなった。

 格好は舞踏会にいるような紳士。その出立ちや振る舞いも紳士のそれだった。が、白いシャツに着く血や独特の雰囲気からクライスがよく見る紳士とは明らかに違うことは確かだった。


 男から手術室の説明を受け終えるとちょうど手術台の少年が目を覚ました。さっきまで足元には巨神兵の臓物が置かれていたが、今は動きを遅く出来るからと暗がりに移動済みだ。

 男には見られたようだが、わざわざ始末するような秘密でもない。適当な嘘をつく必要もないほど、闇の世界で生きる人間達は他人に無関心で面倒ごとを嫌う。


 男と少年はトロツクの案の通り外に空気を吸いに出て行った。もしかするとこの後男は戻ってこないかも知れないが、部外者をこの場から遠ざけることが出来た。

 トロツクは手術室の設備の良さに驚きを覚え、必要な薬品や道具類を確認し始めた。


 クライスは最初の荷物の搬入くらいで仕事を終えており、カビ臭いこの地下室を歩き回る気も起きなかった。


「それなら、とりあえずこの街の奴隷商のところに行くのはどうですか?」


 何か手伝うことあるかとトロツクに聞くと、こんな答えが返ってきた。外に出られるならそんな嬉しいことは無いとクライスはトロツクから器に適した少年の基準を書いてもらい、奴隷商の店へ向かった。

 地下室を出て、辺りを見回したがとっくに男と少年の姿はなくなっていた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 ルオは自分の身体が自分のものじゃ無いような錯覚に陥っていた。手のひらをグッパグッパと開いて閉じてを繰り返すが、反応がやや遅い。それだけでなく握った時、手に伝わってくる感覚がじんわりとあるだけで、見て確認しないとちゃんと握っているか不安になる鈍感さ。


 男は経過良好だとルオの様子を見ていたが、ルオは不安で仕方なかった。


「これ、約束のお金だ。」

 80万ブル。ルオが普通に生きていれば目にするはずのない5万ブル硬貨が14枚と細かい硬貨で10万ブルが皮袋に詰まっていた。初めて見る色の硬貨に


「なんだよこれ、偽物か?」

 と戸惑うルオだが、5万ブル硬貨特有の白銀の光り方に目を奪われる。


「大丈夫ですよ。少年くん。これで君は武器も防具も好きに変える。当たらな世界に一歩踏み出せる訳ですよ。」

 男は満足そうに喜ぶルオの顔を覗き込む。


「ありがとな!おっさん。まだうまく動けねぇけど、これがあれば十分だ。」


「今日はゆっくり寝て、明日買い物でもすれば良いですよ。今晩は安静に。」

 男はルオに幾つかの薬を渡す。異物を体に入れてしまった件は大丈夫だろうとわざわざ言う事もしない。人生を生きるにあたって無用の心配というのが多すぎる。もしとか、仮にとか言い出したらキリがない。今無事でこれまでの商品と変わりないならそれで良い。


「これありがとなー、じゃあ、なんか眠いし帰るわ。」


「お金には気をつけて。誰も君がそんなに大金持っているとは思ってないだろうけど、なにがあるか」


「大丈夫だよおっさん。俺がここに何年いると思ってんだ。誰も信じてねぇし隙も見せない。」


「そうですか、」


 どうしても拭えない心配性の性格を堪えつつ、男はルオを見送った。彼は自分が思っているより純粋で隙だらけだと言う事はあえて言わない方がいいだろう。彼にこれ以上の不幸せが起こらない事を祈り、男は遠回りで家に帰る。

 

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