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巨神兵は堕ちた  作者: ミツメ


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20/20

目的の価値

 日はとうに暮れているが、村の活気は収まる様子がない。ルオとモンロンが主催した狩りの獲物は、怪物級のイノシシと立派な雌雄の鹿。それは子どもたちが食べ切れる量ではなく、初めは全てを喰らいつくそうといった勢いの子ども達も、次第に勢いを落としていった。

 中には疲れで眠り出す子もいて、全体のまだ半分にも満たない量で子ども達はギブアップ寸前だった。


「おーい、お前らも食えよ。」

 ルオとモンロンは言葉を失っている大人達に声をかける。どうせ残るなら分けてやるといった様子。

 二人の言葉に大人達は顔を見合わせる。そうなるのも当然だ。大人達だってがむしゃらに肉を頬張りたい。こんなに上等な肉を腹一杯に食べられる機会なんて、一生あるかないか。

 けれど、自分たちは子ども達への不善を疑った。それに、目の前の傭兵はあのような大きなイノシシを狩るほどの力を持っている。自分たちが不安定な足場の上に立っている事を自覚していた。


「アイコ、お前何してんだよ。こんな美味い肉なかなかねぇぞ。」

「そうだよ。アイコ。こっち来なよ。」

 ルオとモンロンの言葉に同意するようにチャーミスも頷く。


 アイコは村の大人達とは違う躊躇に苛まれていた。自分の愚かさ。一瞬でも彼らが子どもに手を掛けるケダモノと評してしまった。染みついた村人根性。モヤモヤとした気持ちが完全に晴れる前に来訪者に意識が持って行かれた。


「お前ら楽しそうな事やってんな。」


「マドルさんっ!!」


「おぉ、アイコ。見ない間にデカくなったか?」


「あれ。体調だ。おかえりなさい。」

「マドルも食うかー!」


「マドル隊長な?」

 ゴツンとルオの頭を叩くのはマオバ。ルオが振り返るとマオバ。そしてその奥には肉を取り分けるチャーミスと、古参組の全員が揃っていた。


「も、もしかしてっ、」

 アイコが緊張した面持ちのまま問いかける。


「そうだ。仕事だ。準備しろお前ら。」


――――――――――――――――――――――――――――――


 久しぶりの行軍。昨日の今日で準備を終えて早朝に出発してから休みなく歩いている。

 ルオとモンロンは昨日の肉が相当よかったのか、ご機嫌に進んでいる。対照的にアイコとチャーミスは初めての戦いが頭をよぎるのか緊張の面持ちだった。


「今回もマオバと二人なの?」

 近くを歩くマオバにルオは問いかける。

「あぁ。機動力のある俺とお前で動く。隊長達は本陣に加わって動く。」


「前みたいにあっちこっち行って戦うのか、」

 ルオはあの日の戦いを思い出し、少しでも多くの功績をあげようと拳を握りしめる。


「作戦についてはこれからになるが、俺たちの隊が中軸になる。モンロン達には前線ではなく、たくさん動いてもらうからそのつもりでな。」


 傭兵市場は常に飽和している。それもそのはずで、計算も読み書きもできない者達は使えるのが肉体だけ。

 女は売春を、男は傭兵を、これがこの世界の常だった。建築や土木が出来るのはエリート。事務や公職なんて別の人種でしかなかった。

 だからこそ、人を使える傭兵は求められる。傭兵とは強さだけが優秀の証明ではなかった。特に、小国群のような流動性の高い地域では、強い戦士は生まれづらい。日々の戦争でいくら強い戦士だろうが死んでいくから。


 実戦を知らず机上で戦術を立てる軍師か、腕っぷしのみの脳筋が主軸となっていくのが小国群の軍の状況。

 マドル隊が買われたのはそんなどうしようもない状況を打破できる優秀な司令塔を持っているからだった。


 そのため、今回の仕事はマオバの指揮に対してのもの。マオバとルオの急襲はあくまでもおまけで、後の隊員達はマオバの使いっ走りとして戦場を駆ける。

 人数が減ったばかりのマオバ隊からすればちょうどいい仕事だった。


「それじゃあ、森の中走ってばっかりだったのって、」


「そうだな。今は対人戦闘よりも森の中を走れるかが大事だ。」

「ルオとモンロンはあの猪狩ったくらいなんだから、余裕で合格っしょ。」


 古参組はルオとモンロンの強さに満足している様子だった。大金星をあげたルオの影に隠れているが、モンロンもフィールとナリの戦線ではかなりの功績をあげている。

 どちらとも功績をあげることだけが先行して、その後どうしたいとか、何が欲しいかなんて考えていないのが勿体無いとも言えるが、これくらいあっけらかんとした性格の方が戦場には向いているのかも知れなかった。


「それでさ、マドル隊長、今回のは貴族になれそうなの?」

 ミイラス兄が問いかける。


「んー、どうだろうか。名前も聞いたことない国だったからな。なれないとは思わないが、」


「そんなところでマドル隊長の才を潰すのは勿体無いかと。」

 マドルが言い切る前にロントゥが口を挟む。


「それもそっか。ってかさぁ、フィールも酷いよね。あんなに活躍した俺たちとガイカナンを叙爵無しで、金だけって。」


「仕方ないだろ。フィールは負けたんだ。俺たちを貴族にすれば担がれて反乱の中枢にされる。勝てた戦争だとみんなが思ってるんだから。」


「んん、よくわかんないけど、ナリもナリで巨人出してこなかったわけですよね?わざわざもう一回戦争やろうって馬鹿は、」


「いるよ。貴族ってのはそういう生き物だ。」

 マドルは苦々しい表情を浮かべながらミイラス兄に答えた。


 マオバも理解していた。ここに残る者達は自分を慕って命を賭けたいと思ってくれた者と、金だけでは己の夢には近づけないと欲張った者達がいるのだと。

 特にミイラス兄弟は強い国の貴族になりたいという願望が根深かった。今回の褒賞を殆ど断り、叙爵の機会があれば優先的にと言うほど、彼らは貴族になることを渇望していた。


 だからこそ、彼らは今回の作戦にあまり乗り気ではなかった。それは長年共にいる古参組はみんな理解していた。緊張感のある姿勢ではなく、どこか脱力している。一歩前へと言う意識はなく、とりあえず命を大事にといった雰囲気を持っている。

 仕方なかった。傭兵は体が資本だ。無駄な戦いを嫌い、利益の生まない戦場からは逃げて当然。ルオみたいに馬鹿正直に敵将の命をだけを見てる方がおかしかった。


「偉くなったってしょうがねぇよ。」

 ルオが何の気無しに呟く。

「何でだ?ルオ?」


「だってよ、女と交尾するだけなんだろ?酒も不味かったし。あ、でもあの肉料理毎日食えるのか、」

 ルオはあの日の晩餐会での食事を思い出す。


「はっはっは。ルオ、お前は馬鹿でいいな。まぁお前の言うこともあながち間違ってはねぇか。」

 ミイラス兄は気怠そうな表情から少しだけ和らいだ顔を見せた。

読んでいただきありがとうございます。


『落第生と災厄』新たに書き始めましたのでよろしくお願いします。


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